出版社 : 小学館
1957年に発表された単行本デビュー作品。大学在学中に結婚し、夫の赴任地・北京で生活。子どもにも恵まれたが、帰国後に夫と子を残して家を出たというドラマチックな前半生が、9篇の短編に凝縮されている。佐藤春夫、井伏鱒二、三島由紀夫に絶賛され第3回新潮社同人雑誌賞を受賞した「女子大生・曲愛玲」、お産と子どもに関する記憶をたどる「訶利帝母」(鬼子母神)、教育勅語や結婚という呪縛から抜け出し「基礎工事が不完全であろうとも、乏しい資材を駆使して、わたしはわたしの力を振り絞り、じぶんの文学をうちたてたいと思うのだ。」と、この世界で生きていく意気込みを語る表題作「白い手袋の記憶」など、みずみずしい感性で描かれた作品集。
火付けの真相を追ったまま、行方知れずになっている岡っ引きの父・利助を探す娘のおまき。おまきを手助けする材木問屋の息子・亀吉、目の見えない少年・要、そして臨時廻り同心の飯倉。手がかりは漆で塗られた謎の蓋のみ。器の身はどこにあるのか?いったいどんな器なのか?もつれた糸がほどけずに.四人が焦るあの日、大川に若い男の土左衛門が揚がったという。袂から見つかったのは漆塗りの容れ物。だが、妙なことに蓋と身が取り違えられていた。身元は薬種問屋相模屋の跡取り息子・藤一郎で、のちに利助の遺した蓋と藤一郎が遺した容れ物は一対だったと判る。利助と藤一郎とを繋ぐ容れ物は果たして誰のものなのか?おまきと三人は新たな手がかりを元に利助を探し出せるのか?第1回警察小説新人賞受賞作!
二十歳前後の逍遙と懊悩を切れ味のいい文章で綴る。-私達は金輪際あきらめなかった。事は夜間学部学生の面目に関する問題だ。かりに、帝国大学を卒業しなくったって、帝国大学の池の鯉はどうしても釣り上げてみたいものである。-東京大学の仲間たちと、勝手気ままな共同生活をしていた“私”。卒業しても定職に就くのはイヤで、ツテをたどりつつ満州暮らしを続けていた。なんとか生活を安定させようと、彼の地の女性との婚姻を画策するが、うまく事は運ばず…。著者が世に出るまでの物理的、精神的な放浪を綴った本編と、「書いて、喰って、支払をするより外にはない」と腹をくくった経緯を記す「放浪無慙」(「あとがき」に代えて)を収録。
町の名士と日蔭者の子の愛と葛藤を描く --自分のいう血のこわさとは、日蔭者の子とその父、というこの血の関係のこわさなのだ。この血ゆえに、かつては全力をあげて拒否しようとした存在を、いまはかえってその血ゆえに、“父なるもの”としてわがふところに受容しようとしている。-- 医者であり町の名士である高峰好之と、その愛人のあいだに生まれた伊作。好之の死後、伊作たちは高峰家とは疎遠な状態だったが、85歳になる母が、父のさみしそうな様子を夢に見るというので、父の墓に参り、その足跡を調べることに。その作業は、恨みに思っていた父と、あらためて向き合うことも意味していた……。 第28回読売文学賞に輝いた傑作私小説。
新橋署生活安全課の刑事・天木淳は洋上風力発電の最新技術データが、業界トップメーカーから、ライバル社に流出していることを知る。内偵捜査を始めると、鍵を握る人物が、大学時代の友人であることがわかった。卒業して二十年、まったく違う道を歩いていたふたりの運命がいま交錯する。
酒呑童子を倒したリオたちは、それぞれ力不足を実感していた。サージスは刀の修行、シャルはスキルのパワーアップのため旅へ出る。リオは海ダンジョンの書庫から、厄災対策に必要な本を探して複写することに。すると道中で、荷物の中に黒くて丸いドロップ品があることに気づく。トーストに載せると『小倉トースト』と名前が変化。口に運ぶと優しい甘さでとっても美味!更にはうなぎやシナモンクッキーなど、どこかで見たことのある食べ物がたくさん登場。だが、楽しいイベントの裏で忍び寄る厄災の影もー!?がんばり屋な少女の物語、第三弾!
AI研究者の南雲薫は、イラストレータの“リセ”として活躍する元恋人から依頼を受ける。銀行の頭取だった父親が亡くなり、私生児の彼女に遺されたのは、函館にある一軒の家。その家にあるはずの、父が描いた彼女のポートレイトを見つけてほしいのだという。現地に赴くと、そこはアトリエではなく“書庫”だった。南雲は学生の佐伯とともに絵を探し始める。綺麗に終われなかった恋の記憶と幾千の本が織りなす、切なくも驚きに満ちた傑作長編。
東都大学工学部の早乙女賢一教授は画期的な光量子コンピューター開発において、世界最先端の位置にいた。スーパーコンピューター開発に固執し、研究費を削る日本を見限って、シンガポールと共同開発プロジェクトを現地に立ち上げる。その計画「オペレーション・夜明け」を牽引するのは、かつて凄腕商社マンとしてアジアで活躍するも、挫折を味わった望月嘉彦。元通産審議官にして日本産業振興の裏業師と呼ばれた天童寛太郎は沈みゆく経済大国ニッポンが起死回生を遂げるためにこの計画を利用しようとしていた。早乙女教授の研究は潤沢な資金と設備によって順調に進んでいたが、世界を変えるコンピューターを巡り、大国間の謀略が始まる…。
三年ぶりの一人暮らし、調味料を厳選し、調理器具を買い足しながら、「食べること」を追究する「わたし」の27日間。おいしくってためになる、フードラブ・ストーリー。ナチュラルボーン食いしん坊の初小説!
「先生が憎い。-こんなに、わたし好きになってゐるのに、本当に解つてくれないッ。」と、花枝は、髪の乱れた額で、先方の胸倉をこづくようであつた。「そんなことがあるものか。重々、ありがたいと思つてゐる。」-小田原の物置部屋で作家活動をする竹七と、夫が書いた作品を見てもらうため、ときおり竹七の元を訪れていた花枝。うだつの上がらない初老の作家と、2人の子を持つ25歳の人妻が、いつしか互いに離れられない関係になりー。前後して発表された『抹香町』とともに著者の出世作となった、これぞ私小説といえる逸作。
「おい、日清戦争の前の年まで、今の東京都下は神奈川県だったのを知っているか。…都下という言い方、いかにも東京白人の発想だ。植民地扱いじゃないか」関東大震災後に郊外に移ってきたサラリーマン一家の子・太田久雄は、武蔵野にルーツを持つ中学時代の友人たちからそう指摘される。彼らは自らを「武蔵野インディアン」と称し、地に足がついておらず「紙とインクの世界しか知らない」都会の“白人”とは一線を画する存在だというのだー。武蔵野を題材に、都会と地方、戦前と戦後、保守と革新といった、さまざまなコントラストを見事に描出した珠玉作。
国務長官経験者にしか描けない、米国安全保障戦略の複雑な内幕!「政治と外交の舞台では、あらゆることが見た目どおりではない」当選したばかりの大統領は、予備選でライバル候補を支援してきた最大の政敵を国務長官に選んだ。新たな国務長官エレン・アダムスは、過去四年間、前政権が犯罪的な無能ぶりを発揮して合衆国を死に体にしていくのを目の当たりにしてきた。新大統領が議会で一般教書演説を始めた頃、国務省南・中央アジア局の女性職員のデスクに数字と記号だけが並んだ奇妙なメールが届く。そしてその日の深夜、ロンドンで大規模な爆破事件が起きる。翌朝、米国+英連邦4か国の諜報部門からなる“ファイブ・アイズ”の緊急会合が始まるが、そのさなか出席者の携帯電話が一斉に鳴った。次なる爆発は、パリで起こった。元アメリカ合衆国国務長官+英国推理作家協会新人賞・アガサ賞受賞作家による、先読み不能!超一級国際政治スリラー!!
口を塞がれた女性たちがペンを執り、鳥の翼のように自由に紡ぎ出した言葉の数々。女性嫌悪、家父長制、暴力、貧困、テロ、戦争、死。一日一日を生き抜くことに精一杯の彼女たちが、身の危険に晒されても表現したかった自分たちの居る残酷な世界と胸のなかで羽ばたく美しい世界。アフガニスタンの女性作家18名による23の短篇集。
ぬか床の中には、神さまが住んでいる。母を亡くした槇生は、瀬戸内海に浮かぶ小豆島のスナックで自家製のぬか漬けを振る舞う。パワフルな島の人々のやさしさに触れ、自らの心もほどかれていき…。
三浦半島の海辺の町で暮らす三浦紫郎は、早くに両親を海難事故で亡くした小学6年生。大潮の日に、ある岩に耳を近づけると、誰かがつぶやくような不思議な音が聞こえるので、紫郎は「つぶやき岩」と名付けていた。とある大潮の日、いつものように岩のつぶやきを聞いていると、岬の断崖に黒い顔をした老人が立っているのを見つけた。祖父によると、戦時中、岬には地下要塞が掘られていて、大量の金塊が隠されているという噂があり、それを探す“金塊亡者”が時折出没するらしい。紫郎は担任の小林恵子やその弟・晴雄の協力を得て岬の秘密を探ろうとするが、その矢先に晴雄が殺されかけ、恵子の自宅が荒らされる。さらに紫郎自身も、何者かに命を狙われてしまう。じつは、岩がつぶやく構造にこそ岬の秘密を解き明かす鍵があるのだが、はたして紫郎は真実に迫ることができるのかー。NHKでドラマ化もされたジュブナイル冒険小説の名作。