出版社 : 文藝春秋
大阪の私立晴峰女子高校では、理事長の酒井が学校法人を私物化していた。美術講師の熊谷と音楽教諭の菜穂子は、酒井に不正の証拠をつきつけ、理事長退任と教員の身分保障を求める計画に同僚から誘われる。交渉は成功したかに見えたが、その後酒井と愛人が失踪。ふたりの行方を追った熊谷と菜穂子は、交渉を隠れ蓑にした理事長の財産強奪計画に巻き込まれていくー。悪党たちが駆け回るノンストップ騙しあい小説。
やっぱり罠にはまった。そんな気がする。ふとした光景から人生の可笑しさを巧妙にとらえる森絵都マジック。たとえばドバイのホテルで、たとえばスーパーマーケットで、たとえば草野球のグラウンドで、たとえばある街角で…人生の機微をユーモラスに描きだすとっておきの11篇。
町村合併で町のお荷物になっている旧川西村。後輩の自殺により、華やかな都会の生活を捨て孤独な田舎暮らしを選んだ元コピーライターは村を愛する、熱心でちょっと頼りない地域活性課職員に強引に勧誘されて、町おこしに乗り出す羽目に…過疎、高齢化、外国人労働者ー問題の村が、息を吹きかえす。
奈津・三十五歳、脚本家。尊敬する男に誘われ、家を飛び出す。“外の世界”に出て初めてわかった男の嘘、夫の支配欲、そして抑圧されていた自らの性欲の強さー。もう後戻りはしない。女としてまだ間に合う間に、この先どれだけ身も心も燃やし尽くせる相手に出会えるだろう。何回、脳みそまで蕩けるセックスができるだろう。そのためならーそのためだけにでも、誰を裏切ろうが、傷つけようがかまわない。「そのかわり、結果はすべて自分で引き受けてみせる」。
中国の東北部、とあるレストランに勤める林玉玲は、店長から金魚の世話を頼まれる。あるとき、日本に嫁いだ娘の出産のため来日した玉玲は、日本人との再婚を勧められて…。日本と中国、異なる文化の狭間で、玉玲の心は言葉を超える。衝撃の芥川賞受賞から半年、日本と中国をめぐる新たなる感動の恋愛ストーリー。
フランス革命直後のパリに滞在するアメリカ人イーサン・ゲイジがカードゲームの賭け代でせしめたメダルには、古代エジプトの秘密への暗号が隠されていた。メダルを狙うシラノ伯爵はゲイジに殺人の濡れ衣を着せて追い詰める。メダルの秘密と引き換えに、若き野心家ナポレオンの保護を受けたゲイジは、エジプト遠征軍とともに戦乱のエジプトに降り立ったー。フリーメーソン、エジプト式儀礼派、そして黄道十二宮の碑版…ギザの大ピラミッドに埋め込まれた数値の数々とは。
ヘロドトスの書『歴史』に曰くピラミッドの地下には巨大な空洞があるー。メダルの謎は、その空洞へと誘うのか?ナポレオンとネルソンの海戦、陸地の追撃戦。英仏両大国の激しいつばぜりあいのなか、シラノ伯爵とゲイジの「絶対の叡智」をめぐる謎解き争いは、いよいよクライマックスをむかえる。バラバラだったパズルの断片が轟々と音をたてて、ひとつの形をつくりだした。フィボナッチ数列、黄金比、円周率π、そしてパスカルの三角形…。古代エジプトの知恵の精髄『トトの書』の秘密とは。
青年絵師・春朗(後の葛飾北斎)が北町奉行所筆頭与力の仙波一之進やその妻で元柳橋芸者のおこう、女と見紛うばかりの美貌の元女形・蘭陽らと協力して、陰間殺しから幽霊騒動まで、難事件を次々と解決する。『だましゑ歌麿』『おこう紅絵暦』の姉妹篇で、江戸情緒と美術ミステリーの魅力が満載の傑作捕物帖。
義仲・行家ら、源氏勢の入洛が迫る。この先、どんな運命を辿るのか。前途に光明が見えぬなか、平家一門は幼い安徳天皇と三種の神器を戴いて、とるものもとりあえず都から逃げ落ちる。西国の一ノ谷、屋島、そして壇ノ浦へ。最後の闘いの火蓋が切られた。諸行無常の響きが全編を貫く、壮大なる歴史絵巻、全巻完結。
ウィーン、ヴェネチア、サン・ドニ、ヴェローナ…。旅行者を魅了してやまない、数百年の歴史を誇るヨーロッパの古都市。だがそこはまた、星霜を重ねた魔物たちの棲み処でもあった。世界の裂け目から甘く人々を誘惑する魔物に囚われた旅人の運命は?夢と現実が交錯する、恐くていとおしい六つの幻想曲。
江戸時代、キリシタンは改宗しても幕府の監視下にあった。幕末に生きる主人公・宇源太も五代前の祖先が信者だったため、監視を受け、苛酷な生活を強いられていた。友人が殺されその敵討ちを果たした宇源太は、村を出て江戸へ向う。江戸で剣術を学び、尊敬できる宗教家と出会った宇源太。しかしそれは、新たな悲劇の幕開けだった。
勝海舟と知り合った宇源太は、勝の頼みで浦上へキリシタンの救済に向う。幕藩体制が崩壊すれば、信仰の自由を手に入れることができると信じた敬虔な人たち。しかし、その思いを新政府は無残に打ち砕いていく。数多くの研究書・史料を駆使し、「日本はなぜ神のいない国になったのか」を問いかける傑作時代小説。
小さな町で小さな床屋を営むホクトはあるとき、吸い込まれそうなくらい美しい空を見上げて、決意する。「私はもっともっとたくさんの人の髪を切ってみたい」。そして、彼は鋏ひとつだけを鞄におさめ、好きなときに、好きな場所で、好きな人の髪を切る、自由気ままなあてのない旅に出た…。流浪の床屋をめぐる12のものがたり。
日本初の政党内閣の首班にして、早稲田大学の創設者ー。一般に大隈重信の業績といえばこれに集約されるが、大隈がその能力を最大限に発揮したのは、明治4年の「新貨条例」の布告によって完成された幣制改革であった。新通貨「円」はいかにして生れたのか。若き日の大隈の苦闘を描く傑作歴史小説。
冬子の身籠った赤ん坊は、十月十日を過ぎても生まれてこない。浮気ばかりしていた夫の徹は、子供の父親を疑い、奔放な妹の緑子と、その恋人で医者の卵である海くんは、協力という名の騒動を巻き起こす…。女優であり、本作の映画化で監督デビューも果たした著者の、静けさと笑いに満ちた処女小説。