制作・出演 : 小山実稚恵
ときにやや一本調子になるとはいえ、小山らしい抒情的な温かさや、非常に瑞々しい表現が多々聴かれ、存在価値はあると見た。これは協奏曲、ソナタ同様で、特筆されるのはフェドセーエフの伴奏のスケールの大きさと豊かな雰囲気。録音も、共に非常に良い。
ショパン・コンクール入賞をきっかけとして世に出た実力派ピアニスト小山実稚恵の、通算16枚目にして5年ぶりのショパン録音だ。ショパンの魅力がこの1枚に凝縮したかのように詰め込まれている。
バロックから近代までの幻想曲ばかりを集めたユニークな構成。冒頭のバッハから強い個性があふれ出ていて印象づけられた。緩急強弱の対比の個性的な取り方、テンポやアクセント、間の取り具合なども見事で、文字どおりファンタスティックな演奏になっている。★
収録曲中バッハとベルクは小山にとって初録音、リストのソナタは再録音となる。彼女らしいはつらつとした明るさが前面に出ているが、流れに漫然としたところがなく、見事に引き締まっている。小山の鋭い集中力が生かされ、主張が明確に表われた好演。
古今の作曲家が、夜への想いをピアノ音楽に託したのが夜想曲だが、このアルバムでは、夜想曲などの、“夜”をテーマにした作品を集めて、深々と、ロマンティシズムの響きをつむぎだしている。秋の夜長、聴きての耳に小山実稚恵の演奏は美しく優しく響く。
最近とみに冴えた演奏を聴かせる小山の最新録音。この曲、ペダルの使いようによってはモコモコした曖昧な響きになったり、逆にゴツゴツし過ぎたりするのだが、彼女は絶妙なバランス感覚で印象派風に処理している。知らずに聴けばラヴェルだと思うかも。
あれっ、小山実稚恵ってこんなにテクニシャンだったっけ? と驚かされるほど技巧が冴えている。しかもそれが出しゃばらず、透明感のある音楽性とうまく融け合っているのが魅力。高音にもう少しニュアンスが欲しいが、大向こうを張らないリストも案外いい。
粒の揃った軽くきらびやかな音色と大胆で躍動的なリズムがしっかりとしたタッチで弾き分けられている。そして彼女のショパン等に見られる甘く柔らかな歌心がラヴェルの音楽にも生き、このアルバムには繊細でメロディアスな美しいラヴェル作品が息づいている。
小山実稚恵の優れた技巧と天衣無縫な気質が大いに生かされた、華やかなピアノだ。一方、デイヴィスは、オーケストラを実に雄弁に歌わせている。この二者が分厚い響きでぶつかりあいながら、華麗かつ情感豊かに、ラフマニノフの音楽を作りあげている。
リリックで良く流れる美しいショパン。「女性らしいデリケートな」というといかにも安直な形容になるが、まさにそういう感じなのだ。4曲の小品よりは、やはり大作の(1)ソナタに彼女の良さが現われている。今後は一層の自己主張を望みたい。
小山実稚恵のデビュー第2作。曲の雄大さに見合った毅然たるタッチで弾かれたリストもいいが、ラフマニノフはもっといい。曲の性格の違いもあって、後者の柔らかく甘いロマンチシズムが聴き手をほろりとさせるのだ。やはりまとめにくいリストよりもこちらの方が生き生きと弾けている。
小山実稚恵が今回取り組んだのは、スペインものである。整った技巧や、健康美あふれる表情は、いつもの小山らしいが、今回はとくに、彼女の前向きな姿勢が強く感じられると同時に、作品に対して深く入りこんだ、情緒ゆたかな表現が、随所で光彩を放つ。
邦人の女流ピアニストの中では、小山が現在のところショパン弾きのタイトルを担わされている。彼女はその力量の程をこの1枚で見事に実証する。超絶なテクニックをひけらかすことなく、女性らしいしっとりとした叙情と詩情をただよわせる。豊艶なショパン。