2009年発売
チャールズ・ストリックランド。海に浮かぶ極彩色の島で、全身を病魔に蝕まれながら最期まで絵筆をおかなかった画家。その絵は忘我の境地に達し、見るものを捉えて離さないー絵以外を愛さず、地位も家族も捨てたこの放埒で孤独な男は、しかし不思議と人々を惹きつけた。彼が各地で残した愛と不幸の痕跡を、やはり彼に魅了された作家である「私」が辿る。ストーリーテラーの才能が遺憾なく発揮された、モームの代表的傑作。
老人として生まれ、若者へと時間を逆行して生きるベンジャミン・バトン。しかしその心は同世代の人間と変わらず、青春時代の苦悩や恋愛や結婚を経験し、戦争などの逆境に果敢に挑んでいく。不思議な人生を歩みつづける彼を、最後に待つものは…(「ベンジャミン・バトン」)。20世紀を代表する伝説的な作家による、ロマンあふれるファンタスティックな作品を集めた傑作選。
新田東中と横手二中。運命の再試合の結末も語られた、ファン待望の一冊、ついに文庫化!高校生になって野球を辞めた瑞垣。巧との対決を決意し、推薦入学を辞退した門脇。野球を通じ日々あえぎながらも力強く変化してゆく少年たちの姿を描いた「ラスト・イニング」他、「空との約束」「炎陽の彼方から」を収録。永遠のベストセラー『バッテリー』を、シリーズ屈指の人気キャラクター・瑞垣の目を通して語った、彼らのその後の物語。
戦時中に消息を絶った知人の情報を得るため巣鴨プリズンを訪れた私立探偵のフェアフィールドは、調査の交換条件として、囚人・貴島悟の記憶を取り戻す任務を命じられる。捕虜虐殺の容疑で拘留されている貴島は、恐ろしいほど頭脳明晰な男だが、戦争中の記憶は完全に消失していた。フェアフィールドは貴島の相棒役を務めながら、プリズン内で発生した不可解な服毒死事件の謎を追ってゆく。戦争の暗部を抉る傑作長編ミステリー。
イラクで日本人が人質にされた!人質のPTSDを考慮した政府は岬美由紀を現地に派遣するが、武装勢力に囚われてしまう。終わらない武力衝突の渦中で、美由紀は人を戦いの狂気に追いやる「トランス・オブ・ウォー」を解こうとするが、極悪のオムカッスル刑務所に送られてしまう。岬美由紀、最大の危機!圧倒的なスケールと緻密な描写で描かれる戦争と人間。ページをめくる手が止まらない、シリーズ最高峰のスペクタクル上巻。
独房で瀕死の状態にあった美由紀の前に、命を狙われたあの男が現れた。一方、大統領選を間近に控えたホワイトハウスは、テロ組織との闇のつながりを隠すため、武装勢力の壊滅を画策していた。謀略の手が美由紀に伸びる…。米軍と武装勢力の狂気の戦闘をとめるため、美由紀は旧式のプロペラ機で、たった独り再び戦場へと飛び立つ。驚愕の集団心理を解き明かす、クラシックシリーズ第9弾!最長作が待望の完全版で登場。
人里離れた山中の別荘で、私は最愛の妻・由伊とふたりで過ごしていた。妖精のように可憐で、愛らしかった由伊。しかし今はもう、私が話しかけても由伊は返事をしない。物云わぬ妻の身体を前にして、私はひたすらに待ちつづけている。由伊の祝福された身体に起こる奇跡ー由伊の「再生」を(「再生」)。繊細で美しい七つの物語。怪奇と幻想をこよなく愛する著者が一編一編、魂をこめて綴った珠玉の作品集。
「わしがこの国を開いてやる」江戸藩邸で「甲子夜話」の執筆にいそしむ元平戸藩主、松浦静山はこともなく言い放った。友人の千右衛門に連れられ下屋敷に呼び出された雙星彦馬は仰天。こんな発言は露見すると即座に打ち首だった。天文航海に通じた彦馬に期するものでもあるのか。神田妻恋坂の裏長屋に居を定め、寺子屋の合間を縫って織江を探す彦馬。だが、花のお江戸は今日もまた驚きの連続なのだった…。人気シリーズ第2弾。
大学生になった甥の堅さを心配した叔父が、昔なじみの女将に…。初心な若旦那が騙されて吉原へという落語を現代の艶笑譚に昇華した『明烏』。「天神山」と「立ち切れ」を芸能の本質に迫る人情譚に仕立てた『天神山縁糸苧環』。他、「三十石夢の通路」「反魂香」など有名落語を、奥深い芸道と色恋の艶を加えて、粋で鮮やかな世界に完成させた珠玉の作品集。全四編。
壇ノ浦の合戦で入水した安徳天皇。伝説の幼帝が、鎌倉の若き詩人王・源実朝の前に、神器とともにその姿を現した。空前の繁栄を誇る大元帝国の都で、巡遣使マルコ・ポーロは、ジパングの驚くべき物語をクビライに語り始める。時を超え、海を越えて紡がれる幻想の一大叙事詩。第19回山本周五郎賞受賞作。
銀河系全域に広がる独立国家の連合体である銀河連合。その目的は、一国家にかたよらず全人類の繁栄と安全を守ることにあり、銀河標準暦で四年に一度、銀河連合首脳会議が持たれることになっている。それに出席する連合主席の護衛が、連合宇宙軍を差し置いてジョウに依頼された。しかし入念なコースの下見を終えた彼を待ち受けていたのは、全く身に覚えのない犯罪の嫌疑だった。執拗な追手をかわしながらジョウの反撃がはじまる。
水野様が老中にでもおなりになれば、俺達の出世は思いのまま-。目黒・祐天寺の火事で焼死した若い僧は、遠山金四郎のなじみの遊女・夕顔の弟だった。姉弟は、水野忠邦の政敵の落とし胤。忠邦の弱みを握りたい鳥居耀蔵は、火事の裏に何かあると勘づいて、金四郎に働きかける。騙されたら、騙し返せ。駆け引きこそが生き甲斐だ。
「カレワラ」はフィン民族が幾世紀にもわたって詠い、語り伝えてきた一連の長大韻文民族叙事詩である。1966年マルッティ・ハーヴィオは「カレワラ物語」と称する散文物語を編纂した。本書はその「カレワラ物語」に準処した翻訳であり、韻文叙事詩「カレワラ」への入門書でもある。
「週刊時代」の編集長、カワバタ・タケヒコは、仕事をエサに、新人グラビアアイドル、フジサキ・リコを抱いた。政権党の大スキャンダルを報じる最新号の発売前日、みそぎのつもりで行った、その場限りの情事のはずだった。世俗の極みで生き続けた男が、本来の軌道を外れて漂い始める、その行き着く先にあるものは?白石一文が全身全霊を賭けて挑む、必読の最高傑作。
スクープ記事は大反響を呼ぶが、上層部から圧力がかかり、編集部内の人間関係もねじれ出す。もつれて膠着する状況のなかで、カワバタは、ある運命的な出会いへと導かれる。まるであらかじめ定められていたかのように。思考と引用をくぐり抜けた後に、「本当のこと」が語られる。現代を描き続ける著者が、小説という表現の極限を突き詰めた渾身作。いよいよ完結。
貸家だった木造民家の解体現場から、白骨死体が発見された。音道貴子は、家主の今川篤行から店子の話を聞こうとするが、認知症で要領を得ず、収穫のない日々が過ぎていく。そんな矢先、その今川が殺害される…。唯一の鍵が消えた。捜査本部が置かれ、刑事たちが召集される。音道の相棒は…、滝沢保だった。『凍える牙』の名コンビが再び、謎が謎を呼ぶ難事件に挑む傑作長篇ミステリー。
白骨死体、今川老人殺害事件、父娘惨殺事件。これらの事件に関連はあるのか。音道の立てたある仮説は、深く重く沈殿しつつあった捜査を大きく動かした。一方、刑事を騙る男が捜査を撹乱する。目的は何なのか。誰が情報を漏洩しているのか。深まる謎と謎が交錯し、溶け合っていくー。人間の欲望という業が生み落としていく悲しみをスリリングに描くシリーズ最高潮の人間ドラマ。
1920年代、パリ。未来の文豪はささやかなアパートメントとカフェを往き来し、執筆に励んでいた。創作の苦楽、副業との訣別、“ロスト・ジェネレーション”と呼ばれる友人たちとの交遊と軋轢、そして愛する妻の失態によって被った打撃。30年余りを経て回想する青春の日々は、痛ましくも麗しいー。死後に発表され、世界中で論議の渦を巻き起こした事実上の遺作、満を持して新訳で復活。