著者 : 村田喜代子
第二次大戦日米開戦後のアメリカ。オッペンハイマー、ノイマン、ボーア、フェルミ、若手のファインマン……。太平洋戦争の最中、世界と隔絶したニューメキシコの大地に錚々たる科学者たちが続々と集まってくる。 咸臨丸の船員だった日本人の血を受け継ぐ日系三世のアデラは両親にさえ物理学者の夫の仕事の内容を教えられず、住所を知らせることもできない。秘密裏に進む夫たちの原爆開発、施設内の犬と人間の出産ラッシュ。それと知らず家事と子育てに明け暮れる学者の妻たちの平穏な日々。 「新しい世界は神じゃなく、人の子がつくる」--”われは死なり 世界の破壊者となれり” その小さな神たちが行き場を探して右往左往している。辺りは火火火火火火、赤いものがボウボウと襲いかかる。 世界は戦さの火だらけだ。火火火火火火が荒れ狂う。小さい神々は蟹のように火火火火火火に追われて逃げ惑う。 山の神も火火火火火火、川の神も火火火火火火に包まれ、樹木の神も立ったまま火火火火火火に焼け焦げていく。 焼け滅ぼされていく。
美とおののきの短編アンソロジー。怖れと闇と懐かしさ。ムラタワールドの「短編愛」。短編はコロコロと手の上で転がしながら考える。うまく芽がでてすくすく伸びるとやがてひとつの「話」がひらく。
85歳超えの退役海女たちは、後進の若者のために潜った海の海図作成に余念がない。カジメやアワビ、海底に突き刺ささる戦時の沈没船、水産大学校出の孫や嫁からきく天皇海山列と春の七草海山……円熟した作家による老女と潜水艦の異色冒険小説。
東日本大震災の翌日、子宮体ガンの宣告を受けた「わたし」は、家族と離れ、特殊なエックス線照射治療を受ける。この治療に反対する身内、肺ガン闘病中の元同僚、放射線宿酔の夢に現れる今は亡き祖父母たち。著者の実体験をもとにした病と魂の変容をめぐる傑作長編。
認知症の母たちの目に映るのは、かつて彼女がいちばん輝いていた時代ーー。いったいどこに帰っているのかしら? 長い人生だったでしょうから、どこでしょうね。介護ホームに暮らす97歳の母・初音は結婚後、天津租界で過ごした若かりし日の記憶、幼い娘を連れた引き揚げ船での忘れがたい光景のなかに生きていた。女たちの人生に清朝最後の皇帝・溥儀と妻・婉容が交錯し、戦中戦後の日本が浮かびあがる傑作長篇。
雑誌『群像』は1946年10月号を創刊号とし、2016年10月号で創刊70年を迎えました。これを記念し、永久保存版と銘打って発売された号には戦後を代表する短篇として54作品が収録され、大きな話題を呼びました。このたびそれを文庫三分冊とし、さらに多くの読者にお届けいたします。第三弾は「平成」改元から10年、そして21世紀に入ってからの日本文学の諸相を示す18篇。 1946年10月号を創刊号とし、2016年10月号で創刊70年を迎えた文芸誌「群像」。 創刊70周年記念に永久保存版と銘打って発売された号には戦後を代表する短篇として54作品が収録され大きな話題を呼び、即完売となった。このたびそれを文庫三分冊とし、さらに多くの読者にお届けいたします第三弾は「平成」改元から10年、そして21世紀に入ってからの日本文学の諸相を示す18篇。 辻原 登「父、断章」 黒井千次「丸の内」 村田喜代子「鯉浄土」 角田光代「ロック母」 古井由吉「白暗淵」 小川洋子「ひよこトラック」 竹西寛子「五十鈴川の鴨」 堀江敏幸「方向指示」 町田 康 「ホワイトハッピー・ご覧のスポン」 松浦寿輝「川」 本谷有希子「アウトサイド」 川上未映子「お花畑自身」 長野まゆみ「45°」 筒井康隆「大盗庶幾」 津村記久子「台所の停戦」 滝口悠生「かまち」 藤野可織「アイデンティティ」 川上弘美「形見」
村田喜代子×酒井駒子「手なし娘協会」 長野まゆみ×田中健太郎「あめふらし」 松浦寿輝×及川賢治(100%オレンジ)「BB/PP」 多和田葉子×牧野千穂「ヘンゼルとグレーテル」 千早茜×宇野亞喜良「ラプンツェル」 穂村弘×ささめやゆき「赤ずきん」 6人の作家×6人の画家による夢のコラボレーション 斬新な解釈による大人のための新しいグリム童話集!
貧しさゆえ硫黄島から熊本の廓に売らた海女の娘イチ。郭の学校〈女紅場〉で読み書きを学び、娼妓としての鍛錬を詰みながら、女たちの悲哀を目の当たりにする。妊娠する者、逃亡する者、刃傷沙汰で命を落とす者や親のさらなる借金のため転売される者もいた。しかし、明治の改革の風を受け、ついに彼女たちはストライキを決意するーー過酷な運命を逞しく生きぬく遊女を描いた、読売文学賞受賞作。
敗戦の年に生を享けたヒナ子は、複雑な家庭事情のなかで祖父母のもと、焼け跡に逞しく、土筆のように育ってゆく。炎々と天を焦がす製鉄の町・北九州八幡で繰り広げられる少女の物語。自伝的小説。
東日本大震災の直後、ガンが発見された妻は、日本列島の南端で放射線治療を受ける。医療技術の恩恵と、原発事故の恐怖。地球の変動と自己の体内の異変ー表題作「光線」をはじめ、「原子海岸」「ばあば神」「楽園」など、数多くの文学賞に輝く小説の名手が、震災後の日本人の生のあり方を問い直す、傑作短篇小説集。
雨漏りのする屋根の修繕にやってきた工務店の男は永瀬といった。木訥な大男で、仕事ぶりは堅実。彼は妻の死から神経を病み、その治療として夢日記を付けている。永瀬屋根屋によれば、トレーニングによって、誰でも自在に夢を見ることができるという。「奥さんが上手に夢を見ることが出来るごとなったら、私がそのうち素晴らしか所に案内ばしましょう」。以来、二人は夢の中で、法隆寺やフランスの大聖堂へと出かけるのだった。
土地からたちのぼる綺想、生きることのたくましさとおおらかさ。大人のユーモア漂う短篇の名手の代表作をデビュー30年を機に精選。「鍋の中」(芥川賞)、「百のトイレ」「白い山」(女流文学賞)、「真夜中の自転車」(平林たい子賞)、「蟹女」(紫式部文学賞)、「望潮」(川端康成文学賞)など、さまざまな味わいをお楽しみ下さい。
徳川の世が定まって五十年。秀吉軍に強制連行され、北九州の地に生きた朝鮮人陶工の頭領が亡くなった。すると、ゴッドマザー百婆が「クニの弔いをやるぞ」と宣言して、村中は大騒ぎに。朝鮮式と日本式がことごとくぶつかる。涙と笑いの渦の中、荒れ狂う骨肉の策謀。「哀号!」の叫びが胸に響く歴史物語の傑作。
骨董とは美か、ゲテモノか、はたまた妖怪か?古物に魅せられた3組の男女が幻のお宝を追って、九州の山里から萩、ロンドン、フィレンツェへとさすらいの旅に出た。盗掘や贋作など、なんでもアリの骨董世界に生きる人間たちの泣き笑いを、切なくおかしく描く長編小説。