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「毀すこと、それがばさら」-六波羅探題を攻め滅ぼした足利高氏(尊氏)と、政事を自らつかさどる後醍醐帝との暗闘が風雲急を告げる中、「ばさら大名」佐々木道誉は数々の狼藉を働きながら、時代を、そして尊氏の心中を読んでいた。帝が二人立つ混迷の世で、尊氏の天下獲りを支え、しかし決して同心を口にしなかった道誉が、毀そうとしたものとは…。渾身の歴史巨篇。
室町幕府の権力を二分する、足利尊氏・高師直派と尊氏の実弟直義派との抗争は、もはや避けられない情勢となった。両派と南朝を睨みながら、利害を計算し離合集散する武将たち。熾烈極まる骨肉の争いに、将軍尊氏はなぜ佐々木道誉を必要としたのか。そして、道誉は人間尊氏に何を見ていたのか。「ばさら太平記」堂々の完結。
「金と銀」「AとBの話」「友田と松永の話」を収める。天才は金、能才は銀、芸術的素質において金の青野と銀の大川。Aは善の、Bは悪の文学者。また友田と松永は西洋と東洋との対立として描かれ、常に芸術の高みをめざす人間の、内に省みて葛藤、照応する二重性に焦点をあてた作品三篇。
武家もそろそろしまいだなー幕末、京の公家達は武家の実体を知ることが急務になった。朝廷の秘命を帯びて江戸下向する公家密偵使、高野則近。従うは大坂侍百済ノ門兵衛、伊賀忍者名張ノ青不動。甲賀刺客との凄惨な血闘あり、風雅な恋あり、面白さ抜群の傑作長篇。
観音様へお参りするとパノラマや凌雲閣や花屋敷を見て、と谷崎が幼いときから親しんだ浅草、東京の大衆娯楽地として活況を呈した浅草。浅草公園に集う画家や歌唄いたちが、民衆芸術の可能性を追究して芸術論をたたかわせる。「襤褸の光」「鮫人」、随筆「浅草公園」の三篇を収める。
とうとう地鳴りに追い付かれてしまったー歯痛の錯乱が大地震の恐怖を生む「病蓐の幻想」、妖艶な女による凄絶極まる殺人劇「白昼鬼語」、美食に果てしがない谷崎的欲望を暗示する「美食倶楽部」、猿の魔力にかかった薄幸な芸者の物語「人間が猿になった話」、「魚の李太白」の五篇を収める。
玩具職人の文治郎が斬り殺され、続いて娘も惨殺された。事件の裏には、孫の徳太郎を巻き込んだ大店の跡目争いが…。玩具の犬張子に込められた孫への情愛が胸を打つ表題作ほか、「独楽と羽子板」「柿の木の下」「鯉魚の仇討」など七篇。るいと東吾、同心の畝源三郎など「かわせみ」ファミリーが大活躍する人情捕物帳。
痛切な芸術上の欲求を“西洋”そのものに求め、激しい西洋崇拝を表す「独探」、漢詩文に詠まれて以来、遊子の心になじみ深い山紫水明の地西湖を舞台にした「西湖の月」ほか、「玄弉三蔵」「ハッサン・カンの妖術」「秦淮の夜」「天鵞絨の夢」を収める異国綺談集。
博愛主義の政治という理想がはばまれる中で、聖徳太子はしだいに厭世観を募らせていた。一方、強靱な生命力を持つ推古女帝は血の怨念から大王位に固執し、蘇我馬子と組んで太子の疎外を画策する。やがて太子、女帝が逝き、大王位をめぐる確執は、山背大兄王と蝦夷が引継ぐー。上宮王家滅亡を壮大に描く長篇。
霊能者の祖母が遺した予言通りに、インドから来た青年「ハチ」と巡り会った私は、彼の「最後の恋人」になった…。運命に導かれて出会い、別れの予感の中で過ごす二人だけの時間ー求め合う魂の邂逅を描く愛の物語。
「己はいまだに自分を凡人だと思う事は出来ぬ」と自分の天才を疑い得ない「神童」の独白、「甘美にして芳烈なる芸術」を発表するまでの陰欝な青春を描く「異端者の悲しみ」ほか、「The Affair of Two Watches」「詩人のわかれ」。天才の名を恣にした谷崎自身の影を色濃くうつした名作四篇を収める。
「饒太郎」「蘿洞先生」「続蘿洞先生」「赤い屋根」「日本に於けるクリップン事件」の五篇を収める。自らマゾヒストを表明した主人公饒太郎。日本に生れたこと後悔すると言いながらも、西欧の書物から被虐の喜びを求めるひとが世界の至るところに居ることを知る。そのきわめて秘密の快楽の果ては…。
北海道、旭川。浜野清美は母子家庭に育った。いじめにあい、大人への不信も募るなか、友達の事故死を目撃したのを黙っていたことや、母の愛人から弄ばれたことなどから清美は暗く無口な子となってゆく。だが、出生の秘密とともに知った信仰心篤い叔母の自分に対する深い愛情、そして一人の少年との出会いにより、いつしか心の中に明るい光がともってゆく。…不遇な少女が、信仰に目覚め、23歳で洗礼を受けるまでの心の軌跡を綴った、三浦文学の名作。
荷風の激賞をうけ颯爽文壇に登場した谷崎。-清吉と云う若い刺青師の腕きゝがあった。彼の年来の宿願は、光輝ある美女の肌を得て、それへ己れの魂を刺り込む事であった。官能的耽美的な美の飽くなき追求を鮮烈に描く「刺青」ほか、「麒麟」「少年」「幇間」「飆風」「秘密」「悪魔」「恐怖」の七篇を収める、初期短編名作集。
烈風吹き荒ぶ中、死神の肩に乗ってピクニック気分の笑を連れ、カヌエは断崖絶壁を這い登り孤島の特別刑務所へと潜入した。爆弾魔「花屋の岬」を監獄から強奪し、特殊な能力を必要とするために相変わらず人手不足のままのフライング・サーカスへ迎えようというのだ。しかし、そこにいた岬は、女モドキに囲まれ酒池肉林の優雅な生活を送り、二度と外に出たくないとゴネるどうしようもない奴だった。おまけに宿敵クロスロードと博愛の天使がまたもや…。
トップの座を目前に住友を去った著名な経済人にして一代の歌人川田順と、短歌の弟子である若き京大教授夫人の灼熱の恋…。戦後の日本を背景に、二人の恋の道程を、繊細に、端正に、香り高く描く、昭和を代表する愛の物語。第三十回谷崎潤一郎賞受賞作。