著者 : 鹿島田真希
ペンネームの一部に「動物」が隠れた人気作家による、それぞれの動物をテーマとした異色の短編集。不吉とされる黒い子羊を飼う、村で唯一の託児所の物語(小川洋子「黒子羊はどこへ」)、牧場の経営者が亡くなった。犯人を推理するのは馬!?(東川篤哉「馬の耳に殺人」)、高校の新聞部の友人と共に白いカラスの謎を探っていたはずが…(似鳥鶏「蹴る鶏の夏休み」)等、バラエティに富んだ五作を収録。
水槽のあるゲイバー「Aqua」で、僕が出会った優利という美しい青年。ある日彼は、静かに語り始める。昔「Aqua」で働いていた男装した少女のことを。彼女はタマと名乗り、毎夜過激なショーを演じていたが、ある晩オーナー緑山の友人・武史にその正体を見破られてしまう。タマに一目惚れした武史は彼女を強く求め、のめり込んでいくのだがーチェルノブイリの事故で危機管理能力が壊れてしまったルームメイト・オリガと横暴な恋人・マサル、タマを虐待した“あの人”と彼女の恋人たち。タマと出会ったことで運命が変わっていく人々の話を聞いているうちに、いつしか僕もその運命の渦に巻き込まれていく。
新人作家の三崎小夜は、次回作が書けずに悩んでいた。担当編集者からの宿題は、なぜかBL小説を読むことだった。自称クリエイターの元彼。自意識過小な恋に熱き先輩。自我崩壊気味な人気漫画家。ちょっと壊れた周囲の人たちに翻弄されながら、戦う快楽に目覚めるまでの成長物語。痛快長編。
ペンネームに「動物」がひっそりと隠れた作家が紡ぐ「動物」をテーマにした物語。嵐の夜に海からやってきた羊や、男子大学生の心を惑わせる鹿、偽占い師がさがしている兎、なぜか体中が傷だらけの鶏、関西弁で事件を解決する馬など、“アニマルな作家”たちによる異色の競演。
子供の頃、家族で行った海に臨むホテル。そこは母親にとって、一族の栄華を象徴する特別な場所だった。今も過去を忘れようとしない残酷な母と弟から逃れ、太一と結婚した奈津子は、久々に思い出の地を訪ねてみる…。車椅子の夫とめぐる“失われた時”への旅を通して、家族の歴史を生き直す奈津子を描く、感動の芥川賞受賞作。
頭脳、運動、容姿、全て完璧な喜多義孝。学園のエースが恋したのは幼馴染の「可もなく不可もない」宮村奈緒。喜多の告白を拒んでいた奈緒だが、彼の孤独を知り、想いを受け入れる。二人が付き合い始めた矢先、喜多は自殺した少女の日記に精神を侵されていきー。芥川賞作家が描く、純粋ゆえに危うい青春文学。
夫婦の危機が、異様な記憶の蓋をあける時ーこの頃こういう正体不明の心の叫びをいつも抱えていた。もしノートかなにかに書き留めたら、紙全体がぎっしり字で埋まってしまって、正気の沙汰ではない恐ろしいノートができただろう(「暮れていく愛」)。芥川賞作家、衝撃の告白体小説。女子大生ミカの冒険を描く「パーティーでシシカバブ」併録。
一流ホテルの地下のバーで宿泊客たちが酒を飲む。新婚の夫婦、兄と妹、愛人たちに囲まれる退廃的な女、物欲しげな男たち。裏の林を夜毎に若い女が歌い、徘徊する。激しくぶつかり、やがて溶け合う思弁と肉体の蠢き。三部からなる表題作と、ジャズのインプロビゼーションのように美しい中篇「ブルーノート」。
建築史家の若手教授、彼に弟子入りする小説家志望の青年、教授が片思いの愛を捧げる少女、少女を残酷に支配する婚約者の美青年。現代の都市の話題の建築を舞台に、交わされる、永遠、生と死、愛、芸術を巡る会話。男と女、男と男、意表をつく展開を遂げる恋愛関係。人間が生きるための空間、建築、その新たな可能性を探し、現代の絶望に立ち向かう、若き新鋭の画期的長編。
奇蹟をめぐる5つの“聖なる愚者の物語”。“楽園”を追われた子どもたちの魂の放浪…。連載時より各紙誌で絶賛された、文芸賞作家による話題の連作小説。