出版社 : 徳間書店
日本最後の清流・四万十川とトンボ王国・中村を観光パンフレットで紹介した縁で、瓜生慎親子は土佐へと家族旅行に出かけた。久しぶりに仕事抜きの旅行とあって、気分も高揚気味だ。岡山駅で駅弁を譲ってくれた女の子・水木留美が慎のファンだったとわかり、親しくなる。彼女は四万十川に身を投げた姉の葬式のため帰郷するのだという。留美が慎たちの席へ行っていたわずかの隙に、彼女の座席は若い男の死体によって占められていた。しかもこの事件は、その後慎たちを待ち受ける新たな殺人の幕開けにすぎなかったのだ。
おれは松平利春。不幸な死体を解剖して、検死する監察医だ。熱海の知人が結婚するというので来てみれば、またしても事件が待っていた。いきなり5カ月の胎児を解剖させられたのには驚いたが、これがどうやら腹の中の子だけを狙った殺人事件。数時間後、その母親も殺され、Vというダイイング・メッセージが残された。さらに、逢初橋にV字型に吊るされた裸女の死体が発見され、その後、次々とV字に関係ある殺人が続いた。一体、犯人はどんな野郎かと、メスの先に力を入れれば-。死体たちの声なき声が聞こえてきた。
9年前行方不明になったジョニーの白骨死体が発見された。当時の走り屋集団“クリムソン・ナイツ”のヘルメットと麻薬を伴って…。その頃、ナイツの元リーダー、今は探偵稼業の南虎次郎に、由香里と名乗る女から「ジョニーの死の理由が知りたい」と電話があった。彼女は、両親に反対されながらもジョニーに結婚を迫っていたという。虎次郎は、かつてのナイツのメンバーを集め、仲間の死の真相を暴くべく立ちあがった。が、彼らを迎えたのは、族、暴力団、さらに二つの屍体であった…。情愛と打算の中で、虎次郎が見た狂気とは。
東京発〈ひかり41号〉が名古屋駅に到着した。国鉄の分割民営化を控え、新発足する中京旅客鉄道会社の検討会議に出席する要人三人を出迎えるため、駅長や助役がホームで待っていた。だが、三人は降りてこない。三人の乗車は東京で確認されている。ひかりは走り去った。名古屋駅幹部たちは恐慌をきたし、すぐ捜索願いを出した。今は亡き国鉄に哀惜の意をこめて著者が贈る長篇本格鉄道ミステリー。
古代インド。神々が住むという雪山へ旅立った若き王子・アーモンと従者・ヴァシタは、雨宿りに立寄った石小屋で、士族とおぼしき四人組の男たちに出会う。突然、何者かに追われて駆けこんできた男から、連中はラ・ホーの情報を得ようとやっきになっていた。永遠の腐老樹を手にするため、その国に潜りこもうと企んでいるようなのだ。そこから無事に戻った者は、かつていなかった。長篇怪奇冒険譚。
天皇親政の実現と鎌倉幕府打倒こそ、天の命ずる使命だとかたく覚悟されている後醍醐天皇は、日野資朝・日野俊基らと倒幕を密議されたが、正中元年、六波羅の知るところとなって事は破れた。豪宕にして英邁無比の帝は、危難に屈せず元弘元年、笠置山に挙兵されたが、雄図むなしく隠岐配流の身となられたのだった。人皇、九十六代、古今無類の英傑、苦難の生涯を描く書下し大作。
長崎を基地に海軍演習に明け暮れる勝麟太郎に、遣米の下命があった。そして米国軍艦に随従して咸臨丸で渡った異国の地は、ひたすら驚異の連続だった。麟太郎の胸底で、幕府という殻が決定的に崩れ去ったのは、この時であっただろうか。やがて帰国した麟太郎を待っていたのは桜田門外の変であり、新時代へとなだれこむ維新のうねりだった。歴史長篇完結篇。
隆盛を極める大都・長安城内から天にむけて立ちのぼる霧のような妖気を感じる一人の風来坊があった。埃まみれの胡服を身につけ、伝法な態度。炯と底光りする眼の精悍な漢。しかし、どこか貴公子の微行姿に見えなくもない。妓楼の中でも誇る紅花楼に登ると、漢は捜していた人物と対面を果した。相手は唐朝の重臣、太宗李世民の片腕として世にかくれもない諌議大夫・魏徴であった。この奇妙な取り合わせ-漢は一体何者か?そして魏徴の口から語られた恐るべき呪詛の陰謀とは?瞠目の彗星が放つ書下し傑作。
朝生萌が通う向陽学園高校でミス新入生コンテストが開催されている最中、女王有力候補の仁科瞭子が血まみれの死体で発見された。そのとき萌は瞭子の体内に乗り移る超常能力をもつことを発見し、犯人は全女性徒撞れの君で生徒会長の泉麻沙樹であることをつきとめた。彼は憑依獣パゼスをあやつるイゴーラ、その双子の弟で、誘惑者の暗号名をもつ女たらしの一員だった。彼らは〈マドンナ作戦〉を計画し都内の女高生を狩り殺害してきたが、萌が目的のマドンナであることをつきとめたのだ。焦土と化した新宿・歌舞伎町が戦場となって、最後の戦争が火ぶたを切った。
『日記』に書かれなかったアンネの真実「ドアをしめて、ドアをしめて」それがアンネの最後の言葉だった-。『アンネの日記』が最後に書かれた1944年8月1日から、ベルゲン-ベルゼン収容所での死の瞬間までの七ヵ月間を、6人の「アンネ」が証言。
ガンに冒された妻を抱えるエリート・サラリーマン今泉裕司は、社長室の上崎恒子との不倫を楽しんでいた。恒子とは山歩きの趣味もあい、次第に深みにはまっていった。やがて妻が病死し、常務から再婚話がもち上ると、邪魔になった恒子を北アルプス・常念岳に誘い出し、濃霧の中、谷底に突き落したのだ。そして、今泉の結婚式当日、殺したはずの恒子から、祝電が届いた…。会心の長篇山岳ミステリー。
元シナリオライターの比留間悟は現在翻訳を生業としている。妻とは別れたが、17歳になる娘の由利とは月一回会っている。その由利にかつての仕事仲間だった映画監督の岡山から、由利の映画出演を申し込まれたが、娘と相談の上断った。そんなある日、突然由利が失踪する。同じ頃、岡山も音信不通となった。二人の失踪は無関係ではないと思い、捜索を始めた比留間の前に次々と意外な事実が…。傑作長篇推理。
二十五世紀、人類はかつて“神”として自分たちの上に君臨した者たちと大戦に突入していた。太陽系を植民化しようとする人類、これを阻むために銀河系外から飛来し、水星を要塞とする神々。人類と神々はすでに対等だった。私ハイパー・マグドナルドも地球防衛軍に志願、大戦に加わり、同僚の浄土一成らと共に人体強化処置を施されて、神々の砦・水星を目差した…。スペース・オペラ巨篇。
地蔵の助と呼ばれる、江戸一の掏摸がいた。仲間さえ驚かす入神の早業を身につけながら、常に穏やかな笑みを絶やさないので付いた異名だった。その助が、命の恩人と思う掏摸名人・捨の孫娘の危難を救うのに、四十両が入要になった。十両盗めば打首になるのだから、捕えられれば死罪は免かれない。思いあまった助は、何んと町奉行与力・東条八大夫に会って、命を賭けて願い出たのが…。異色の時代小説集。
御家人の勝家は、世に容れられない当主・小吉の放蕩のゆえに貧の極みにあったが、長子・麟太郎は直心影流剣客・島田虎之助の内弟子として剣の道に打ちこみ、激変する世情のなか、やがて蘭学を志していた。他人の厚情にも助けられながら学問に没頭する麟太郎の姿は、いつか幕閣の目にもとまり、蓄所翻訳方に抜擢、そして講武所砲術師範、海軍伝習生師範と昇進していった。歴史長篇。