2021年3月26日発売
息子が就職して家を出たことを機に部屋を片付けていた香菜子。クローゼットの片隅にしまわれたPCを開き、夫のメールを見つけてしまう。そこには、夫と女が親密に名前で呼び合い、2人が子どものように育てていた猫が死んでしまったなど、21年以上にわたるやり取りが書かれていた。おかしい。21年前といえば、香菜子が必死に幼い息子を育てていた頃なのに。夫と女の間に何があったのか。その後、彼女は「不倫小説の最高傑作」とも評価された1冊の小説を出版していることが分かってー。美しくて残酷な究極の不倫小説。
江戸は神田の袋物屋・三島屋で行われている風変わりな百物語。「語って語り捨て、聞いて聞き捨て」が原則だが、従妹のおちかから聞き手を引き継いだ富次郎は、語られた話を墨絵に描き封じ込めることで聞き捨てとしていた。美丈夫の勤番武士が語る、摩訶不思議な力であらゆる火災を制す神器の真実「火〓太鼓」。馴染みの団子売りの娘が打ち明けた、一途な愛が引き起こした悲しき事件「一途の念」。木賃宿に泊まったお化けの復讐譚「魂手形」。三人の語り手の物語と、三島屋に届いた慶事の報せをきっかけに、富次郎は自らの行く末に思いを巡らせていくー。
長く泰平の世が続き、代々大久保の地を守る鉄砲同心たちは火薬の材料を転用したつつじ栽培の内職に励み、時季には美しい花々を求めて多くの人が集まる江戸名所となっていた。礫家はつつじ作りの才を持つ丈一郎、頑固者の父・徳右衛門、温和な母・広江、勝気な妻・みどり、生真面目な息子・市松、物忘れが多くなってきた祖母・登代乃の六人暮らし。銃の代わりに大ばさみを握り、火薬の材料を肥料に花を咲かせる。大久保鉄砲百人組、礫一家が繰り広げる笑いと涙の春夏秋冬。温かなお江戸家族小説!
母の好きな花を集め、チンギスはアウラガへと駈ける。妻ボルテ、弟や妹たちが皆、母の家帳に集まっていたー。草原の覇者チンギス・カンは、従来の騎馬隊に加えて、ボレウに歩兵部隊を、ナルスに工兵部隊を整備させていた。陰山の陽山寨を拠点に、騎馬隊と合流させ、まずは西夏の城郭を攻めようとする。チンギスに討たれたジャムカの遺児マルガーシは、流れ着いたトクトアのもとで苛烈な修業を積み、新たな道へと動き出していた。ホラズム・シャー国の皇子ジャラールッディーンは、護衛のテムル・メリクと共に旅に出るが、そこで運命的な邂逅がー。
欧州最後の独裁国家ベラルーシ。その内実を、小説の力で暴く。 群集事故によって昏睡状態に陥った高校生ツィスク。老いた祖母だけがその回復を信じ、病室で永遠のような時を過ごす一方、隣の大国に依存していた国家は、民が慕ったはずの大統領の手によって、少しずつ病んでいく。 10年後の2009年、奇跡的に目覚めたツィスクが見たものは、ひとりの大統領にすべてを掌握された祖国、そして理不尽な状況に疑問をもつことも許されぬ人々の姿だった。 時間制限付きのWi-Fi。嘘を吐く国営放送。生活の困窮による、女性の愛人ビジネス。荒唐無稽な大統領令と「理不尽ゲーム」。ジャーナリストの不審死。5年ごとの大統領選では、現職が異常な高得票率で再選される……。 緊迫の続く、現在のベラルーシの姿へとつながる物語。 “この小説が文学賞を受賞したとき、たくさんの賞賛とともに、批判の声もあがりました。 「そんなはずはない」というものでした" --作者 【著者プロフィール】 サーシャ・フィリペンコ 1984年、ベラルーシのミンスク生まれ。サンクトペテルブルグ大学で文学を学ぶ。テレビ局でジャーナリストや脚本家として活動し、2014年に『理不尽ゲーム』で長編デビュー。本書は複数の文学賞にノミネートされ、「ルースカヤ・プレミヤ」(ロシア国外に在住するロシア語作家に与えられる賞)を受賞した。 現在も執筆を続けており、ノーベル賞作家スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチからも高く評価されている。 【訳者プロフィール】 奈倉有里 (なぐら・ゆり) 1982年東京生まれ。東京大学大学院卒。博士(文学)。訳書にミハイル・シーシキン『手紙』、リュドミラ・ウリツカヤ『陽気なお葬式』(以上新潮クレスト・ブックス)、ボリス・アクーニン『トルコ捨駒スパイ事件』(岩波書店)、『ポケットマスターピース10 ドストエフスキー』(分担訳、集英社文庫ヘリテージシリーズ)、『ナボコフ・コレクション マーシェンカ/キング、クイーン、ジャック』(分担訳、新潮社)など多数。
欲、業、金、偽、殺、毒ー信じる心が、嘘と虚像に翻弄され起こった平成最悪の事件。あの日、未知の毒物と闘った医師、看護師、駅員、警官。判断を誤れば、さらに人が死ぬー。なぜ、起こってしまったのか?膨大な資料と知識を土台に、想像力と熱意を注ぎ込むことで、剥き出しになった「オウム」の全貌。小説家でもあり、医師でもある著者にしか描きえない、そして、到達しえない真実。
人の運命を踏みにじろうとする本当の敵は誰か? 峠で茶屋の給仕をする娘・小鼓は、ある日すべてを失うことになる。 都から来た高僧・青蓮院義圓(のちの義教)が、故郷坂本の町を焼き払ったのだ。 義圓は小鼓の父を追って、坂本までやってきたらしい。 なぜしがない足軽にすぎない父の命が狙われるのか? しかも父は「良兼」という小鼓の知らぬ名前で呼ばれていた。 義圓が父に向って刀を振り下ろす寸前、小鼓は父の前に飛び出したーー。 その後の意識は小鼓にはない。 目を覚ました小鼓は、左の肩から先を失っていた。あのとき腕を切り落とされてしまったのだ。 なぜ私が腕を失わなければならなかったのか? 父親は何者なのか? この腕でどうやって生きていけばいいのか。 小鼓は、突如としてこの世の理不尽の渦に巻き込まれることになる。 だが、途方に暮れる小鼓が生き残る道を探る中で、父に手ほどきされた軍略の才能が自らにあることに気づく。 そうだ、誰も助けてくれないのなら、私は与えられたこの「力」で私を助ける! 小鼓は自らの力で戦場を渡り歩きながら父の謎を追い、そしてその謎の解明が、義圓への復讐心を育てていく……。 デビュー作『虎の牙』で歴史時代作家クラブ新人賞を受賞した気鋭の書き手が放つ、渾身の書き下ろし長編。
ある日突然妻が惨殺された。犯人を追って、男はカナダ先住民居留地へと向かう。たくさんの生き物たちに見守られたその旅路はまた幼少期の戦争と虐殺の記憶に向かうものだったーレバノン内戦によって祖国と母語を同時に失った著者が、アイデンティティを奪われる悲しみをサスペンスフルに描き出す。フランス作家協会ティード・モニエ大賞受賞作。世界的劇作家であり映画『灼熱の魂』原作者が放つ衝撃の長編小説!
〈ニューヨーク公共図書館若獅子賞〉受賞作品 中国が発生源の未知の病「シェン熱」が世界を襲い、感染者はゾンビ化し、死に至る。無人のニューヨークから最後に脱出した中国移民のキャンディスは、生存者のグループに拾われる……生存をかけたその旅路の果ては? 中国系米国作家が放つ、震撼のパンデミック小説! 6歳のとき中国からアメリカに移民したキャンディスは、大学卒業後にニューヨークへとやってくる。出版製作会社に職を得るも、やりがいは見出せない。だがそんな日常は、2011年に「シェン熱」が中国で発生したことで一変する。感染するとゾンビ化し、生活習慣のひとつを繰り返しながら死に至るという奇病で、有効な治療法はない。熱病はニューヨークへも押し寄せる。恋人や同僚をはじめ、人々が脱出していくなか、故郷のない彼女は、社員の去ったオフィスに残る。機能不全に陥った街には、もはや正気を失い息絶えた熱病感染者と自分しかいないーある日、彼女はついにニューヨークを去る決心をする。そして脱出の途上で、ある生存者のグループに拾われ、安全な〈施設〉へ向かうという彼らの仲間に入れてもらうのだが、それはキャンディスにとって、新たな試練の始まりだった……。
大邸宅の家政婦として働きだして数カ月たった夜、マギーは初めて雇い主のギリシア富豪ニコスと顔を合わせた。そしてカリスマ性のある彼に強く惹かれ、純潔を捧げてしまう。ニコスとはそれきり会うことがなかったが、彼女は妊娠に気づく。父親になると知らせた手紙にも、彼から音沙汰はなかった。さらに月日がたち、別の屋敷のパーティで給仕をしている最中、マギーは客として招かれたニコスとふたたび顔を合わせる。赤ん坊を預けて働いている彼女に、驚愕するニコス。彼はマギーが妊娠したことも、出産したことも知らなかった…。
シャーロットは大晦日の夜、美女との噂が絶えないイタリア富豪、ブランドとベッドを共にした。誘惑に惑わされ、一夜かぎりと知りながら。ところがシャーロットは妊娠し、思いがけない喜びに浸った。でも遊び人のブランドには頼れない。この子は私が守るわ。事実だけは伝えようと彼の暮らすフィレンツェへ飛んだ彼女は、ブランドの口から出た意外な言葉に耳を疑った。「その子はぼくの一族の大事な跡継ぎだ。ぼくたちは結婚する」愛はないのね?非情な求婚にシャーロットは身を震わせた。
ヴァイオレットはマット・ファルコナーに退職願を出したが、彼は優秀な秘書を手放すまいと、強引に懐柔を試みてくる。ボスは何もわかっていないわ…。恋心を隠し続けた胸が痛む。ずば抜けた経営手腕と、ハンサムな容貌、華やかな女性遍歴。どんな女性も、彼に惹かれずにいることは不可能だー真面目なだけが取り柄の地味な秘書、ヴァイオレットですらも。だからやっとの思いで退職を決めたのに、二人で働く最後の夜、彼はヴァイオレットの目をまっすぐ見て、こう言ったのだ。「君とベッドを共にしたい。この一夜だけでいいから」
ベサニーがラズルと出会ったのは学生時代。そのエキゾチックで危険な魅力に一目で惹かれたが、彼から激しく求められても、二人が結ばれることはなかった。砂漠の国の皇太子である彼との未来なんてありえないから…。数年後、ベサニーは仕事でラズルの国へ派遣される。一国の権力者がベサニーの入国を知ることなどないはずなのに、なんと彼女は空港で拘束され、まっすぐ宮殿へ連れていかれた。再会したラズルは端整な顔に不敵な笑みを浮かべ、言った。「あのとき僕を拒んだ君に、女の悦びを教えてやろう」
「ぼくはイタリアに帰って、別の女性と結婚する」ライモンドの通告に、フェイスは立ち直れないほどのショックを受けた。彼女はまだ世間知らずの若き助産師、彼は経験豊富な大人の医師だった。ほんの短いあいだの恋だったけれど、身も心も捧げたのに。6年後、フェイスのもとに、なんの予告もなくライモンドが姿を現した。妊娠を、そして出産を手紙で知らせても梨のつぶてだったのに、なぜ?彼の変わらぬ美貌に胸をときめかせる一方、フェイスは恐怖を覚えた。まさか、今になって娘の親権を要求しに来たとか…。するとライモンドが言った。「きみに子供がいると聞いたんだ」フェイスは凍りついた。“聞いた”って、いったいどういうこと?
魅力的な雇い主を愛したら最後、 目も当てられない結末が待っている。 子供好きなマーニーは、住み込みで幼児の世話をするナニーとして、 弁護士ダニー・マネッリの豪壮なペントハウスで働けることになった。 12歳で父に捨てられてから、病の母を支えて貧しさに耐え、 苦学してようやく大学を卒業した甲斐があった。 将来、ナニーの派遣サービスを始めるという、夢の第一歩。 ダニーと2歳の息子ともすぐに仲よくなり、順風満帆に思えた。 ところが、このハンサムな雇い主は未婚で妻がおらず、しかも最近、 彼の実父が悪名高き大富豪と判明したことを知ると、不安に苛まれる。 実はマーニーには、名前を変えてまで隠している悲しい事情があるのだ。 世間の注目を浴びれば彼に迷惑がかかると考え、身を引こうとするが……。 関連作『ガラスの靴のウエイトレス』『シンデレラの眠れぬ夜』に続く、大人気作家スーザン・メイアーによるNYを舞台に繰り広げられるシンデレラ・ストーリー! 元恋人の嫌がらせのせいで人目を忍んで生きてきた日陰のヒロインに、幸せは訪れるのでしょうか?
破産寸前の没落貴族を父に持つペニーは、将来を悲嘆していた。いずれ私は、金持ちで好色な老人と結婚させられるのだろう、と。事実、父は娘を借金の形に売ったが、相手は意外な人物だった。ラクランー海運業で莫大な富を築いたというハイランドの氏族長は、恐ろしく背が高く、屈強で非情な目をした無口な男だった。ペニーは怯えながら彼を見上げ、はっとした。この人を知っている!幼い頃、ただ一人心を許し、慕っていた年上の優しい少年。突然消えてしまった彼が戻ってくるなんて…私を妻にするために?だが、夫となったラクランに、少年の面影や優しさは微塵もなかった。彼はまるで復讐するかのように、夜ごと激しい情熱をペニーにぶつけ…。
アンは珍しい色の瞳をした美しき騎士リースに王宮で声をかけられ、見知らぬ男性とはいえ、その魅力に抗えず言葉を交わした。すると、それを見咎めたアンの異母兄がリースを負傷させてしまう。事態を収めようと国王が命じたのはなんと、アンとリースの結婚。会ったばかりで夫婦になるなんて!でも、王に逆らうことはできない。それに、アンにとっては暴君の異母兄から逃れられるだけでなく、超然として堂々たるリースの妻になると思うと、胸が高鳴るのだった。ところが、そんなアンの乙女心を知ってか知らずか、二人きりになると、リースが思いがけない策を打ち明けた。「結婚したあとでも、床入りしなければ、結婚を無効にできる」
ジェシカは18歳のときに両親を亡くし、幼い妹を一人で育ててきた。生活の糧は大手宝飾店の専属モデルの仕事のみだったが、会社が買収され、新社長のギリシア大富豪の存在に、身を震わせた。ルーカスー8年前、やむなくプロポーズを断った元恋人。別れたあとも、わたしはずっと密かに彼を愛していた…。しかし、ルーカスは冷酷な瞳で専属契約の解消をほのめかしつつ、ジェシカに大胆な衣装と宝石をまとわせると、妖艶な大人のモデルに転身するよう厳しく言い渡した。ルーカスの目的はベッドの上の関係だけだと察しながらも、生活費と妹の学費のため、ジェシカは彼の要求をのむしかなかった。