出版社 : 新潮社
引き抜かれたカカシのあとに生えた草の葉っぱ、雲母のようにキラキラする竜のウロコ、字の書かれた小さな石ころーそんな奇妙なものばかりがあるというどんぐり民話館。そのどんぐり民話館を探しに、都会から一人の青年がやってきたが…。いつまでも語りつがれる民話のような味わいで、さまざまな人生の喜怒哀楽を描いた31編。ショートショート1001編を達成した記念の作品集。
溌刺と欲望のおもむくままに生きてきたウサギも、すでに中年。胴回りの太さが気になりだし、鏡を覗くこともついぞなくなった。だが、ウサギは今や金持なのだ。『帰ってきたウサギ』では、ウサギはライノタイプの印刷工として働いていたが、その業種が不振になった時期に、うまい具合に義父が死んでくれ、義父の自動車販売業を受け継ぎ、ちゃっかりそこの経営者におさまってしまう。自動車業界は、第一次石油危機に見舞われ、燃費の悪い大きなアメリカ車が敬遠され、日本の車が順調な売れ行きを示している。ウサギは金持なのだ。
ある日、ケント大学に通っている息子のネルソンが、女友達メラニーを連れて家に帰ってくる。彼女を家に泊めるかどうかで一悶着が起こる。古い世代のウサギには、二人の関係がうまく理解できない。やがて、ネルソンの子を身ごもったプルーという女性が出現する。ウサギも結婚以前に妻のジャニスを妊娠させた過去を持つ。ネルソンは親の通った道を確実にたどりつつある。ウサギは完全に枯れきってはいないが、行動よりイマジネーションの世界に生きることが多くなり、死への予感をおぼろげに感じだす年代になったのだ…。
浅野はなぜ吉良に切りつけたのか?〈松ノ廊下の刃傷〉も、発端からして摩訶不思議。「君父の讐はともに天をいただかず」とはいうけれど、〈討入り〉だって〈虐殺またはスラップスティック〉。伝説と虚構の厚化粧を落としてみれば、なんともグロテスクな赤穂浪士事件。両家をめぐる人びとが、おかしくも愚かしく燃えた時代は元禄。滑稽舞台の幕が開き、鳴るはパンクな陣太鼓。
僕は今十九歳で、あと数週間で二十歳になるー。父が借金を作った。ガールフレンドにはフラれた。せめて帰省の電車賃だけでも稼ごうとバイトを探したが、見つかったのはエロ本専門の出版社だった。岡山から東京に出てきて暮らす大学生、山崎の十代最後の夏は実にさえない夏だった。大人の入口で父の挫折を目にし、とまどう青年の宙ぶらりんで曖昧な時を描く青春小説。
1865年、アメリカ南軍の甲鉄鑑が、バージニアの川霧の彼方へと姿を消したー。1931年、オーストラリアの女性飛行家の愛機は、サハラ砂漠の南西部に不時着したー。そして1996年、サファリに赴いたイギリスの一行がマリで殺戮の洗礼を受ける。おりしもサハラの南、大西洋では巨大な赤潮が発生していたー。ダーク・ピットが歴史の謎と人類の危機に挑む全米No.1の話題作。
果てしなく増殖してゆく赤潮。マリの将軍と結託して事業の拡大に腐心するフランスの悪徳実業家。そして彼らに捕らえられ、強制労働を科せられる科学者たち。死神だけが待つ広大な砂漠の脱出行こそがピットの宿命となった。合衆国大統領が動き、国連事務総長も動く。援軍とともに引き返したピットは、旧外人部隊の砦に立てこもる。数千名に及ぶマリ軍との苛烈な闘いが火蓋を切るー。
若く才能溢れる女性フォトグラファ、ジャズ。三人の仲間と設立したスタジオ“ダズル”を根城に業界を席巻していた。が、有名なフォト・ジャーナリスト、ゲイブをダズルに迎えるという提案がもたらされ、ジャズの心は激しく揺れる。脳裏に甦るゲイブとの甘い日々と思いがけない破局。そして一方では、俳優のサム・バトラーにも激しく心ひかれていた。ジャズの華麗なる愛の序章。
ロサンジェルスとサンディエゴにまたがる広大な牧場を経営するジャズの父マイク。ここにも開発の波が押し寄せていた。昔ながらのランチを守ろうとする父と莫大な財産の相続に目の色を変える継母と姉たち。そして突然訪れた大きな衝撃。その時、崩れそうなジャズを支えたのは…。真実の愛を手に入れたジャズは、姉たちとの葛藤を乗り越え、新しい未来を掴む。
今を時めく美貌のスーパースター、レイチェル・マロンは、何者かに命を狙われていた。彼女のボディガードを依頼されたのは、元シークレット・サービスのフランク・ファーマー。二人は仲違いしつつも、互いに魅かれるものを感じていく。しかし、黒い魔の手はひたひたと忍び寄り、アカデミー賞発表の晴れ舞台でまさに彼女に襲いかからんとしていたー。息詰まる展開のラブ・サスペンス。
長年住みなれた家と土地を離れてしまった漂泊感。父が死してのち、以前にもまして強く迫ってくる親子の絆。漠然とした不安と焦燥を感じる日々…。しかしふと気づけば、時がさまざまなものを穏やかにおし流してゆく。子のない中年夫婦の間にひそむ危うい生活感情をにじませ、円熟の境地に達した4つの連作短篇。
愛する江戸の町を焼いちゃいけねぇ-。薩長軍の足音聞こえる神田鍛冶町・下駄新道の長屋で、千の言語に三つの真実(せんみつ)の上を行く、口にする言葉はすべて嘘の茂平次と、彼を取り巻く町娘、百姓の伜、芸術、下級武士たちが繰り広げる人間模様。激動期江戸の庶民群像を愛情こめて刻みあげた傑作連作長編小説。
ヘッセの生涯は幸せ一途のものでは決してなかった。結婚生活は破綻し、ナチスの支配する祖国ドイツからは売国奴呼ばわりされ、亡命先のスイスで貧窮の日々をおくる。そうした中で生み出された作品は、殺伐とした現代にあって、ますます不滅の輝きを放っている。その波瀾の生涯をたどる国際列車の旅に出発しよう。
かわいらしい名前に似合わぬ毒々しい赤。それがアマリリスの色だ。東京の広告会社を退職してふらりとニューヨークにやってきた“ぼく”の眼に、この街は、アマリリスのように妖しく輝いて見せたー。異国の病んだ大都会を漂流する“ぼく”と、小さな刺青を入れられた中国人女性との出会いと別れを描いた表題作の他、エロチシズムと透明なリリシズムあふれる全7例の連作短編集。
セカンド・カミングー人生の2番目にやってくるもの。たとえば愛、たとえば別れ、たとえば孤独…。人生が靄のように曖昧だった’60年代のあの季節。わたしは彼女たちと時代の空気を共有した。そしていま、わたしは2週間の休暇旅行のなかで彼女たちとの再会の時をむかえた。孤独を体験し鮮やかにアメリカにいまを生きる、それぞれの彼女たちの第2章の愛の語物。文庫書下ろし。