出版社 : 小学館
倉永晴之は南海市役所の市民相談室で働く公務員。現在の役職は主査、一般企業でいえば中間管理職の係長である。南海市は巨大ワニの化石が発見され一躍全国に名を知られることになるが、倉永の心は晴れない。市内の公園で本物のワニが泳いでいるという通報が入り現地確認に出かける。時間外の仕事を終え家に帰ると、今度は自家用車のタイヤが空気を抜かれている。そのうえ職場で上司の不祥事が発覚し、火の粉が倉永に降りかかってくる。度重なる不幸の連鎖から倉永はいかにして脱出するのか。「どろ」「かび」の作者が描いた巻き込まれ型小説の決定版。
「テツ、最後までさせてあげなくて…ごめんね」渋谷の街に現われる美しい娼婦・なぎさ。彼女を抱いた男たちは、青春時代の思い出の女性と再会する夢を見る。エリート商社マンの北沢哲也は、大学時代に組んでいたバンドの紅一点、ボーカルの真理子の死を知った。真理子はー濡れるといい声の出る歌姫だった。背筋がぞくっとするほど艶やかに、妖しく。哲也はギタリストの本条に頼まれ、演奏前に真理子を愛撫するようになる。だが彼女の本命は哲也ではなかったー。60〜70年代ロックの名曲とともに綴られる「なぎさの媚薬」シリーズ第三弾。
財団法人“日本の自然と伝統を守る会”理事長が、十津川と名乗る男に殺された?!捜査に乗り出した十津川警部は、自らの名前が騙られたことに驚き戸惑いながらも奈良県十津川村へ向った。日本一の面積をもつ村、十津川村には世界遺産に指定された熊野古道が残り、全国に知られるようになった。現地に足を踏み入れた十津川警部の前に新たな殺人事件がー。全国津々浦々を駆けめぐり事件を解決してきた名警部十津川が、その名の由来となった十津川村を巻き込んだ事件に初めて遭遇した。数ある“十津川警部シリーズ”にあってエポックとなる作品、待望の文庫化。
昭和三十年七月。夏休みのある朝、小学四年生の広之は大阪から夜逃げしてきた家の子・勝治と出会った。無邪気な少年同士の友情は、親たちの抱える複雑な情と事情に流されて、ひりひりとした痛みを帯びていく。ひと夏の体験とかつて荒くれ者だった父が酔って語る“魂の話”は、広之の心に何を刻むのかー戦争の傷跡残る和歌山を舞台に、ふたりの少年の出会いと友情、そして別れを軸に、大人たちの人情の機微と愛情を情感こめて綴った、ふたつの家族の物語。
お前んち、いっつもええ匂いするのう。おばあちゃん、夫(おじいちゃん)失踪中。お母さん、妻子ある男性を愛し、緑を出産。藍ちゃん、バツイチ(予定)、子持ち。好きになったら年齢問わず。桃ちゃん、4歳なのに、まだおっぱい吸いに来る。辰巳緑、14歳、女未満。初恋まであともう少し。
江戸寛永年間、栄華を誇った海外貿易都市・長崎に二人の大馬鹿者が生まれた。「金屋町の放蕩息子」「平戸町の悪童」と並び称されたこの二人こそ、後に史上最大の朱印船貿易家と呼ばれた末次平左衛門と、その親友、内町火消組惣頭・平尾才介だった。代官であった平左衛門の父・末次平蔵の死をきっかけに、新たな内外の脅威が長崎を襲い始める。そのとき、卓越した政治感覚と強靱な正義感を持つかつての「大馬鹿者」二人が立ち上がった。
世の中には三種類の詐欺師がいる。人を騙しその財物を奪い取る“シロサギ”。異性を餌として心と体、資産までも弄ぶ“アカサギ”。そして、シロサギとアカサギだけを餌として、カモから搾り取った金銭で肥え太った奴らの腐肉を啄む“クロサギ”。史上最凶のクロサギこと黒崎が今回餌食にするのは贈答詐欺師!一見、たわいもない仕事に思われたこの事件は、思いも寄らない凶悪事件へとつながっていたー。漫画原案者が自ら手がけた、漫画版とも映画版ともひと味違う、闇の世界に深く迫った完全オリジナル小説。
秋川藩を我がものにしようとする家老・遠藤と、宮坂涼庵・ゆみえとの戦いは続いていた。どんな病でも治療してしまうという加代様と呼ばれる女性が出現。奉行の橘弥十郎をはじめ、薬を飲んだ者が次々と中毒に罹っていくが、宮坂は、その薬の正体を見破った。そしてその薬は、ゆみえの父・山村次郎助による告白で、藩の行ってきた闇の所業と連なっていった。幕府への露見の畏れが出たとき、宮坂が取った行動とは……。書き下ろしで送る第2弾!
雀プロ、成金、僧侶、医者、愛人、弁護士、学生に警察官…。風俗営業が数多ひしめくピンクゾーンに、今夜もギャンブル好きが集まってくる。東風戦、ワレ目あり、動くカネは数億円!?命の運より博打運。カタギだってヤクザだって、いやがおうにも血が騒ぐ!殺人前科はあるものの、物腰柔らかで男前の天才勝負師「オレンプ」。そして、ギャンブルを愛してやまない面々が、痺れるような勝負の世界特有の、興奮の坩堝に引き込まれていく。阿佐田哲也のギャンブルセオリー満載の、“一話完結形”連作長編麻雀小説。
若い頃秋川藩の城勤めをしていたゆみえは、宮坂涼庵の要請で、具合の悪い藩主の跡継ぎ・松剛丸を診察するために一緒に出かけていったが、お松の方に追い返される。実は松剛丸は、毒を盛られており、その背後には藩を我がものにしようとする家老遠藤源右衛門がいた。飢えで死ぬ人間がいた当時、救荒植物の普及を目指す宮坂に共感したゆみえは、遠藤の陰謀を阻止すべくともに立ち上がったのだった。著者初めての時代小説が、いよいよ文庫化!
長崎県波切島。奈緒子はその島で、走ることが大好きな少年・雄介と出会った。しかし、船で沖へ出た日、誤って海に転落した彼女を助けようとして雄介の父が命を落とす。「父ちゃんを返せ!」雄介から詰め寄られ、奈緒子はずっと罪の意識に苦しんでいた。それから六年ー。再会した雄介は、“日本海の疾風”と呼ばれ、高校陸上界のトップランナーになっていた。雄介の走る姿を見ているだけで、奈緒子の胸は高鳴り、熱くなる。伝説の駅伝コミック『奈緒子』原作の映画を完全ノベライズ化!青春の痛みと汗をタスキにして、奈緒子と雄介、ふたりの時間が再び動き出す。
鋼次と〈いしゃ・は・くち〉を誹謗中傷する紙がばらまかれ、房楊枝が返品されてきた。おきわという女性と知り合った鋼次は、彼女に好意を抱き、その店を手伝いに出かけていく。ところが、その鋼次に身の危険が迫っていた。さらには、志保や妹のお房も狙われていく。そのすべてに、岩田屋の影があった。そして桂助は、実弟であることは伏せられたまま、将軍家定の歯の治療を、直々に行った。さらなる激動を予感させる、人気シリーズ第6弾!
「感染」「転生」に続く仙川医療ミステリー第3弾 農村風景が未だ残る関東のとある幼稚園で食中毒事件が起きた。園児の症状から、おにぎりの杜撰(ずさん)な管理による単純な食中毒だと思われたが、のちにカドミウム中毒だと判明した。安易な発表が農家の風評被害につながることを怖れた病院、保健所、警察は慎重に捜査を開始する。毒を盛ったのは一体誰か? そもそも毒はどこに潜んでいたのか……? 大ヒット『感染』『転生』の著者が贈る医療ミステリー第3弾がいよいよ登場! 善意が犯罪を加速する新感覚の展開に目が離せない!
〈あだ惚れ〉とは、むなしい恋のこと。登鯉の幼なじみの芸者ちょん太が、亡くなった花魁・髑髏太夫の男に恋心を抱く(「裾風」)。13歳の時に天狗にさらわれ戻ってきたという、国芳の女弟子芳玉。その天狗が現れたときの、芳玉の気持ち(「馬埒」)。国芳と北斎とのたった一度の邂逅(「畸人」)。夫婦にと薦められた武士をめぐる登鯉の、心の動き(「桜褪」)。高野長英の脱獄で見せた、遠山の金さんの心意気(「侠気」)。注目のシリーズ第2弾!
誰よりも美しくなりたい!と願う女性たちが集まる、青山の高級エステサロン『ヴィーナスの手』。サロン主・京子にヘッドハントされたエステティシャンの麻美は“神の手”の再来とたちまち人気を博す。ところが、かつてサロンでは“神の手”だったエステティシャンが謎の死を遂げていた。京子の夫で健康食品会社社長・安芸津と美貌の息子・柊也、麻美に嫉妬する同僚、美を競い合う客ー次第に麻美は周囲の愛僧と欲の渦に巻込まれていく。その「手」で麻美が掴み取るものは?エステ・美容業界にかかわる人間の表と裏が描かれた、ドラマチック群像ミステリー。
競輪に惚れ込んで、生きる道を変えた元バンドマン・ロッカ。非合法の世界で天下を取りたいと願う非情なノミ屋・和合。元省庁の役人・立花。出所間もない大物老ギャンブラー・鉄五郎ー。“フリーランサー”として生きる勝負師たちの壮絶な人生模様を、独特の筆致で描いた阿佐田哲也晩年の名作、長編ギャンブルロマン。ルーレット、競輪、賭けゴルフ、チンチロリン、オートレース、手ホンビキ、闘犬、ポーカー、さらには“誰が死ぬか”まで。あらゆるギャンブルが登場する。何をおいても賭け続ける男たちの、果てしなき戦いの譜。
戦国期、天下統一を目前に控えた豊臣秀吉は関東の雄・北条家に大軍を投じた。そのなかで最後まで落ちなかった支城があった。武州・忍城。周囲を湖で取り囲まれた「浮き城」の異名を持つ難攻不落の城である。秀吉方約2万の大軍を指揮した石田三成の水攻めにも屈せず、僅かの兵で抗戦した城代・成田長親は、領民たちに木偶の棒から取った「のぼう様」などと呼ばれても泰然としている御仁。城代として何ひとつふさわしい力を持たぬ、文字通りの木偶の棒であったが、外見からはおおよそ窺い知れない坂東武者としての誇りを持ち、方円の器に従う水のごとき底の知れないスケールの大きさで、人心を掌握していた。武・智・仁で統率する従来の武将とは異なる、新しい英傑像を提示したエンターテインメント小説。 カバー・イラストはオノ・ナツメ。