2008年9月発売
その死体を見た途端、葛篭桃之進は「ほう」と嘆声した。左脛がスッパリと斬られていたのだ。無気力な無能者、つまり「のうらく者」と烙印を押され、勘定方から町奉行所へ左遷された桃之進だが、かつては御前試合で優勝したほどの辣腕。そんな桃之進と辻斬り事件をつなぐ奇妙な因縁とは?奉行所の腐敗を目の当たりにした桃之進が、剣客として再び目覚める傑作時代小説。
カメラマンの矢島拓海のもとに届いた一葉の絵はがき。差出人は二年前に南極で死んだはずの兄だった。時を同じくして、拓海に越冬隊への密着撮影の仕事が舞い込んでくる。「死の真相を知りたければ南極に行くといい」。これは偶然なのか、それともあいつがー。冷たく広大な“密室”で、過去の事件が甦る。
星暦229年。宇宙の命運は星間都市連盟を破ったタイタニア一族の手に握られ繁栄を築く。しかし、446年に強大なタイタニア一族のアリアバート卿が、単なる一都市・エウリヤ市に敗れてしまった。時代が再び動き始めたのだ。宇宙の覇者となるのはいったい誰…!?スターファンタジーの傑作ついに文庫化。
父が戦死し、戦後満州から引き揚げてきたどん底の生活の中で母まで亡くした南部次郎は、わずかな葬式費用の形に幼い妹を連れ去ろうとする男を撲殺してしまう。きょうだいは離散し服役中も渦巻く憤怒を抑える術すら知らない次郎は備前焼と出会い、ひたすら土を練ることで、ようやく心が鎮まっていくー。
バンクーバー経由でニューヨークに向かったエドワードは、奇妙なアナウンスとともにカナダの見知らぬ街で足止めされる。繰り返し流れるテロの映像に芭蕉の句がオーバーラップして…。9・11を日本文学として初めて表現したと評価された大佛賞受賞作に、著者の原風景ともいうべき名作「国民のうた」を併録。
鳥に変身した男をめぐる惨劇を描いた文學界新人賞受賞作「いやしい鳥」、絶滅したはずの恐竜に母親を飲み込まれた女性の内面へ踏み込んだ「溶けない」、愛とヴァイオレンスが奇妙に同居する「胡蝶蘭」の三作を収録。
こかげはごく普通の社会人。一方、妹のひなたは異世界旅行を繰り返すおかしな性質を持っていた。異世界にはまるで縁がないと思っていたこかげだが、ある日、妹の危機に異世界の国ディーカルアへ飛び込むことになる。しかし、その先でこかげを待ち受けていたものは、妹ひなたに向けられるものとはまったく正反対のなぜか厳しい視線ばかり。こかげが邪険に扱われるのはなにか理由があるようで…。ランキングサイトで1位を独占し続けたオリジナル小説サイト「therehere」のあの大人気小説が待望の書籍化。巻末に番外編「彼女の護衛たち」を収録。
国王ザキや近衛隊隊長ルカナートたち王宮の面々と次第に打ち解けはじめたこかげは、王弟ディレイの母、ユーリアの下に軟禁された妹ひなたを迎えに行くべく計画を立てる。やがてそれは多くの人と国を巻き込む大イベントとなり…。ユーリアの目的はなにか?無事にひなたを取り戻せるのか?そしてこかげがディーカルアに来た意味とは。人を想う気持ちが巡る、大人の異世界ファンタジー、堂々完結。巻末に番外編「朝」を収録。
モスクワのゴーリキー公園で雪の下から男女三人の射殺体が発見された。いずれも顔面を刃物で削ぎ落とされ、指先も切断されていた。捜査を命じられた民警の主任捜査官レンコは、人類学研究所に被害者の顔の復元を依頼する一方、被害者の遺留品から運命の女性イリーナと出会う。反体制派の彼女に次第に魅かれていくレンコ。そして捜査線上に浮かぶアメリカ人の毛皮商…ソ連社会の暗部をかつてないリアリティで描いた問題作。英国推理作家協会賞受賞作。
ゴーリキー公園の顔と指のない三つの死体ーそれは誰も触れることの許されぬソビエト社会の根深い矛盾を象徴していた。ようやくレンコは殺人犯の正体をつかむが、検事局長から捜査の終了を命じられる。彼はけっして掘り起こしてはならない過去を発見してしまったのだ。主任捜査官の地位さえも奪われたレンコは、メーデーの夜、ついに犯人と対決する。そして彼が海の彼方で見た、驚愕の真実とは?英国推理作家協会賞受賞作。
近未来の高度管理社会。15歳の少年アレックスは、平凡で機械的な毎日にうんざりしていた。そこで彼が見つけた唯一の気晴らしは超暴力。仲間とともに夜の街をさまよい、盗み、破壊、暴行、殺人をけたたましく笑いながら繰りかえす。だがやがて、国家の手が少年に迫るースタンリー・キューブリック監督映画原作にして、英国の二十世紀文学を代表するベスト・クラシック。幻の最終章を付加した完全版。
平和憲法の制約により“軍隊”ではないわが自衛隊。その現場指揮官には、外敵から攻撃された場合に自分の判断で反撃をする権限は与えられていない。航空自衛隊スクランブル機も同じだ。空自F15は、領空侵犯機に対して警告射撃は出来ても、撃墜することは許されていないのだ。F15(イーグル)を駆る空自の青春群像ドラマ。
長篇小説『人間の絆』『月と六ペンス』の作家サマセット・モーム(一八七四ー一九六五)は、絶妙な語り口と鋭い人間描写で読者を魅了する優れた短篇小説も数多く残している。希代のストーリーテラー・モームの魅力を存分に楽しめる作品を厳選して収録。
お金を盗んだ美少年バジーニが、同級生に罰としていじめられている。傍観していたテルレスは、ある日突然、性的衝動に襲われる…。寄宿学校を舞台に、言葉ではうまく表わしきれない思春期の少年たちの、心理と意識の揺れを描いた、『特性のない男』ムージルの処女作。
19世紀半ばのインドー英国は東インド会社と総督府を通じて植民地支配を強化し、インドの直接統治を進めていた。マラーター王国の高官の娘として生まれたラクシュミーは、インド北部ジャンシー王国のマハラジャと結婚し、王宮内に女性騎馬隊を組織して、政治手腕を発揮していた。夫の死後は幼い養子の摂政として国民の信望を集めていたが、マハラジャ不在のジャンシー王国を接収しようとする英国の圧力に次第に追いつめられていく。そして1857年、インド北部で起きた「インド大反乱(セポイの乱)」の波に、王妃ラクシュミーも巻き込まれていく…。
世の中の全てに興味を失った男・郷田三郎は、探偵・明智小五郎と知り合ったことで「犯罪」への多大な興味を持つ。彼が見つけた密かな楽しみは、下宿の屋根裏を歩き回り、他人の醜態をのぞき見ることだった。そんなある日、屋根裏でふと思いついた完全犯罪とはー。表題作のほか、とある洋館で次々起こる謎の殺人事件を描いた「暗黒星」を収録。明智小五郎登場のベストセレクション第3弾。