出版社 : 徳間書店
美しいものを生む。ただそれだけ。女性を愛し、芸術に淫しながら、生きることの重さを忘れずにいる男。美を追求し続け、闘い、ついに見出したのは…。本当の自分を知りながら、流れてゆく人間の葛藤を細やかに描き上げた逸品。名手が紡ぐ書き下ろし長篇小説。
江戸後期、弘化年間。金吾は石見国大森銀山にやって来た。大森代官・岩田鍬三郎の身辺を探るためだ。代官所の中間として働き始めた金吾だが、そこで待っていたのは銀山を支えるため懸命に生きる人々との出会い。命の危険にさらされながら間歩の中で鉱石を採掘する掘子、重い荷を運び母と妹を養う少年、世を憎み、酒浸りの日々を送る僧侶。そして彼らを慈悲深く見守る岩田…。さまざまな思いに触れ、金吾はいつしか彼らに魅せられていく。産み出された良質で大量の銀が世界経済を動かし、「銀鉱山の王国」と呼ばれた石見銀山。常に危険と隣り合わせで働く名もなき掘子たちの生きざまを活写した歴史群像。
次郎長一家に突然やって来た旅の博徒、皐月雨の晋八。森の石松を窮地から救ったのが縁で、一家に草鞋を脱ぐことになった。素性を問われても笑顔でかわすばかり。不気味だが、とにかく腕は立つ。折しも、次郎長一家は甲州の卯吉一家と抗争の真っただ中。晋八は即戦力として一家の客分となるがー。この男、なぜここまで無慈悲に人を斬れるのか?
資源探査会社に勤める郷田裕斗は、海底油田の探査のために北極の基地にいた。仲間は同僚や、アメリカ人の準石油メジャーのオブザーバー、海洋学者、そしてカナダ系イヌイットたち。ある日、北極海の水中で核実験が行われる。だが、郷田たちはまだそのことを知らず、いつの間にか孤立していたのだった。通信機器による外部との連絡は取れず、リード(氷の割れ目)は増え続け、燃料と食料も刻一刻と減る中、ついに精神に異常をきたす者まで現れて…。大国の思惑と駆け引きに巻き込まれた郷田たちは、氷の世界で生き残ることができるのか。
死刑制度の闇に挑んだ著者渾身の本格推理。堀田市で起きた幼女殺人事件「堀田事件」の犯人として死刑判決を受けた赤江修一。彼は無実を主張したが、控訴、上告とも棄却され、判決確定後、わずか二年で刑を執行された。それから六年後ー亡き赤江に代わり再審請求中の堀田事件弁護団宛に、真犯人を名乗る「山川夏夫」から手紙が届く。さらに一年後に届いた二通目の手紙の中には、犯人のものだという毛髪が入っていた。弁護団の須永英典弁護士は手紙の差出人を突き止めるべく、新聞記者の荒木らと調査を開始する。調査が進むにつれ、日本の刑事司法の根幹を揺るがす計略が浮かび上がる…。
犯罪の傍らには、鳥、蟻、魚、コウモリ、犬、プラナリアetc.生き物がいる!巧緻に練り上げた伏線と、まなざしの温かさ。長岡ワールドの魅力を堪能するミステリー八篇!盗難事件の容疑者を尋問中の刑事は、珍しい鳥の鳴き声を聞いた(『巨鳥の影』)。侵入者を殺した女性教師は正当防衛で無罪になるが…(『死んでもいいひとなんて』)。薬の誤処方で、前途を絶たれた医師の失脚に元恋人の看護師の影が(『鏡面の魚』)。浮気の証拠のスマホを持って行ったのは小学5年の義理の娘だった(『見えない牙』)ほか。
松山駅に到着した特急「しおかぜ3号」のトイレから、女性の刺殺体が発見された。被害者は竹内祐子、三十歳。お見合いパーティを主催する“ドリーミング・クラブ”の理事長だった。サクラを使ったり、ずさんな経営で会員からの文句も多く、恨んでいる者も少なくないという。何人かが容疑者として浮上するが、本命と思われた今中みゆきのアリバイを、何と十津川警部自身が証言することになったのだ…!?「海を渡る殺意ー特急しおかぜ殺人事件」等、トラベル・ミステリーの傑作四篇を収録。
賢い姉、愛らしい妹に比べて自分には何もない。夢を持てず、鹿水真瑠子は毎日をなんとなく過ごしていた。そんなある日、バイト先の掲示板で不思議な貼り紙を目にする。「磁力と健康セミナー・無料開催」。それは地獄への扉だったー。認めてほしい。ただその一心で始めただけなのに、どうしてこんなことになってしまったのだろう。マルチ商法にハマった女性の“乱高下人生”をリアルに描く、ノンストップサスペンス!
三葉雨音は他人に感情移入できない26歳。同僚星崎くんの退職を機に、仕事を辞め移動手段のないお年寄りの病院送迎や雑用をする「しごと」をはじめる。他人に関心がないのは、相手のことをわかった気になりたくないからじゃない?文芸界の注目著者が「めんどうな人」の機微を描く!
事件現場で収集した情報を解析・プロファイリングし、解決へと導く機動分析係。森口泉は機動分析係を志望していたが実技試験に失敗。しかし、係長・黒瀬の強い推薦により、無事配属されることになった。鍛えて習得した優れた記憶力を買われたものだったが、特別扱い「スペカン」だとメンバーからは揶揄されてしまう。自分の能力を最大限に発揮し、事件を解決に導くー。泉は早速当て逃げ事件の捜査を始める。そんな折、会計課の金庫から約一億円が盗まれていることが発覚した。メンバー総出で捜査を開始するが、犯行は内部の者による線が濃厚で、やがて殺人事件へと発展してしまう…。気鋭の作家が贈るノンストップ警察ミステリー。
元特捜検事・宗光彬。高度な法律関連事案の解決を請け負う彼は、裏社会で「非弁護人」と呼ばれる。ふとした経緯で、パキスタン人少年から「いなくなったクラスメイトを捜して欲しい」という依頼を受けた。失踪した少女とその家族の行方を追ううちに、底辺の元ヤクザ達とその家族を食い物にする男の存在を知る。おびただしい数の失踪者達の末路はあまりに悲惨なものだったー。非道極まる“ヤクザ喰い”を、法の名の下に裁く!!
従業員八百人の早川興業を一代で築き上げた早川卓次は、自宅の庭に蒸気機関車を一両飾るほどの熱烈なSLファンでもあった。早川は愛人で女優の榊由美子と二人で、小樽発九時五十一分の倶知安行き特別列車「C62ニセコ」に乗車した。乗車中の時刻、札幌のホテルで早川の妻が絞殺され、早川は鉄壁のアリバイを主張する。ところが、それを証言するはずの由美子が東京のTV局で殺害されたのだ…!?(「C62ニセコ」殺人事件)他、「十津川警部の標的」「十津川警部 みちのくで苦悩する」の名作三篇を収録!
母と父代わりの伯父に会わせるため、初井希美は婚約者の千住光一を待っていた。だが時間になっても現れず、彼はそのまま姿を消した。光一は限界集落をテーマにしたフォトエッセイを連載しており、ふたりは結婚後、地方移住の計画を立てていた。自宅のPCに転送された写真を手がかりに、光一の妹・美彩と足取りを追う途中、希美は光一の元交際相手・優子も失踪していることを知る。二人は一緒なのかー?悲しみと怒りを抱えつつ婚約者の足跡を追う女性がたどり着いた衝撃の真相!『白砂』の乱歩賞作家が放つ書下し社会派サスペンス。
「夢の田舎暮らし」を求めて父が突然会社を辞めた。いじめにあい登校できなくなった小学五年生の雪乃は、父とともに曾祖父母が住む長野で暮らし始める。仕事を諦めたくない母は東京に残ることになった。胸いっぱいに苦しさを抱えていても、雪乃は思いを吐き出すことができない。そんな雪乃の凍った心を溶かしてくれたのは、長野の大自然、地元の人々、同級生大輝との出会いだったー。ほんとうの自分を受け容れてくれる場所。そこを見つけるため、今いる場所に別れを告げるのは、決して逃げではない。居場所探しの物語。
万引、偽札、闇金、詐欺、誘拐、殺人。どれが一番長く刑務所に入れるの?老親の面倒を見てきた桐子は、気づけば結婚もせず、76歳になっていた。両親をおくり、わずかな年金と清掃のパートで細々と暮らしているが、貯金はない。同居していた親友のトモは病気で先に逝ってしまった。唯一の家族であり親友だったのに…。このままだと孤独死して人に迷惑をかけてしまう。絶望を抱えながら過ごしていたある日、テレビで驚きの映像が目に入る。収容された高齢受刑者が、刑務所で介護されている姿を。これだ!光明を見出した桐子は、「長く刑務所に入っていられる犯罪」を模索し始める。