2020年9月28日発売
東京で働いていた32歳の都は、親の看病のために実家に戻り、近所のモールで働き始めるが…。恋愛、家族の世話、そのうえ仕事もがんばるなんて、そんなの無理!誰もが心揺さぶられる、7年ぶりの傑作小説。
インフルエンザの流行下、幾度目かの入院。ホールの雛飾りに節句の頃におこった厄災の記憶が去来する(『雛の春』)。改元の初夏。悪天候と疫病にまつわる明の医学者の教え、若かりし日に山で危ない道を渡ったことが甦る(『われもまた天に』)。梅雨さなかに届いた次兄の訃報。自身もまた入院の身となり、幼い日の敗戦の記憶、亡き母と父が浮かぶ(『雨あがりの出立』)。台風の被害が伝えられるなか、術後の三十年前と同様に並木路をめぐった数日後、またも病院のベッドにいた(『遺稿』)。現代日本文学をはるかに照らす作家の最後の小説集。
自分を弄んだ男性教師を追ってたどり着いたインド・ガンジス河岸の聖地。傷心の女子大生は、ここでも「象牛」なる謎の存在に翻弄される。果たして彼女はこの懊悩から解脱できるのかー表題作の他、大阪「比〓〓駄(ひらかだ)」を流れる淀川河岸を舞台に、恋に似た短く激しい熱情を描く「星曝し」を収める、芥川賞受賞後初の作品集。
ネットいじめを苦に女子中学生が自殺。姉のアイはハイテク専門の探偵アニエの力を借りて、妹の死の真相に迫るー。『13・67』の著者がいま現在の香港を描き切った傑作ミステリー。著しい貧困の格差、痴漢冤罪、ダークウェブ、そして復讐と贖罪。高度情報化社会を生きる現代人の善と悪を問う。
古代中国の中原制覇を目指して魏・蜀・呉が激しく争う三国時代、魏による統一の野望が果たされるとき、その影は否応なく帯方東南海中の島国、邪馬台国にも大きな激動をもたらした。死を覚悟した女王・卑弥呼が魔人・イワレビコ(神武)に託す倭国の未来への祈りは果たして届くのか。『三国志』の著者、西晋の著作郎・陳寿の知りえなかった隠された真実とは。
独学・反権力・無神論の三つの柱を掲げ、「文学以外の何ものをも愛してはならない」を家訓とするホッセイニ一族。その末裔として生まれたゼブラは、5歳のとき、サダム・フセインが仕掛けた戦争で混乱したイランを脱出する。途中、母が不慮の死を遂げると、彼女は心に空洞を抱え、父はますます文学に沈潜し娘を文学で武装させようとする。トルコ、スペインと亡命を重ね、最後に渡った“新世界”アメリカでも父娘に居場所はない。22歳になったゼブラは父の死で天涯孤独となり、一大決心をするー亡命生活で分裂した自己を取り戻すため、亡命の旅路を逆からたどり直そう、と。アメリカでの唯一の師の力添えで、ゼブラは“亡命の大旅行”をスタートする。バルセロナで彼女を出迎えたのは、イタリアから亡命してきた若き文献学者のルード・ベンボ。二人はすぐに惹かれ合うが、愛に臆病なゼブラは文学の鎧ー過去の偉大な作家たちの言葉ーで身を固め、ドン・キホーテのごとく不条理な奮闘を続ける…。
記憶と結びついたマドレーヌ菓子、芸術創造のごときブッフ・モード、舌平目の変身譚、アスパラガスの官能性…さまざまな材料を時をかけて風味豊かにまとめあげられた『失われた時を求めて』において、「文学」と「料理」はいかなる位置をとりうるのか?食をめぐる文化史を踏まえ、世紀末に溢れた美食言説に逆らす作家の小説美学が託されたテクストを味読していく、プルーストをめぐる美味しい文学論。
パス、フエンテス、パチェーコらラテンアメリカ文学の巨匠に激賞された政治家・作家グスマンー作家みずから体験した政争、暗殺事件を題材に、首都メキシコシティで繰り広げられる、血なまぐさい政権抗争と人間の悲哀を描く“メキシコ革命小説”の白眉。本邦初訳。
幼馴染みのハロルドとの婚約を解消されたセレイア。わがまま王女が美貌の騎士である彼に一目惚れして略奪したのだ。邪魔者扱いされたセレイアは辺境伯に嫁ぐよう命じられるが、虐げられお飾りの妻宣言をされてしまう。一方ハロルドはセレイアを諦めきれないでいた。思いを募らせたまま危険な紛争地へ出征するが…。初恋を一途に貫く堅物騎士と、運命を粛々と受け入れる不遇の令嬢。そして恋に純粋であるが故に不憫な辺境伯。三人が行き着く先は!?
日記をつけることで“幸福”を楔で心に打ち付ける女。17年間、帽子とマスクで顔を覆い商店街の中だけで暮らす女。夫の浮気相手である図書館司書を日々監視する女。理想の家庭を夢見ながら妻に家出されてしまった心優しい男…。穏やかで静かな町に暮らす人々の“不安”はやがて、「ある人々の存在」に向けられてゆく。彼ら/彼女らはいったい何者なのかー心揺さぶる濃密な連作短編、待望の書籍化。