2010年発売
ロンドン五輪予選を兼ねた福岡国際マラソン2011。スタートラインに立つ選手にはそれぞれの人生があった。自己中心的で常に周囲と摩擦を起こす優勝候補の小笠原、アイドル的風貌の人気ランナー二階堂、地元福岡出身の谷口、一般参加で野心家の岡村、在日韓国人ランナーの洪、その同僚でペースメーカーながら何かを胸に秘める市川、そして偶然にも高校の同僚を先導することになった白バイ警官の長田。白熱するレースの中、徐々に明らかになる彼らをめぐる高校時代の事件とは。ノンストップで展開する陸上ミステリー。解説は福岡国際マラソンV4の瀬古利彦氏。
蝦夷地松前藩。家老蛎崎主殿は船問屋の赤崎屋と結託し、赤崎屋の商売敵八幡屋に密貿易の嫌疑をかけて取り潰しを図る。併せて正義感の強い目障りな役人三木原伊織も亡き者にしようと企てるが…。そこに、江戸の盗賊佐野屋惣吉、訳あってアイヌに成り済ましていた元旗本の土屋主水正、そして和尚の覚円ら、悪事を捨て置くことのできない男たちが次々と立ち上がる。彼らの助けにより、八幡屋の遺子銀之助は本土津軽へと逃び延びるが、一方、伊織の妻子の身にも危険が迫っていた。息もつかせぬ展開の大衆小説。書評家・北上次郎オススメの名作シリーズ第一弾。
八幡屋事件から十一年。首謀者の赤崎屋は、八幡屋の遺子銀之助と、これを助けた土屋主水正たちを始末するべくいまなお手を尽くしていた。佐渡に流されていた佐野屋惣吉は、松前発家老蛎崎主殿の弟の差し金で命を狙われ、成長した銀之助は赤崎屋に捕えられてしまう。救出された銀之助は、いよいよ父の敵、赤崎屋を討つことを決意。正義に篤い主水正や覚円和尚、そして露西亜に流れ着いていた三木原伊織らも、一味を成敗するため蝦夷地へ向かう。結集した正義の“ごろつき”どもを乗せ、船は最終決戦の地、赤崎屋一党が潜む孤島へ!波瀾万丈の大ロマン。
スペインのダリの館で日本人画家が経験する怪異譚(「ポルト・リガトの館」)。アマゾンの大湿原帯で元夫婦が遭遇したものは?(「パンタナールへの道」)。カシミールの高原湖で性の秘儀を会得する芸術家(「スリナガルの蛇」)。異国を旅する三つの能仕掛けの物語が絡まりあい、現実と幻想のあわいへ誘う。
文化10年、富山の百姓一揆にまきこまれ、過って妻のおはまを刺殺してしまった岩松は、国を捨てて出家した。罪の償いに厳しい修行をみずから求めた彼を絶え間なく襲うのは、おはまへの未練と煩悩であった。妻殺しの呵責に苦しみつつ、未踏の岩峰・槍ヶ岳初登攀に成功した修行僧・播隆の生きざまを雄渾に描く、長篇伝記小説。
ロシア辺境、カムチャツカの地方知事が独立を宣言した。核ミサイル原潜を掌握した知事は、独立を承認せねばアメリカ、ロシア、日本の都市に核攻撃を加えると通告、世界は一挙に核による破滅の危機に立った。氷の海に潜むデルタ3級ミサイル原潜を秘密裡に探索・撃破せよーこの困難な任務が最新鋭駆逐艦タワーズに下った。
部下の自殺をきっかけにうつ病に罹り、会社を辞め妻子とも別れ、何もかもを捨てて故郷・博多に戻った青野精一郎。肺がんを発病し、死の恐怖から逃れようとするかのように、結婚と離婚をくりかえす津田敦。48歳となった、小学校以来の親友ふたり。やるせない人生を共に助け合いながら歩んでいく感動の再生物語。
秋内、京也、ひろ子、智佳たち大学生4人の平凡な夏は、まだ幼い友・陽介の死で破られた。飼い犬に引きずられての事故。だが、現場での友人の不可解な言動に疑問を感じた秋内は動物生態学に詳しい間宮助教授に相談に行く。そして予想不可能の結末が…。青春の滑稽さ、悲しみを鮮やかに切り取った、俊英の傑作ミステリー。
江戸は神田、玄関で揉めごとの裁定をする町名主の跡取りに生まれた麻之助。このお気楽ものが、町の難問奇問に立ち向かう。ある日、女好きの悪友・清十郎が「念者のふりをしてくれ」と言ってきた。嫁入り前の娘にできた子供の父親にされそうだという。本当の父親は一体誰なのか。
今なお、河童伝説が残る川で、左手首が切断された死体が、続いて、左腕が切り落とされた死体が浮かぶ。一方、相馬野馬追祭を見物に出かけていた棚旗奈々たち一行は、岩手県遠野まで足を伸ばしていた桑原崇と合流。そこでまた、血なまぐさい事件が…。事件の真相と、河童にまつわる真実が解き明かされる。
日常のふとした裂け目に入りこみ心が壊れていく女性、秘められた想いのたどり着く場所、ミステリの中に生きる人間たちの覚悟、生活の中に潜むささやかな謎を解きほぐす軽やかな推理、オトギ国を震撼させた「カチカチ山」の“おばあさん殺害事件”の真相とは?優美なたくらみに満ちた九つの謎を描く傑作ミステリ短編集。
良人との離縁を望み最後の助けを求めて女が駈け込む「縁切寺」として名高い鎌倉の東慶寺。門前にある餅菓子屋の倅で忍びの未裔でもある平左十手の使い手・和三郎が、寺役人の野村市助、公儀御庭番の息女紀乃とともに、夫婦の事情の背後に隠された意外な真実を鮮やかに暴き出す。表題作「おねだり女房」を含め全四編。
北町奉行所で閑職に就きながら、動物や人の心を診る「よろず医者」の顔も併せ持つ中原龍之介。彼の元に、熱血漢の新米同心、松本光太郎が唯一の部下として左遷されてきた。米問屋の子どもが行方知れずになった事件を調べる二人だが、店の桜木の下から人骨が見つかって…新シリーズ第一作。
獣医のリョウコは、2匹のジンベエザメに「星」「半月」と名前をつけて、研究をしていた。懸命の処置も空しく半月は息を引き取るが、星は成長し海に放たれる。時は流れ、西オーストラリアで研究していたリョウコが海中で目した光景とは(表題作)。パンダやペンギンなどの動物をテーマに、6作品を収録した珠玉の短編集。
紙芝居の慰問で赴いた南方から、命からがら引き上げてきた蒲生太郎、帰ってみれば東京の生家は丸焼けで、家族も全滅。傷心の太郎は戦地で世話になった軍医・金木令吉を頼り、秋田の山奥、仙北郡神代村へやってきた。そこで出会った戦争未亡人の敏子と深い仲になり、村で暮らしてゆく決意をするー。
決してスマートとはいえない風貌に「鈍牛」「アーウー」と渾名された訥弁。だが遺した言葉は「環太平洋連帯」「文化の時代」「地域の自主性」など、21世紀の日本を見透していた。キリスト教に帰依した青年期から、大蔵官僚として戦後日本の復興に尽くした壮年期、そして“三角大福”の一人として党内抗争の渦中へー「政治家は倒れて後やむ」と言い総選挙の最中に壮絶な“戦死”を遂げるまでを、愛惜とともに描く。
愛する妻の貞節を信じ切れない夫は試しに妻を誘惑してみてくれと親友に頼みこむが…。突飛な話の発端から、読む者をぐいぐいと作者の仕掛けた物語の網の目の中に引きずりこんでゆくこの「愚かな物好きの話」など四篇を精選。『ドン・キホーテ』の作者(一五四七ー一六一六)がまた並々ならぬ短篇の名手であることを如実にあかす傑作集。