2019年発売
私は時間を味方につけなくてはならない──妻と別離して彷徨い、海をのぞむ小田原の小暗い森の山荘で、深い孤独の中に暮らす三十六歳の肖像画家。やがて屋根裏のみみずくと夜中に鳴る鈴に導かれ、謎めいた出来事が次々と起こり始める。緑濃い谷の向こう側からあらわれる不思議な白髪の隣人、雑木林の祠と石室、古いレコード、そして「騎士団長」……。物語が豊かに連環する村上文学の結晶!
「わかりきったことじゃないかね」と誰かが言った。ある夜、主人公の前に顕れたのは「イデア」だった。イデア!? 山荘のスタジオで一度は捨てたはずの肖像画制作に没頭する「私」の時間はねじれ、旋回し、反転する。不思議の国のアリス、上田秋成「春雨物語」、闇の奥でうごめく歴史の記憶、キャンバスの前に佇む美しい少女── 多彩な人物と暗喩が織りなす物語は、さらに深く、魂の森の奥へ。
信長、秀吉、家康から弓の名人と認められた実在の老将大島光義。鉄砲より優れた連射技と一射必殺の狙撃の凄腕で名を上げ、八十四歳の時、八坂の五重の塔の最上階天井に十本の矢を射込んでみせた。九十三歳で関ヶ原に参陣、生涯現役を貫いた剛直無双の士だったが、激動の時代に大島家を守り抜いた臨機応変の人でもあった。史書に「百発百中」と記され、九十七歳で没した傑物を描く力作歴史小説。
上原頼音、22歳。職業、今日から警察官。はじめての24時間交番勤務。立番・巡回連絡・職務質問・無線の使い方・出前の取り方……「バカヤロウ」と何度も怒鳴られながら、組織で働く社会人としての、そして地域を守る警察官としての心構えをたたき込まれる。そんな新米巡査の日常の中に、少女連続行方不明事件の手がかりが潜んでいた。圧倒的な熱量とリアリティで描き出す“警察お仕事小説”。
内田希 、22歳、女警。飛び抜けて優秀な彼女には秘密がある──。少女連続行方不明事件の目撃情報と、警察署内の「開かずの間」の噂。わずかな手がかりから事件の真相に迫る二人の新任巡査の背後に襲いかかる凶刃、そして命の危機……。巧緻に張り巡らされた伏線の先に浮かび上がる驚愕の真犯人とは。警察組織の内情を知悉する元警察キャリアの著者にしか書き得ない究極の警察ミステリー。
幼い恋心で男との約束を交わしたおせんは、過酷な運命に翻弄される。おせんを愛する幸太は、命をかけて彼女を守り抜く(『柳橋物語』)。周囲の愛情に包まれ何不足なく育ったまきに降りかかった夫の裏切り。密かに慕う直吉は愚直なまでにまきに尽くすが(『むかしも今も』)。一途な愛の行方を描く、下町人情溢れる感動の傑作二編。
香川県琴平町にある日本最古の芝居小屋、金丸座。そこで毎年開かれる「こんぴら歌舞伎」に出演する人気役者・松川市之介に執拗に脅迫状が送られる。後援者のゲーム会社社長尾形が脅迫状の送り主と思われたが、その尾形が青山の自宅マンションで刺殺死体で見つかった。そして脅迫状の予告通り、琴電琴平線の車内で殺人事件が発生する。因襲と確執が渦巻く歌舞伎界の謎に、十津川警部が挑む!
「死にたいん──です」「なら死ねよ」。娘を亡くし、妻だった人に去られ、十五年勤めた会社を解雇された。全てを失い彷徨していた尾田慎吾は、雨の夜、自殺を図る見知らぬ女にそう告げた。同日、旧友荻野と再会する。彼は、情、欲望、執着を持たぬ慎吾を見込んで、宗教を仕事にしないかと持ちかける。謎めいた荒れ寺に集いし破綻者たち。仏も神も人間ではない。超・宗教エンタテインメント。
あの大地震から二年。熊本で、死者が次々生き返る“黄泉がえり”現象が再び発生した。亡くなった家族や恋人が帰還し、驚きつつ歓迎する人々。だが、彼らは何のために戻ってきたのだろう。元・記者の川田平太は、前回黄泉がえった男とその妻の間に生まれた、女子高生のいずみがその鍵を握ると知るのだが。大切な人を想う気持ちが起こした奇跡は、予想を遙かに超えたクライマックスへー。
この一冊で、あなたが笑顔になったら嬉しい。鈴川有季は、職場体験に図書館を選んだ。一緒に実習する森田麻友は、隣のクラスだが記憶にない。まして繊細で無口な女の子と話すきっかけなど考えつくはずもなかった。ところが、時代小説『さぶ』が二人の距離を近づけることに……。一方、年の離れた「友だち」である七曲老人が引き籠もりになってしまう。彼の心の扉を開くため、有季はある本を届けるが─人と本を繋ぐ物語。
銀座の街に溢れる「不思議」を集めるのが、この探偵社の仕事である。踊り狂う亡霊が出る、鬼が迷子になっているなど、不可解な出来事は後を絶たない。不思議は、宿っていた存在から離れると橙色のともしびとなり、探偵たちのランプに収まる習性を持つ。事務所に持ち帰られた灯の行く先は、所長だけが知っているー世に蔓延る謎に迫る探偵たちの活躍を描く、大正浪漫ミステリー!
16歳のぼくを置いて母は逝った。宮沢賢治研究に生涯を捧げた母は、否定されている『銀河鉄道の夜』の第四次改稿版の存在を主張していた。花巻へ散骨に訪れたぼくは、気がつくと、昭和8年、賢治が亡くなる2日前にいた。辿り着いた賢治の家でぼくを迎えたのは、早逝したはずの妹トシと、彼女の娘「さそり」だった。永遠に改稿され続ける小説、花巻を闊歩する賢治作品の登場人物たちーー『銀河鉄道の夜』をモチーフに時間と物語の枠を超える、傑作長編SF!
40歳で異世界転生した俺は、「賢者」の力を手に入れる。おまけに生まれた家は大貴族で、悠々自適の毎日。ところが、家を支えてきた綿花栽培が“害虫”のせいで壊滅! でも俺は負けない。家は没落したって、俺には賢者の力があるんだからっ!! 異世界? 賢者? 世界を救うとかどうでもいい。そんなコトより害虫駆除だぁぁぁぁ!!! エロくて面白くて、少しだけためになる(?)害虫駆除ファンタジー開幕!
過労死してしまった有機化学者の青年が気がつくと、赤ん坊・アインに生まれ変わっていた。そこは魔術が存在する異世界。双子の弟・カイルとともに、前世の記憶を魔術に活かして少しずつ周りに影響を与えていくアイン。いつしかそこには仲間で集い、それは世界を変革するほどの力になっていく。「小説家になろう」発、化学の知識とやさしさで異世界に変革を起こすヒューマンファンタジー!!
異世界からやって来たお隣さんたちと年末を過ごした虎太朗は、年が明けてからも飲み会三昧。初詣に花見、温泉旅行、果ては不死者の国まで出向いて飲みまくる!酔うとエロくなる新メンバーの加入に加えて虎太朗の元彼女も出現。“一触即発”の宴会は、楽しくなるばかり!シャルル視点の書き下ろし短編を収録!
ハーレプストによる恩試を達成し、スキャパフロー王国を後にした元・アラフォー社畜の松田。宝石級探究者のノーラとともに、彼女の故郷である湖に沈んだ古代の遺跡パズルを目指すことになる。一方、ついに年貢を納める気になったハーレプストは押しかけ婚約者ノラクシュミーにプロポーズを試みるが、そこに横恋慕するマザコン公子マルグが現れてーー!? 渡る異世界はブラック権力者ばかりの、いろんな意味で泣ける大人気人生やり直しファンタジー!
古代から近代まで、日本人は、つねに漢詩や漢文とともにあった。 本書は、最新の知見を踏まえた分析や、様々な言語圏及び国・地域における論考を集め、日本漢文学についての新たな通史的ヴィジョンを提示する。 研究史を概括しつつ、とくに政治や学問、和歌など他ジャンルの文芸などとの関係を明らかにしながら、文化装置としての日本漢詩文の姿をダイナミックに描き出す。 1 古代・中世漢文学研究の射程 平安朝漢文学の基層ー大学寮紀伝道と漢詩人たち 滝川幸司 長安の月、洛陽の花ー日本古典詩歌の題材となった中国の景観 高兵兵 後宇多院の上丁御会をめぐって 仁木夏実 誰のための「五山文学」かー受容者の視点から見た五山禅林文壇の発信力 中本大 2 江戸漢詩における「唐」と「宋」 語法から見る近世詩人たちの個性ー“エクソフォニー”としての漢詩という視点から 福島理子 室鳩巣の和陶詩ー模倣的作詩における宋詩の影響 山本嘉孝 竹枝詞の変容ー詩風変遷と日本化 新稲法子 近世後期の詩人における中唐・晩唐 鷲原知良 3 東アジア漢文交流の現実 通信使使行中の詩文唱和における朝鮮側の立場ー申維翰の自作の再利用をめぐって 康盛国 蘇州における吉嗣拝山 長尾直茂 4 漢詩・和歌が統べる幕末・維新期の社会 幕末志士はなぜ和歌を詠んだのかー漢詩文化の中の和歌 青山英正 漢詩と和歌による挨拶ー森春濤と国島清 日野俊彦 西郷隆盛の漢詩と明治初期の詞華集 合山林太郎 5 近代社会の礎としての漢学ー教育との関わりから 明治日本における学術・教学の形成と漢学 町泉寿郎 懐徳堂と近現代日本の社会 湯浅邦弘 6 新たな波ー世界の漢文学研究と日本漢詩文 英語圏における日本漢文学研究の現状と展望 マシュー・フレーリ 朝鮮後期の漢文学における公安派受容の様相 姜明官(康盛国訳) 越境して伝播し、同文の思想のもと混淆し、一つの民族を想像するー台湾における頼山陽の受容史(一八九五〜一九四五) 黄美娥(森岡ゆかり・合山林太郎訳)
「私の絵本に、絵を描いてくれない?」--人付き合いも苦手、サッカー部では万年補欠。そんな立樹の冴えない日々は、転校生・華乃からの提案で一変する。華乃が文章を書いて、立樹が絵を描く。突然始まった共同作業。次第に立樹は、忘れていたなにかを取り戻すような不思議な感覚を覚え始める。そこには、ふたりをつなぐ、驚きの秘密が隠されていて……。大切な人のために、懸命に生きる立樹と華乃。そしてラスト、ふたりに訪れる奇跡は、一生忘れられない!