著者 : 大岡昇平
レイテ島の土はその声を聞こうとする者には聞える声で、語り続けているのであるー八万の兵力を投じながら、生還者は僅かに二五〇〇人。太平洋戦争最悪の戦場を鎮魂の祈りを込めて描きつくす。巻末に「連載後記」、エッセイ「『レイテ戦記』を直す」を付す。
米軍のオルモック逆上陸に壊滅状態に陥りながら、自活自戦を続ける日本軍。昭和十九年十二月二十六日、マッカーサー大将がレイテ戦終結を宣言するも、司令官山下奉文大将の訓示「生ノ難キニ耐エカチテ永久抗戦」が届く。大西巨人との対談「戦争・文学・人間」を巻末に収録。
昭和十九年十一月、レイテ島最大の激戦地となるリモン峠での死闘が始まった。現地の苦戦に武藤方面軍参謀長は打切りを意見具申するが、八日の総理大臣小磯国昭の天王山発言により、レイテ戦続行は大本営方針となる。巻末にインタビュー「『レイテ戦記』を語る」(聞き手・古屋健三)を収録。(全四巻)
戦争は勝ったか、負けたかというチャンバラではなく、その全体にわれわれの社会と同じような原理が働いているー。太平洋戦争の天王山・レイテ島での死闘を、厖大な資料を駆使して再現した戦記文学の金字塔。毎日芸術賞受賞作。巻末に講演「『レイテ戦記』の意図」を付す。
雑誌『群像』は1946年10月号を創刊号とし、2016年10月号で創刊70年を迎えました。これを記念し、永久保存版と銘打って発売された号には戦後を代表する短篇として54作品が収録され、大きな話題を呼びました。このたびそれを文庫三分冊とし、さらに多くの読者にお届けいたします。 1946年10月号を創刊号とし、2016年10月号で創刊70年を迎えた文芸誌「群像」。 創刊70周年記念に永久保存版と銘打って発売された号には戦後を代表する短篇として54作品が収録され大きな話題を呼び、即完売となった。このたびそれを文庫三分冊とし、さらに多くの読者にお届けいたします。第一弾は敗戦直後から60年安保、高度成長期にいたる時期の18篇を収録。 岬にての物語 三島由紀夫 トカトントン 太宰治 鎮魂歌 原民喜 ユー・アー・ヘヴィ 大岡昇平 悪い仲間 安岡章太郎 プールサイド小景 庄野潤三 焔の中 吉行淳之介 家のいのち 円地文子 火の魚 室生犀星 離脱 島尾敏雄 囚人 倉橋由美子 リー兄さん 正宗白鳥 水 佐多稲子 気違ひマリア 森茉莉 妖術的過去 深沢七郎 懐中時計 小沼丹 骨の肉 河野多惠子 蘭を焼く 瀬戸内晴美
1961年7月2日、神奈川県の山林から女性の刺殺体が発見される。被害者は地元で飲食店を経営していた若い女性。翌日、警察は自動車工場で働く19歳の少年を殺人及び死体遺棄の容疑で逮捕する。--最初はどこにでもある、ありふれた殺人のように思われた。しかし、公判が進むにつれて、意外な事実が明らかになっていく。果たして、人々は唯一の真実に到達できるのか? 戦後日本文学の重鎮が圧倒的な筆致で描破した不朽の裁判小説。第31回日本推理作家協会賞に輝く名作が、最終稿を元に校訂を施した決定版にて甦る。
徹底した史料博捜と批判精神、史実にのみ忠実であろうとする厳しい姿勢…。『レイテ戦記』の作者が切り拓いた歴史小説の新境地。「吉村虎太郎」「姉小路暗殺」ほか長篇『天誅組』へと連なる佳篇、「高杉晋作」「竜馬殺し」など幕末維新期を舞台にした作品群、さらに「将門記」「渡辺崋山」まで網羅した短篇集。
十七歳の美少女アデイラは二十歳も年上の商人バートレットと結婚した。しかし、彼女が二十七歳の頃、夫に紹介された美男の牧師と愛し合うようになる。ある日、夫が急死するという事件が起る。検視の結果、死因はクロロホルムによるものと判明した。事件の発生から捜査、起訴、法廷、陪審制による判決までを克明に追及し、謎に満ちた人間ドラマを描いた表題作「無罪」。戦後文学の巨人・大岡昇平は、推理作家協会賞を受賞した『事件』以外にもこんなミステリの名作を残していた。英米の不可解な殺人事件の裁判記録を読みこみ、見事に小説化した傑作十三篇を収録する。
その執拗なまでの観察眼で対象に肉迫する作家・大岡昇平の散文精神は、愛好した推理小説を実践する際にも、その威力を遺憾なく発揮した。ここに収めた初期ミステリの代表作九篇も安易な解決を望むことなく犯人を追う。海外で実際に起きた事件や題材も採り入れながら大胆に展開される。本格的な傑作選。
女の盛りを過ぎようとしていたホステス葉子は、大学教師松崎との愛人生活に終止符を打ち、古巣の銀座のバーに戻った。無垢なこころを持ちながら、遊戯のように次々と空しい恋愛を繰り返し、やがて睡眠薬自殺を遂げる。-その桜花の幻のようにはかない生に捧げられた鎮魂の曲。実在の人物をモデルとして、抑制の効いた筆致によって、純粋なロマネスクの結構に仕立てた現代文学屈指の名作。
太平洋戦争中、フィリピンの山中でアメリカ兵を目前にした私が「射たなかった」のはなぜだったのか。自らの体験を精緻で徹底的な自己検証で追う『捉まるまで』。死んだ戦友の靴をはかざるをえない事実を見すえる表題作『靴の話』など6編を収録。戦争の中での個人とは何か。戦場における人間の可能性を問う戦争小説集。
事実を出来る限り正確に再現する…歴史を文学に昇華させる夢を紡いだ偉大な作家の渾身の遺著。慶応4年2月15日、フランス水兵と土佐藩兵の間にその事件は起った。殺されたもの、切腹したもの、死は免れたもの-非運な当事者たちを包みこむ事件の全貌を厳密正確に照らし出そうとする情熱。構想以来十年以上をかけたこの作品で、作家は歴史をみはるかす自由闊達な眼差しをと呼びかける…。
肺病でレイテ島に上陸した田村一等兵。死の予感から、島に踏み出した田村が見たものは。ミンドロ島で敗戦を迎え、米軍捕虜となった著者が、戦地と戦争の凄まじい有様を渾身の力で描き、高い評価を得た一冊。