2007年発売
麻布の名家に生まれながら、それぞれに異なる生き方を選んだ敷島四兄弟。奉天日本領事館の参事館を務める長男・太郎、日本を捨てて満蒙の地で馬賊の長となった次郎、奉天独立守備隊員として愛国心ゆえに関東軍の策謀に関わってゆく三郎、学生という立場に甘んじながら無政府主義に傾倒していく四郎…ふくれあがった欲望は四兄弟のみならず日本を、そして世界を巻き込んでゆく。未曾有のスケールで描かれる、満州クロニクル第一巻。
新雪に包まれた山中湖畔。日本有数の製薬会社・和辻薬品会長の別荘で、突然、悲劇の幕は開いた!和辻家のだれからも愛されている女子大生の摩子が、大伯父に当たる当主の与兵衛を刺殺したのだ。一族は外部からの犯行に見せかけるため、摩子の家庭教師・一条春生に協力を要請し、偽装工作を…。名作『Yの悲劇』に挑戦する、著者会心の本格長編推理傑作。
ノアは神に命じられた通り、洪水に備えて箱舟を造り、動物たちとともに漂流する。しかし舟のなかに禁断の肉食を知る動物・スカブが紛れ込んだことから、無垢で平和だった動物の世界は、確実に変化していくのだった。聖書では語られない、箱舟の“真の物語”。
女を凌辱加虐、諌める家臣は手打ちに暗殺。悪逆無道の唐津の城主、寺沢兵庫頭を急襲し、父の仇討ちを果たした塚本伊太郎は、“人いれ宿”の頭領となり、幡随院長兵衛と改名、“町奴”として江戸町民の信望を得る。一方、親友の水野百助は十郎左衛門と改め、“旗本奴”を率いてゆく。だが、しだいに“町奴”と“旗本奴”の対立が激化し、立場を分かつ二人の意に反した戦いが迫る。幡随院長兵衛の波瀾の生涯を描く時代長編。
北里財閥の当主浪子は、19歳の一人娘、加奈子に衝撃的な手紙を残して急死した。「私はかつて嘘の証言をして、無実の人を死に追いやった。だが最近、ごく身近な人の中に真犯人がいると知ったー」財閥の社長たち、婚約者の正彦、かかりつけの医師の菊井親子ら、ごく身近な人達が屋敷に集まった。そして警察に追われているという若い男まで加奈子のもとに転がり込んで…莫大な遺産を巡り、恐怖の殺人劇がはじまった!赤川次郎ベストセレクション4。
平安時代の女性の日記。父の任地である東国で育った作者は京へ上り、ようやく手に入れた憧れの物語を読みふけった。女房として宮家へ出仕するものの、すぐに引退し結婚。夫は包容力も財力もある人だったが、20年に満たない結婚生活ののち、死別。その後は訪れる人もまれな寂しい生活を過ごす。13歳から40年におよぶ日記に描かれた、ついに思いこがれた生活を手にすることのなかった一生が、今の世にも胸に迫る。
文明開化の音がする明治十年。一等巡査の矢作剣之進らは、ある島の珍奇な伝説の真偽を確かめるべく、東京のはずれに庵を結ぶ隠居老人を訪ねることにした。一白翁と名のるこの老人、若い頃怪異譚を求めて諸国を巡ったほどの不思議話好き。奇妙な体験談を随分と沢山持っていた。翁は静かに、そしてゆっくりと、今は亡き者どもの話を語り始める。第130回直木賞受賞の妖怪時代小説の金字塔。
生まれながらの霊感体質で幽霊を呼び寄せる、類まれなバスガイド、町田藍。彼女が添乗する“すずめバス”の“怪奇ツアー”は、今日も大人気!幽霊が出る旧家の土蔵、本物の亡霊が現れる『ハムレット』の舞台、魔女が火あぶりにされ、今も恨みが残っているという村。藍がそれぞれの怪奇現象の謎を解くうちに明らかにされる、幽霊たちの悲しさ、淋しさ…。大好評“霊感バスガイド”シリーズ第二弾、全五篇。
東京で女子大生連続射殺事件が発生、手際からプロの殺し屋の犯行と思われた。現場近くで目撃された車の持ち主の芸能プロダクション社長が、海外で不審死を遂げ、“一九三一”というメモを残す。一方、上海で日本人ジャズ歌手の扼殺体が発見される。十津川警部は、中国警察の協力要請を受け上海へ。やがて、双方の事件の類似点を掴むが…。複雑に絡んだ謎を追って、大陸を疾走する決死の捜査行。
両親をテロで失い、心を凍らせたままイスラエルの情報機関モサドに入局したレイチェル・アザリアス。モデル顔負けの容姿に、並外れた頭脳と身体能力。わずか数年で、成功率100パーセントの暗殺者“カリプソ”へと変貌を遂げた彼女だったが…。実在の人物をモデルにした女性エージェントの苛酷な運命を軸に、情報界に生きる男たちの国家の存亡をかけた闘いを描く長編。
時は幕末、処は江戸。貧乏御家人の別所彦四郎は、文武に秀でながら出世の道をしくじり、夜鳴き蕎麦一杯の小遣いもままならない。ある夜、酔いにまかせて小さな祠に神頼みをしてみると、霊験あらたかにも神様があらわれた。だが、この神様は、神は神でも、なんと貧乏神だった!とことん運に見放されながらも懸命に生きる男の姿は、抱腹絶倒にして、やがては感涙必至。傑作時代長篇。
不慮の死を遂げた夫のポケットベルへ、ひたすらメッセージを送信し続ける女。交通課事故係の秋葉は妖しい匂いに惑い、職務を逸脱してゆく(表題作)。鑑識係、泥棒刑事、少年係、会計課長…。三ツ鐘署に勤務する七人の男たちが遭遇した、人生でたった一度の事件。その日、彼らの眼に映る風景は確かに色を変えた。骨太な人間ドラマと美しい謎が胸を揺さぶる、不朽の警察小説集ー。
私立探偵のサニーに新たな仕事が舞いこんだ。依頼人は、ボストン近郊の島に住む映画プロデューサー。大リーグの球団を持つ彼は、女優のエリンを選手にして話題にしようとしていた。だが女性の大リーグ入りには反発もあるので彼女の護衛を頼むというのだ。サニーは引き受けるが、やがてエリンの付き人が殺された。彼女は警察署長ジェッシイ・ストーンと犯人を追う。ジェッシイとの夢の競演で描く注目作。文庫オリジナル。
漫画家で家庭的な父親ダニエルと、優秀な学者の母親ローラ、そして二人に愛されて育った娘トリクシィ。平凡な一家の穏やかな生活は、ある日突然崩れ去った。14歳のトリクシィがボーイフレンドから暴行を受け、心に深い傷を負ったのだ。世間の冷たい視線にさらされ、彼女の苦しみは頂点に達する。娘をなんとか守ろうとする両親だったが、現実は容赦なかった。事件をきっかけに、一家は思いもよらない真実に次々と直面することとなる。ローラは不貞を告白せざるをえなくなり、一方ダニエルの内部では、遠い昔に葬った荒々しい人格が呼び覚まされる。そして被害者のトリクシィ自身の供述にも、ほころびが生じてくる。三人三様に身にまとっていた偽りがひとつずつ剥がされ、やがて最悪の事態が一家を…。『わたしのなかのあなた』で全米に衝撃を与えた著者による、家族の崩壊と再生の物語。
昭和20年、爆弾が降り注いだ和歌山。戦争が激化する中、18歳の警官、瀬名弘之は大事件に遭遇した。砲台島の砲兵3名が謎の焼死を遂げたのだ。弘之は、捜査に訪れた死神のような憲兵、渡里純一と行動をともにする。しかし、謎めいた渡里の言動と次々と起こる事件のため、事態は混乱に陥る。ようやく事件の核心へと近づくが、弘之に召集令状が届き…戦火の中、生と死をみつた少年の哀しみのミステリ。
1999年英国、著名な歴史ノンフィクション作家スチュワート・グラットンのもとに、第二次世界大戦中に活躍した空軍大尉J・L・ソウヤーの回顧録のコピーが持ちこまれる。グラットンは、次作の題材として、第二次大戦中の英国首相ウィンストン・チャーチルの回顧録のなかで記されている疑義-英空軍爆撃機操縦士でありながら、同時に良心的兵役拒否者であるソウヤーなる人物(いったい、そんなことが可能なのか?)-に興味をもっており、雑誌に情報提供を求める広告を出していた。ソウヤーの回顧録を提供した女性アンジェラ・チッパートン(旧姓ソウヤー)は、自分の父親は第二次大戦中、爆撃機操縦士を務めていたと言う。果たして、彼女の父親はほんとうにグラットンの探しているソウヤーなのだろうか?作家の棲む現実から幕を開けた物語は、ジャックとジョーという同じイニシャル(J)をもった二人の男を語り手に、分岐したそれぞれの歴史の迷宮をひたすら彷徨していく…。稀代の物語の魔術師プリーストが、SF、ミステリにおける技巧を縦横無尽に駆使して書き上げた“もっとも完成された小説”。英国SF協会賞/アーサー・C・クラーク賞受賞作。