小説むすび | 著者 : 菊池光

著者 : 菊池光

悪党悪党

一年半前、ペンバートン大学の裕福な白人女子学生が殺害された事件で、凶暴な黒人少年エリスに容疑が掛けられた。州警察のミラー刑事が事件を担当し、当時次席検事だったリタ・フィオーレが新米弁護士マーシイ・ヴァンスに充分な弁護をさせず、エリスを有罪にした。そしていま、大手弁護士事務所に転職したリタが、スペンサーの事務所を訪れ、事件を調べ直してくれという。エリスの弁護人だったマーシイがいまもなお彼の無実を主張しているらしい。再調査のため現地へ赴いたスペンサーは、被害者の両親からも大学の関係者からも、もう解決した事件だからと冷たい対応を受ける。しかし調べていくうちに、被害者のボーイフレンドだった男がタフト大学テニス部主将で、両親が大金持ち、しかも初めは被害者のことを知らぬ振りをしたことから、スペンサーは疑念を抱きはじめる。どうもこの事件には複雑な背景があるようだ。一方、スペンサーは事件から手を引くよう再三脅迫を受ける。いったい誰の差し金か?そして、愛するスーザンにも自分にも警護をつけ、用心していたにもかかわらず、スペンサーはジョギング中に何者かの射撃を受け、瀕死の重傷を負ってしまう。

敵手敵手

落馬事故によって片腕となった元チャンピオン・ジョッキイ、シッド・ハレー。現在は競馬界専門の調査員となっていたが、放牧中の馬の脚を切断するという残忍な犯罪が連続して発生、かわいがっていたポニイを襲われた白血病の少女から、犯人を捜してほしいと依類される。だが、容疑者とした浮かび上がったのは、ハレー自身が犯人とは信じたくない人物だった。エリス・クイント-騎手時代のよきライヴァルで、私生活でもハレーの親友だった男。引退後は、テレビ・タレントとして国民的な人気を博し、誰からも愛される好男子だった。もちろんクイントは犯行を否定し、世間も彼が犯人とは信じなかった。かえって、恵まれているクイントを妬むあまり間違った告発をしたと、ハレーはマスコミからごうごうたる非難を浴びる。ところが、この執拗なマスコミの攻撃には、じつは裏があることが次第にあきらかになってくる…。『大穴』『利腕』につづき、不屈のヒーロー、シッド・ハレーが三度目の登場を飾る、アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞受賞作。

過ぎ去りし日々過ぎ去りし日々

ハーヴァード大学の犯罪学教授クリス・シェリダンは、同棲していた恋人グレイスと別れた後、半年間アイルランドに行き、自分のルーツを調べた。そして、自分の一族と彼女の一族とが三代前から恐るべき敵対関係にあったことを知る…。ダブリンに生まれた祖父のコン・シェリダンは向こう見ずなIRAの大尉で、「血の日曜日」事件に関わった。イギリス側の警察署を襲った際に負傷し、手当てを受けた先で知り合ったアメリカ人富豪の若い妻ハドリと激しい恋に陥ったコンは、駆け落ちを迫るが、相手のほうは夫と別れるつもりは全くない。拒絶してもしつこくつきまとうコンに呆れ返ったハドリは、イギリス側にコンを密告してしまう。IRAの活動家のなかでただ一人捕らえられたコンは、処刑される寸前に仲間の手引きで脱出に成功、ハドリの裏切りに失意を抱いたまま、アメリカへ渡る。ボストンで警察官になったコンは、敬虔な判事の娘メレンを孕ませ結婚、息子が生まれる。そして十数年後、幼女強姦殺人事件の捜査で、コンはハドリと運命的な再会をする…。1973年に『ゴッドウルフの行方』でデビューして以来26作品を発表、ボストンの私立探偵スペンサー・シリーズ等で人気を博してきたハードボイルド作家が放つ、質量ともに過去最高の野心的大作。これまでの集大成ともいうべき自伝色の濃いエンターテインメント。

歩く影歩く影

演劇好きなスーザンはボストン近郊の港町ポート・シティにある著名な地方劇団の理事をしていた。その劇団の責任者で美術監督のクリストフォラスが得体のしれぬ人影に後をつけまわされているらしいのを案じたスーザンは、スペンサーに尾行者の正体を突き止めてほしいと頼み込む。ほかならぬ恋人からの依頼にスペンサーはさっそく現地へ赴くが、町を牛耳る警察署長デスペインや、中国人ギャングたちに締め出されそうになる。そして、スーザンに誘われ一緒に観劇していた最中に、主演男優クレイグ・サンプスンが舞台上で射殺されてしまった。スペンサーは犯人をつきとめるために、劇団の関係者に聞き込みを始める。理事の一人であるリッキイ・ウーに質問すると、彼女は過敏に反応して敵意をむきだしにする。彼女は町のチャイナタウンの顔役ロニイ・ウーの妻で、スペンサーは事件の調査を強引にすすめるためにも、相棒ホークと凄腕のもと悪党ヴィニイ・モリスの協力を求めるのだった…。複雑なプロットと新たな展開でボリューム・アップした、私立探偵スペンサー・シリーズ第21作。

バビロンの影(上)バビロンの影(上)

1992年4月28日、イラクのティクリートでスナイバー・ライフルが三度火を吹いた。壇上の人影は、血煙をあげて倒れ伏した…。1991年の秋、イギリス海兵隊特殊舟艇部隊を退役し、いまは軍出身者を中心に警備会社を経営するハワードは、顧客からある建設会社社長ダーティングトンから驚くべき依頼を受けた。イラク大統領サダム・フセインの暗殺である。ハワードは実行チームの編成にかかった。アラブの専門家である部下ボーン、射撃の天才のスコットランド人マクドナルド、特殊空艇部隊出身のアッシャー、ローデシア空軍のパイロットだったデナードなど、各分野の最高の人材が集まってきた。周到な準備工作が進められ、やがてチームはさまざまな経路でサウジアラビアに集結、イラク潜入を開始する。ところが、アメリカの国家偵察局がスパイ衛星によって偶然にチームの動きを知し、追尾を開始した。はたしてフセイン暗殺計画の成否は?圧倒的なリアリティと面白さで話題をまいた、イギリスの大型新人登場。

ペイパ-・ド-ルペイパ-・ド-ル

ルイスバーグ・スクェアに豪邸を構えるボストンの名家の女主人が通り魔に殴り殺された。犯人を挙げられない警察に業を煮やした当主のラウドン・トリップは、私立探偵スペンサーを選んだ。殺された妻オリヴィアを心から愛していたラウドンの苦悩は深く、なんとしても殺人犯を捕らえ、厳罰を下したかった。だが、依頼を受けたスペンサーはしっくりしないものを感じていた。いくら家庭を大事にしていたといっても、彼らの息子や娘はなにか問題を抱え、殺された妻には夫の知らぬ秘密がありそうだった。一見非の打ちどころのない幸せな家族-、それは大いなる幻影だったのではないのか?この事件の担当刑事は恋人をエイズで失ったゲイの青年リー・ファレルだったが、スペンサーは彼の協力を得て次第に事件の背後にあるものを嗅ぎとっていく。そして、被害者オリヴィアの出身地サウス・カロライナへ赴くが、そこには彼女の出生にまつわる意外な事実と、調査を妨げようとする巨大な圧力が待ち受けていた…。シリーズ中もっともプロットに凝り、高く評価された第20作。

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