2015年6月発売
覆面作家として発表した幻の小説を初文庫化 <ぼくは今、学説を覆すに足る新事実を発見しようとしています。村人は語りませんが、蝦夷からアイヌ民族の出現に至るまでの空白期間を埋める幻の狩猟民族の末裔が、暗火岳に生きているのです。その所在を確かめるために明日暗火岳に向かうつもりです> 友人の私にこのような葉書を送って北海道・知床半島で消息を絶った鴫沢澄夫。大学で考古学を専攻する私は、彼が主宰する北方の狩猟文化をテーマとした研究会にも顔を出していた。姿を消した鴫沢を追って、私は彼に心を寄せていた女性、奈美とともに、北海道に渡る前に出かけていたという新潟の山村へと旅立つ。その地は研究会にも参加していた考古学の権威、環教授がかつて調査に赴いた場所であり、そこで私は鴫沢と環教授の不思議な連関に気づくのだった。 【編集担当からのおすすめ情報】 石川啄木をモチーフにした小説「北帰行」で、東大在学中に本名の「外岡秀俊」で文藝賞を受賞した著者が、朝日新聞の記者であった1986年に「中原清一郎」名義で10年ぶりに発表した幻の第2作を初文庫化しました。古本市場でもかなり高額な価格で取引されていた名作がいまよみがえります。解説は書評家の三橋曉さんです。
「九年前の祈り」で芥川賞を受賞した作家の、奇想あふれる6篇。 これが小説の底力! 遠い号砲が、オジイの戦争の記憶を呼び覚ます。 悪戯者の猿は、オバアの血を騒がせる。 冥界から使者が訪れ、水死人は姿を変えて帰還するーー。 最初の作品から20年の光跡を示す、魅惑の短篇集。
中国大返しで天下の覇権を握ったかに見えた羽柴秀吉は、信長の遺児信雄と対立し、それを機に兵を挙げた徳川家康と小牧長久手で激突することになる。2万の羽柴軍が優勢に見えた戦況は、家康の戦法に阻まれて痛み分け。実質の徳川の勝利となったのだ。苦杯をなめさせられた秀吉は真田昌幸とともに駿府・岡崎を攻める! 秀吉と家康が真っ正面からぶつかり合うもうひとつの戦国合戦記。仮想戦記小説。
富士樹海近くで合宿中の高校生文芸部員達が次々と殺されていく。いったい何故? 殺戮者の正体は? この理不尽かつ不条理な事態から、密かに思いを寄せる少女・美優を守る! 部員の八木剛は決意するも、純愛ゆえの思いも空しく……!? 圧倒的リーダビリティのもと、物語は後半、予測不能の展開を見せる。失踪の調査対象“八木剛”を追う保険調査員琴美がたどり着いた驚愕の事実とは!?
星野鈴音は十人並以下の容姿。けれど初めて見た瞬間、榊原優一は激しく心を動かされた。見つけた!彼女はダイヤモンドの原石だ。一流の美容整形外科医である優一の手で磨き上げれば、光り輝くだろう。そして、自分の愛人に…。鈴音の「同僚の亜由美より綺麗になりたい、綺麗なほうと呼ばれたい」という願望につけ込み、優一は誘惑する。星野さん、美人になりたいと思いませんか?
くるりとした大きな目と赤い頬、六歳の義妹・花哉は魚の“喜知次”を思わせた。五百石取り祐筆頭の嫡男・日野小太郎に妹ができたころ、藩内は派閥闘争が影を落していた。友人の牛尾台助の父は郡方で、頻発する百姓一揆のため不在がちという。鈴木猪平は父親を暗殺され、仇討を誓っている。武士として、藩政改革に目覚めた小太郎の成長と転封の苦難、妹への思慕をからめて描く清冽な時代長篇!
養鶏場を経営するも、借金まみれ。あげくに追加の設備投資を勧める営業マンを突き飛ばし、鈴木明男は軽トラックで逃亡した。たどり着いたのは神山田という人里離れた山村。昔からの村民、こなたばあちゃんの家で厄介になりつつ、そこで明男が目にしたのは、お金を使わず自給自足、義務や強制のない暮らしを提唱する男、民人がつくった共同体だった。彼らの目的は?本当のエコって何?
2014年に刊行された各文芸誌に発表された全短篇の中からベスト11を選出しました。そのどれもが傑作、今読むべき“旬”な物語です。目利きの編纂委員を唸らせた作品群は、きっと、あなたを感動の森に誘います。愛と憎しみ、歓びと哀しみ、ときには笑いなど、研ぎ澄まされた文章に人生の機微をギュッと詰め込んだ名短篇の数々。新鋭の煌き、熟練の妙手にて、どうぞご堪能ください。
おれの名は朽網康雄。この街でただひとりの探偵。喫茶店でハードボイルドを読みながら、飲むコーヒーは最高だ。この世界は、生前の記憶と人格を保持した連中が住む電脳空間。いわゆる死後の世界ってやつだ。おれが住むこの町は昭和の末期を再構築しているため、ネットも携帯電話もない。しかし、日々リアルになるため、逆に不便になっていき、ついには「犯罪」までが可能になって…。
「一日百円で、どんなものでも預かります」。東京の下町にある商店街のはじでひっそりと営業する「あずかりやさん」。店を訪れる客たちは、さまざまな事情を抱えて「あるもの」を預けようとするのだが…。「猫弁」シリーズで大人気の著者が紡ぐ、ほっこり温かな人情物語。
施設で育ち、今は准看護師として働く弥生は、問題がある医師にも異議は唱えない。なぜならやっと得た居場所を失いたくないから。その病院に新しい師長がやってきてー。『きみはいい子』と同じ町を舞台に紡がれる、明日にたしかな光を感じる物語。
1977年、和子は祖母のマサとともにお好み焼「いちはし」を切り盛りしながら、娘・志乃の成長を見守っていた。思春期を迎え、親友との出会い、淡い恋も経験した志乃は、やがて自分の進む道を模索し始める…。復興と平和がもたらされた広島の姿を描く、三部作の完結編!
オーラの父が経営するホテルは業績が悪化し、〈チャッツフィールド〉による買収が進められていた。交渉のためには相手をよく知っておかなければ。そう考えたオーラはチャッツフィールド・ロンドンに滞在し、夜更けに一人、ホテルのバーを訪れた。だがそこで、彼女は憂いを帯びたセクシーな男性に魅了され、彼に誘惑されるまま、熱い一夜を過ごしてしまう。数時間後、オーラは買収交渉の席で、思いがけず彼と再会する。アントニオ・チャッツフィールド? 私は“敵”に体を許してしまった。狼狽するオーラを見つめる彼の目の奥には、まだ炎がくすぶっ
兄の結婚式に出席するため、トリニティはイギリスに戻ってきた。式が執り行われる教会で再会したのは、初恋の人ザイード!兄の学友で、砂漠の王国イシャラの王子だ。10年前、トリニティはイギリスで学んでいたザイードに心奪われ、初めてのキスを彼に捧げ、この家から連れ出してと訴えた。だが、ザイードはつれなく母国に帰り、忌まわしい出来事が起こった。トリニティは伯母の夫に襲われて身ごもり、その子を流産したうえ、政治家一族の体面のために事件は闇に葬られたのだ。式のあとザイードと二人きりになると、トリニティは感情がこみあげ、衝
テディは夫になったばかりのアレハンドロとともに、アルゼンチンへと向かう自家用ジェット機の中にいた。亡き父の理不尽な遺言状さえなければ、こうはならなかった。父はテディが屋敷を相続する条件に結婚を義務づけ、その相手にアレハンドロを指名していたのだ。アレハンドロは南米で一、二を争う辣腕実業家で非情なプレイボーイ。彼は結婚によってテディの父親にかつて奪われた土地を取り戻せる。テディは半年で別れる約束で、期限つきの結婚に同意した。イギリスの田舎育ちの娘など彼には問題外。でも望みを叶えたければ、この人と6カ月暮らすし
マリサはダマソから突然求婚され、呆然とした。高級リゾート施設を経営する実業家のダマソとは、ひと月ほど前、旅先で一夜をともにしただけ。しかも彼は翌朝、彼女のベッドから冷たく去っていったのだ。あのときは思いもしなかった。まさか自分が妊娠するなんて。彼女はベンガリア国の王女だったが、双子の兄を事故で亡くして以来、故国へは戻っていない。身重の体となった今ではなおのこと…。そんなマリサの窮状を知ってか、ダマソはさらに意外な提案をした。彼が所有する島の邸宅で、しばらく同居してみないかというのだ。彼を信用していいの?マリサに残された道は一つしかなかった。
天涯孤独のサリーは幼いころから里親のもとを転々として育ち、誰からも養子にしてもらえなかったことが深い心の傷となっていた。そんな彼女は18歳のとき、最愛の恋人トムに一方的に捨てられ、無惨に終わった恋を忘れるために異国へと旅立った。いつか彼と温かい家庭をと夢見ていたのに、またひとりぼっち……。7年後、故郷に戻り助産師として働くことになったサリーを、避けては通れぬ試練が待っていたーー敏腕ドクター、トムとの再会が。憎いのに愛しい彼。でも、もうこれ以上傷つきたくない。何年も練習してきたとおり、彼女が冷たくよそよそし
サマンサはハンサムで優しい恋人クライヴに夢中だ。父親は「君はあの男の本性をわかっていない」と反対するが、サマンサは、そんな子ども扱いにはうんざりだった。だがある夜、彼女は婚前交渉を迫るクライヴと喧嘩してしまう。彼のもとを逃げ出し、迷い込んだ美しい邸宅の庭で出会ったのは、傲慢で謎めいた実業家、ブレット・キャリントン。驚いたことに彼とクライヴは古くから因縁の関係にあるようで、翌日からブレットはサマンサを毎日のように誘いだすようになった。クライヴを愛しているからと拒んでも、軽くいなされてしまう。あげくブレットは
家庭教師のマディは新しい雇い主との面接のため、ある宿屋に泊まった。雇い主に気に入られて、年老いてからも家の片隅に置いてもらい、つましいながらも穏やかに暮らすーーそんな人生を思い描いて。ところがその夜、あろうことか彼女の眠る客室に忍び込んだ見知らぬ男に夢うつつのうちに体を奪われてしまった!男の正体はなんと、高潔で有名なセイント・オールドリック公爵。不運にも雇い主の知るところとなり、職を失ったマディはショックと恥辱に耐えかね、その場から逃げだした……。ふた月後、マディはあの夜の記憶に怯えながらも公爵邸を訪れた