2012年発売
故郷の田舎町を嫌い都会へと飛び出した勝ち気な弟・猛と、実家にとどまり家業を継いだ温厚な兄・稔。対照的な二人の関わりは、猛の幼なじみである智恵子の死をきっかけに大きく揺らぎはじめる。2006年に公開され数々の映画賞を受賞した同名映画を監督自らが初めて小説化。文学の世界でも大きな評価を受けた。
かめくんは自分がほんもののカメではないことを知っている。クラゲ荘に住みはじめたかめくんは模造亀。新しい仕事は特殊な倉庫作業。リンゴが好き。図書館が好き。昔のことは憶えていない。とくに木星での戦争に関することは…。日常生活の背後に壮大な物語が浮上する叙情的名作。日本SF大賞受賞。
「医者をなめてるんじゃない?自己満足で患者のそばにいるなんて、信じられない偽善者よ」。美しい信州の情景。命を預かる仕事の重み。切磋琢磨する仲間。温かい夫婦の絆。青年医師・栗原一止に訪れた、最大の転機。
『真昼の怪』の調査で夏休みを潰してしまった刻子たちは、雅の父・蒼然の紹介で、彼の知り合いが経営する海沿いの古民家へ宿泊することになる。飽きもせず愛の言葉をささやき続けるジャンに戸惑う刻子。そんな彼らの様子を見守る(楽しむ)佐々子と金之助。一方、刻子に思いを寄せる雅はジャンの存在に心中穏やかでいられない。旅先といえども相変わらずの彼ら、と思いきやー「生身だと、欲情して困ります」「ジャンのことが気になる?僕のことよりも…?」ジャンと雅が刻子に急接近!?美形でオタクなエクソシストと霊感女子高生の除霊ラブコメディ、初合宿は波乱の予感。
芥川の死、そして昭和文学の幕開けー「死があたかも一つの季節を開いたかのようだった」(堀辰雄)。そこに溢れだした言葉、書かずにおれなかった物語。昭和二年から一七年に発表された、横光利一・太宰治らの一六篇を収録。
ユダヤの伝統と信仰を墨守してつましく暮らす牛乳屋のテヴィエ。だが彼の娘たちは旧弊な考え方の父に逆らい、異教徒や革命家の青年などと結婚し、次々と親元を離れてゆくー。ユダヤ人集落のしきたりを破って伝統の枠から飛び出してゆく娘たちの姿に民族離散の主題を重ねた、イディッシュ文学の金字塔。『屋根の上のバイオリン弾き』の原作。
劇団員の夏帆は、アルバイトをしながら日々の生計を立てている。一人暮らしの32歳。20代のころのように素直に夢を追うこともできず、かといって郷里には戻りたくない。アルバイトの住宅地図の調査に訪れた埼玉県のベッドタウンは、小学校の頃に一時期住んでいた街だった。夏帆は小学校の同級生と再会し、その夜、彼女の家に向かう途中で運悪く通り魔に遭遇してしまう…。「日常の些細な悪意」の連鎖が引き起こす長編サスペンス。
インドで襲われ一年後に亡くなった父の『占い拠 七ノ瀬』を継いだ桜子は、客が喜ぶ占いをするのが苦手で、占い師として致命的。そんな桜子を心配して、表に裏にと駆けずり回るのが乾耕太郎だ。ふだんはしがないフリーカメラマンをしている。仕事がないときがよくあるのだが、そんなときは奔走しっぱなし。というのも桜子に気があるからだ。二人の前に立ちはだかる五つの謎を解いて、男を上げろ、耕太郎。
「替天行道」の志を受け継いだ楊令の闘いと、熱き漢たちの生き様を壮大なスケールで描いた、北方謙三の『楊令伝』。文庫版全十五巻完結を記念して、公式読本が文庫オリジナルで登場。地図や年表、厖大な登場人物たちを網羅した人物事典、著者のエッセイや対談、さらにはここでしか読めない担当編集者のウラ話など、『楊令伝』の世界をもっと楽しむためのコンテンツが満載。
砂漠の熱い風に全身をさらして、そのうち、肉が全部こそげ落とされて、骨になってしまえばいいーかつて彼はそう言った。愛する男が異国の地で突然亡くなった。アルコールと薬物の同時摂取が原因だという。彼は生きることが辛かったのではなかったか?愛していると囁きあったのは偽りではなかったか?ひとり残された女は、死んだ男を追い求め、彼が直前まで過ごしたヨーロッパへと旅立つ。
鎌倉時代の半ば。玄界灘に浮かぶ壱岐島で、幼なじみの二郎と宗三郎は、浜に流れ着いた一人の少女を発見する。少女の名は麗花。母国の高麗を追われ、親を失っていた。三人は島で兄妹のように育つが、やがて蒙古の大軍が壱岐を襲い、過酷な運命に巻き込まれてゆく。何のために生き、誰のために戦うのかー元寇という巨大な時代の嵐に立ち向かう若者たちを描いた、魂を揺さぶる歴史大長編。
蒙古軍の圧倒的な力に壱岐は蹂躙され、多くの民が命を奪われた。主君を失いながらも戦火を生き延び、蒙古への復讐心に燃える宗三郎。絵師を目指して隣国の宋に渡った二郎。裕福な養父のもとを出て芸の世界に身を投じた麗花。それぞれの道を歩む三人は、年を経て再び蒙古の脅威にさらされる。凄絶な戦いを生き抜き、若者たちは光をつかむことができるのか。若き才能が活写する、迫真の歴史長編。
紀伊半島は熊野川の河口に位置する街、森宮。医者の槙隆光は貧しい者から治療費を取らないことから親しみを込めて“毒取ル先生”と呼ばれていた。ときは1903年、豊かな自然のなかで暮らす槙たちの周りには鉄道敷設や遊郭設置などの問題が起こり、一方で日露戦争開戦の足音がすぐそこに迫っていたー。歴史上の人物に材を取り、当時の情勢と熊野の人々を瑞々しく描いた第51回毎日芸術賞受賞作。
非戦論を主張しながらも脚気治療のために満洲へ赴いたドクトル槙。戦地で軍医を務める森鴎外や田山花袋らと出会いながら、彼もまた否応なしに戦争に巻き込まれていく。その傍ら、地元の森宮では鉄道敷設反対とともに社会主義運動が起きり、街全体が奇妙な熱気と不穏な空気で覆われる。様々な思惑の飛び交うなか、槙と永野夫人は秘かに禁断の恋を育み…。激動の時代を紡ぐ歴史大河長編、完結。
平穏な日常は、他人の何気な言葉ひとつで、ざわつき始める。夫と後輩女性が噂になっていると聞き、妻が駆け込んだ所は?(「マスカット・グリーン」)女同士の飲み会で、あっちこっち脱線しながら話すうち、ふと蘇る切ない記憶(「元気でいてよ、R2-D2。」)。笑顔の裏の真意、言葉にできない負の感情など、普段は隠している本音が顔を出す瞬間を、女性を主人公に巧みに描く。傑作短編8編を収録。
「あたし今度、自分で店、開くんだ」。海外出張先への国際電話で娘に告げられ、宍倉勲は絶句した。就職したばかりの大手企業をすぐ辞めてしまったと思ったら、今度は何を言い出すのかー(「マスターと呼ばれた男」)。時に社長として、時にヒラ社員として、誠実に働き続けてきた男。彼と娘との関係、家族の歴史を時をさかのぼりながら描く連作長編。文庫化に際し書き下ろし短編を特別収録。
孤独感と死の影を漂わせた男・黒田修一郎、35歳。会社を倒産させ自殺を決意するが、社長令嬢・陽子を通し実業界の黒幕・相馬雷太を紹介される。「あんたに1億円使わせてみようかの」!-こうして、黒田は池袋に開店する白丸デパートの宣伝部長として腕を振るうことになった。彼が仕掛けた奇抜な戦略とは…!?個性的な男たちとの攻防、多彩な美女を巡る駆け引き。柴錬現代小説幻の傑作。
「勝とうとすれば、気が散るぞ。そんな暇があれば、相手など斬れるわい」。魔剣・不知火落としを操る九堂に対峙した隼四郎の胸裏に声が鳴る。流れ者の剣客に育てられ、十六歳で実父と対面した兵法者は、書物学問奉行の跡取りとして「滅私奉公ごっこ」を始める。しかし、やがて領民を置き去りにした藩政にもの申し、驚くべき行動へ。大人たちの野心と陰謀に敢然と挑み続けた天才剣士を描く。