著者 : 榊原晃三
『フライデーあるいは太平洋の冥界』-南海の孤島で遭難したロビンソンは、島を開拓し、食料の備蓄に努めるが、野生人フライデーの登場によってその秩序は一瞬のうちに崩壊する。文明と野蛮を双子のように描いた哲学小説。『黄金探索者』-失われた楽園を取り戻すため、父の遺した海賊の地図と暗号文を手がかりに、ぼくは終わりなき財宝探索の旅に出る。2008年ノーベル文学賞受賞作家による、魅惑に満ちた自伝的小説。
1869年、帆船チャンセラー号は、アメリカからイギリスに向けて航行中、予期せぬことから、大規模な火災を起こす。鎮火の努力もむなしく船は沈没。生き残った乗客と乗組員は筏に乗り込み、漂流を始めるが…自然の猛威、飢えと渇き、そして…。フランスの軍艦で実際に起きた事件をモデルとしつつ、極限状況における人間ドラマとして、迫真の筆致で描き尽くした傑作。
通称“のっぽ”ことエルネスティーヌがメグレに奇妙な話を持ちこんできた。金庫破りで有名な彼女の亭主がある邸宅に忍びこんだところ、女の死体に出くわしたというのだ。彼は泡を食って逃げ出し、彼女に電話でその話をしたあと、行方をくらましてしまう。メグレはさっそく件の家を訪ねる。しかし死体はなかったし、その家族は泥棒にはいられたことすら否認する…。
『O嬢の物語』の作者、ポーリーヌ・レアージュが序文を寄せた幻のエロティスム小説。デュラス、ベケット、ロブ=グリエなど、ヌーヴォー・ロマンの錚々たる作家を世に出したパリの名高い『深夜叢書』の刊行。人間存在と愛の意識が構成するイマージュを、主人と奴隷の弁証法を駆使しながら描く、あまりに甘美な寓話的幻想世界。二十世紀版サドとも言える傑作。
救国の処女ジャンヌ・ダルクを愛した善良な田舎貴族ジルは、ともに王国のために戦う。だがジャンヌが魔女として処刑されるや、ジルは悪魔へと変貌する。黒魔術に耽り、多くの子供を虐殺し、ついには自らも火刑の炎に焼かれる。フランス文壇の巨匠が史実をもとに魂の救済を描く名作。
サハラ砂漠で純朴に生きていた羊飼いの美少年が、パリでCM映画やマネキンのモデルに仕立てられていく…。移民労働者の現実を背景に、映像文化に翻弄された人間の自己回復を描く、巨匠の最高傑作。
三ページ目から、わたしは憎しみに満たされた…憎悪の奔流に溺れながらも、わたしは、この新作がニコラ・ファブリをフランスで第一級の作家に押し上げることをはっきりと予感した。彼の以前の作品と比べて、テーマは新鮮で感動的だし、文体は力強く活力がみなぎっている…復讐の成就のために、この小説の成功を利用できる、とわたしは一瞬のうちに悟った。本が凶器となる犯罪。ページに毒が塗られることもなく、ましてや鈍器として使われるわけではもちろんなく、その存在こそが凶器となる…。「エル」読者賞、ジョワンヴィル市シネレクト賞、フランス推理小説大賞受賞。
『赤い小人』、『メテオール(気象)』などの作品で知られる著者による、人生へのエスプリに満ちた短篇集。インドで迎えたクリスマスの思い出話「星に物乞いする男」、美少年との同性愛への賛歌「アフリカの情事」、レジスタンスの“闇の世界”を描いた「花火製造あるいは記念日」、天地創造の寓話「音楽とダンスの伝説」他、全20篇を収録。
外国で殺した男の形見として持ち帰った1本の手に復讐される話(「手」)、雪深い山小屋に一冬閉じこめられ、遂に発狂してしまう男(「山の宿」)、眠っている間に無意識のうちにテーブルの上の水を飲んだりする一種の「人格遊離〈ドッペルゲンガー〉」をテーマにした「オルラ」など、11篇の怪奇短篇を厳選して新訳。
顧客の預金をナチスに没収されることを恐れたドイツの老銀行家が、7億2400万マルクに上る資産を国外へ移送して自殺した。回収に躍起となったナチスは、元哲学教授で“人間狩り”の名人・レームレを雇い、大捜査網を展開。一方、銀行家の曾孫で11歳の少年トマは謎の狙撃手ミケルらに守られて、必死の逃走を始める。そんな時、クォーターマンと名乗るアメリカ人が突然現れた…。
殺された母の面影を胸に、クォーターマンと共に絶望的な逃走を試みるトマ。非情な追跡を続けながらも、少年の天才的な知性に魅かれていくレームレ。巧妙に張り巡らされた非常線をトマは突破できるか?トマに託された724の暗号とは何か?そして、クォーターマンの正体は?戦火の燃えさかるヨーロッパを舞台に繰り広げられる追跡と逃走のドラマ。異色の大型サスペンス。
作家のベルナールは、20も年の離れた青年のマルクと同棲していた。かつては、同性愛者であることは、世間の除け者として非難の対象だった。だが、今では、ライフ・スタイルの一つとして公認されている。長年、除け者として生き、そのことに衿持すら感じていたベルナールにとって、こうした風潮は喜こばしいどころか、苦々しいものだった。ところが、ある日、ベルナールがエイズ患者であることが判明し、マルクの献身的な看護が続く。しかし、新たに世間の除け者として死んでいきたいというベルナールの願いを入れたマルクは、毒薬を注射器に注入する…。