出版社 : 徳間書店
天下統一を成し遂げた豊臣秀吉の晩年の頃、ひとりの剣客がいた。名は、朧愁之介。年の頃は27、8で長身痩躯。彫りの深い顔には、冷徹な色と妖しい色気が漂っている。伏見の船宿の二階に居候しているが、腕は滅法強い。必殺剣は、長刀・備前長船景光をひっさげての「影の灯火」だ。愁之介には出生の秘密があった。千利休の妾腹の子なのだ。ある事件を追っているうちに、父利休の死の謎に突きあたる。真相を暴かんと単身敵地に斬り込むが、その結果、石田三成の陰謀と千利休の思いもよらぬ出自が浮かびあがる。
季節はずれの猛吹雪に襲われた南アルプス仙丈岳。市川佑子と佐倉知弘のカップルは、避難した仙丈小屋で三人連れのパーティと天候回復を待つことになった。そこへ荷物をなくした大熊友男が逃げこんできたのだ。大熊の傍若無人のふるまいと凶暴性を秘めた態度に、五人の反感は次弟に憎しみと恐怖、ついには殺意へと変る。が、一カ月後、大熊を投げこんだ谷からパーティの一人の死体が発見されたのだ。
五光百貨店のプリンスとまでいわれた榊原聡明常務は、社内政治に長けた奥谷猛専務に追い詰められていた。一度は、奥谷の社長就任を許した榊原であったが、百貨店の経営については自分の方が一枚も二枚も上手だという自負もある。そこに持ち上ったのが北山流通グループ総帥の北鋭司からの誘いだった。榊原は北山百貨店の副社長として迎えられ、敵陣より五光の奥谷の経営に挑戦する。長篇企業内幕小説。
『三国志』ほどスケールの雄大な物語は少ないだろう。玄徳、関羽、張飛が盟約を結び、天下統一をはかろうとして展開される。やがて中国史上空前の大戦といわれる赤壁の戦いを迎え、最後には晋によって天下が統一され、三国志は終わる。本書は天保年間に刊行された『絵本通俗三国志』を基にしたダイジェストである。挿画は北斎の高弟葛飾戴斗。いかにも北斎派らしい大胆な構図と躍動感に満ちた絵がすばらしい。
天正7年伊藤一刀斎は堺にいた。茶の湯の宗匠・津田宗及と相識り、招かれて夕玄庵に滞在、茶道で言う「一期一会」のなかに剣の極意がひそむのを感得し、新たなる境地を拓いた。剣に生きるものの宿命か、無眼流、反町無角に挑戦を受けた。愛刀一文字は水のように流れ、無角を真っ二つに斬り捨てていた。一刀斎は、その剣に「払捨刀」と名づけた。戦国の世を往く剣聖を描く書下し剣豪小説。
その生涯は不遇であった。奈良・聖武帝の御世に多感な青年期を送った大伴家持は、名門貴族の嫡男に生まれながら、都の政争の渦中で没落し、鄙の地・陸奥に没したとき、屍になってなお、謀反の嫌疑によって追罰を受けた。万葉集を編纂し、最多の歌を収めるこの歌人が、都を遠く去った越中や因幡、伊勢に詠った風景は、胸底にわだかまる憂愁であり、天平へのかなわぬ憧憬であっただろうか。歴史長篇。
雷鳴とともに現れ、刹那のうちに人を噛み裂く謎の殺戮者-。北海道・大雪山連峰で起きた大量殺人事件は、同地に予定されていた宇宙飛行士訓練センターの建設をついに挫折に追い込んだ。ただ一人、犯人らしき“怪物”と対峙したルポライターの美神佳鷹は、その正体を追い、長野へと向かう。一方、秋田県境の白神山地ではマタギ十数人が殺害される事件が起きていた。その傷痕は、犯人が大雪山の事件と同一であることを物語っていた。犯人の目的は何か。そして事件のある所必ず現れる謎の男、木貂雷介の正体とは…。
1990年8月18日。セキュリティ・コマンドーの山谷剛は、イラクのバスラに潜入した。イラク軍に捕われている英国謀報部員を救出するためだ。見事、作戦は成功したが、その代償は高くついた。山谷は、効き腕である右腕前部を失ってしまったのだ。失意の山谷は故郷の秋田県阿仁に帰り、マタギとなるべく左撃ちの訓練にあけくれているとき、昔馴染みの警察庁公安部次長の相羽から困難な事件処理をもちかけられる。事件が公になれば日本の土台が崩壊するという内容だった…。期待の大型新人の鮮烈なハードロマン。
深夜、リサーチ会社に勤める磯見史郎のもとに一本の電話がかかった。郷里・奥越高原のQ市で一軒宿を営む、高校時代の友人・岩井純一からだった。「ある調査を頼みたい」と告げた後、電話は不意に切れた。翌朝、史郎は、岩井が事故死したとの報を受ける。彼の岩が野山荘は、リゾート開発のため、ダムの水没地域に指定されていた。開発利権をめぐる市長と業者の黒い噂を探っていた岩井は、重大な秘密をつかんでいた。10年ぶりに故郷に飛んだ史郎を待ち受けていたものは…。俊英が描く迫真のスーパー・サスペンス。
事の始まりは、切支舟の瑠璃と、元・長崎奉行竹中采女正の娘、時姫が、共に身も心も美しすぎるところにあった。采女正は、瑠璃が実弟重信を慕っているのを承知のうえで瑠璃を監禁し、一方、采女正の家老不破の伜保太郎も時姫に許婚者がいるのに横恋慕。時姫と瑠璃に頼まれた羽車善三郎と白雉円之介の二剣士は、大阪・長崎を目指して旅立った。その円之介を追って刺客鬼門竜峰斎もまた…。時代長篇。
神々との戦いのさなか、何者かによって火星から石炭紀の地球の転送されたハイパー・マグドナルドにも、ようやく事態の推移が理解されてきた。全ては人類の地球脱出にむけて、世界頭脳が周到に用意した計画の一環だったのだ。ハイパーもまた遺伝子操作を受けて誕生し、敗色濃い地球人を、神々の専制から救う任務を帯びていた。世界頭脳が描く未来世紀の方舟計画とは?スペース・オペラ巨篇。
下北半島の最高峰・釜臥山は、陸奥湾、津軽海峡、太平洋の絶景が見渡せる。山頂には自衛隊のレーダー基地、そして眼下には硫黄が煙る恐山…。そこで首吊り死体が発見された。物部尊人。この奇妙な名前の男は、白衣に白袴のわらじ姿で、この日、65歳の誕生日を迎えていた。むつ市に住まう旧家の当主、しかも滅ぼされた古代豪族の流れをくみ、全国の鉱山を歩く“山師”一族だった。恐山一帯は世界有数の金鉱床が眠り、国が調査に乗り出していた。荒蕪の地が黄金の国と化した時に起った殺人!歴史と怨念を孕むサスペンス。