2017年4月発売
目が覚めたら、ヘンリエッタは壮麗な屋敷の寝室で横たわっていた。下着姿に、髪は乱れ、あげくに泥のにおいを漂わせている。ふと気づくと、ベッドカーテンの陰に男性が立っていて、そのたぐいまれな美しさを見て、彼女は我が身を恥じた。「ここはどこ?」相手の答えに、ヘンリエッタはうろたえた。そこは彼女が家庭教師として仕える家に隣接する伯爵領だったのだ。つまり彼は、不道徳な噂が絶えない放蕩伯爵レイフ・セント・アルバン。側溝に倒れて気を失っていた彼女を拾って、ここまで運んだという。いったい私の身に何が?このはしたない格好は、まさか伯爵様と…?かたや彼女の疑念を見透かしたレイフは、頭の中で毒づいた。世慣れたこの僕だ、こんな無垢な村娘になど用はない!
さる一族の領主ギルクライストは、どしゃ降りのなか、ハイランドの泉で倒れていたはかなげな乙女を助けた。名や出自を尋ねても、彼女は思い出すのはおろか口もきけなかった。“処女の泉”と呼ばれるこの地には癒やしの力があるとされ、手負いの者や、純潔を取り戻したい訳ありの女が訪れると言われている。この天使を絵に描いたような娘が、まさか清純ではないと…?彼女の指輪から名はレイチェルとわかったものの、それ以外は不詳で、ギルクライストはとんだ厄介を背負い込んだものだと自戒した。一族の長として一刻も早く花嫁を迎えなくてはならない身で、どこの馬の骨とも知れぬ娘の純真無垢な姿から目が離せなくなるとは。
高級スーツに身を包んだハンサムな新しいCEO、ゼブを見た瞬間、ケーシーは思わず息をのんだ。広い肩、堂々とした物腰、莫大な富と権力の持ち主とすぐわかる強烈なオーラ。まるで魔法にかかったように、たちまち彼女はゼブの虜になった。そして、デートのあとアパートまで送ってくれた彼に身も心も捧げた。ロマンティックにはほど遠かったけれど、今まで経験したこともない絶頂感に満ち足りて。ところが数週間後、予想外の妊娠に気づき彼のもとを訪ねると、ゼブの冷ややかなグリーンの瞳に一瞥されてしまい…。
リリは怒りの炎に身を焦がしていた。勤務先の会社を買収した大富豪アントニオが会議を招集したのだ。地道な研究よりも金儲けを優先する敏腕実業家の彼は、きっと私たちを利益追求のためだけに働かせる魂胆だわ!しかし、現れたアントニオは目も眩むような美貌に謎めいた笑みを浮かべ、集まった人々の心をまたたくまに掌握してしまった。神々しいまでに華麗な彼に強烈に引きつけられるのを感じながらも、リリは反論したあとその場を飛び出す。追いかけてきた彼は言った。「きみはいまから経営者の一員だから、絶対に辞めることはできない」なんて冷酷なの。だが、言いしれぬ情熱に全身は燃え上がりそうで…。
何もかも犠牲にして仕事をしてきたというのに、いったいどうすればいいのかしら?人生の岐路に立たされたアンは一度気持ちをリセットしたくて、双子の妹が嫁いだヨーロッパの王国へ飛んだ。愛する夫と幸せな結婚生活を送る妹のそばでアンはつかの間、安らいだ心と生活をとりもどした。そんなとき妹の夫が、会社に引き抜きたいという人物を伴って帰宅する。まさか…ライリー?以前、心奪われて怖くなり誘いを拒んだ、悪名高きプレイボーイ富豪だ。彼は銀色の瞳を光らせると、交換条件にアンとの結婚を要求してきた!
ジアンナは電話に出るなり、相手が誰かすぐに気づいて青ざめた。-3年前から別居しているスペイン人大富豪の夫、ラウル。離婚の手続きを進めようという話だと思っていたが、驚いたことに、彼はジアンナに戻ってくるようにというのだ。末期癌を宣告されたラウルの母が、ジアンナに会いたがっていると。もう二度とあの家には戻らないと決めたのに…。初めて会ったとき、ラウルは情熱的で優しい完璧な恋人だった。だが、ジアンナの予期せぬ妊娠を機になぜかよそよそしくなり、結婚後、不幸にも流産した彼女に冷たく背を向けたのだ。いまだ燻る夫への想いを隠して、“名ばかりの妻”は旅立った。
親戚の結婚式で億万長者ローマン・ペトレッリを紹介されたとき、イジーは思わず我が目を疑った。2年前、母の突然の死にショックを受けたイジーは、ふらりと入ったバーで客に絡まれて困っていた。そのとき助けてくれた男性、それがまさしくローマンだった。イジーは悲しみから救われたい一心で、その夜、彼に純潔を捧げたのだった。だが翌朝、ローマンの姿はなく、二度と会えないと諦めていた。イジーは胸に抱いた小さな娘を彼から遠ざけて、密かに誓った。ローマンに知られたらきっと奪われてしまう。この子は私が守るわ。
レストランを手伝うダーシーは、グラスを割って指にけがをする。居合わせた会社経営者のローガンに優しく気遣われ、無我夢中で彼の上等なシャツにすがって泣きだした。母親を亡くしたばかりなのに、父親の再婚話が持ち上がり、仕事中にもかかわらず取り乱してしまったのだ。悩んだ末、ダーシーは後日、新しいシャツを彼に送り届けた。すると血相を変えたローガンが店に現れ、若い娘が見知らぬ男に高価なシャツを贈るものではないと叱り飛ばした。ダーシーはなぜ怒られるのかもわからず、唇をわななかせた。
ロサンゼルスで成功を収めたマギーだったが、何かを逃れるように田舎の家へ移り住んだ。そこで知り合った、逞しい隣人クリフに守られるようにして、慰められる日々が過ぎた。だが、彼女は失った家族のことを忘れられず、そのせいで臆病になり、彼の愛情を受け入れられずにいた。ある日、荒れ果てた庭から白骨死体が掘り起こされる。クリフの亡き母親が、遺体の男と関係があったと知って、マギーの心にじわりとクリフへの不信感が芽生え…。
訪れた城で、リーはショーヴィニー伯爵ことジルと再会する。6年前の夏、16歳のリーは端麗な美貌のジルに幼すぎる恋をした。だが純粋な想いは、いつでもちょっとしたことで汚される。ふたりに嫉妬した友人が、リーの字体をまねて、潔癖なジルにいかがわしいラブレターを出したのだー。今だにリーが書いたと信じる伯爵は、蔑みの色を浮かべ、脅した。君は僕と結婚するんだ。さもないとあのコピーをばらまくと。さらに、これは愛ではない、単なる欲望だともつきつけられて、古傷をかきむしられたリーの心は、声にならない悲鳴を発した。
チューリップの庭園と、息をのむような図書室を備える古城・ベルジュ城。利き蜜師・仙道と弟子のまゆは、利き蜜師協会からの、ある命を受け城を訪れた。敷地に入った瞬間、仙道はそこに働く特殊な力を感じる。仙道たちを迎えた城主シェーラは若く美麗な女主人だったが、その気配はあまりに弱々しい。やがて仙道とまゆはこの城で、利き蜜師の真実を知ることになり…。迫力のスケールで描かれる利き蜜師の物語第二話。