2020年6月発売
二十年前、大リーグのニューヨーク・フリーバーズでプレーをしていた藤原雄大。五十二歳となった今は、マイナーリーグの巡回コーチをしている。ある日藤原は、現役時代のライバルで、大リーグ機構上級副社長であるヘルナンデスの訪問を受けた。東京オリンピックのアメリカ代表監督が亡くなったため、代わりに監督をやってくれないかと打診されたのだ。悩んだ末にその依頼を引き受けた藤原は、戦力補強のため、アメリカと日本の二重国籍を持つ大学生天才スラッガー、芦田をスカウトする。しかし、そこには二つの故郷の狭間で苦しむ若者の姿があったー。デビュー作『8年』実に19年ぶりの続編!
動くものと動かないもの。越えてはならない一線ー情熱的なアナベルと、聖女のように穏やかな妻。ワシントン近郊での二人の女性との関係を描く表題作ほか、至高の女性像に迫る短編2編。
大阪万博、三島由紀夫の自決、五つ子ちゃん誕生、ロッキード事件、グリコ・森永事件、密林に二十八年身を潜めていた元日本兵ー。もはや忘れ去られてしまった無数の「虚構ではない人生」を通じて、あの「蒙昧」の時代の生々しい空気が浮かびあがる。変幻自在の語りを駆使した芥川賞作家、会心の作。
殺されたサラリーマンが目覚めたら、なぜか資産家の傍若無人なお嬢様“如月琴音”に成り代わってしまっていたー!女としてもお嬢様としても経験値ゼロな元サラリーマンは、自分らしく彼女の人生を引き継ぐことを決意する。お嬢様としてではなく、一般庶民として平凡に生活したいのにそう簡単にはいかなくてー!?
億万長者のギリシアの海運王クリスにロンドンで再会したとき、キミーは体の震えを抑えられなかった。数カ月前、彼は結婚式当日に花婿に捨てられた私の前に現れた。そして巧みに傷心の私を誘惑し、バージンを奪って去っていった。今ならわかる。自分がクリスにもてあそばれただけだったのが。必死に連絡を取ろうとしたのに、彼は電話一本くれなかった。でも、かまわない。長年ほしかった新しい家族ができたから。キミーのおなかのふくらみを見ても、クリスは動じなかった。その氷の表情は、最初から彼女の妊娠を計画していたようで…。
16歳のとき、菓子作りコンテストで優勝したのを機に、ネーハは神童パティシエとして一躍人気者になった。だが実際は守銭奴の義父に操られ、恋愛も知らず、朝から晩まで働き続ける日々に虚しさをおぼえていた。このままでいいの?ふと一人の男性の顔が脳裏に浮かんだ。ネーハが唯一心を許せるミラノの富豪、レオ・ブルネッティ。人工授精でもいい。もし、彼の子を授かれたら…。荒唐無稽なネーハの願いに、レオは目に宿る炎を隠して答えた。「人工的なのはよくない。愛ある伝統的な方法を試すべきだ」
ジャクリーンは、豪華なパーティ会場で肩を落とした。経営難のウエディングドレス専門店への資金援助を、頼みの綱だった父の旧友に断られてしまったのだ。そのときー大企業CEOのギリシア富豪ニコスが現れた。悪魔的なほどセクシーなオーラみなぎる彼から目が離せない。雪のように清らかになんて時代遅れだと恋人にふられたあとも、結婚まで身を慎むという信念は変わっていないのに…。窮状を打ち明けたジャクリーンに、ニコスはパーティのあとで援助の話をすると約束してくれた。喜び勇んで部屋を訪ねると、ドア口のニコスは、腰にバスタオル1枚だけ巻いた姿で…。
夫の亡骸とともに、リリーは茫然とデインの到着を待っていた。もうすぐ彼がここに来る。私を軽蔑している彼が…。デインの兄と極秘の取り決めを交わし、偽装結婚してから、そうとは知らないデインにリリーは罵声を浴びせられてきた。家名を汚す雌狐!清楚な仮面に隠れて浮気を楽しむ悪女!いわれなき汚名に耐えつづけた結婚生活は、今、幕を閉じた。夫を亡くして、もうデインの憎悪に対処するすべもない。やがて顔をこわばらせたデインが、リリーの前に現れた。彼は知らない。私の体が無垢なことも、この胸に秘めた思いも。
ついにアイオナは意を決した。どうしても赤ちゃんができない妹夫婦のためには、ドナーを探して私が代理母になるしかないわ!そんな折に出会ったのは、同じ病院の凄腕医師ジョー。吸いこまれそうなほど明るいブルーの神秘的な瞳の持ち主だ。ジョーに魅せられた彼女は代理母になろうとしていることを彼に告げる。すると、彼はアイオナの決意を危ぶみながらも、最終的には協力を約束してくれたー妊娠すれば終わる関係として。悲惨な離婚を経験しているジョーが誰かを愛することなど二度とない。それでもアイオナの彼への想いは募る一方で…。
「僕には君が必要だ」新しいCEOのアレッサンドロの口調はそっけなかったが、言われたミアの胸は愚かにもどきどきした。そして同伴したパーティで彼の魅力の虜になり、純潔を捧げてしまった。1年後、ミアの自宅を突然、激怒したアレッサンドロが訪ねてくる。関係を持った次の日、彼はミアを外国の会社に追い払っていた。なぜ妊娠を知らせなかったと問いつめられ、彼女は呆然とした。私はあなたのためを思って身を引いた。なのに、なぜ責められるの?だが出産と育児で疲れきっていたミアは、謝る以外なにもできなかった。弱りはてた彼女に、アレッサンドロは容赦なかった。「娘が欲しい」その言葉に、ミアの体と魂は凍りついた。
18歳の誕生日、ペトラは気鋭の投資家ケイン・フレミングと恋におちた。彼はペトラの若さを案じて関係を深めようとはしなかったが、やがて彼女の一途な願いが叶い、二人は年の差を乗り越えて結婚した。だがある日、家に帰ってくるなりケインは衝撃の事実を告げた。ペトラの伯父が、100万ドルの借金を申し込んできたという。しかも、ペトラが結婚したのは、金のためだと断言して。そしてケインは反論の余地も与えず、彼女に出ていけと言い渡した。あれから8年。その彼がペトラの前に現れ、借金の返済を迫った。100万ドルなんて、とうてい無理よ…。青ざめるペトラに、ケインは言った。「僕と再婚するという方法もある」
交際も求愛もなしに公爵との結婚が決まったアビーは、彼の愛人の噂を気に病むあまり式に出ることができなかった。公爵を祭壇に置き去りにした娘として英国中に非難され、結婚は破談になり、人目を避けて暮らすこと3カ月。アビーは馬車で移動中に嵐に遭い、近くの屋敷に助けを求めた。だがその屋敷はハウスパーティの最中で、公爵とその愛人、そして口さがない社交界の面々が滞在していた。私をあれほど傷つけた人たちと、再び会わなければならないなんて…。青ざめながら晩餐に下りていくと、公爵の愛人が艶然とほほえんだ。「あなたがアビーね?彼が言ったとおり、美しいわ」
暖炉に火も入れられないほど、エマの家は暮らしが困窮していた。兄の借金返済のために裕福な貴族と婚約をしたものの、あえなく破局。残念なのは、そんな自分に代わって、かわいい妹を愛のためでなくお金のために結婚させなくてはならないことだ。そんななか、名うての放蕩貴族チャールズが妹に言い寄ってくる。結婚など眼中にないはずの彼にかかずらっている余裕はない。チャールズを妹から引き離そうとするエマだったが、気がつけば、彼女自身が型破りな彼の魅力の虜になってしまっていた!ある日、兄とチャールズが決闘すると聞き、必死に止めるエマに、彼は驚くべき提案をする。「やめてほしいなら、わたしの愛人になれ」
財産めあてにケリーと結婚した夫が、結婚式当日に事故死して8年。以来ずっと、彼女は結婚指輪をはめている。アイスレディー男嫌いと呼ばれても、騙された過去を忘れないために。ある日、週末に新居に遊びに来てほしいと親友に懇願されるが、好色な視線を向けてきた親友の夫に、破廉恥にも体を触られ、動揺する。親友の手前、むげにも断れない。ふと目にした人材派遣会社の広告を見て、ケリーはひと晩悩んだすえ、エスコート役を雇うと決め、会社を訪ねた。応対した黒髪の男性ジェイクは、肉体が武器のセクシー俳優みたいで、嘲笑うようなその瞳は、ケリーをひどく落ち着かない気分にさせた。ところが約束の日、現れたのは誰あろうジェイクだった!
極寒の地を襲う死のトリック!(『知床岬殺人事件』)。連続殺人に見え隠れする戦時の闇(『相馬野馬追い殺人事件』)。過去からの断罪。連環する罪業の哀しくも美しい荒野。