2012年発売
酒を浴びるように飲み、大正から昭和へと文学とともに短い人生を駆け抜けていった葛西善蔵は、周囲の人間を犠牲にしつつも常に人と密着して生きていかねばならぬ存在であった。表題作はじめ、「呪われた手」「浮浪」「不良児」など、家族と関わりながら、熱情をもって書きあげた十八篇を時間の移り変わりとともに編纂した作品集。
1972年、大学生のわたしと恋人のダニー、その友人のサイモンは、親元を離れサイモンの叔父の家で、三人だけでひと夏を過ごすことになっていた。だが、海で出会ったトゥルーディーという少女を家に連れ帰ったことで、すべての歯車が少しずつ、だが確実に狂いはじめる…。情感豊かな筆致で描く現在と過去、積み重ねられる謎、圧巻のクライマックスー。大型新人のデビュー長編。
ケイティは退屈していた。競争相手のいない市場でのマーケティングなどサルでもできる。そんなとき、古写本の解読にいそしんでいたオーウェンが、とんでもないことに気づいた。権力への渇望を生み出し、他者を支配する力を与える危険な石“月の目”が、ティファニーに現れたというのだ。早速ふたりは追跡を開始する。日本オリジナル書き下ろし。大人気シリーズセカンドシーズン。
初期長篇三部作の第二巻。崩壊の発端を細密に描く「栖」、人間の関係の迷路をめぐって生の闇を暴く短篇集「椋鳥」。古俗と聖性の土地から都市へ、性と出産、関係の失墜、狂気の進行。人間の営みの深い淵をえぐり、現代の男女の危うさを定着した著者円熟期の傑作。
「「生きられますか?」と彼は彼女にきいてみた。」(野間宏『顔の中の赤い月』)-焼跡から、記憶から、芽吹き萌え広がることばと物語。昭和二一年から二七年までに発表された、石川淳・坂口安吾・林芙美子らの一三篇を収録。
『銀の匙』が時代を超えて共感をもって読まれ続けるのはなぜなのか。この名品の文章に寄り添い、表現に織り込まれたメッセージを周到に抽きだしてその謎を解きほぐす。多くの図版資料を随所に収め、彫琢をきわめたこの作品の肌理と佇まいがおのずと浮かびあがる。読者を魅了してやまない勘助の美しい文学世界の息吹がみち溢れる一冊。
光仁天皇の御世になって八年。物語の舞台は陸奥に移る。都で働く道嶋嶋足に対し、伊治鮮麻呂は蝦夷でありながら国府多賀城の役人として蝦夷の乱の鎮圧にあたっていた。陸奥を守るため、朝廷と蝦夷の共存を目指し腐心してきた鮮麻呂だが、陸奥守の横暴、蝦夷を人と思わない帝の勅に、ついに決起を覚悟する。狙うは陸奥守の首ひとつ。北辺の部族の誇りをかけた闘いを描く著者渾身の歴史ロマン、堂々完結。
歴史を変えてくれと誰が頼んだ?ガーディアンは多くの人々を救ったが、その一方で、本来の歴史では幸せだった人が不幸になるケースも出てくる。SF作家である僕も、その一人だったー。本は出せないし、妻の真奈美は美少女アンドロイド・カイラとの仲を疑い始めている。妻の反対を押し切って、宇宙に浮かぶガーディアンの母艦・ソムニウムを訪れた僕は、彼らに対して疑問を抱き始めた…。第42回星雲賞・日本長編部門受賞作。
物語をつくってごらん。きっと、望む世界が開けるからー暴力を躱すために、絵本作りを始めた中学生の男女。妹の誕生で不安に陥り、絵本に救いをもとめる少女。最愛の妻を喪い、生き甲斐を見失った老境の元教師。切ない人生を繋ぐ奇跡のチェーン・ストーリー。
人類と異界族が共存する19世紀英国。伯爵夫人アレクシアは、社交に、“陰の議会”に、特殊能力をもつ2歳の娘プルーデンスの子育てにと多忙な日々を送っていた。そこへ世界最高齢の吸血鬼マタカラ女王からエジプトへの招待が届く。かつて“神殺し病”で異界族が消えたその地で、一行は古代より続く恐るべき秘密にふれることにー歴史情緒とユーモアに、人狼殺害事件の謎を絡めた大人気冒険譚、惜しまれつつも堂々完結。
1973年、宗教弾圧と鎖国政策下の無神国家アルバニアで、正体不明の人物が勾留された。男は苛烈な拷問に屈することなく、驚くべき能力で官憲を出し抜き行方を晦ました。翌年、聖地エルサレムの医師メイヨーと警官メラルの周辺で、不審な事件や“奇跡”が続けて起きる。謎が謎を呼び事態が錯綜する中で浮かび上がる異形の真相とは。『エクソシスト』の鬼才による入魂の傑作ミステリ。
19歳と14歳の少女がタクシー運転手を襲う事件が発生。逮捕された少女たちは金ほしさの犯行だと自供、反省の色はない。あまりにふてぶてしい二人の態度。尋問の席で母親を殴った少女に腹をたてたヴァランダーは思わず彼女に平手打ちを食らわせてしまう。ところがその瞬間の写真を新聞に掲載されてしまったのだ。孤立感に苛まれるヴァランダー。北欧ミステリの巨匠の傑作シリーズ。
タクシー運転手殺害で逮捕された少女が脱走、死体となって発見された。単純なはずの事件が一気に様相を変える。一方、病死だと思われたITコンサルタントの死体がモルグから盗まれ、代わりに少女との繋がりを疑わせるものが。調べ始めたヴァランダーは、コンピュータに侵入するため、天才ハッカー少年の手を借りる。新しい時代の犯罪に苦しむヴァランダー。人気シリーズ第八弾。
植物になりたいと願う青年。毎夜、午前一時に現れる男。言葉を探し続ける郵便局員ーどこか奇妙で、愛おしい人々。切なく、温かいショート・ストーリー集。ゆるやかに連鎖していく、それぞれの人生の、50の物語。
サンディエゴの探偵にして地元屈指のサーファー、ブーン・ダニエルズは、“紳士の時間”を海で楽しむサーフィン仲間から、妻の浮気調査の依頼を受ける。同じころ、爽やかな人柄で愛されるサーファーのK2が、ダイナーで殴り殺された。人気者の死に街中が悲しむなか、加害者の弁護士に雇われたブーンは調査を開始、真相は別にあると直感。そして危険過ぎる事件の内実が、カリフォルニアの太陽の下に晒される時が訪れるー。
大岡越前守の娘、霞は男が作った世の決まりで裁かれる女たちに深い同情を寄せていた。6人の女死刑囚を救えるか、と父から挑まれた霞はある秘策を考えつく。数日後、小伝馬町のおんな牢に姫君お竜という風変わりな新顔がやってきた。愛くるしい顔立ちだが不敵な態度で一目置かれる存在となったお竜は、死刑囚から身の上話を聞き出し始め…。おんな牢と江戸の巷を駆け回り、女たちの冤罪を晴らしていく爽快な時代活劇譚。
大坂城を攻め滅ぼし、天下を手にしたはずの家康を驚愕させる情報がもたらされた。真田幸村の秘策により、信濃忍法を駆使した5人のくノ一が秀頼の子を身ごもった。しかもその女たちは愛孫・千姫の侍女の中に潜んでいるという。禍根を断つべく、家康は伊賀忍者の精鋭5人を呼び寄せ、隠密裡にくノ一たちを葬るよう命ずる。性の極致で繰り広げられる凄艶奇抜な忍法合戦。千姫と家康、勝つはのいずれの執念か。忍法帖の究極作。