出版社 : 彩流社
ポルトガルの詩人、ペソア最大の傑作『不安の書』の完訳。 長年にわたり構想を練り、書きためた多くの断章的なテクストからなる魂の書。 旧版の新思索社版より断章6篇、巻末に「断章集」を増補し、装いも新たに、待望の復刊!
疎外された者の絶望と孤独を優しく照らし、 現代社会に問いかける小品集 私たちは生きるのに精一杯で、誰かの痛みに関心を持つことは難しい。でもその痛みはいつか自分に降りかかるかも知れない。困難な時代に痛みが弱者に集中せずに、分散して和らぎ健やかな社会へと向かうには、「他者」の痛みに寄り添う営みが必要だ。無関心は残酷さにも気付けないが、誰かに救われた記憶は、また誰かを救う。傷ついた記憶すべき人々を忘却から引き戻し共感へと引き寄せる、優しくも力強いこの短編たちが誰かの希望となり、強者に押し込められた孤独から、救う者と救われる者を護り照らす一筋の光になることだろう。 光の護衛 翻訳のはじまり モノとの別れ 東の伯の林 散策者の幸福 じゃあね、お姉ちゃん 時間の拒絶 ムンジュ 小さき者たちの歌 解説 彷徨う存在の記憶と光(文学評論家・韓基イク) 作家のことば 訳者あとがき
この記憶は いつまで わたしに残るのだろうか 天皇の庭師だったアリトモと、日本軍の強制収容所のトラウマを抱えるユンリン 1950年代、英国統治時代のマラヤ連邦(現マレーシア) 日本庭園「夕霧」を介して、ふたりの人生が交錯する── 同名映画『夕霧花園』【トム・リン監督/リー・シンジエ、阿部寛出演】原作 (2019年映画化、2021年7月24日、日本公開)。http://yuugiri-kaen.com/ マン・ブッカー賞最終候補に選ばれ、現代アジア文学で最も優れた小説に贈られるマン・アジア文学賞等を受賞。17ヵ国語に翻訳され、高い評価を受けている。 【あらすじ】 封印していた数々の記憶が、「夕霧」でふたたび流れ出す── 1980年代のマレーシア。 連邦裁判所判事の職を離れたテオ・ユンリンは、キャメロン高原の日本庭園「夕霧」を再訪する。 そこは、30数年前、日本庭園を愛する姉の慰霊のために、日本人庭師ナカムラ・アリトモに弟子入りした場所だった。 日本軍のマレー半島侵攻、戦後マラヤの「非常事態」を背景に、戦争で傷ついた人びとの思いが錯綜する。 夕霧花園 著者による注釈 訳注 訳者解説 訳者あとがき
農園主とその労働者たちの生きる姿を 圧倒的な筆致で描き出す名作! 舞台は1960年代スペイン。 荘園制の残り香かおるスペイン南西エストレマドゥーラの大農園で、還暦を過ぎ、 認知症を患ったアサリアスは暇を出され、義弟の家へやっかいになる。 義弟はすぐれた嗅覚をもち、主人の狩りのお供にと重宝されていたが、 ある日、事故で足を骨折してしまう。義弟のかわりにアサリアスがお供をするも、 いつもどおりとはいかない。 狩りの調子は振るわず、苛立った主人が怒りをぶつけた先は…… 第一巻 アサリアス 第二巻 ちび・パコ 第三巻 トンビちゃん 第四巻 狩猟助手 第五巻 事故 第六巻 犯罪 訳者あとがき
至急、魂を解放せよ!-音楽は人間の喜怒哀楽とは切っても切れない関係にある。楽しい時、哀しい時、人は気持ちを音楽に託す。ジャズももちろんそうである。ジャズは黒人から発生したもので、奴隷の苦しみから逃れていく“自由への讃歌”が音楽にこめられていた。つまり、魂の解放だ。ジャズがニューオーリンズで誕生してから多くのミュージシャンが「魂の解放」の音楽を時代ごとにつくりあげてきたのだ。本書では「魂の解放」「魂の叫び」をテーマとして、人生をジャズに捧げたミュージシャンたちをモデルに12篇の短編推理小説「ジャズメガネの事件簿」を掲載。ジャズ史に隠されたエピソードと謎をジャズ探偵、成瀬涼子が解き明かす。そして、モデルのミュージシャンたちに捧げられたエッセイが各小説ごとに付随されている。それらのテーマはまさにスピノザの名著「エチカ」に通じるものがある。
台湾と日本。歩行と走行。二ヶ国を行きつ戻りつ、足とスケボーを興じ分けつ、そんなササキの日常に浮かび上がる落語家志望の元台湾人留学生。病み上がりの師匠が台湾語落語を完成させれば、消えた学生求めて物語が動き始める。学生は何故に消え、何故そこにいるのか。聞こえて来たのは台湾統一地方選挙の盛り上がり。師弟の二人会は実現するのか?ドタバタでもありながら歴史を汲んで大まじめ。台湾(語も)、落語、スケボー、これらが必然に絡んだ400枚!
ベトナムで孤児であったところを拾われたマンは、育ての母に導かれ、カナダのモントリオールでベトナム料理店を営む男性と結ばれる。子供にも恵まれ、レストランも次第に繁盛して、生活は順風満帆であるように見えるが、マン自身は、常に日陰にひっそりとたたずんでいるように感情を押し殺して、どこか満たされない様子で日々を過ごしていた。しかしそんな最中、レストランの盛況とともに刊行したレシピ本の成功を機に訪れたフランスで一人のシェフと出会い、マンは、内に秘めた感情を少しずつ顕わにしてゆく…
ベストセラー小説『かがみの孤城』(辻村深月、ポプラ社、2018年本屋大賞受賞)は、学校で傷つき居場所をなくした少年少女が居場所を求めて不思議な居場所(孤城)で繰り広げる物語。大きな感動を呼んだ衝撃のラストシーンは、2017年単行本の元になったポプラ社のPR誌連載版では想定されていなかったものであり、むしろ矛盾さえするものであった。単行本への大改作を詳しく検証し、新しい結末が生まれた背景を考える。また、日本のSFアニメ史上最高傑作である『エヴァンゲリオン』シリーズと、『エヴァ』に強い影響を受けて生まれた『魔法少女まどか☆マギカ』の2作品を『かがみの孤城』の源流作品と位置づけ、パラレルワールドなどのキーワードから比較し、現実の相対化、虚構と現実の関係を問う。
いつだって、何度だって、きっと〈情熱〉は取り戻せる! 極度の人嫌いからママ友とも一切関わりをもたず、出不精で、買い物も何もかもぜ〜んぶバーチャル秘書まかせ! そんな破天荒でメチャクチャなママが、ある日、こつ然といなくなっちゃった!? シアトルの高級住宅地に暮らす専業主婦のバーナデットは、世界的IT企業で活躍する夫・エルジンと、学校では常に成績トップクラスの15歳の娘・ビーとともに、一見恵まれた日々を送っていた。かつての夢を諦めたことさえ除けば…… バーナデットのあまりに突飛な行動の数々に笑わされながら最後まで読んだ時、かつて諦めた夢への第一歩を踏み出す勇気をくれる、そんな一冊である。 2019年、ケイト・ブランシェット主演により映画が公開された(制作:アメリカ)。 原書:Where'd you go, Bernadette 1. ママvs.ブヨ軍団 2. バーナデット 過去と現在 3. 社会への脅威 4. 侵入者 5. 危機は過ぎ去った 6. 白い大陸 7. ぼくにげちゃうよ 謝辞 訳者あとがき
「チャリティ(慈悲)」と名付けられた、複雑な出自をもつ若い娘のひと夏の恋──ニューヨークの上流社会を描いた『歓楽の家』、『無垢の時代』で知られ、女性初のピューリッツァー賞を受賞したウォートン中期の名作、本邦初訳 夏 訳注 イーディス・ウォートンと脱出を夢見る異端者たちーー『夏』を中心に 訳者あとがき
漂流民・薩摩の謝五郎はマカオに定住する。阿片禍に苦しむ人びとを見て西洋列強の牙を痛感する。孤児院を設立した謝五郎は道教の道士から自己の立ち位置を悟らされた。風評、疫病、放火等多くの苦難にめげず、広州に支部設立を決意。…支配する者とされる者、欲望渦巻く都市における波瀾の人間絵巻。
「ずっとそんなふうに自分を苦しめたままでいることはできないよ──」 生きることへの深い洞察とリアリズムの融合した英国小説の真髄、新訳で登場。 【作品のあらすじ】 19世紀、大英帝国として栄華を極める前夜のイギリス田園地帯。製粉と酒造を生業とするタリヴァー家で、個性豊かな少女マギーは父と母、そして誰よりも愛する兄トムと暮らしていた。しかし穏やかで牧歌的な生活は、裁判敗訴をきっかけにした父の死により一変してしまう。父の怨敵に激烈な復讐心を燃やす兄。マギーは宿敵の息子フィリップから激しく純粋な恋情を向けられ、その心に応えたいと願いながらも、しかし兄との絆を断ち切ることはできない。追い打ちをかけるようにマギーの心は、いとこルーシーと婚約寸前の恋人スティーヴンとの狂おしい愛に揺れ動く。人として生きるのなら過去の絆を断ち切るわけにはいかない──少女マギーの葛藤が英国社会の日常を背景に辿られ、当時の知性と現実を描き出す英国小説の傑作。
架空の王国ピスエルガに仕えるラウラ・デ・ナジアンジは疲倦宮ユーセフ親王と恋仲だった。宮中ではさまざまな悪謀が渦巻き、ゴシップが囁かれる。そこにユーセフとエルジー姫の結婚の話が持ち上がってくると同時にユーセフの女ったらしぶりも明らかとなり、ラウラは遊ばれていただけであることがはっきりする。裏切られたと感じたローラは、宮廷から身を引き、修道院へ向かうことになるが…。
男は美しいひとを食べたー真実の愛ゆえに。全篇にちりばめられた、古今東西の食人にまつわる膨大な逸話。この、妖しい輝きを発する告白体の小説こそ、カニバリズム文学のイデアへの最接近を果たした奇書と呼んでも過言ではない。
『白鯨』の仏語訳者ジオノによる評伝的小説 『メルヴィルに挨拶するために Pour saluer Melville』と 『逃亡者 Le Déserteur』の舞台は外国である。 『白鯨』の作者が生まれた米国という外国、『逃亡者』ではフランス人の主人公が スイスという外国へ亡命し、そこで画家としての生涯を過ごす物語である。 『メルヴィルに挨拶するために』は『白鯨』の仏語訳をリュシアン・ジャックとともに 完成したジオノが、その序文として書いた作品である。自著の出版交渉のために訪れたロンドンの出版社はメルヴィルの条件すべてを了承した。旅の道中、二週間、メルヴィルは行き当たりばったりに歩き回るのだか、途中、偶然にもアデリーナ・ホワイトという女性と出会い、両者は互いに相手に対し、不可思議とも形容できる精神的な友情を覚える。その精神感応に満ちた神秘的な時を過ごすも、またすぐに別れることとなったメルヴィルは『白鯨』を、彼女のために全身全霊を込めて書くのだった。しかしアデリーナがその作品を読むことはついになかったのである。 作品中の作家メルヴィルのなかに、人見知りの激しい人間でありながら、機が熟すると文学に没入するというジオノ自身の性格が投入されているのである。この作品はジオノの最高傑作の一つでもある。 『逃亡者』では、主人公の画家が、それまで所属していた社会から、経緯は一切不明ではあるものの逃亡することとなり、祖国フランスからも脱出しスイスに潜入することとなる。逃亡者としての主人公を、ある地方長官が保護することとなり、生活の場と食糧が提供される。主人公は絵の才能を持ち合わせていた。彼は長官の奥さんを描くことによって感謝の気持を表現するのだった。 小説家にしても画家にしても、芸術家は世俗の富や名声とはほぼ無関係であると考えていたジオノにして作り出されたであろう作品である。事実を単になぞることが体質的にできなかったジオノは、実在の芸術家の伝記を書こうとしても、自分自身の姿をほぼ必然に作家や芸術家に投入してしまうことになるのである。
「命のビザ」を繋いだ、名も無き者たちの物語。第二次世界大戦期、アドルフ・ヒトラー率いるナチス・ドイツの迫害を受けたユダヤ人の多くは、リトアニア日本領事館駐在、杉原千畝(すぎはらちうね)領事の発給したビザに命を救われた。その大量のユダヤ難民たちがナチスの魔手から逃れ祖国を脱出し、遠く日本までたどり着くことのできた背景には、若きジャパン・ツーリスト・ビューロー(現JTB)職員たちの尽力があった。歴史の表舞台には上らなかった、しかし確かにそこにあった、ユダヤ難民救出のもう一方の真実を描く。