著者 : 宮城谷昌光
文公、襄公の相次ぐ死後、覇権争いによりさらに乱れた中国・春秋時代の晋。身を呈し仕えてきた祖国・晋から離れざるを得なかった士会を、新たな時代の風が…。下級の一兵士から名宰相に上りつめた天才的な兵法家の清冽な生涯を描いた傑作歴史巨編。
中山国はこの世から消え去るのかー。隣国趙と成立した講和は一方的に破棄され、趙の苛烈な侵攻は再開した。中山国の邑は次々に落ち、そのさなか中山国王も没した。そして首都の霊寿もついに陥落する。東西の辺土を残すのみとなった祖国の存続をかけ、楽毅は機略を胸に秘め、戦火の消えぬ中山を離れ、燕へと向かった。抗い難い時代の奔流のなか、楽毅はなにを遺そうとしたのか。
ついに中山国は滅亡した。祖国を失った楽毅は趙の主父から仕官の誘いを受けたが、折しも王位の継承をめぐり趙では内戦が勃発。主父は無惨にも餓死に追い込まれた。諸国を転転とし雌伏のときを過ごしていた楽毅の前途に光明がさす。楽毅の将才を高く評価する燕の昭王が三顧の礼で迎え、大望を託そうとしていた…。三国志の諸葛孔明、劉邦らを魅了してやまなかった名将を描く歴史巨編。
古代中国の戦国期、「戦国七雄」にも数えられぬ小国、中山国宰相の嫡子として生まれた楽毅は栄華を誇る大国・斉の都で己に問う。人が見事に生きるとは、どういうことかと。諸子百家の気風に魅せられ、斉の都に学んだ青年を祖国で待ち受けていたのは、国家存立を脅かす愚昧な君主による危うい舵取りと、隣国・趙の執拗な侵略だった。才知と矜持をかけ、若き楽毅は祖国の救済を模索する。
祖国中山は自分にとって小さすぎるのかー。楽毅の憂色は濃く、深い。四度にわたる隣国・趙の侵略。宰相だった楽毅の父は自ら望んで死地へ赴き、祖国は国土の大半を失った。趙の侵略はとどまるところを知らず、戦火が絶えない。が、祖国の君臣は方策を講じず、内外で声望の高まる楽毅を疎んじ続けた。苦難の戦いを強いられた楽毅はどこに活路を見出し、いかに理想の自己を貫いたか。
羌という遊牧の民の幼い集団が殺戮をのがれて生きのびた。年かさの少年は炎の中で、父と一族の復讐をちかう。商王を殺すー。それはこの時代、だれひとり思念にさえうかばぬ企てであった。少年の名は「望」、のちに商王朝を廃滅にみちびいた男である。中国古代にあって不滅の光芒をはなつこの人物を描きだす歴史叙事詩の傑作。
妻子を得て春陰にたたずむ望の胸中には、焦燥あるばかりであった。周公を中心に諸侯は策謀しつつある。しかし独り時代の先を視る望の苛烈な生は、人知れぬ哀しみにみちていた。ひとは己れを超えねばならぬ、あたかも小魚が虹桟を渡り竜と化するように。利に争うものは敗れ、怨みに争うものは勝つ、そしてそれを超えるとは。
ひとを神々に贄として捧げる、そんないまわしい時代は去らしめねばならぬ。諸侯の協力を得て、周公を獄から救いだした望は、さらに機略を尽し周召同盟を成立させる。ここに叛意はととのった、宿望の日である。決戦の朝、牧野は清々しく晴れていた。未到の時空の光と風を甦らせる宮城谷文学の金字塔、完結篇。
両親から遠くはなれて、海辺の町に住んでみたいというおもいから、佐伯雄二は豊橋の近くにある大学へ進学。合格祝いにと父からカメラを贈られたのをきっかけに、雄二の生活は写真を中心に廻りはじめるー。中国歴史小説の旗手が爽やかに描く、青春時代の友情と恋の物語。
女あり、玉のごとしーその女人は、滑らかな手触りのいにしえの玉の燭台が乗り移ったかのような肌体の、穏やかで艶のある人妻だった。男は何年待っても、その女人を妻にしたいと願ったが…人を愛することの至上の喜びと、別離の悲しみを描く表題作。ほかに、女の真の美しさをひきだし、いつくしむ天与の指をもつ男の生涯を描いた作品など、はかなくせつなく幻想的な六篇の恋物語。
楚漢戦争とよばれた項羽と劉邦のたたかいは混乱をきわめ、臣下は主にそむき自らの利に奔ってなお不名誉とされなかった。貴族の血胤たる項羽にたいし平民出身の劉邦。しかし帝位は天が命ずるものである。本書は、覇をあらそうふたりの英傑のすがたを、友、臣、敵の眼に映ずるまま、詩情ゆたかに描いた名篇集。
馬陵の戦いで、斉は魏に大勝するが、斉王の周囲で佞臣が暗躍を強める。田嬰・田文父子は、有能な食客たちの力も使って必死に対決する。周で商人として成功し、仁愛の事業を進める白圭を訪ねた田文は、そこで哀しい美女洛芭を知る。戦国時代も半ば、次第に英傑の稟性を示しはじめた田文は27歳になった。
嘗邑を与えられた孟嘗君・田文は、「天下万民のための宰相たれ」との遺言で斉を出る。魏に乞われて宰相となり、斉にもどって宰相をつとめ、更に秦に赴くが、そこで生涯最大の危機を鶏鳴狗盗で切りぬける。激しい争乱の世と、人間を愛して生きた戦国の名宰相を描ききった、感動の歴史ロマン。
快男子風洪は学問に志し、武を捨てて商人・白圭と名告る。戦乱の国々を行き交う学者や商人たち。秦の孝公は覇道を進み、公孫鞅に厳格な法の体系をつくらせる。白圭は美しい翡媛を妻に迎え勇躍、魏に囚われた、天才軍略家孫〓@52E0@を救い出す。法に生きる冷厳な男と、侠に生きる熱い血の男の、鮮やかな対比。
望は貴門を超えるか。貴門を貴族と考えれば、それを超えるのは王侯のみである。奴隷をのぞいて、この世で最下級にいる一男子が、君主になるかもしれない。小魚が虹橋を渡って龍と化す、そんなことが千載に一度はあるかもしれない。