ジャンル : 外国の小説
愛人の美しい髪の毛への妄執に囚われた男。死んだ男が年下の妻とその愛人に用意した皮肉な復讐。独房で自由と太陽を奪われた放浪者に残されたただひとつの希望。気球で超高空飛行に挑戦した二人を襲った恐怖の出来事…。人生の残酷や悲哀、運命の皮肉を短い枚数で鮮やかに描き、20世紀初めのフランスで絶大な人気を博したルヴェルの残酷コント。第一短篇集『地獄の門』収録作を中心に、新発見の単行本未収録作を加えた全36篇を新訳で刊行。
破格の世界文学 ラブレー、セルバンテス、スターンといったヨーロッパ文学の異形の系譜につらなり、シュレーゲルらドイツ・ロマン派の思考を刺激した後、現代においても『ブーローニュの森の貴婦人たち』のブレッソン、『ジャックとその主人』のクンデラといった芸術家たちを魅了しつづけてきた、ディドロ最晩年の傑作。フランス18世紀小説の白眉が、新たな訳でよみがえる。 うわべは「主人」とその従者「ジャック」のあてど知れない遍歴譚だ。旅する二人と出会う人びと、散りばめられたエロティックな小噺、首を突っ込む語り手らによる快活、怒涛の会話活劇が繰り広げられるが、とはいえその内実は、破天荒なストーリー展開、逸脱につぐ逸脱……主人はいつになったら、ジャックの恋の話を聞けるのか。「物語性」の決定的な欠如そのものが物語たりえていること、それこそがこの小説の身上だ。 運命論者ーーだとしても、人は誰しも筋書きのわからない、次の瞬間にはどちらに転ぶとも知れない曖昧な日常を生きている。ある意味ではこの酷薄きわまりない世界を、一片の悲哀を混じえることなくひたすら快活な笑いをもって描ききったこの傑作。装画はよしながふみ。
歴史に翻弄された同胞たちが発する祖国のことばが、私を揺るがす 飢餓や植民地化した故国の圧迫から逃れるように、ロシア領へ流入した数多くの朝鮮人たち。民族と歴史、強制移住と苦難・・・・・・。 著者ユン・フミョンが1990年代にカザフスタンをたびたび訪れて現地の同胞(高麗人)に会い、彼らの話に深く揺さぶられた経験をもとに執筆した李箱文学賞受賞作(1995年)を、原文と訳文両方で味わうことができる一冊。 (原題「하얀 배」) 「かつて韓半島では日本語、中央アジアではロシア語が強制された。故国は母国語を取り戻したけれど、中央アジアの高麗語は今や消え去ろうとしている。民族と言語の葛藤は続く。少年は、ヒナゲシの咲く野原で「アンニョンハシムニカ!」と叫ぶ。「アンニョン」の漢字表記は「安寧」。もとは「安寧ですか、ご無事ですか」という意味だ。あなたは、民族は、言語は、ご無事ですか(アンニョンハシムニカ)、と少年は問う。 世界で民族と言語、アイデンティティの関係がますます複雑化している今、少年の故国、さらに東方の島国に生きる者たちにも、その問いは投げかけられているのではないだろうか」 ーー訳者解説より 【韓国文学ショートショート きむ ふなセレクション】 翻訳家きむ ふなが今お勧めする作家の深い余韻と新たな発見を感じさせる短編を、日本語と韓国語の2言語で紹介するシリーズ。 韓国語の朗読をYouTubeで配信中。 CUON YouTube チャンネル https://www.youtube.com/user/cuonbooks ー「白い船」邦訳 ー 訳者解説 ー 原文「하얀 배」
韓国SF 注目の作家ファン・モガ 第4回韓国科学文学賞(中短編部門)大賞受賞作 待望の邦訳。 映画化も進行中! 仮想現実空間内で他人の記憶データが売買される「モーメント・アーケード」。自分の惨めな人生と向き合いたくなかった「私」は、アーケードで他人の記憶に夢中になり、かつて誰かが感じた瞬間(モーメント)を手当り次第に疑似体験していた。 ある日「オススメ」に上がってきて何かに引き寄せられるように購入した「あなた」のモーメント。 その記憶と感覚が、次第に「私」を目覚めさせていくーー。 2021年に第8回韓国SFアワード優秀賞を受賞するなど今注目の作家ファン・モガの短編を、原文と邦訳で楽しむことができる一冊。 【韓国文学ショートショート きむ ふなセレクション】 翻訳家きむ ふなが今お勧めする作家の深い余韻と新たな発見を感じさせる短編を、日本語と韓国語の2言語で紹介するシリーズ。 韓国語の朗読をYouTubeで配信中。 CUON YouTube チャンネル https://www.youtube.com/user/cuonbooks ー「モーメント・アーケード」邦訳 ー 訳者解説 ー 原文「모멘트 아케이드」
1930年代、ソウル近郊の村。少年ノマと、その友だちトルトリ、ヨンイ、そしてキドンイが繰り広げる日常の物語。貧しくも、心豊かな子ども時代。どこか懐かしい気持ちになる、大人のための童話集。 ノマはいたずら好きでやんちゃな五、六歳くらいの男の子だ。ノマは次々に遊びをみつけては仲間を引っぱっていく。おもちゃがなくてもボール紙を切り抜いて汽車や小犬を作り出す創意工夫のできる賢さもそなえている。大好きなお母さんのお使いをしたり、友だちが誘いに来てもがまんしてお手伝いをする優しい子でもある。 路地で遊ぶノマやトルトリやヨンイの家の暮らし向きはゴムの靴一つ新調するのも困難なほどで、それに比べるとキドンイの家は裕福で(…)それでも「ウサギと自動車」に見るように、いつしかキドンイも仲間に入っていっしょに遊ぶようになる。ひとりでに解決する子どもの世界に、読者はほっと心の温まる思いがするのではなかろうか。--「訳者解説」より 序にかえてーーノマってだあれ? 牧瀬暁子 1 ぼくが一番だ 2 水鉄砲 3 トウモロコシのポン菓子 4 電車ごっこ 5 お米屋さん 6 はだしになって行きます 7 コオロギ 8 ケンカ 9 ブドウとビー玉 10 女の子のコムシン 11 ふたりだけの秘密 12 いくらやってもきりがない 13 みんな、風の子 14 汽車とブタ 15 あんたとなんか、遊ばない 16 ノマの勇気 17 小さな発明家 18 自慢くらべ 19 いかけ屋のおじいさん 20 ネコ 21 コムシン 22 小さな母さん 23 ウサギの三きょうだい 24 ウサギと自動車 25 子犬 26 大きな決意 27 短篇小説 ヒキガエルが呑んだお金 訳者解説 初出一覧 訳者あとがき
こんな時代には心あたたまる本を読みたい。ハッピーエンドの恋物語7篇。でも、O・ヘンリーだから、ひと味ちがう。O・ヘンリー生誕160年に再びおくる名翻訳者・常盤新平最後の翻訳書。本邦初訳「牧場のマダム・ボーピープ」収載。
その女はずっと自分と闘ってきた。記憶を失った一人の女。その波乱の人生の秘密が明かされたとき、浮かび上がる「人が生きる意味」とはー。中国本国で発禁処分、『武漢日記』著者による傑作長編。第3回路遙文学大賞(中国の民間による文学賞)受賞。アジア文学賞2020(フランス・ギメ東洋美術館主催)受賞。
チベットの現代作家たちが描く、 現実と非現実が交錯する物語 伝統的な口承文学や、仏教、民間信仰を背景としつつ、 いまチベットに住む人々の生活や世界観が描かれた物語は、 読む者を摩訶不思議な世界に誘うーー 時代も、現実と異界も、生と死も、人間/動物/妖怪・鬼・魔物・神の境界も超える、 13の短編を掲載した日本独自のアンソロジー まえがき 三浦順子 1 まぼろしを見る 人殺し/ツェリン・ノルブ カタカタカタ/ツェラン・トンドゥプ 三代の夢/タクブンジャ 赤髪の怨霊/リクデン・ジャンツォ 解説 海老原志穂 2 異界/境界を超える 屍鬼物語・銃/ペマ・ツェテン 閻魔への訴え/エ・ニマ・ツェリン 犬になった男/エ・ニマ・ツェリン 羊のひとりごと/ランダ 一九八六年の雨合羽/ゴメ・ツェラン・タシ 解説 三浦順子 3 現実と非現実のあいだ 神降ろしは悪魔憑き/ツェラン・トンドゥプ 子猫の足跡/レーコル ごみ/ツェワン・ナムジャ 一脚鬼カント/ランダ 解説 星泉 おわりに 星泉
日本と朝鮮、戦時下における文化「協力」 〈内鮮一体〉の掛け声のもと一度は手を取り合いながら、戦後には否認された数々の経験と記憶。忘れ去られたその歴史を掘り起こし、「協力vs抵抗」では捉えきれない朝鮮人作家たちの微細な情動に目を凝らす。日本と朝鮮半島に共有された植民地近代という複雑な体験がもたらす難問に挑み、ポストコロニアル研究に新たな光を当てる画期作。 「本書で論じられるのは、「韓国(朝鮮)と日本の近代史において親しく分有され、しかし否認されてきた植民地的過去と、アジア・太平洋地域において争われているその遺産の広範な意味」である。植民地末期に活躍した金史良(キムサリャン)、張赫宙(チャンヒョクチュ)、姜敬愛(カンギョンエ)ら植民地朝鮮出身作家とその作品は、日本帝国の崩壊後、日本では忘却もしくは周縁化され、韓国と北朝鮮では対日協力と抵抗の二分法的論理に基づいて分類・評価されてきた。クォンは、これらの作品がーー植民地期からポストコロニアル期にかけてーー生産/翻訳/消費されるプロセスを徹底して追跡することによって、記憶の抹消や固定的な二分法を乗り越え、コロニアルな近代経験が孕む難問(コナンドラム)を明るみに出していく。」(訳者あとがきより) 日本語版への序文 謝辞 第1章 植民地近代性(コロニアル・モダニティ)と表象の難問(コナンドラム) 第2章 朝鮮文学を翻訳する 転換期と危機 朝鮮文学とは何か 植民地文学、国民文学、世界文学を議論する 朝鮮文学の歴史を構築する 第3章 マイナー・ライター 言語的な故郷喪失 一九四〇年の芥川賞 植民化された私小説 純文学の驕り 第4章 光の中に 手紙の交換 「光の中に」 非家庭的な家庭 解体する形式 未決の結末 第5章 コロニアル・アブジェクト (自己)反省的なパロディ 植民地のモダンボーイ(モー鮮人) 植民地のモダンガール 討論:国民文学の再構築 第6章 コロニアル・キッチュを演じる 〈春香伝〉の語り直し 植民地ノスタルジアと帝国ノスタルジアのはざまで 民族的伝統としての春香物語(「春香伝」) コロニアル・キッチュとしての「春香伝」 村山知義と張赫宙 「朝鮮らしさ」の翻訳 植民地の言語と翻訳(不)可能性 植民地朝鮮での座談会 「帰郷」という問題 第7章 トランスコロニアルな座談会を盗み聞きする 日本における座談会の登場 座談会を盗み聞きする 座談会「朝鮮文化の将来」 コロニアルな他者を検閲する 第8章 地方への転回 植民地から地方へ 帝国のはざまの朝鮮 帝国のマスメディアと循環する地方 植民地コレクション 第9章 満洲の記憶を忘却する 植民地の真相のパラドックス 阿片の密売 コロニアル・リアリズムのポストコロニアル体制 第10章 ポストコロニアリティの逆説 ポストコロニアル・ノスタルジア 帝国の三角関係 帝国を否認する アジアにおけるポストコロニアリティはいつなのか 冷戦とポスト冷戦のパラドクス べつの手段による帝国 訳者あとがき 人名索引
これは茶色のめんどりが、王子さまに 恋をした物語。かなわぬと知りつつも。 孤児のニーナはイザボー王女に引き取られ、長年仕えてきた。 しかしある夜、神のような容姿を持つゼウス王太子の甘い言葉と まばゆい笑顔を愛と信じ、彼に清らかな身を任せた。 直後パパラッチが現れ、ゼウスが王女との婚約を破棄するために 自分を利用したのだと知って、ニーナは愕然とする。 数カ月後、彼女は妊娠したことに気づくが、仕事は解雇され、 国からは追放されていたので無一文というありさまだった。 最後の手段として、ニーナはゼウスの王宮を訪ねた。 まさか王太子が、彼女のような平民との結婚を望むとも知らず。 激しく切ないストーリーで読者の心を揺さぶってやまないC・クルーズの、おとぎばなしをモチーフとした一作です。全能神の名を持つヒーローの、まさに神のごとき魅力にはヒロインだけでなく、読者のみなさまも虜になること間違いなし! ぜひご一読ください。
夢の一夜を過ごした2カ月後、彼女は泣いた。 彼の正体と双子の妊娠が判明したことで。 ロザンナは、両親が内装を手がけたビルの開業記念パーティで、 ブロンズ色の肌の警備員らしきスーツ姿の男性と恋におちた。 黒いブラウスとスカート姿のせいで給仕係と勘違いされても、 構わなかった。いつも体のラインを隠す服を両親に着せられ、 恋に臆病な彼女だったが、彼に純潔を捧げて幸せだった。 夜闇が背骨の曲がる病も手術痕も隠してくれたから……。 そして互いに名も知らぬまま別れた2カ月後の、偶然の再会ーー 彼こそあのビルのオーナー、実業家のレオ・キャッスルだった! 衝撃のあまり倒れたロザンナは、彼の手で病院に運ばれた。 「ご懐妊、おめでとうございます。しかも双子です」 医師の診断に呆然とする彼女に、結婚を申し込むレオ。愛のない結婚でも、彼と一緒になりたいーー私の背中の醜い傷にキスしてくれた人だから。それでも本当の愛がほしいロザンナはためらい……。
もう恋人のふりはできない。 愚かにも彼を愛してしまったから。 住み込みで美容室の下働きをしている施設育ちのメアリーは、 誕生日の夜、店長に命じられ顧客とのディナーに送りだされた。 そこは商談の席で、彼女はまるでデート嬢のように扱われ、 ショックを受けるが、その様子を商談相手のギリシア富豪、 コスタは見逃さなかった。彼女をバーへ誘い、身の上話を聞き、 誕生日を祝ってくれたのだ。メアリーは涙を浮かべて感激した。 こんな素敵な男性が、私の恋人だったら……。 数日後、彼から多額の報酬とともに、週末の3日間だけ 恋人として同行してほしいと頼まれ、メアリーは仰天する。 養護施設で育ち、これまで誰からも誕生日を祝ってもらったことがないヒロイン。ヒーローと一緒に迎えた21歳の誕生日は、何にも代えがたい特別な思い出となりました。週末の恋人契約を通して、彼への想いが愛なのだと初めて気づくヒロインですが……。
この結婚は赤ちゃんのため。 なのに、あなたを愛してしまったの……。 なんてカリスマ性にあふれた人なのかしら! 世界的実業家マノロ・デル・グアルドの屋敷を仕事で訪れ、 アリアンは颯爽と現れた長身で黒髪の彼にひと目で魅了された。 妻を亡くしてまもない彼は、赤ん坊が泣くたび中座した。 生後半年の幼い娘がなつかず、ナニーが辞めてしまったという。 その夜ーー。屋敷に響き渡る赤ん坊の激しい泣き声が心配で、 アリアンは声を頼りに子供部屋へ向かい、懸命にあやした。 アリアンの腕の中で安らかな寝息をたてはじめた娘を見て、 部屋に入ってきたマノロが驚くべき提案をする。 「このまま屋敷に残って、娘の面倒を見てくれないか」 便宜結婚の謝礼は年200万ドル! 子供好きな母性あふれる心優しきヒロインが、魅惑的なスペイン富豪の主に見初められる、大人気テーマ“ナニー”の物語です。
ペトラは疎遠の祖父が勝手に縁談を進めていることを知った。相手はシーク・ラシードという見も知らぬ男性だという。祖父はわたしをビジネスの道具として利用するつもりなんだわ…。結婚するなら愛し愛されたいと願うペトラはある計画を思いつく。プレイボーイと噂のブレイズに、誘惑するふりをしてほしいと頼み、あえて自分の評判を落として、意に染まぬ縁談を壊すのだ。ブレイズに話を持ちかけると、理由を話すのが条件だと言われ、ペトラはすべてを洗いざらい話した。「交渉成立だ」彼はそう告げると、いきなり彼女の唇を奪った!ペトラは夢にも思わずにいたー彼こそがじつはシーク・ラシードとは。
男性が怖い。肌を重ねずにすむならと 受け入れた婚約だったけれど……。 時は1813年。“壁の花”“氷のレディ”と陰口をたたかれている 伯爵の娘レジーナは、許婚との結婚式に臨もうとしていた。 男性恐怖症に悩まされる彼女が、親の決めたこの婚約を受け入れたのは、 当面は形だけの結婚で床入りの必要はないと許婚に言われたからだ。 ところが式の当日、祭壇の前に許婚は姿を現さなかった。 置き去りにされた花嫁として世間の白い目に耐える覚悟をしかけたとき、 彼女の前に現れたのは、ハンサムなキャムフォード子爵ダルトンーー 7年前に一度だけ会ったことがある、許婚の親友だった。 彼は驚きざわめく参列者たちを尻目にレジーナを連れ出すと、言った。 「私と結婚してほしい。でも、君を誘惑しないという約束はできない」 端整な顔立ちで頼りがいのある子爵と、かつては天真爛漫だったのに今は壁の花と化した伯爵令嬢の切なくも美しい恋物語。開くことをやめてしまったつぼみのようなヒロインの心を、子爵はどう溶かすのでしょうか? 日本デビュー作『領主様の家庭教師』の関連作。
“下っ端の少年”に扮した娘は、 切ない恋心までは隠しきれなくて……。 荘園の娘エリザベスは独り、必死に宮廷を目指していた。 父の急死につけこんで結婚を迫る不気味な婚約者から逃れるには、 名付け親である女王陛下に助けを求めるしかないのだ。 その途中、彼女は宮廷道化師のタールトンと巡りあった。 まさに水も滴るいい男といった風情の彼は、美しい歌声に、 陽気な性格、そして鋭い頭脳を持つ魅力あふれる人物だった。 心細かったエリザベスが思わず宮廷までの護衛を頼むと、 彼は追っ手の目をくらますため、弟子になりすますよう彼女に提案した。 戸惑うエリザベスだったが、美しい金髪を切り捨て、少年を装ったーー 厳しくも優しいタールトンを、愛してしまうことになるとも知らず。 男性的、そして人間的魅力を放つヒーローが印象深い伝説的名作! いかにも世事に通じた不埒者の雰囲気を醸すヒーローに対し、慣れない男装から始まり、初めてづくしの旅路に健気に耐えるヒロイン。読みどころ満載の本作は、最後の最後まで飽きさせない展開です。
2年ぶりに再会した夫は、まだ知らない。 あのとき失ったはずの子が生まれたことを。 イギリスの田舎で小さな花屋を営むジェマイマは、ある日、 見覚えのある高級車が店の前に止まっているのに気づいて青ざめた。 別居中の夫、アレハンドロ──ついに彼がやってきた! 伯爵の彼とは出逢ったとたん恋に落ちて結婚し、 スペインの城へと移り住んだものの、彼の情熱は日ごと失われた。 不運な流産を機に、アレハンドロのベッドからも追い払われ、 2年前、ジェマイマは泣く泣く家を出たのだった。 警戒心をあらわにする彼女に、アレハンドロが傲慢に言い放った。 「僕を裏切った女と離婚するために来た」 皮肉ね。あのとき失ったはずの子がじつは生まれたというのに……。 愛し合って結婚したけれど、ボタンの掛け違いで遠い存在になってしまった二人。アレハンドロと思いがけず再会し、もう黙ってはいられないと、ジェマイマは子どもが生まれたことを告げます。しかし夫は我が子と信じてはくれず、彼女は屈辱を味わうのでした……。
どんなに望んでも、この恋は叶わない。 私は愛人にさえふさわしくないのだから。 両親の愛を知らずに育ったステンドグラス作家のインディゴ。 あるとき仕事先で、さる公国の皇太子ロレンツォと知り合い、 幼いころの境遇が自分と似ている彼に強く惹かれた。 しかし、来月、新しく王になるロレンツォは、 王侯貴族の女性と結婚する必要があった。 彼との未来を思い描いたところで、それは永遠に訪れない。 でも、せめて今だけは愛を分かち合いたい……。 切に願ったインディゴは、彼と期限つきの契りを結んだ。 やがてロレンツォが帰国し、愛を失った彼女はつらくてたまらなかった。 そのうえ、結ばれるはずのない彼の子を、おなかに宿していたーー すでに心から愛してしまったロレンツォと別れ、喪失感に苛まれるインディゴ。しかしそこへ、なんと彼から戴冠式の記念に宮殿にステンドグラスを作ってほしいという依頼が舞い込みます。思いがけぬ再会を果たしますが、彼女はおなかの子のことを言いだせず……。