2016年7月5日発売
時は文久元年。田舎の村を出た若者・弥吉は、決意を胸に大坂へ向かう。蘭学者の緒方洪庵が開いた適塾に潜入し、折を見て「暗殺」することが彼の使命だった。しかし実際に洪庵の人柄に触れるうち、考えが変わっていく。一方、郷里の村では、尊王攘夷の急進派「天誅組」に加わるため、村人たちが動き出す。弥吉は挙兵を止めようと奔走するがー。「正義」とは何か。壮大な成長物語。
白衣を着てコック帽をかぶった北町貫多は、はじめての飲食店でのアルバイトにひそかな期待を抱いていた。日払いから月払いへ、そしてまっとうな生活へと己を変えて、ついでに恋人も…。労働、肉欲、そして文学への思い。善だの悪だのを超越した貫多17歳の“生きるため”の行状記!
アウシュヴィッツ強制収容所に、囚人たちによってひっそりと作られた“学校”。ここには8冊だけの秘密の“図書館”がある。その図書係に指名されたのは14歳の少女ディタ。本の所持が禁じられているなか、少女は命の危険も顧みず、服の下に本を隠し持つ。収容所という地獄にあって、ディタは屈することなく、生きる意欲、読書する意欲を失わない。その懸命な姿を通じて、本が与えてくれる“生きる力”をもう一度信じたくなる、感涙必至の大作!
京都の輸血センターで検査技師として働く迪子は、恋人と別れた後既婚者である上司、阿久津に強く惹かれていく。初夏から野わけの候の、美しい京都を舞台に、不倫の愛につきまとう喜びと苦しみ、底知れない虚しさを、卓越したリアリティーで描く。
太平洋を南下する潜水空母アークを目がけて一本のミサイルが飛来した。それは、月面に基地を構え地球の覇権を狙うWWSA『ネオ・テラ帝国』からの威嚇だった。クトゥルーらの“ダーク・パワー”と、WWSAの両者からの脅威に挟まれた「地球軍」は隷属か反攻かの決断を迫られる。結成以来の危機にさらされるなか、知将・加賀四郎は“敵は月面にあり”と、宇宙への進軍の決断を下し、北斗多一郎たちを月面攻撃特別コマンドとして、急遽送り込むのだが…。
関東大震災と第二次世界大戦という二つの歴史的大事件に挟まれた16年間ー画家・桂が片時も忘れえなかった昔の恋人・三枝夫人との再会と、すれ違った愛の行方を追い求め描いた作品。世界が激しく揺れ動いた時代、日本という風土に生まれ育った芸術家の思索、苦悩、そして愛の悲劇を通して人生の深淵に迫った力作である。完成までに十年の歳月を費やした福永武彦の文学的出発点ともいえる。解説は芥川賞作家であり、福永武彦の長男でもある池澤夏樹氏。
これから親友の結婚披露宴がホテルで盛大に執り行われる。借り物のドレスに身を包んだエマは、不安と闘っていた。じつは彼女は妊娠していた。おなかの子の父親は、ブラジル随一のホテル王、ルーク・マルセロスーまさかこんな場所で彼と再会する羽目になるなんて!ルークとはロンドンで夢のような一夜を過ごしたが、愛人になるよう迫られ、エマは傷心のまま姿を消したのだった。でも、やっぱり黙ったままではいけないわ。はっきりと告げなければ。この子は私が一人で立派に育てると。
それは、6歳のサマラにとってむごすぎる現実だった。彼女の父が統治するジャハールと隣国のカドラが争い、父は死亡。サマラと母はすんでのところで国外に逃れた。その後、逃避行の途中で母も亡くなり、彼女は天涯孤独となった。21歳になったサマラはいま、カドラの宮殿に密かに忍び込み、国王フェランへ復讐する機会を狙っていた。仇を討てば、天国の父と母は褒めてくれるだろうか?だがすぐにサマラは捕らえられ、フェランから意外な言葉を聞く。「君を利用する方法を思いついた。僕の婚約者として公表する」
一家の破産を救うため、父の言うなりで婚約したエヴァは、今夜、豪華な婚約披露宴の主役を務めながらも心は塞いでいた。宴もたけなわの頃、突如夜空から1機のヘリが降り立った。ザッケオ・ジョルダーノ!エヴァは思わず目を疑った。元婚約者の彼はある事件を起こして、投獄されたはず。どよめく招待客を前に、ザッケオは顔色一つ変えず言い放った。「僕は君の父親に嵌められて投獄された。今度は君に父親の罪を償うため、僕の妻になってもらう」言葉を失ったエヴァを抱き抱え、ザッケオは会場から飛び去った。
5カ月前に父が亡くなり、天涯孤独の身となったクレアは、知人を頼って湖水地方に移り住み、何とか乗馬学校に職を得た。ところが、生徒の伯父と揉めて、解雇の憂き目を見る。相手が悪かった。大地主で地元の誰もが敬う支配者サイモン。クレアは横暴なサイモンを恨んだものの、意外にも彼は解雇させるつもりなどなかったと詫びる。「無職なら、僕が面倒を見ている姪の養育係になってほしい」クレアは喜んで、さっそく住み込みで働き始めたが、彼のあまりの過干渉と姪への無理解に、怒りを抑えきれず…。
リリーの家の玄関先に生後まもない赤ん坊が置き去りにされた。今は疎遠で居場所もわからない異父姉が産んだ子とわかったものの、あまりに突然のことに、リリーは呆然と立ち尽くした。改装中のこの家では、まともに育児なんてできないのに!すると偶然にもそこへ親友の兄ニックが訪ねてきて、彼女の窮状を見かねて一緒に赤ん坊を病院へ連れていってくれた。それがきっかけとなり、親友が思いがけない解決策を提案するー兄は大企業の重役で不在がちだから、彼の家で育児をすればいい、と。そんな成り行きで始まった二人と赤ん坊の同居生活だったが、なぜかニックがよそよそしくて冷たい態度をとりはじめ…。
若くして重い病に冒されたゾーイにとって、治療費を出してくれた基金の創設者ヴァッソは命の恩人だった。火事で両親を失い、退院後の行く当てがない彼女のもとに、ギリシアで働かないかとヴァッソから誘いがかかる。有能な実業家で、思いやり深いうえにハンサムな彼に、ゾーイは胸の高鳴りをおぼえずにいられなかった。でも、いつ病が再発するかわからない私が、同じ病で父親を亡くした彼を愛していいはずがない。厳しい現実に打ちのめされ、ゾーイは身を引く決心をするが…。
父の死後、横暴な兄との暮らしが始まって2年。ペニーは遺産を横取りされ、唯一の楽しみである読書も禁じられていた。兄から離れるには、誰かと結婚するしかないのかしら?お金などなくて構わない。田舎に住んで本さえ読めるなら…。頼るあてもないまま、思いあまって家を出たペニーだったが、旅の途中、彼女が乗る馬車の前にふらりと黒い影が現れた。危うく轢きそうになったその美しい男性アダムは酒に酔っており、彼を助けたペニーを天使と呼び、上機嫌にふるまっている。そればかりか、彼女が思いきって結婚を持ちかけると快諾し、許可証に驚くべき署名を書き記したー“ベルストン公爵”と。
わたしが養女だったなんて…。クリスティーナは打ちのめされた。イタリア貴族の血を引く彼女は、生後まもなく母を亡くし、祖母の計らいによって、ある条件付きで叔母夫妻に託されたのだという。それは“マルケージ伯爵の花嫁になること”先日、湖で出会った傲慢な紳士ー初対面の私に無遠慮な視線を浴びせ、生意気な娘だと侮辱してきた。彼こそがマルケージ伯爵だったのだ。嫌いな相手なら結婚は無理強いしないと養父母は優しく言った。でも、これまで何不自由なく暮らせたのは、祖母からの養育費のおかげ。受け取った額はあまりにも莫大で、養父母に返済は不可能だろう。わたしはこの運命を受け入れるしかないの?
イメージコンサルタントのセラフィアは、華やかなパーティ会場で、皇太子ガブリエルと面会した。一般人との結婚を決めた兄に代わり王位継承者となったのは、悪名高きプレイボーイの弟、ガブリエル。その彼を戴冠式までに“理想のプリンス”に変身させることーそれがセラフィアへの依頼だった。優雅な身ごなしで近づいてくる黒いスーツ姿のガブリエルは、野生の獣さながらの危険な美しさを放っている。ガブリエルの熱い視線が肌を這うのを感じて、頬を染めたセラフィアを彼は不敵な笑みを浮かべ挑発してきて…?
姉が遺した生後4カ月の赤ん坊を育てているミアは、ある日、世界的な建築家で大富豪のアダム・チェイスの屋敷を訪ねた。一夜の過ちで彼の子を妊娠した姉が、人知れず赤ん坊を産んだあと命を落としたことを告げるために。だが、アダムはなぜか海辺の豪邸で世捨て人同然の生活を送り、話す機会すらない。海で泳ぐのが日課らしいという情報を頼りに、ミアは浜辺で出会いの機会を待つことにした。やがて現れた神々しいほど美しい男性ーアダムに近寄ったとき、ミアは割れた瓶のかけらで足を切り、優しく介抱してもらった。思いがけずデートに誘われ、ミアは真実を口にできなくなり…。
ビアンカのそばにはいつもアダムがいた。2人は幼稚園からの幼なじみで、大人になった今も、ビアンカが何か困ったことに巻き込まれるたび、アダムは的確な助言をくれたり、泣く肩を貸してくれたりする。あるとき、ビアンカはまたしても困った事態を招いてしまう。故郷の母親を喜ばせようと、つい結婚したと嘘をついてしまったのだ。母が訪ねてくる間だけ、アダムに夫のふりをしてもらおうー。ところが、いつも優しいアダムが初めて彼女の頼みをはねつけた。そして、見たこともない冷たい男の顔をして言ったのだ。「夫のふりをするのなら、本物らしく、毎晩同じベッドに寝る」
26歳のエミイは、伯父の旅行会社でバスガイドをしている。若くして愛する人を次々に亡くしてきた彼女は、一生、恋愛も結婚もしないと固く誓っていた。そんなある夜、エミイは伯父の家でルーク・タナーを紹介される。10歳以上も年上の彼は、ハンサムな敏腕実業家で、高級ホテルチェーンを所有する、経済界の大物とのことだった。伯父の顔を潰すまいと、エミイは笑顔を絶やさなかったが、心の内では、どうか早くパーティが終わってほしいと思っていた。彼女は知る由もなかった。ルークの心がとうに決まっていたことを。翌日から始まる怒涛の誘惑からは、もはや逃げるすべはないことを。