出版社 : 新潮社
長女・瑜瑜が同性の恋人の存在を告白したのは、次女の結婚式の夜だった。長女の「一番の理解者」でありながら、本音では戸惑う父・明虎。葛藤を深める彼は娘たち、自らの両親、そして自分、一族三代の記憶を辿り始める。小籠包からたちのぼる湯気が、あらゆる差異を包み込む感動長篇。第44回野間文芸新人賞候補作。
地球外生命を探る研究者シーオの幼い息子ロビンは、母アリッサの急逝で情緒不安定になっていた。シーオは、妻の知人が取り組むfMRI(機能的磁気共鳴映像法)を用いた実験に息子を参加させる。生前のアリッサが残した脳のスキャンデータを元に、母の感情をロビンに追体験させ、彼の精神を解放しようというのだ。その効果は目覚ましく、ロビンは周囲が驚くほどの聡明さを発揮し始め、母が生涯をかけて取り組んだ動物保護への意識も研ぎ澄まされていく。彼の眼には、人間がこの惑星にとって有害と映っていたーブッカー賞最終候補作。
下克上の世で己の力量に自信を失った城主の苦悩…「謀反(ぼうはん)」。ナチスの狂気に抗いユダヤ人移送を拒んだ青年少尉の末路…「丘の上」。日本軍に蹂躙された中国の村娘が見たもの…「彼岸花」。宿敵カルタゴ軍を迎え撃つ暴君が握った国家の命運…「エピポラエの丘」。戦乱の世の、ひとすじの希望。メロスとセリヌンティウスの友情が、不信と懐疑、憎しみと怒りに満ちた暴君の心を開かせるー古代ギリシャ、シラクサを舞台にした表題作ほか、古今東西の戦争をテーマに、人間の機微を描き出す4篇。
家を永らえるため、残された道は。信長、秀吉、家康によって最大の岐路に立つ、実在した五人の勇者たち!身命を賭して貫くべきことありー。助けた信長に冷遇される、朽木元綱。兄信長に斬られた信勝の嫡男、織田信澄。家康に挑む遠江の椿姫、お田鶴の方。伊達政宗に翻弄される、和賀忠親。祖父幽齋の教えを糧にした、細川興秋。『九十三歳の関ヶ原 弓大将大島光義』『家康の女軍師』の著者が家を護る激闘を鮮烈に描く、歴史傑作五篇。
昭和12年。養蚕農家の娘・芳乃にとって、創作織物はどこまでも自由に心を羽ばたかせる、とっておきの遊びだった。ある日、桐生の有力買継商のもとへ嫁いだことで、その人生は大きく揺れ動きー。一方の現代。母の束縛に苦しむ詩織は、「機織り工房」を唯一の居場所にしていた。ある出来事をきっかけに、その居場所さえ失いかけた詩織は、実家を抜け出し、大規模な手しごと市が開催されるという桐生へと向かうのだが…。詩織の出生の秘密、そして、いわくつきの反物「山笑う」に託された想いとは。交わってはならなかったふたりの人生が折り重なるとき、思いもよらぬ奇跡が訪れる。抑圧と喪失の「その先」を描く、感涙必至の手仕事×家族小説。
“焼き鳥屋の赤提灯は町の交番”-地元・龍ヶ崎に三十余年。カウンター越しに対峙した波乱万丈、人生劇場。「地獄を見た男」俳優・大辻慎吾が紡ぐ表題作「警察病院脱走女詐欺師」と、「悪…国選弁護士」の二篇を収載。
リモートワークを言い訳に引きこもっていた僕はある日、ずぶ濡れの女の子を拾った。1980年代からタイムスリップしてきたらしい彼女は、僕の大切な人の命を奪った少女誘拐事件に関係しているのか…。散りばめられた伏線が回収される時、現代と過去が繋がるー。時空を超えたミステリー!
飛行機であの世へ到着したという設定の「星座のひとつ」。姉への深い想いを綴る「はらから」。異国の船へ思いを馳せる「赤い靴」など、ハアちゃんと呼ばれた子どもの頃の記憶を描く、17篇収録の珠玉の作品集。自伝的掌篇小説集。
私は「男たちの夢」であるよりも、「書く女」になりたかった。自分らしい居場所を見つけるために必要だった、かくも長く激しい旅路。激動の現代史を背景に、満身創痍になりながらも懸命に生き抜いた「書く女」の生涯を描き切る著者最高傑作!
戦国末期、シルバーラッシュに沸く石見銀山。天才山師・喜兵衛に拾われた少女ウメは、銀山の知識と秘められた鉱脈のありかを授けられ、女だてらに坑道で働き出す。しかし徳川の支配強化により喜兵衛は意気阻喪し、庇護者を失ったウメは、欲望と死の影渦巻く世界にひとり投げ出されたー。繰り返し訪れる愛する者との別れ、それでも彼女は運命に抗い続ける。第168回直木賞受賞作。
「自分を変えたければ、東大を目指してみろ」高校1年のあの日、ある教師が途轍もない一言を放つ。ずっと成績最下位で、いじめられっ子で希望ゼロだった僕の人生初の挑戦が始まった。3度目の受験を終えた時、またしても想定外のミッションが…。後輩、憧れのマドンナ、元いじめっ子、同級生、そして父親と向き合う中で、孤独な闘いを続けてきた「僕」はあることに気づく。現役東大生作家・西岡壱誠が実際に体験した、合格発表までの8日間。