著者 : 井上祐美子
清朝・雍正二年(一七二四)。太祖ヌルハチ以来の名家に生れ、遊蕩の日々を送っていた傅蘭が、北京の胡同で、ジュリアン・李と名乗る若い天主教の学僧と出会ったことから、全てが始った。天上の神は信じないフランだったが神父や信徒たちの一途さには好意をもってゆく。そして皇族の血を引く蘇努一族の娘マリアに心をひかれる。だが、男女が同じ場所に集い、天上の神に無償の祈りを捧げる天主教の教えは、皇帝を絶対のものとする中華の考えと相入れない。最高権力者・雍正帝は、同じヌルハチの血を引く蘇努一族に対して、天主教徒を理由に苛烈な弾圧を始める。そのなかにマリアもいた。権力の嵐の中で、天主教一族は!そしてフランは!気鋭の書き下ろし渾身作。
逃げる猫と岳飛軍の遺児の運命は?胸のすく痛快武侠活劇の秀作。桂花かおる港市、臨安(杭州)の二貴公子。巨魁秦檜に挑む!臨安は刺激の強い街だった。白日賊といわれる詐欺や盗賊が常に横行して、扇情的な話題には事欠かなかった。「猫を、外へ出すんじゃないよ。絶対に、出すんじゃないよ」その老人は、毎朝家を出る時に、かならず奥に向かってそう念をおした。杭州が臨安と呼ばれるようになってしばらくたつが、住宅事情は悪くなるばかりで、その日暮しの庶民が城内に一軒家を持つなど、夢のまた夢。その老人も数階建ての家の一階の一部を借り、妻とふたりで暮していた。最初、同居人たちはその女を、老人の娘だと思っていた。それほど年齢が離れていたのだが、狭い家の内のこと、ふたりの会話は自然にはいってくる。女が北から避難してくる途中、家族と生き別れ、老人に救われて妻になったということまで、ひと月たたないうちに、その家の全員が知るようになった。
幾多の闘いをくぐり抜けてきた顕聖二郎真君。彼の内が神と人とに分かれた。闘いの末、人の二郎は敗れ、冥府に落ちる。神の二郎は妖物の力を借りて天宮の玉帝を倒そうとしていた。冥府の二郎は人としての生命を授かる代わりに、天禄台帳を取り返すため、神の二郎を追って天界へと向かう。人として生きるか、天界の支配者として君臨するか。二人の二郎が今最後の闘いに挑む。中国大河ロマン完結篇。
ついに翠心を妻に迎えることを決めた楊三郎。そんな時、天界の西王母から命を受け、二郎の妹・三娘が長安に現れた。伯父である天界の統治者・玉帝は、近く長安に異変が起こると予見していた。ゆえに、その身は人間でありながら、実は天界から誤ってこぼれた霊玉の化身・翠心を西王母の保護の許に置こうというのだ。伯父への反発から拒否する二郎だが、翌日、己の偽者が立ち回りを演じたとの報告を受け…。
元宵節で賑わう唐の都・長安。観燈や見世物を楽しむ人々の中に楊二郎と恋人・翠心の姿もあった。声をかけてきた妓楼の女・王小珊と立ち話をしていた二郎が気がつくと、さっきまで隣にいたはずの翠心の姿がない!翠心の行方を突き止めた二郎は、彼女を連れ去った端之から行方不明の想い人が翠心にうり二つであることを知る。さらに端之の父が東方朔の知己であったことから、秋香の行方を探すが…。
復活を遂げた古代帝王・炎帝の手下である李少君は、天界で幽閉中の楊二郎を味方にしようと、脱出に手を貸した。多くの天兵を傷つけ、万里の馬を駆り、長安に戻った楊二郎だったが、天界と人界を共に支配しようと企む炎帝とは、ついに与することはできなかった。二人は刃を交えるが、神的な通力を丸ごと吸収して力を増す炎帝に対するには、神気を捨て人身に戻ることが勝利を得る鍵だと楊二郎は悟ったー。
魏徴は黜陟大使・李靖から声をかけられ、秘書監・李淳風を訪れた。李淳風は星辰の図を取り出すと「命を革むる。天が、他者をもって李氏を易えようとしております」と告げたー。ある晩、李靖を尾行していた一団と戦うことになった楊二郎は、彼らが人間以上の能力を持つことを知った。一団の首領は焦子〓@5AA7@といい、世情が混乱期に入るのに乗じて、神農氏の血を引く支族として炎帝の復活を企んでいたのだった。
天界を支配する玉皇大帝の外甥で天界随一の武神、半神半人の顕聖楊二郎真君は唐二代皇帝で太宗といわれた李世民の右腕としてつかえた魏徴の家に居候していた。ある日、長安城内で琵琶占いをする崔巧雲が男たちにからまれているところを楊二郎は助けた。実は崔巧雲は琵琶の精で妖怪だったのだ…。一方、地上に落ちたままの霊玉を一向に返そうとしない楊二郎は、天宮からの使者韋護将軍の追及を受けていた。
隆盛を誇る大唐帝国、花の都長安。陽が西方に傾く頃、長安城から天に向けて霧のような妖気がたちのぼった。それを感じ取った一人の風来坊が格式を誇る妓楼・紅花楼に上り、捜していた人物と対面した。相手は唐朝の重臣、諌議大夫・魏徴であった。長安の坊城に血の飛沫が流れるという面妖な事件を語る魏徴に、事件解決を約したこの漢は、一体何者なのか。華麗なる大武侠小説、待望の文庫化第一弾。
「これが-桃花源か」白戴星は息を呑んだ。人の背丈よりも少し高いぐらいの木が幾本も幾本も、見渡すかぎり植わっていた。「桃」。ただ、その木には花も葉もなく、枯れた枝がむなしく空に突き出ているばかり。土地は、乾ききってひびもはしっている…今上帝の世継ぎ白戴星をつけ狙う殷玉堂、東京の双剣舞の芸人・陶宝春、落第挙人の包希仁たちの運命と彼らを追跡する劉皇后と宦官雷允恭一派の謀略をのせて、伝説の理想郷を前に彼らが目にしたものは。第一作より三年の歳月を経て遂に大団円を迎える井上祐美子の決定版。
桃花源にまつわる謎と今上帝の世継ぎにあたる白載星の命を狙う劉妃一派の包囲によって、六和塔の頂きの決闘の果てに銭塘江に落下した載星と刺客の殷玉堂は、蘇州の運河を漂っているところを范仲淹に救われた。彼は進士出身の官僚で、載星が捜し求める生母のことを知っていた。その母から向けられた目付役の落第挙人、包希仁や陶宝春という旅芸人と載星の周りには奇縁で結ばれた人物が多すぎる。敵である己が、この男と行を共にする不思議さを玉堂は思った。長江流域を舞台に波瀾万丈の大ロマン、いよいよ佳境に入る第三弾。
時代は明末の頃ー楊応龍の乱が勃発し、石〓宣撫使の馬千乗にも出兵の命が下った。文武に秀で、兵の統率力も抜きん出ている妻・秦良玉も夫の反対を押し切って参戦した。二人には、この戦いで勇戦せねばならぬ理由があったのだ。千乗の実弟・千駟が応龍の側についたがために、帝室の疑いを招く恐れがあるからであった。激戦の末、千駟は実兄の手に掛かり、応龍も戦死、無事鎮圧となったのだが…。中国歴史長篇。