制作・出演 : オーケストラ・アンサンブル金沢
OEKによる充実の最新録音が1,050〜1,500円で買える画期的なシリーズ。渋めの選曲が憎い。今回も録音の少ないメンデルスゾーンの協奏曲が音楽ファンの心をくすぐる。演奏機会の少ないのが不思議なチャーミングな作品が美しく蘇った。溌溂とした「プラハ」も楽しい。
これまでパンチの利いたベートーヴェン演奏を聴かせてきた、金聖響とオーケストラ・アンサンブル金沢。今回の演奏は、「田園」という作品の持ち味のためか、果敢な攻撃性よりも、きめ細かなニュアンス付けと自然な音楽の流れが特徴だ。オケも好演。
制作・出演
イストヴァン・コヴァーチ / オーケストラ・アンサンブル金沢 / カチャ・ピーヴェック / シモーナ・ホーダ=シャトゥローヴァ / シュレスヴィヒ=ホルシュタイン音楽祭合唱団 / モーツァルト / ヤロスラフ・ブレツィナ / ロルフ・ベック2005年7月、ドイツの音楽祭に招待された際のライヴ録音。何かを際立たせるのではなく、全体の響きをウェルバランスに整えた上で音楽そのものに語らせるスタンス。ちょっとセピアにくすんでまろやかなオケの音色が、情の機微を等身大に捕まえる。渋めの逸品。
明快な旋律の中にフッと陰りを感じさせる繊細さは、R.シュトラウス最晩年の作品に共通する味わい。二人の管楽器がすばらしい。性格の異なる音色が巧みに絡み合って淡い色合いの変化を描き出す。「スコットランド」の透明感あふれる室内楽的な演奏も美しい。
スケール感と鋭い感性が売りのマイヤースも、熟成した大人の音楽を演奏するようになったと感心。ブラームスでは、OEKならではの透明感のあるアンサンブルと誠実な演奏がすがすがしい。前に出過ぎない岩城の棒は、演奏者たちの音楽する喜びを引き出してくれるのだ。
磨き抜かれた音色とシャープな切れ味はいかにもピヒラーらしい。速めで演奏されつつニュアンスに事欠かない各曲の緩徐楽章は特に美しい。K.525のメヌエット楽章での間のとり方やデリケートな音色、K.138の終楽章の主題部のエコー的扱いなどまさに手練れの技。
2003年の日本音楽コンクールで第1位を獲得した遠藤真理。デビュー盤でいきなり協奏曲で勝負を挑んでくるが、この若さにしてすでに音楽をナチュラルに息づかせる術をしっかり心得ている点が逸材たるゆえん。まろやかな深みのある低音も美しい。要注目の新星だ。
松村禎三の新曲(OEKの委嘱)「ゲッセマネの夜に」を聴けるのが嬉しい。ユダがイエスを売る場面を、さながら映画の1シーンのごとく、闇に包まれた重苦しい緊迫感で描く。ただ、もう少し演奏に清澄さがあれば。シューベルトはクセのない運びが好印象。
日本のオーケストラとは思えない馥郁たる香りの漂う「田園」である。欧州の小都市で地元の音楽家たちの演奏を聴いているような寛いだ雰囲気が素晴らしい。それでいてきびきびとした曲の運びはさすが名手ピヒラーだ。弾けるような愉しさあふれる第8番も見事である。
前途有望なピアニストの登場を感じた。写真からすら見て取れる瞳の輝きも魅力的だが、特筆すべきは音楽から立ちのぼる、非凡な“愛嬌”とでもいう印象。音の粒立ちとか、フレーズ感の自然さ、とかカタイことを言いたくなくなるこの優れた特質を、ぜひ失わずに!★
制作・出演
アビ・スメサム / アンドリュー・ステイプルス / オーケストラ・アンサンブル金沢 / ケンブリッジ・クレア・カレッジ合唱団 / ジェイムス・マクヴィニー / ジェイムス・マスタード / ジュリエット・フレーザー / ニコラス・クレーマー絶筆とか冥府からの使者だとか、さすがに最近では、この作品にまつわるそうしたロマンティックでアホらしい神話は、一蹴されるようになった。実によいことである。クレーマーの演奏は、まさにそんな時代にピッタリ。等身大でカジュアルな仕上がりが快い。
権代の曲は、このオーケストラが持っている響きの透明さを見事に生かしきった作。ブラームスのほうは、ある程度軽さが生じるが、岩城は、テンポ、フレージング、内声部をきちっと作り上げるなどして、ブラームスの持つ充実感やスケール感を生み出している。さすが。
NHKの連ドラやドキュメンタリーのテーマ曲をナカリャコフのトランペットと金聖響/OEKの演奏で録音。加古隆の「黄昏のワルツ」「パリは燃えているか」、大野雄二の「小さな旅」など名曲の数々。とにかくうまい。すばらしく気の利いたアルバムだ。
聴く人によってはディズニーの「ファンタジア」を連想しそうな、お伽噺の世界に入ってゆくかのようなジュリアン・ユーのアレンジ(味付けには中国テイストも)が何と言っても話題だろう。しかしそれを精緻に再現する演奏のクオリティが評価されるべきアルバム。
制作・出演
オーケストラ・アンサンブル金沢 / オーケストラ・アンサンブル金沢エンジェル・コーラス / オーケストラ・アンサンブル金沢合唱団 / 三善晃 / 佐々木正利 / 吉行和子 / 岩城宏之 / 木村かをり / 谷川俊太郎谷川俊太郎の詩に触発された2作。ことばの一語一語に濃密に音で交わる三善の重さに対し、映像のための音楽のようにことばの情景を音でリアライズする武満の軽さが想いに柔らかい。室内オケに縮小された響きと少女を演じる吉行の語りが実にインティメイトだ。
オーケストラ・アンサンブル金沢の2003年の2回の演奏会から現代若手の作品を3作収録(ライヴ)。高木綾子による秀逸なフルート演奏が聴きものの一ノ瀬トニカ作品や、複雑なテクスチャーによるバイオレントな猿谷の難曲など、クオリティの高い演奏で聴かせるのはさすが。
半世紀を越す指揮者生活を重ねる岩城がOEKに注ぎこむ情熱のほどが偲ばれる録音。スタンダードな手堅いアプローチで隅々まで行き届いた采配、それに素直に応えるオケ、結果、作品は自然な流れを獲得する。当たり前のようでいてじつは得難い音楽の悦び。