2017年3月発売
田中幸乃、30歳。元恋人の家に放火して妻と1歳の双子を殺めた罪で、彼女は死刑を宣告された。凶行の背景に何があったのか。産科医、義姉、中学時代の親友、元恋人の友人、刑務官ら彼女の人生に関わった人々の追想から浮かび上がる世論の虚妄、そしてあまりにも哀しい真実。幼なじみの弁護士たちが再審を求めて奔走するが、彼女は…筆舌に尽くせぬ孤独を描き抜いた慟哭の長篇ミステリー。日本推理作家協会賞受賞。
著者・長江俊和が手にしたのは、いわくつきの原稿だった。題名は「カミュの刺客」、執筆者はライターの若橋呉成。内容は、有名なドキュメンタリー作家と心中し、生き残った新藤七緒への独占インタビューだった。死の匂いが立ちこめる山荘、心中のすべてを記録したビデオ。不倫の果ての悲劇なのか。なぜ女だけが生還したのか。息を呑む展開、恐るべきどんでん返し。異形の傑作ミステリー。
徘徊癖をもつ90歳の曾祖母が、故郷熊本で足下を指しヤマグチとつぶやく。ボケてるんだろうか。いや、彼女は目指す場所を知っているはずだ!認知症老人の徘徊をエスコートする奇妙なタクシー会社を立ち上げた恭平と老人たちの、時空を超えたドライブを描く痛快表題作と、熊本震災に翻弄された家族の再生を探る「避難所」など、三編を収める新編集小説集。巻末に養老孟司との特別対談を収録。
穏やかな研究者の夫。素直に育った息子。幸せな家庭に恵まれた神村奈々の真の姿は対象人物の「国外処理」を行う秘密機関の工作員だ。ある日、夫が身元不明の女と怪死を遂げた。運命の歯車は軋みを立て廻り始める。次々と立ちはだかる謎。牙を剥く襲撃者たち。硝煙と血飛沫を浴び、美しき暗殺者はひとり煉獄を歩む。愛とは何かー真実は何処に?アクション・ハードボイルドの最高傑作。
江戸から京都西町奉行所に赴任した長谷川平蔵。京の町では、麝香を焚いて家人を眠らせて盗みを働き、その場に花札を残していく謎の盗賊「八坂天狗」が跳梁していた…。表題作のほか、平蔵の息子で、若き日の“鬼平”、銕三郎が活躍する「伏見の白狐」、親子の情愛を描いた「十三参り」の二編を収録。初午、清水詣など四季折々の京の風物を背景に、初代長谷川平蔵の活躍を描く好評シリーズ。
美容に狂う前妻と彼女を奪っていった男、なぜ二人は俺に会いに来るのか?なぜこんなに友人の母親が気になるのか?隣室で虚ろで奇妙な音を出し続けるのは何者か?どうしてあんなに不出来な部下に惹かれるのか?なぜ暗闇で出会って顔も見えない彼女がこんなにも愛おしいのか?なぜ、なぜ…。愛とも恋とも言えない、不思議な感情ー。心理描写の洗練を極めた珠玉の短編九編を収録。
白血病が再発し、骨髄移植でしか助かる見込みがない少女・羽村里奈。だが、複数回に及ぶ化学療法を経ても病気が完治しなかったことで医療不信に陥った彼女の母親は、移植を拒否し、左手に聖痕を持つ預言者の言葉に縋るようになってしまう…。少女を救えるのは、医療か、奇蹟か。神秘的な現象を引き起こす“病気”の正体とは。天医会総合病院の天才女医・天久鷹央が奇蹟の解明に挑む。
無敗の王者・明浜撲克倶楽部を倒すべく、学校一の嫌われ者から犯罪者まで、クセ者揃いのポーカーチームが結成された。約2か月後という超短期決戦に向け、浦原甚助らメンバーは、女王・江頭妙子に絶対服従の地獄の夏合宿に突入する。飛び交う情報、戦術論、汗、ぶどう糖…すべては王の首を獲るために。頭脳スポーツ青春小説、白熱の大会編!
裕福な商人の末娘ベルは、とびきりの美貌と優しい心根の持ち主。ある日、父親が見るも恐ろしい野獣に捕えられると、彼女は身代わりを買って出た。ベルに恋をした野獣は、正直さに心を打たれて彼女を家族の許に返すが、喪失の悲しみに身を焦がし、命を捨てようとする。その姿を目の当たりにしたベルはある決意をするー。人生の真実を優しく伝え、時代と国を超えて愛され続ける物語13篇。
1910年、麻布天文台。ハレー彗星が地球へ回帰したその年、僕はかけがえのない女性に出会った。そして交わした、ふたりだけのかたい約束。それを解くのは、76年後の秘密の言葉。「星が綺麗ですね」ひとりの青年の恋と成長が、ハレー彗星の回帰とシンクロしていく、ちょっと不思議な物語。
豊臣家の安寧のため、己の胸に秘めたる想いのためー。秀吉から“絶大な信頼”を寄せられ、若年より豊臣政権で辣腕をふるった石田三成。大恩ある秀吉の死後、あらゆる権謀術数を尽くして天下を奪わんとする家康の野望を打ち砕けるのは、もはやこの男しかいなかった。天下分け目の決戦をしかけ、西軍を率いて運命の関ヶ原へと突き進んだ義将の魅力とその生涯を描いた“決定版的”長編小説。
幽霊潜水艦を巡る攻防の後、独立に揺れる沖縄州で、宗像逍は亡友・磯良幸彦と縁のある人権擁護団体「シギラ」メンバーの風子を訪ねる。しかし前園隆司と名乗る男が率いる謎の武装集団に、彼女はさらわれてしまう。前園は、宗像が属するシー・ノマッド(海洋漂泊民)集団「オボツカグラ」上層部のブレーン的存在であった。本当に前園は味方なのか?疑心を抱きつつも、那覇で敵対するシー・ノマッド集団「ティアマット」の刺客に襲われた宗像は、前園を頼りグアムへ脱出する。そこでも執拗に命を狙われるが、安曇レイラの助力も得て危機を逃れた宗像は、“タンガロア”が造られた真の目的を前園から聞かされる。それは、アレソップの向こう側=カチャウ・ペイディの真実だけでなく、宗像がこの世に生まれた意義をも問うものだった。世界最深部に潜り、この宇宙の境界をも越えようとする宗像…その行動を阻止すべく、ティアマットがハワイ島沖に立ちふさがる。そして宗像を支えるオボツカグラは、宿敵との決戦に挑む。二つの世界が迎えるのは支配か、融合か。人類は、深い海の底で未来に直面する!!
1939年ナチス政権下のドイツ、ハンブルク。軍需会社経営者である父を持つ15歳の少年エディは享楽的な毎日を送っていた。戦争に行く気はないし、兵役を逃れる手段もある。ブルジョワと呼ばれるエディと仲間たちが夢中なのは、“スウィング(ジャズ)”だ。敵性音楽だが、なじみのカフェに行けば、お望みの音に浸ることができる。ここでは歌い踊り、全身が痺れるような音と、天才的な即興に驚嘆することがすべて。ゲシュタポの手入れからの脱走もお手のものだ。だが、そんな永遠に思える日々にも戦争が不穏な影を色濃く落としはじめた…。一人の少年の目を通し、戦争の狂気と滑稽さ、人間の本質を容赦なく抉り出す。権力と暴力に蹂躙されながらも、“未来”を掴みとろうと闘う人々の姿を、全編にちりばめられたジャズのナンバーとともに描きあげる、魂を震わせる物語。
「たとえ最後の一兵となっても、われらは義弘様を薩摩へ連れ帰ります。義弘様あっての島津家です。ここで殿を殺させるようなことがあれば島津は滅んでしまいます…」群雄ひしめく九州統一戦線(伊東家、大友家、龍造寺家との戦い)から、秀吉への抗戦、文禄・慶長の役、運命の関ヶ原敵中突破。戦国で無類の強さを示し、家臣に心底慕われていた戦国最強の男の激戦譜を描く。
“氷の星”が眠る地を探して、アイルランドへと辿りついた星の守り人たち。かつての故郷に足を踏み入れたドイルは、愛する者を失った痛ましい過去に向き合いながらも、人狼ライリーへの欲望とも愛ともつかぬ感情に頭を悩ませていた。やがて、幸運の星が誕生した伝説の“ガラス島”を目指す一行は、自分たちが守護者として選ばれた本当の理由に気付かされることになる。彼らは闇の女王ネレイザを倒し、運命を変えることができるのか?愛と魔法に彩られた究極のラブファンタジー最終章!
式部とわたしは、もしかしたら、前世からの縁で結ばれているのかもしれないー。童女御覧の日、怯えた自分を御簾の間から抱きとめてくれた女性、それが和泉式部だったー。式部の養父母である大江匡衡と赤染衛門の娘・江侍従は式部に魅せられ、「和泉式部物語」からあえて省かれてしまった真実を探ろうと奔走する。そして辿りついた、恐ろしくも哀しい結末とは…。
心の詩人・金子みすゞ、知られざる光と影、自殺の謎とは?実弟・上山雅輔(昭和の喜劇王・古川ロッパの脚本家)の膨大な日記を読み解き、みすゞの童謡と生涯、二人の青春と愛憎、別れを、弟の目を通して描く、画期的伝記小説!
日中戦争のさなか、上海の工部局に勤める日本人警官・芹沢は、陸軍参謀本部の嘉山と青幇の頭目・蕭炎彬との面会を仲介したことから、警察を追われることとなり、苦難に満ちた潜伏生活を余儀なくされる…。祖国に捨てられ、自らの名前を捨てた男に生き延びる術は残されているのか。
心形刀流宗家に生まれ、「小天狗」と呼ばれた伊庭八郎。遊撃隊の一員として鳥羽・伏見の戦いに参加するが、近代兵器を駆使する新政府軍を前に唇を噛む。箱根山崎の戦いで左腕を失いながらも、八郎は盟友土方歳三の待つ北へと向かう。幕末から維新、激動の時代に最後まで幕臣として生きることを望み、蝦夷箱館の地に散った若き剣士の苛烈な生涯を鮮やかな筆致で描く。