2020年4月発売
「デューク!待て!」ソフィーは逃げ出した犬に鋭く命じた。すると歩道を歩いていた男性が突然立ち止まり、大おばの愛犬デュークは磨き上げられたブーツに激突した。「止めてくださって助かりました。この子が行方不明になったら、大おば様のお世話係を首になり、田舎に送り返されるところでしたわ」彫像のように美しくたくましい男性と言葉を交わすうち、彼の物憂げで苛立たしげな様子に気づいたソフィーは頬を赤らめ、しゃべりすぎたことを悔やみながら逃げるように立ち去った。このハンサムで陰のある紳士がデュークー公爵の称号を持つ大貴族で、ほどなく彼と愛なき婚約をすることになるとは夢にも思わずに。
物心つく頃に母はなく、ずっと寄宿学校で暮らしてきた19歳のアン。もうここを出ていくべき年齢だが、父もこの世を去り、行く当てがない。なにせこれまでも、着る物にも困って施しを受けていたほどなのだ。教師として母校に残るのが自分の生きる道だと思い始めたある日、イアン・シンクレアと名乗る、上質のコートに身を包んだ貴族が現れた。美貌の彼は、アンの父の遺言で彼女の後見人に指名されたのだという。まあ、こんなすてきな方が、私を迎えに来てくれたなんて!アンの胸に、人生で初めて、淡い恋心が芽生えた。だがイアンは彼女を社交界デビューさせ、ふさわしい花婿を探す役回りだ。しかも、アンはまだ知らなかったー彼が明日をも知れぬ命ということを。
大富豪マークと結婚したバネッサは、義母の心ない仕打ちに耐えきれず家を出た直後、思いがけない妊娠に気づく。だが、電話をかけても夫が出ることはなかった。“二度と話したくない”-それが夫からの伝言だった。バネッサは絶望し、逃げるように田舎町へ移り住んだ。1年後、赤ん坊と二人でひっそりと暮らす彼女の小さな店先に黒いメルセデスが停まった。現れたのは…夫のマーク!どうしよう。息子の存在を知られたら、きっと取り上げられてしまう。慌てて赤ん坊を隠そうとした彼女を、夫の怒りに燃える瞳がとらえた。「いったい、どういうことなんだ?」
オーストラリアの貧しい農家で育ったクレオは、恋人だと信じた男にだまされてしまい、お金を取られたあげく、旅先のロンドンで置き去りにされた。ホテルの住み込み清掃係の仕事を見つけて働き始めたが、ほんの数週間で、その仕事も失うことになる。ホテルがギリシアの大富豪アンドレアス・ヘニデスに買収され、そうとは知らず不法に雇われていたクレオはくびになったのだ。今度こそ本当に路頭に迷ってしまうー懸命に懇願する彼女をしばらくじっと見つめていたアンドレアスは、意外な提案をする。「きみ…1カ月だけ僕の愛人にならないか?100万ドルで」
ガブリエラは義理の兄ルーファスにひと目で強く惹かれたー資産家であるルーファスの父と、母が再婚したその日から。だがガブリエラの母親を欲得ずくと信じるルーファスは、娘も同じだと決めつけ、金目当ての誘惑は無駄だと冷たく言い放った。ひどく傷ついたガブリエラは彼を忘れようと努め、避け続けてきた。6年後、ルーファスの父が亡くなり、意外な遺言が明らかになる。継父は遺産相続と引き換えに、二人に半年間の結婚を命じていた。従わなければ事業も財産もすべてルーファスの従弟のものになる、と。事業を従弟に渡したくないルーファスは、ガブリエラに結婚を迫る。愛する人に憎まれたまま妻になるなんて…でも、私には拒めない。
前途有望な兄ラシェルの突然の自殺に見舞われた弟のマルリクは、遺品として兄の日記を手渡される。日記をめくるごとに明らかになっていく兄の心境と自殺の動機、そしてナチスに加担した過去をもつ父親の存在…。人がもつ孤独の闇と、それでもなお人を信頼する希望の光を、シラー兄弟の日記を通して重層的に物語る傑作長編。
「君は真っ暗な海にともった光だ」イケメンで頭もよくて優しくて、優等生の蒼と友達になった高2の真緒。ある日、冷たく別人のような蒼に出逢う。それは蒼の中にいる別の人格「ホタル」だった。傍若無人で自分勝手なホタルに振り回されるが、「蒼」を守るために彼の本当の父親を一緒に探すことになる。ホタルと行動するうちに、怖いくらいに冷たい彼の秘密、そして苦しい本心に気づいた真緒。一方ホタルも、家族に傷つけられてもまっすぐな真緒に惹かれていく。ふたりの絆は深くなっていくけれど、とうとう「ホタル」の人格が統合されることに。それは「ホタル」との別れを意味していた…。この世界に傷つき、それでもひたむきに生きるふたりの希望の物語。
高2になった果歩は、クールでつかみどころのない早瀬と、図書委員をやることになった。実は、ふたりは同じ中学で、“付き合って”いた関係。でも、それはウワサだけ。ホントは、しゃべったことすらなくて…。図書室で、そんな早瀬とふたりきり。最初はぎこちなかったけれど、ふたりの距離は少しずつ縮まっていき…?じれったくて甘い放課後ラブに、胸キュンが止まらない!
家族の愛を知らぬまま死に、異世界に転生した少年ユーリ。両親の愛を一身に受けながら新たな人生を歩むユーリだったが、彼の住む国家群は“もう一つの人類”の侵略によって亡びの危機に瀕していた。槍を振るい鳥を駆る王国の剣ー騎士家。そんな騎士家の頭領だった叔父の戦死は、ユーリとその家族を戦乱の運命へと巻き込んでいき…!?「小説家になろう」で話題の超本格戦記譚、ついに開幕!
RPG系学園恋愛ゲームの悪役令嬢に転生した元日本人のクローディア。シナリオ通りなら待つのは破滅エンドだが、前世でやり込みゲーマーだったクローディアはステータスさえ上げれば破滅フラグを余裕で回避できると気づく。そこでステータスアップの裏技を使い、特殊スキルも獲得して8歳にして超絶チートスペックを手に入れた!「-ってことで宣言します!私、この世界で好き勝手に生きていきます!」そして迎えた魔法学院幼年部への入学。クローディアは規格外のステータスで密かに破滅フラグを叩き折ってゆくが、もふもふフェンリルと仲良くなってゲームを順調に攻略しているつもりの彼女は逆ハーレムルート突入に気づいていないようでー!?
男爵家の令嬢・チェルシーは、母・メディシーナや双子の妹・マーガレットに虐げられ、食事抜きやムチ打ちも当たり前の日々を過ごしていた。けれど、12歳の誕生日を迎えたある日、スキルを鑑定してもらったら、新種のスキル“種子生成”に目覚めていて!?新種のスキルを調査・研究するという名目で、鑑定士のグレンとともに王立研究所へ向かうことになったチェルシーだがーそこで待っていたのはお姫様みたいな生活!とても広いお部屋に専属のメイド、ふかふかのお布団で眠って、魔力を増やすためにおいしいご飯を食べて…。慣れない日々に戸惑いながらも、グレンやお世話係のトリスターノたちの協力を得て、果物や薬草、さらには精霊樹まで、チェルシーはさまざまな種を生み出していく。しかし、様変わりした生活を送るチェルシーを、今までいじめてきたマーガレットが黙って見ているはずもなくて…?
比叡山のふもとに建つ豪奢な比丘尼御所。二人の皇女を中心に公家文化が息づくこの寺に、それぞれの苦しみを抱えて逃げてくる者たちがいた。古い友人から借金をして逃げた老女。非の打ちどころのない縁談から逃げる若者。妻子を捨てて出奔した武士。幼子を寺の前に捨てる老夫婦。「僧尼とは古来、いたいたしい者を助け、手を差し伸べるが勤め」心があたたかくほどける連作短編集。
コゼットを思いながら、政府軍との死闘に身を投じるマリユス。バリケードには幼きガヴローシュの姿もあった。そこに吸い寄せられるように現れ再び相まみえることとなったジャン・ヴァルジャンとジャヴェールー。生けるもののごとき巨大なバリケードと下水道の果てにすべての惨めな者たち(ミゼラブル)の運命が交錯し、壮大な物語は完結する。
かつて帝国に滅ぼされた沙漠の都市国家アルハン。その元王子で、水を浄化する力を持つファルバーンは、大貴族“黒狼公”となった尚書卿ヤエトに正式に召し抱えてもらうため博沙国を訪れるが、そこにヤエトの姿はなかった。目的を失い無為の日々を過ごす中、博沙相からアルハンの水源調査を依頼されたファルバーンは、北嶺から借り受けた鳥に乗って、なぜかやって来た皇女、鳥の世話役アルサールらとともにアルハンの呪われし廃墟、地下迷宮に向かうがー!?表題作ほか、ヤエトの養子・キーナンの学園生活をコミカルに描く「ヘルムデル先生の帽子」、目覚めたヤエトのもとにオールキャラ勢揃いで押しかける後日談を同時収録!