出版社 : 新潮社
幕府の御目見医になるために長崎遊学から戻った保本登は、小石川養生所の医長“赤髯”こと新出去定に呼び出され、見習医としての勤務を命じられる。強引な赤髯に反発し、療養施設での医療に戸惑う登だったが、一見乱暴な言動の裏に秘められた赤髯の信念を知り、貧しい人々と触れ合ううちに、しだいに真実を見る眼を開かれていく…。黒澤明監督による映画化でも知られる、医療小説の最高峰。底抜けに明るく、どこまでも善良なおしずを描く『おたふく物語』を併録。“脚注”で、さらに深まる物語の味わい。付録・主要登場人物一覧、地図。
疏水に近い亡友の生家の守りを託されている、駆け出しもの書きの綿貫征四郎。行方知れずになって半年あまりが経つ愛犬ゴローの目撃情報に加え、イワナの夫婦者が営むという宿屋に泊まってみたい誘惑に勝てず、家も原稿もほっぽり出して分け入った秋色いや増す鈴鹿の山襞深くで、綿貫がしみじみと瞠目させられたもの。それは、自然の猛威に抗いはせぬが心の背筋はすっくと伸ばし、冬なら冬を、夏なら夏を生きぬこうとする真摯な姿だった。人びとも、人間にあらざる者たちも…。『家守綺譚』の主人公にして新米精神労働者たる綿貫征四郎が、鈴鹿山中で繰り広げる心の冒険の旅。
美しい図書館司書に恋をした少年は、ハンサムで冷酷なレスリング選手にも惹かれていたー。不安と憧れの間で揺れ動きながら、少年は自らの性を発見してゆく。愛と笑いと切なさにあふれた傑作長篇。
友人たちも、姿を消した父も、それぞれに性の秘密を抱えていた。性的少数者たちが教えてくれた、さまざまな愛のかたち。エイズの時代に去って行った、友人たちの面影ー。ある小説家の半世紀にわたる生と性の物語。
柳生家の隠し道場が急襲された。残されたのは「肝」を抜かれた死体の山ー。一方、伊織が住む一膳飯屋に現れた長宗我部元親を名乗る男は、怪しい石を懐から出し、秦の始皇帝復活を告げる。そして吉原で遊女が惨殺され…。迫り来るキョンシー軍団、悪魔に魂を売った柳生十兵衛、さらに伊織がお狐様に身体を乗っ取られ、大ピンチ!窮地を救えるのは“鬼火”だけ?シリーズ第5弾。
彼女にも逃げられ、親からも勘当された無職の青年、坪木仁志は謹厳な金貸しの老人、佐伯平蔵の運転手として、久美浜に向かった。乏しい生活費の中から毎月数千円ずつ三十二年に渡って佐伯に返済し続けた女性に会うためだった。そこで仁志は本物の森を作るという運動に参加することになるのだが──。若者の再起と生きることの本当の意味を、圧倒的な感動とともに紡ぎ出す傑作長編。
十年後も十光年先も、百年後も百光年先も、百万年後も百万光年先も、小さな水晶玉のなかにある。──与えられた謎の言葉を胸に秘め、仁志は洋食店のシェフとして、虎雄は焼き物の目利きとして、紗由里は染色の職人としてそれぞれが階段を着実に登り始めた。懸命に生きる若者と彼らを厳しくも優しく導く大人たちの姿を描いて人生の真実を捉えた、涙なくしては読み得ない名作完結編。
相馬いと。青森の高校に通う十六歳。人見知りを直すため、思い切ってはじめたアルバイトは、なんとメイドカフェ。津軽訛りのせいで挨拶も上手に言えず、ドジばかりのいとだったが、シングルマザーの幸子やお調子者の智美ら先輩に鍛えられ、少しずつ前進していく。なのに! メイドカフェに閉店の危機がーー。初々しさ炸裂、誰もが応援したくなる最高にキュートなヒロインの登場です。
津軽に暮らす十九歳の美しい娘・千歳は、目が見えない。死んでしまった優しい夫に会いたい一心で死者の霊魂と接するイタコになったけれど、夫の霊にだけはまだ会えない。気ままなイタコだったはずの彼女は、世話役の幸代、姪の安子と暮らすうち、次々と怪しい事件に巻き込まれー。ゾっとするほど怖いのに、最後はジーンと心に沁みてくる、青森発の新感覚ファンタジー!
人生の大切なことは、本とお酒に教わったー日々読み、日々飲み、本創りのために、好奇心を力に突き進む女性文芸編集者・小酒井都。新入社員時代の仕事の失敗、先輩編集者たちとの微妙なおつきあい、小説と作家への深い愛情…。本を創って酒を飲む、タガを外して人と会う、そんな都の恋の行く先は?本好き、酒好き女子必読、酔っぱらい体験もリアルな、ワーキングガール小説。
天衣無縫な殿様・武芝政直、藩のお取り潰しを狙う老中・松林備前守、政直のもとに嫁いでくる中納言家の奔放な姫様・房江。あいも変わらず諌早藩の用人兼留守居役補佐・沢村涼之進の身近は慌しい。反政直派うごめくさ中のお国入りを前に、行列人足の顔役と大喧嘩になった涼之進。苦境に陥った彼の前に現れたのは、用心棒に落ちぶれた政直の旧友・宮部一之介だった…。文庫書下ろし。
身に覚えのない上司殺しの罪で刑に服した江木雅史。事件は彼から家族や恋人、日常生活の全てを奪った。出所後、江木は7年前に自分を冤罪に陥れた者たちへの復讐を決意する。次々と殺される刑事、検事、弁護士。次の標的は誰か。江木が殺人という罪を犯してまで求めたものは何か。復讐は決して許されざる罪なのか。愛を奪われた者の孤独と絶望を描き、人間の深淵を抉る長編ミステリー。
江戸時代中期、老中田沼意次は金権政治家の汚名にまみれていた。田沼批判の戯文を書いて出頭を命じられた旗本の青山信二郎は、意次と対面し、その清廉な人柄に引きつけられる。しかし、失脚をもくろむ反田沼派の魔手はいたるところにのびていた。やがて、最愛の息子、意知が城中で斬りつけられ、意次は絶望の淵へと追いつめられてゆくー。田沼意次曰く、「たとえゆき着くところが身の破滅だとしても、そのときが来るまではこの仕事を続けてゆく、いかなるものも、おれをこの仕事から離すことはできない」田沼意次父子を進取の政治・経済改革者として大胆に捉え直し、従来の歴史観を覆した名作!経済小説の先駆でもある。
天正遣欧使節団とともに、長崎を出航して二年半。異国の地で貪欲に西洋の技を身につけていく次郎左。言葉の壁を実力で乗り越え、普請現場で、たちまち名を上げていくが…。嫉妬の目、密告、逃避行、戦乱の日々。帰国を夢見つつも、イスパーニャ軍の暴虐に反旗を翻すネーデルラント共和国軍に力を貸し、鉄壁の城塞を築き上げた男の波乱の生涯!
昭和50年代、西新宿。小学5年生のオレたちにとって、街は格好の遊び場だった。高層ビルでかくれんぼ、新宿御苑でザリガニ釣り。公園のホームレスと仲良くなったり、ボクシング大会にサラ金ごっこと、大人のマネして叱られることもあった。そんなハチャメチャな日々が一変する出来事が…。あの頃の街、離れ離れになった仲間を懐かしく描き出す、笑いと涙の自伝的青春ストーリー。
緋錠前の作り手である緋名にある日、旗本三井家から注文が舞い込んだ。だが、頼まれたのは姫を幽閉するための、開かずの錠前ー。一方、緋名の幼馴染で髪結い師の甚八は、硯問屋の大門屋へ赴く。そこで彼は、美人と評判の末娘が惨殺されたことを知る。大店の娘殺し、神隠しの因縁、座敷牢に響く数え唄、血まみれの手…。この事件、一番の悪人は誰なのか。謎とき帖シリーズ第二弾。
蕎麦切りの名人だったおそのは 不貞を疑われ追い出されて(「蕎麦切りおその」)。陶芸に目覚めた中年男の選んだ余生とは(「柴の家」)。女太夫が惚れた乞食侍はやがて花火造りに勤しむが(「火術師」)。想いを寄せる下駄屋の倅は彼女の気持ちに気づいてくれず(「下駄屋おけい」)。葛藤の末、己の作った草鞋が朗報を運んできた(「武家草鞋」)。日本一の刀鍛冶になるべく全てを捨てた男を待っていた悲劇(「名人」)。職人の技輝る、珠玉の落涙小説全六編。
咲き誇る藤棚の下、今小町と謳われた飛脚問屋の娘おさんは、大経師の浜岡権之助に見初められ嫁入りした。大経師は暦を開板する特権を朝廷から得ている家柄だが、権之助は暦作成を主導しようとする幕府の動きを知り、画策を始めた。一方、おさんは想い人が忘れられない…。天和年間に京で起きた姦通事件を元に近松・西鶴も作品に取り上げた、悲恋の心中物語「おさん茂兵衛」決定版。