著者 : 津村記久子
それで誰かを助けられるなら、うそぐらいつく。大学のサークルを抜けたい姪のため、うその辞める理由を考えてあげたことをきっかけに、「うそ請負人」と頼みにされるようになった女性の困惑。会社の自転車置き場で、人間関係へのストレス発散のために同僚がとっていた思いがけない行動。日常の困ったことどもをやり過ごし、目の前の「今」を生き延びるための物語11篇。
四年ごとに開かれる会社の代表選挙。一回目の投票は票が散らばったため、上位二名による決選投票が行われることに。現社長でもある藍井戸氏は手堅い保守層から支持を集め、対抗馬の黄島氏は吸収合併した会社のプロパー社員のリストラ等過激なスローガンを掲げる。接戦が予想される中、両陣営共に動向を窺うのは、一回目で三位につけた緑山氏の支持者たちであった。うどんを愛する主人公たち緑山陣営へ迫ってくる運動員からの圧力、上司からの探り…。社内政治の面倒臭さをリアルにコミカルに描く。
「家出ようと思うんだけど、一緒に来る?」身勝手な親から逃れ、姉妹で生きることに決めた理佐と律。ネネのいる水車小屋で番人として働き始める青年・聡。水車小屋に現れた中学生・研司…人々が織りなす希望と再生の物語。
偶然録画していた興味のない番組、冷蔵庫内の陣地争い、貧弱な食事ばかりのSNS画面、資料室の籠城騒動ーキラキラはしていなくても、冴えない日常は、案外愛しく、悪くない。短編の名手がおくる私たちの“今”が詰まった8つの物語。
その日、丸川亮太がいつものように中学の制服に着替えて朝食をとっていると、テレビから「二つ隣の県の刑務所から女性が脱走した」という、少し前から話題になっているニュースが流れた。その逃亡犯は亮太の家の方に向かっているらしいとのことで、亮太の父親が住宅地を見張ろうと言い出した。そんな丸川家の向かいにある矢島家。小学生の姉妹と祖母・母親の四人で暮らしているが母親は留守がちで、姉のみづきが妹の面倒をみていたのだった。そしてその隣の真下家では…。
アルバイト先に忘れられた一冊の本。それは誰からもまともに取り合ってもらえなかった千春がはじめて読み通した本となった。十年後、書店員となった彼女の前に現れたのは。(『サキの忘れ物』)。前の東京オリンピック以来の来日で、十二時間待ちの展示の行列に並びはじめた主人公がその果てに出会った光景。(『行列』)。ある晩、家の鍵をなくした私は居場所を探して町内をさまようことに。一篇のなかに無数の物語が展開!(『真夜中をさまようゲームブック』)。
川端康成文学賞受賞作「給水塔と亀」収録、紫式部文学賞受賞の短編集。 筆者の卓越したユーモアと、人間観察力がいかんなく発揮された数々の短編をおさめた本作は、物語を読む楽しみを存分に味わえる充実の一冊。 楽しみにしていた初の海外旅行を前に亡くなってしまった主人公は、人に憑くスキルを手に入れ、体を乗り換えて、様々な土地を旅していくが、なぜかブラジルにたどりつき……表題作「浮遊霊ブラジル」 ドラマは毎日三本、小説は月に十冊。サッカーやツール・ド・フランスから人生相談まで、生前、虚実の物語をさんざん食い散らした「私」が落ちたのは「物語消費しすぎ地獄」。そこで課せられる世にも恐ろしい試練とは?--「地獄」 どんな土地勘のない場所でも最悪のシチュエーションでも、必ず道を尋ねられてしまうのはなぜ?--「運命」 定年を迎え、海と製麺所のある故郷に帰った男。クロスバイクを手に入れ、亀を預かり、静謐で新しい人生が始まる。--「給水塔と亀」(2013年川端康成文学賞受賞作) 【収録作】 「給水塔と亀」(「文學界」2012年3月号) 「うどん屋のジェンダー、またはコルネさん」(「文學界」2010年2月号) 「アイトール・ベラスコの新しい妻」(「新潮」2013年1月号) 「地獄」(「文學界」2014年2月号) 「運命」(「新潮」2014年6月号) 「個性」(「すばる」2014年9月号) 「浮遊霊ブラジル」(「文學界」2016年6月号)
「一日コラーゲンの抽出を見守るような仕事はありますかね?」ストレスに耐えかね前職を去った私のふざけた質問に、職安の相談員は、ありますとメガネをキラリと光らせる。隠しカメラを使った小説家の監視、巡回バスのニッチなアナウンス原稿づくり、そして ……。社会という宇宙で心震わすマニアックな仕事を巡りつつ自分の居場所を探す、共感と感動のお仕事小説。芸術選奨新人賞受賞。
奈良のカフェ「ハタナカ」でゆるやかに交差する七人の女性の日常。職場の人間関係や、睡眠障害、元彼のストーカー、娘の就活、子供がいない…人生にはままならないことが多いけれど、思わぬところで小さな僥倖に出逢うこともあるー。芥川賞受賞作『ポトスライムの舟』五年後の物語。
女性事務員ネゴロ、塾通いの小学生ヒロシ、若手サラリーマンのフカボリ。ビルの物置き場で、3人は物々交換から繋がりができる。そんなある日豪雨警報が流れー。古ぼけた雑居ビルに集う見知らぬ者同士のささやかな交わりを温かな手触りで描いた長編小説。
中学三年生のヒロシは、背は低め、勉強は苦手。唯一の取り柄の絵を描くことも、最近は情熱を失っている。クラス替えで、気になる女子と同じクラスになったはいいけれど…。自分自身の進路と人生に迷いながらも、仲良くなったクラスメイトたちに起こる事件に立ち向かう。少年の成長の日々を描く傑作青春小説。
高校生シゲルの町には、自分の体の「取られたくない」部分を工作して、神様に捧げる奇妙な祭がある。父親は不倫中、弟は不登校、母親とも不仲の閉塞した日常のなか、彼が神様に託したものとはー(「サイガサマのウィッカーマン」)。大切な誰かのために心を込めて祈ることは、こんなにも愛おしい。芥川賞作家が紡ぐ、不器用な私たちのための物語。地球の裏側に思いを馳せる「バイアブランカの地層と少女」を併録。
帆村荘六、半七、フェリシティ、明智小五郎、鬼平、三毛猫ホームズ、金田一耕助、ミス・マープル…。誰もが大好きな名探偵たちが、現代文学の名手13名の筆によって新たな息を吹き込まれた。古今東西の難事件が解決されるばかりではなく、ミステリーのあらゆる楽しみ方を存分に堪能できるアンソロジー。
「ときどき何だか恋しくなって、うっかりページをひらいてしまう」(朝吹真理子選「親友交歓」)、「悲嘆にくれながら笑い、怒りながらおどける。背反を抱え、そのまま抱きしめ続ける人」(滝口悠生選「葉」)、「儚くて、かわいくて、切実で」(西加奈子選「皮膚と心」)-三十八歳で歿した太宰の短篇を、七人の現代作家が同世代の眼で選んだ作品選。
気分屋で無気力な父親が、セキコは大嫌いだった。彼がいる家にはいたくない。塾の宿題は重く、母親はうざく、妹はテキトー。1週間以上ある長い盆休みをいったいどう過ごせばいいのか。怒れる中学3年生のひと夏を描く表題作のほか、セキコの同級生いつみの物語「サバイブ」を収録。14歳の目から見た不穏な日常から、大人と子供それぞれの事情と心情が浮かび上がる。
「コラーゲンの抽出を見守るような仕事はありますか?」燃え尽き症候群のようになって前職を辞めた30代半ばの女性が、職業安定所でそんなふざけた条件を相談員に出すと、ある、という。そして、どんな仕事にも外からははかりしれない、ちょっと不思議な未知の世界があってー1年で、5つの異なる仕事を、まるで惑星を旅するように巡っていく連作小説。