2015年7月発売
還暦を迎えて既に先端医療の現場を離れた医師・江原陽子。ある日、彼女のもとに、研修医を介して奇妙な「病歴要約」が送られてくる。そこには過疎の村で終末期医療に奔走してきた元同僚・黒田の半生が記されていた。「医師は悪党」という黒田の言葉に込められた真意とは?人生を丁寧に生きようとする人たちの強さが息づく物語。
実母・土田御前に疎まれた記憶が、織田信長の心を歪ませた。寸土を求めて同族同士で殺しあう尾張の小領主を継いだ男が、桶狭間で今川義元を討ち取り、やがて天下を狙う戦国大名の一人へと成長していく…。社会現象にもなった『下天は夢か』からおよそ四半世紀を経て、まったく新しい視点から描いた巨匠津本陽「最後の信長伝」!
「今までの裁判員裁判の中では一番簡単そう」新人裁判官・久保珠実は物足りなさを感じていた。初老の男性が幼なじみの家に放火した事件。争点は動機のみのはずーしかしある証言により法廷は予想だにせぬ方向へ。裁判員に選ばれた一般市民の姿もリアルな、現代人が読むべきリーガル・サスペンス連作三篇。
「狼王ロボ」の異名を持つ巨大狼を追跡中の老人が、喉を裂かれて殺された。「犯人」は狼なのか?だが居合わせたシートンは、真犯人は他にいると断言するー名著『シートン動物記』の著者、シートン先生は名探偵でもあった!?動物たちを巻き込む怪事件をホームズばりの推理で解決する心優しい連作ミステリ。
「あの事件を、今更ほじくり返してどうするんです?」数十年ぶりにかつて大学生活を送った地方都市に舞い戻った大学教授の鹿野道夫は、全共闘運動のさなか起こったある「事故」を執拗に調べ始める。機動隊との衝突が招いた一人の高校生の死ー謎が謎を呼び、昭和の恩讐を呼び覚ます。骨太の人間ドラマ。
警視庁公安部外事第二課きってのスパイハンター・樋口一樹。“殺しのデカ”として捜査第一課のエースと称される西村康仁。全く接点のなかった二人が荒木町のバーで遭遇した夜、東京西部で白骨遺体が発見される。捜査手法も思想信条も水と油の二人が、それぞれの目的のため同じ事件を追って火花を散らすー。文庫オリジナル。
子どもができたら籍を入れるーその言葉を信じて、ミイは元気な男の子を産んだ。自分の人生を変えてくれる子だと。敏雄と名付けられた男の子は、父がいなくても母の愛情たっぷりにすくすくと大きくなっていく…。戦時下の昭和を舞台に、身を寄せ合って懸命に生きた母と子の絆を描いた半自伝的小説。
神聖ローマ帝国を追放され、新大陸に渡った“ラインの暴れ伯爵”グルムバッハは、アステカ国王に味方して、征服者コルテス率いるスペインの無敵軍に立ち向かった。グルムバッハは悪魔の力を借りて敵の狙撃兵ノバロの百発百中の銃を手に入れるが、その責を問われ絞首台に上ったノバロは、死に際に銃弾に呪いをかけた。「一発目はお前の異教の国王に。二発目は地獄の女に。そして三発目はー」騙し絵のように変幻する物語、幻想歴史小説の名作。
貴族令嬢でありながら、伯爵である伯父の屋敷で使用人同然の不遇な毎日を送るエリーは、ある日、いとこの付き添いで社交界の花形レディ・ミルフォードを訪ねた。そこで美しい赤い靴を贈られた彼女は、幸運にとまどいながらも胸を躍らせる。ところが、社交シーズンが始まる前に、エリーは突然“悪魔の王子”の異名を持つダミアンに、孤島の城へとさらわれてしまった。まもなく誘拐は人違いだったとわかったものの、一歩も外に出られない悪天候が続き、ロンドンには帰れない。閉ざされた城の暮らしの中で、エリーに細やかな心配りを見せるダミアン。世間の評判とは違う彼の素顔にふれ、誘拐を企てた理由や秘めた孤独を知るうちに、エリーは次第にダミアンに惹かれていく。そして嵐がやんだ朝、突然レディ・ミルフォードが城を訪ねてきて…。
わずか四週間で結婚式を挙げることになったデレインのお相手は、地元で指折りの敏腕弁護士。ところが、人生で最良の日に最悪の事態が起きてしまった。新郎が式の時間を過ぎても姿を現さず、心配して控え室のスイートルームに迎えにいくと…そこには息絶えた新郎の姿が!他殺をにおわせる後頭部の傷跡を、セオドシアの鋭い目は見逃さなかった。犯人への復讐を誓う花嫁は、セオドシアに事件の捜査を依頼。事件当日、謎の宿泊客が隣室から姿を消していたこともわかった。なにせ式場は幽霊が出ると噂される不気味なホテル。うさん臭いゴーストハンターがセオドシアの店にまで押しかけてきて、なぜか彼女も一緒に幽霊探しに駆り出されてしまい…!?
家電メーカーに勤める菊地陽介は、妻と大学生の娘の三人家族。隣家の白井家とも仲は良好だ。白井家は、サラリーマンの恒平と専業主婦の智美たち夫婦と、恒平の父親である喜一が同居する三人住まい。何気ない交流のたびに、隣家の人妻を意識するようになった陽介だったが、ある日、ただならぬ様子で智美が訪ねてくる。妻と娘は旅行中で不在、よく見ると智美のブラウスはボタンが引きちぎれ、ひどく怯えていて…。幸せなふたつの家族を取り巻く、欲望と淫気を赤裸々に描いた衝撃作!
寺の厠でとつぜん無常を悟りそのまま出奔した僧、初めての賭博で稼いだ金で遁世を果たした宮仕えの俗人ー平安の極楽往生譚を生きた古人の日常から、中山競馬場へ、人間の営みは時空の切れ目なくつながっていく。生と死、虚と実、古と現代。古典世界と現在の日常が、類い稀な文学言語の相を自在に往来し、日本文学の可動域を、限りなく押しひろげた文学史上の傑作。読売文学賞受賞。
イデオロギー的偏向やうすっぺらな善悪を超え、戦場の奇妙な人間模様を描くことで、不気味なユーモア、シュールな世界として、“戦争”を読者に刻みこむ。兵士たちに蔓延する「迷子病」が県城自体の引越しを誘発する「城壁」ほか、寓話的ともいえる作品のなかにも暗号兵としての自らの体験が息づく。戦争文学のもつ既成像を粉砕し、小島信夫の世界観の核を示す九作品。
ユーラシア大陸の広範な地域に存在するテュルク系諸民族が語り伝えた英雄叙事詩の本邦初訳。ギリシアの『オデュッセイア』に似た、勇士アルパムスが活躍する各民族のテクスト群を結集。
北海道新聞文学賞に輝いた詩集『骸骨半島』は、荒巻義雄の詩的才能が一気に開花した作品。「SF作家が詩を書いたのではなく、詩人がSFを書いた!」と独得の言い回しをする知られざる荒巻ワールド!特典として「メタ俳句自選百句」、「花嫁」などの幻の短編&ショート・ショート集、そして、本全集のあとがきにかえて特別に書き下ろした「SF作家の幻視眼ー未来はどうなるか?」を収録!
美しい姉妹が暮らすとある屋敷にやってきた「わたくし」が見たのは、対照的な性格の二人の間に起きた陰湿で邪悪な事件の数々。年々エスカレートし、ついには妹が姉を殺害してしまうがー。その物語を滔々と語る「わたくし」の驚きの真意とは?圧倒的な筆力で第7回ミステリーズ!新人賞を受賞した「強欲な羊」に始まる“羊”たちの饗宴。企みと悪意に満ちた、五編収録の連作集。
時は平安。人々の注目を集めるひとりの女性がいたーその名は紫式部。かの『源氏物語』の著者だ。実は彼女は都に潜む謎を鮮やかに解く名探偵でもあった。折しも、帝が寵愛する女性が待望の親王を出産、それを祝う白一色の華やかな宴のさなかに怪盗が忍びこみ、姿を消した。式部は執筆のかたわら怪盗の正体と行方に得意の推理をめぐらすが…。鮎川賞受賞作家による王朝推理絵巻。