著者 : 高橋三千綱
時は幕末。越前野山土屋家中はお家騒動の気配をはらんでいた。小身の家臣の三男坊・岡和三郎は、無駄飯食いの立場だが、剣の腕には覚えがあった。ある日、藩重役から江戸での剣術修行を命じられる。しかも脱藩して密行せよ、と。大枚の路銀をせしめ、刺客に襲われるも旅立つのだった。修行人宿に泊まりつつ江戸を目指す東海道中、若き剣客を待ち受ける運命やいかに…。傑作時代小説シリーズ幕開き。
小説家・楠三十郎は『テレビ麻布』開局30周年記念のドキュメンタリー番組のレポーターとして南極に行ってほしいとのオファーを受けた。経由地、チリのプンタアレナスで、ある少女からクリスマスプレゼントとして大きな鳥かごをもらうが、中にいたのは皇帝ペンギンの雛。どうやら南極に帰してほしいということだった。そして悪戦苦闘の旅が始まったー。
婚礼直前に屋敷を逃げ出した竜子姫を助け、石川島で大捕物を仕掛けた“若様”奥山右京之介。まんまとせしめた大金を仲間に配り、風のように江戸から消えた。そして季節が秋から初冬へと移る頃、若様は姫が嫁ぐはずだった播磨国仙崎藩にフラリと姿を現す。此度の狙いはなんと、豊臣秀吉が多田銀山に隠したと伝わる四億両もの埋蔵金。仙崎藩のお家騒動に便乗し、若様は仰天の秘策を打つ。芥川賞作家、入魂の書き下ろし。
糖尿病からアルコール性肝炎。医師の禁酒勧告も知らぬ存ぜぬの作家の橋本道太郎は、80以下が正常値のγ-GTP検査の数値で、驚きの4000台をたたき出す。新聞に書いたその件で、講演、原稿依頼殺到!気を良くして、毎日4合5合と飲み続けた1年後、61歳にして「肝硬変」を宣告される。くわえて「食道がん」「胃がん」が身体に襲いかかる。彼を取り囲む献身的な妻、娘、美しき女友だち、1匹のブルドッグ…。そんな闘病中、我が身に起きた奇跡も知る。重病を宣告され狼狽しながらも、「病気」をエネルギーに変えていく自伝的小説。
とびきり強くて滅法色っぽい奥山右京之介が帰ってきた!ある夜、土手で大立ち回りをする黒づくめの美貌の女を捕えた右京之介は、訳ありと見て吉原の遊郭に閉じ込める。実はこの女、婚礼を間近に控え、屋敷から逃げ出してきた竜子姫。武芸が達者で気位の高い姫は精一杯の抵抗を試みるも、右京之介はどこ吹く風。豊富な金子と意外な人脈を駆使し、姫の背後に蠢く幕閣の闇を暴いていく。芥川賞作家、渾身の書き下ろし。
豪胆細心、あっと驚く妙計奇策。若様侍、抜け荷にからんだ悪党退治。痛快時代小説。5年振りに江戸に戻った若様右京之介は、悪党退治で危難の連続。暗闘の渦中で若様を救ける女は人妻、それは忘れ得ぬいとしい多美殿…。
都立高校2年、惣菜天ぷら屋の息子、北村章。野球部投手ではあるが、年上の証券会社OLを愛人に持ち、汗と涙の球児像とはほど遠い毎日。「青春とはセックスだ」と叫ぶノイローゼ教師、不倫の恋に懊悩する女教師など、彼を取り巻くあまりにも人間的過ぎる男、女。愛人の妊娠告白、彼を慕う女子下級生の自殺未遂、蒸発した父との再会。そして男対男の対決…。激しく流れる時の果てに彼が見たものは…。誰にでもあった、けっして美しくはなかった青春の日々を描く著者会心の一作。
家族を捨てた父の勝利をひっそりと祈る少年。偉大なる兄への畏敬の念を抱いて、最後のパットに賭ける異父弟。老ゴルファーの心に生き続ける初恋。ゴルフのさまざまなドラマの中に人間の真実の姿を描く。
再びチャンスがめぐって来る日をダッグアウトの片隅でひたすら待ち続けた九人の選手たち。人知れず練習を重ねてきたセカンド、実力がありながら監督に認められる事のなかったショート、ピッチャーから転向したサウスポーのキャッチャー。やがて再起する者、去りゆく者、球界に生きる男たちの爽やかな後ろ姿を描いて、様々な人生のあり様を浮き彫りにした珠玉の連作短編集。