著者 : 庄野潤三
丘の上に二人きりで暮らす老夫婦と、子供たちやたくさんの孫、友人、近所の人たちの心温まる交流。妻の弾くピアノの練習曲、夫の吹くハーモニカの音色。孫たちが飼っている小動物、庭に来る小鳥、そして丹精されたつるばら。どこにもある家庭を描きながら、日々の生活から深い喜びを汲み取る際立った筆致。一貫して「家族」をテーマに書き続けて来た、庄野文学五十年の結実。
私と妻が暮す丘の家は、お盆になると、長男一家から預かったうさぎのミミリーと、近所の山田さんが届けてくれた鈴虫が集まり、賑やかになる。夏の終りには子供たちが妻の誕生日を祝い、そして、秋には孫の結婚式。大きなシャムパンの瓶が廻り、皆の笑顔がはじける-。移ろい行く家族の暖かな情景を日録風に綴る長編。
郊外に居を構え、孫の成長を喜び、子供達一家と共に四季折々の暦を楽しむ。友人の娘が出演する芝居に出かけ、買い物帰りの隣人に声をかけるー。家族がはらむ脆さ、危うさを見据えることから文学の世界に入った著者は、一家の暖かな日々の移りゆく情景を描くことを生涯の仕事と思い定め、金婚式を迎える夫婦の暮らしを日録風に、平易に綴っていく。しみじみとした共感を呼ぶ長編。
「貝がらを耳に当てると、海の音が聞えるの」「よく知ってるね。こんちゃんも子供のころ、貝がらを耳に当てて海の音を聞いたよ」孫娘と妻との話し声が流れてくる。もうすぐ結婚50年の年がめぐってくる…。穏やかな眼差で描くかけがえのない日々。
東京郊外に移り住んだ家族は、4年生の男の子を頭に2年生の女の子、そして幼稚園前の男の子のいる賑やかな5人家族。奔放な3人の子供達を中心に若々しい父母、近隣の人々、夕方になるとなぜか吠え出す愛犬ベルらの優しく温かな交流ー。子供達の華やぎと移りゆく自然の美しさの中に生の原風景を紡ぎ出す庄野文学の記念碑的長篇。
グリム童話が不思議に交叉する丘の上の家。“姉がひとり、弟が二人とその両親”-嫁ぐ日間近な長女を囲み、毎夜、絵合せに興じる五人ー日常の一駒一駒を、限りなく深い愛しみの心でつづる、野間文芸賞受賞の名作「絵合せ」。「丘の明り」「尺取虫」「小えびの群れ」など全十篇収録。