2022年8月発売
怖ろしくも美しい。哀しくも愛おしいーー。これぞ怪談文芸の最高峰! 建物にまつわる怪現象を解決するため、営繕屋・尾端は死者に想いを巡らせ、家屋に宿る気持ちを鮮やかに掬いあげる。 恐怖と郷愁を精緻に描いた至極のエンターテインメント。全6編を収録。 「待ち伏せの岩」 渓谷で起きた水難事故で若者が亡くなる。彼は事故の直前、崖上に建つ洋館の窓から若い女に手招きされていた。一方、洋館に住む多実は、窓の外に妖しい人影を見る。 「火焔」 イビリに耐えて長年介護してきた順子には、死後も姑の罵詈雑言が聞こえる。幻聴だと思っても、姑の携帯番号から着信を受け、誰もいない家の階段で肩をつかまれ……。 「歪む家」 温かい家庭を知らない弥生は、幸せな家族を人形で再現しようとする。しかしドールハウスを作り込むうちに些細なきっかけで「歪み」が生じ、やがて異変が起こる。 「誰が袖」 典利は戸建てを新築し、第一子の出産を控えた妻と母親が暮らしている。以前に住んでいた屋敷には幽霊がいた。当時を思い返した典利はふと、あることに気付く。 「骸の浜」 河口付近の家にひとりで暮らす真琴。荒れ果てた庭の向こうには、低い垣根越しに海が見える。この街の沖で水難に遭った死体は、靄と共にこの庭にやってくるのだ。 「茨姫」 死んだ姉を偏愛していた母親が他界し、響子にとって辛い思い出が募る実家が残った。荒れ果てた家を整理するため、ツルバラで覆われた庭の小屋に入ると……。 待ち伏せの岩 火焔 歪む家 誰が袖 骸の浜 茨姫
深夜のひったくりをやめられない成績優秀な中学生・望。有名私立中に合格するも、町を“守る”ため自転車泥棒に暴行を働く弓矢。大学受験に失敗し、異母弟の弓矢に劣等感を抱く充也。交通事故に遭い就職できなくなったフリーター・根岸。閉鎖的な町で起きた小さな事件によって、古びたマンションで本心を偽りながら生きる住人たちの憎悪と渇望が交錯していきー。隠しきれない“衝動”と“本性”を鮮烈に描いた、青春サスペンス。
最強の剣豪はなぜ『五輪書』を著したのか?徳川家康の天下統一により太平を迎えた世ー戦国の動乱を剣士として生き抜いてきた宮本武蔵も老境に達していた。将軍家剣術指南役となった柳生宗矩に対抗心を燃やし、生半可な仕官の道は選ばなかった武蔵も、島原の乱に従軍し負傷したことで老いを実感し、終の棲家を求めていた。熊本藩主・細川忠利から客分として招かれた武蔵は、当地で指南役を務めつつ、手伝いの清に支えられながら安らかな日々を送るようになる。やがて、自らが究めてきた兵法の道を伝えるべく、岩戸・霊巌洞に籠もり『五輪書』の執筆を始めた。武蔵が最後に到った境地とは?
高校二年の冴木旭には、時間を止めるという特殊能力がある。だが旭にとって一番大事なのは、普通の場所で、普通の人と同じように生きていくことだ。異質な存在に向けられる無遠慮な視線や偏見に耐え、必死で笑顔をつくっていた旭だったが、大量の机が教室の窓から投げ捨てられるという怪事件が起こり、能力者が犯人ではないかと疑われる。旭は真犯人を見つけて疑いを晴らそうとするも、悩みをわかり合えると思っていた能力者仲間の篠宮と我妻にも距離を置かれてしまう。焦りを覚えていたところに、また新たな事件が起きて……。
覆面アーティストとして活躍するFと、ファンアカウントでFの正体を追う友香ー。渋谷の屋上で命を絶とうとしていた越智友香を救ったのは、Fの歌声だった。Fへの思いが生きる原動力となった友香だったが、彼女は覆面アーティストだった。Fを追い続けた友香は、衝撃の事実を知ることになる。
年の瀬に起きた痛ましい〈地下鉄S線内無差別殺傷事件〉。 突然、男は刃物を振り回し、妊婦を切りつけ、助けに入った老人を刺殺した。 時は過ぎ、事件に偶然居合わせてしまった人々には、日常が戻ってくるはずだった───。 会社員の和宏は、一目散にその場から逃げ出したことをSNSで非難されて以来、日々正体不明の音に悩まされ始め……(「音」)。 切りつけられた妊婦の千穂は、幸いにも軽傷で済んだが、急に「霊が見える」と言い出して……(「水の香」)。 事件発生直前の行動を後悔する女子高生の響が、新たな一歩を踏み出すために決心 したこととは(「扉」)。 人生に諦念を抱える老人が、暴れる犯人から妊婦を守ろうとした本当の理由とは(「壁の男」)。 など、全6編。 大注目の『このミス』大賞&日本推理作家協会賞受賞作家が贈る、事件が終わって始まった、少し不思議でかなり切ない“その後"を描く連作短編集。 【著者略歴】 降田 天 (ふるた・てん) 執筆担当の鮎川颯(あゆかわ・そう)とプロット担当の萩野瑛(はぎの・えい)による作家ユニット。少女小説作家として活躍後、2014年に「女王はかえらない」で第13回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、降田天名義でのデビューを果たす。18年、「偽りの春」で第71回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞。他の著書に、「偽りの春」が収録された『偽りの春 神倉駅前交番 狩野雷太の推理』、『彼女はもどらない』、『すみれ屋敷の罪人』、『ネメシスⅣ』、『朝と夕の犯罪』、『さんず』などがある。
百万ドルの小切手を私に叩きつけた人が、 結婚して息子と暮らしたいですって? 両親のいないエヴァは貧しい中、必死に家族のために働いていた。 ある夜、彼女の家の前に高級車が何台もとまった。 そこから降りてきた男性を見て、エヴァは仰天する。 億万長者のエコウとは、かつて一夜をともにしたことがあった。 警察を従えた富豪は、彼女の15歳の弟を犯罪者と決めつけていた。 けれど、エヴァが守りたい“秘密”については一言もふれない。 覚悟していたとはいえ、彼女の胸は悲しみでいっぱいになった。 なぜ前も今も、あの夜授かった命などなかったふりをするの? なのに実際に赤ん坊を目にするなり、「妻になれ」なんて……。 M・ブレイクのドラマチックな2部作〈華麗なる富豪兄弟〉の2作目をお届けします! セクシーな富豪ヒーローは赤ん坊を産んでいたヒロインに驚きます。彼が知っているはずなのに知らないふりをする理由とはなにか? 読みはじめたら最後、目が離せません!
住みこみでナニーをしているキティは一家の家族旅行に同行した。ある夜、束の間の休暇を楽しもうと高級リゾートのバーへ赴くが、みすぼらしい身なりを咎められ、追いだされてしまう。するとそこへ目も覚めるような美麗な男性、サンティアゴが現れて陶然とする彼女を誘惑し、別世界のスイートへといざなった。真面目に生きてきた私への、神様からのご褒美かしら?キティは純潔を捧げるが、なぜか彼は怒り、苦い別れとなった。帰国後、雇い主から解雇され、直後に妊娠が判明したキティは、ショックで言葉を失った。サンティアゴ…彼を頼ってもいいの?
捨て子として拾われ、里親の元を転々として育ったリリーは、笑いの絶えない温かい家庭を築くことを夢見ていた。彼女にとっての理想の男性とは、すなわち理想の夫。遊びの恋など、これまでしたことも考えたこともなかった。そんな不器用さが災いしてか、白馬の王子はまだ現れていない。ある日、彼女は借金返済のために引き受けている清掃の仕事で、ギリシア人富豪ニック・ゼルバキスの豪奢な別荘へと赴く。そこでリリーは彼の恋人に誤解され、結果、恋人は去ってしまう。困ったわ、どうしよう。動揺する彼女にニックは冷淡に告げた。「さっさと支度してくれ。今夜のパーティは君に同伴してもらう」
タラはかつて恋人に裏切られたあげく、根も葉もない噂を流され、ひどいバッシングを受けて、どん底の苦しみを味わった。以来、彼女は化粧をやめ、体のラインが出ない服を着て、男性を遠ざけて地味に慎ましく暮らすようになった。ところが、そんなタラに誘いをかけてくる男性が現れたーアンジェロ・ゴードン。タラの会社の経営者で気鋭の実業家だ。彼は時間をかけ、優しさと誠実さで彼女の凍った心を溶かし、結婚へとこぎつけた。やがてタラが妊娠。すべてが順調で、完璧に思われたとき、残酷な真実がタラの耳に飛びこんだ。嘘よ!愛する夫が最初から私を欺いていたなんて…。
あの夏、淡い想いを踏みにじった彼と なりゆきで結婚することになるなんて……。 長いあいだ兄弟たちの悪ふざけに悩まされてきたデイジーは、 男性不信のため社交界デビューにも失敗し、両親に失望されていた。 そんな折、デイジーは兄とその友人たちの信じがたい会話を聞いてしまう。 兄が「君たちの誰でもいいから妹と結婚してほしい」と頼み、 友人たちは「氷柱を抱いて寝るほうがよっぽどましだ」と答えたのだ! 何より傷ついたのは、その中に初恋の伯爵ベンがいたことだった。 夜になり、デイジーが湖上の小島でひとときの安息を得ていると、 舟で湖に繰り出した友人たちが悪戯で半裸のベンを小島に置き去りにした。 心優しいデイジーがベンを説得して自分の舟で岸に連れ帰ったとたん、 あらぬ誤解を呼んで家族中に激怒され、ふたりは結婚を強いられて……。 初恋の人ベンとの愛なき新婚生活に夜ごと枕を濡らすデイジー。ベンも嫌われていると思い込み、徹底的に新妻を避けます。やがて気持ちは通じ合いますが、めくるめく幸せも束の間、過酷な運命がふたりを引き裂いて……。A・バロウズのもどかしすぎる純愛物語!
“眠れる美女”との結婚が許される条件はー真実の愛。時は1852年。イングランドの北の果て、ノーサンバーランドに、美貌と気品と富を兼ねそなえた“眠れる美女”が隠れ住むという。ロンドンで放蕩三昧に明け暮れる伊達男アダムは興味を持ち、その娘レディ・ヘレナ・ラスフォードに求婚しようと思い立った。ところが行ってみると、ラスフォード邸は暗く荒れ果てた屋敷で、当の“眠れる美女”はやせたみすぼらしい娘だった。はじめは使用人と見間違えたが、よく見ると美しく不思議な魅力がある。求婚は彼女の父に受け入れられたが、結婚に条件がつけられたー娘を放っておかず、やさしく接し、子を作るべく夫婦の契りを結ぶこと。アダムは確信が持てぬまま、気づけば答えていた。「約束します」
恋の仕返しを心に決めたプレイボーイが、“にせ妊婦”を相手に本領を発揮しー。まだ17歳の姪が年上の男性に弄ばれていると聞いたチェルシーは、姪をプレイボーイから救うため、一計を案じる。チェルシーが世慣れた妖婦を装って近づくことで、相手の大富豪スレードの気をそらし、姪を引き離すのだ。苦い初恋から男性を避けてきたわたしに、そんなことができるかしら?不安をよそに、チェルシーの演技が功を奏していい雰囲気になった直後、彼女はスレードの欲望の手をかわしてその場から姿を消した。ところが後日、思いもよらない場所で再会してしまった!しかも、スレードはチェルシーを悪女と思い込んだままで、“あのときの借りは返してもらう”とばかりに彼女に迫り…。
大学卒業後、天涯孤独のロージーは親戚夫妻の家に身を寄せていたが、夫を略奪しようとしていると周囲に疑われ、思わず家を飛び出す。見知らぬ土地で、働き口もない。ロージーはそんな不安から、偶然出会った目尻の笑い皺の魅力的なカラムにすべてを打ち明けた。すると彼はロージーに秘書の仕事を与えたうえに、驚くべき提案をする。「僕が恋人のふりをして、君にかけられた疑いを晴らそう」しかも、信憑性を持たせるため、彼の自宅で同棲をしてはどうか、と。カラムはどんな女性にも落とすことができないと言われている男性だ。その彼のそばに、昼は秘書として、夜は恋人として寄り添うなんて、男性恐怖症でキスの経験すらない私に、できるのかしら…?
ギリシアを離れて以来、サマーは胸に痛みをかかえていた。実父に会って失望したせいだと思いこみたいけれど、本当は…嘘だ。大富豪セロンは私に近づいてきて親切にもギリシアを案内し、楽しい食事に誘い、ベッドですばらしい時間を過ごさせてくれた。でも翌朝になると私を金めあてとののしり、蔑みの視線で追い払った。なのになぜ突然、イギリスまで訪ねてきたのだろう?それでもセロンに唇を奪われると、サマーは二人の未来に希望を抱いた。彼がサマーを強く抱きしめた次の瞬間、はっとして身を離すまでは。彼女のおなかははっきりとふくらんでいた。その大きさはちょうど…。冷酷な声が響き、サマーの希望は砕かれた。「妊娠しているんだな?」
視力を失いつつある幼い娘の手術費用を貯めるため、ジーナは3つの仕事を掛け持ちする過酷な日々を送っていた。そんなある日、昼の事務仕事のオフィスに、一人の男性が現れたー忘れたくても忘れられない、リアム・シャノン!亡き夫の友人でありながら、結婚式の日に私を誘惑した男。私は不埒なキスをされて驚き、参列客の前で彼を平手打ちしたのだった。あれから6年のあいだ音信不通だったのに、なぜ今になって…?2年前に夫が事故死したことをジーナが伝えると、リアムは一瞬ひるんだのち、昔と変らわぬ傲慢さで残酷にも言い放った。「彼が亡くなったのなら、僕を止めるものは何もない」
代々魔法のエリートを輩出してきた侯爵家の三男・イーサン。3歳のある時、前世で日本人サラリーマンだったことを思い出す。周囲からは次期当主と期待されて育つが、10歳で覚醒したのは鉄くず人形を生み出す魔法。手のひら返しで辺境に追放され、その道中で何者かに襲撃されて…!?気が付くと、辺境の「おんぼろ村」ことディメンタ村にたどり着いていたイーサン。助けてくれた村人に恩返しをするため、襲ってきたならず者を魔法“変形”と“変性”で即興武器を作って撃退。イーサンだけが持つ二つの魔法は、実は規格外な生産チートだった!村の救世主となったイーサンは、領主として大歓迎されることに。頑丈な家や防壁、強力な武器を生み出すだけでなく、休むことなく働く無敵のオートマタまで!?イーサンがのびのび力を使うほどに、村はどんどん発展していきー。辺境領主の悠々自適な「動く城塞都市」づくりが始まる!
凶悪な魔物たちが闊歩する魔界に、生まれてすぐに落ちてしまったエデル。幸運にも大賢者ラミレスに拾われ一命をとりとめるが、常に地形が変わり、森が襲い掛かり、バハムートが雑魚モンスター扱いされる魔界での生活は彼を規格外に育ててしまい…!? 12歳になり、ラミレスの死を機に人間界を目指したエデルは英雄学校に入学する。初めての学園生活、ダンジョン探索や魔法の授業も目立たないようにサクっとこなそうとするけど…。 「普通にやっただけだよ?」「これが普通っておかしいでしょ!」--桁外れの能力を見せつけるエデルの行動に周りは総ツッコミ。とてつもなくハードな環境で育ったエデルに、人間界の常識は通用しない!? 無自覚・最強少年のぶっとび人間界ライフ、開幕!
仕事、家庭、恋愛の全てが欲しい女たちとその家族的つながりを描いた最新長編小説。 二度の離婚を経て、中学生の娘である理子と二人で暮らすシングルマザーの小説家、志絵。 最近付き合い始めた大学生の蒼葉と一緒に暮らしたいと娘に告げるが───。 恋愛する母たちの孤独と不安と欲望が、周囲の人々を巻き込んでいく。 「母親と恋愛って、相性悪いよ。ママは無理やり両方こなしてただけじゃん。何だかんだしょっちゅう家空けてたし」 「多くの人はゼロか百かで生きてないんだよ。二、八とか、六、四とかで生きてる。今は世界的にステップファミリーが増えてるし、母親とか父親を恋愛と切り離すのは保守的かつ不自然だよ」 「私はただ、今の生活が心地いいって言ってるんだよ。ママがデートに行くたびにパパたちとかおばあちゃんが駆り出されてるの、なんかちょっとなって思ってたし」 「子供を持ったら恋愛するなって言うの? 別に子供の心地よさを追求してやることだけが親の人生じゃないでしょ。きつかったかもしれないけど、受験勉強をしたから理子は今の中学に入れた。楽な方にいくだけがいいことじゃない」 ───本文より 【著者プロフィール】 金原ひとみ(かねはら・ひとみ) 1983年東京生まれ。2003年『蛇にピアス』で第27回すばる文学賞を受賞。04年、同作で第130回芥川賞を受賞。ベストセラーとなり、各国で翻訳出版される。10年『TRIP TRAP』で第27回織田作之助賞を受賞。12年『マザーズ』で第22回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。20年『アタラクシア』で第5回渡辺淳一文学賞を受賞。21年『アンソーシャル ディスタンス』で第57回谷崎潤一郎賞を受賞。他『パリの砂漠、東京の蜃気楼』、『ミーツ・ザ・ワールド』等がある。