出版社 : 春陽堂書店
犯罪小説家の佐川春泥は、速水、綿貫などいくつもの名前を持ち、「影男」として裏の世界で動いていた。彼は人間の裏側にある秘密を探ることを好み、それを利用して、ときに大金をゆすり取っていた。そんな彼に奇妙な組織「殺人請負会社」が顧問になることを提案する。これに応じた影男は後味の悪さから同組織と距離を置く。それと前後して不思議な老人と出会い、地下空間に作られた壮大なパノラマへと案内される!
しばしの休養のため湖畔のホテルにやってきた明智小五郎は、大宝石商の娘・玉村妙子と知り合い、心惹かれていく。それが玉村家の怪事件へかかわり合うことになる始まりだった。妙子の叔父福田得二郎のところへ数字のみを書き記した謎の紙片が届き始める。その数字が「三」となったとき、得二郎は内側から鍵をかけた自室で殺され、血まみれの死体からは首が奪われていた!
神谷芳雄がめぐり合った恐るべき怪事件。恋人の弘子に不気味な男は言い寄る。その顔はどす黒く、大きな口に敏捷に動く長い舌。獣のようなその男は恩田と名乗り、こともあろうに弘子をさらって惨殺する。警察の捜査も虚しく、恩田は姿をくらます。一年後、神谷の新たな恋人・江川蘭子の前に恩田が現れる。美しい姿が突如として舞台の中央から消えた!美貌の歌姫にまたしても魔の手が迫る…
合戦場の死人から腹当を剥ぎ盗っていた藤吉郎は、火付け・強盗・略奪・人殺し、なんでもやることを条件に、一椀のめしにありつくと同時に、野盗蜂須賀小六の子分となった。そして数日後、蜂須賀小六の弟分で、実は父が歴とした武士で、本名を石川五右衛門宗郷という文吾と知り合った。ここから、尾張中村生まれの流れ者藤吉郎の人生は転変する。やがて織田信長の下、金柑頭の明智光秀とともに、“秀鼠”と渾名された秀吉の出世競争が続き、信長本能寺の憤死、光秀討滅を経て“天下人”となった秀吉の前に引き出されたのは、かつての盟友石川文吾すなわち盗賊五右衛門であった。釜茹の刑に処された男とは…。-“太閤”と、おのれを敬称で呼んだ男、豊臣秀吉の“型破り人生”を描く長編傑作。
永享4年(1430)2月、山城国大道寺村に一人の男児が産まれると同時に捨てられた。当時、貧しい人々の間で流行っていた間引きであった。この男児こそ本編の主人公である伊勢新九郎その人である。したがって、新九郎には生まれ在所も父母の名も分からない。が、いま二十三年後の新九郎は一端の野盗に成長していた。寄る辺もない身の新九郎は、“負けるものか。生きようとする強い心だけが大事なのだ”と、その強運だけを信じた。やがて一歩一歩と階段を上っていった新九郎は、さらにその野望を拡大させていった。そして、その名を北条早雲と改めるや、“関東をわがものにするぞ”とばかり兵を起こし、怒涛のごとく関東へ関東へひた走った。それは文明18年(1486)の秋であった。
“やっぱり、日本は美しいなあ。”万延元年(1860)五月五日、端午の節句の日、浦賀の港で『咸臨丸』の手摺から身を乗り出すようにして四カ月ぶりに故国日本の山河を眺めているのは、あの歴史的壮挙であるいわゆる遣米使節一行の中の軍艦操練教授方頭取・勝麟太郎その人であったが、船中取調べの浦賀奉行所付与力から、この年三月三日上巳の節句の日の雪の朝、登城の途中で大老井伊掃部頭直弼が水戸藩の浪士たちの襲撃により斬殺されたことを初めて知らされることになった。これ以後、大変革の暴風雨が軍艦奉行の勝海舟を襲うことに…。-幕末維新、この日本の大難局を勝海舟の“江戸っ子気質”の武士道が救う。
京の都は数年前から慢性的な飢餓に見舞われていた。ある日、ふとしたことから施粥を受ける窮民たちが貴族の乗物に襲いかかった。そのおり、その乗物の気品高い女主の危急を救ったのは二十四、五の若武者水無瀬左京、主は八代将軍足利義政の正室富子であった。富子にはまだ男子がなかった。男子がなければ将軍の跡継ぎは他所に持っていかれる。現に、義政は去年、弟の義視を還俗させて後継者にしようと準備していた。“そなたのような剛い武士がわたしは欲しい”という富子の願いを左京は拒絶していた。この後、大乱が都を包んだ。…歳月は流れて、女将軍の権力をもってしても夢が叶えられることなく、日野富子は死んだ。“一切の罪業を障滅して極楽へ行きたし”と。-赤松牢人の勇士と称えられた水無瀬左京の目を通して描かれた日野富子の世界。
江戸は浅草の鳥越神社のご祭礼も終わり、梅雨も明けようという季節、両国広小路にほど近い小料理屋『美舟』で、ちょっとした騒ぎが起こった。“暴れ馬”の異名で知られる街の嫌われ者、駕籠屋崩れの五郎八とその子分がなだれ込んだのだった。かつては柳橋で左褄をとっていたころからお侠で鳴らした女将のお舟が割って入るのを、お舟に気のある五郎八がお鉢を回して危うくなった女将を救ったのは、店の隅で静かに盃を傾けていた西国浪人仏伝八郎と名乗る若侍であった。お舟はその品のよい姿形にすっかりほの字になってしまった。以来、仏伝八郎には不気味な影が執拗につきまとう…。-長崎奉行の抜け荷事件にからんでまき起こるお家騒動の謎と仏伝八郎の活躍は…。
中京の盛都名古屋で代々呉服商を営んできた松丘家だったが、番頭の横領と当主の失踪によって破産状態に陥ってしまった。そして、それから七年ー二十三歳になった長男鍵一だったが、最後の頼みの綱であった“七宝の花瓶”を盗まれ、絶望のあまり恋人中込寿美子と古美の海岸で心中を企てた。その花瓶には松丘家に永年伝わる宝物を隠した場所を示す暗号模様が描かれていたからだった。ところが、運よく助けられた二人は、海辺に捨てられていた花瓶を漁師が拾っていたことを知って驚くとともに、その僥倖に力を得て宝探しの謎解きに再度挑むことになったが…。-表題作の他に「意外な告白」、第一回作品「残されたる一人」(脚本)を併収した。
R国皇太子ルール殿下は国内紛争のため日本へ逃れ、変名で巽小路侯爵邸に隠れていた。女性記者の星野龍子がカフェ『シセリア』で友人平山松太郎とこのことを話題にしていると、同じカフェで不思議な男がマダムの長川伸子に向かって、「今夜限りに、わたしという男はこの世界から消えてしまう」と泣きながら訴え、立ち去っていった…。その翌日にルール殿下の姿が消え、さらに数日後には侯爵が変死を遂げる。その現場に居合わせた星野龍子は侯爵のポケットに残されたメモを頼りにルール殿下の行方を追う。一方、侯爵の弟が二十年ぶりに帰国して間もなく、侯爵夫人が謎の失踪を遂げた…。-R国皇太子と巽小路侯爵家をめぐって続発する怪事件の謎とは。怪紳士響晰とは。
江戸は黒門町の大店伊勢屋の一人娘お新と浜松屋の一人娘お菊は同い年の十八、近所でも評判の仲よしだった。その一人、お新が奇妙な相対死をとげた。心中の相手は以前から身をもちくずして勘当されていた兄の喜三郎であった。そのことは幼なじみのお菊が証言した。伊勢屋の主人は番頭利吉をいずれはお新の婿養子として身代をゆずる気でいたが、お新にきらわれていることを知る利吉にとっては邪魔な二人、いっそ殺して。動機は充分だ。浜松屋の長屋に住む浪人柊左近は、不審の利吉を洗っていったが、その見込みはみごとはずれた。が、毎日、伊勢屋の居間に人知れず送られてくる不気味な黒十字のついた殺人予告状。事件には三十五年前のどす黒い怨念がこめられていた。はたして事件の黒幕は。
幕末回天の大仕事、大老井伊直弼の斬撃を企図する水戸浪士たちの活躍は続く。前編に引き続いて、水戸浪人関鉄之介とその無二の心友浪人尾形新之丞の活躍はさらに興趣に満ちて展開していく。城昌幸が遺した幕末伝奇巨編『一剣立春ー桜田門外ノ変遺聞』後編。角屋嘉平の囲い者になっているいのの駕篭から岡っ引き留吉を追い払っていのを救ったのはいのの兄の天竺浪人、つるつる坊主の二本差しの男であった。その嘉平は黒川左京から十万両の御用金を命じられたが、それを断ったために左京から斬って捨てられた。京へ向かった七尾を怪しげな六部連が取り囲んだ…。七尾が落とした踏絵の裏面に書かれた「ゲースト・ウオルク・テンペル(霊魂と雲と社)」の謎とは…。
慶長八年六月のころ、相州厚木から江戸へ向かう街道を二人連れの浪人者が歩いていた。二十三、四歳に見えるほうが宮本武蔵であり、十七、八歳に見えるほうがその弟子の向坂陣太郎であった。二人は荏原郡世田ガ谷本宿で木賃宿に泊まったが、陣太郎は人相の悪い男から女を買わぬかと誘われた。大切な父の形身の刀を女の代わりに、鳶沢甚内という悪い奴に騙し取られた陣太郎を、甚内とその仲間が取り囲んだ。牡丹屋敷のお姫さま由香里がそんな陣太郎を救ってくれた。当時、江戸は家康が首府と決したため大変貌を遂げていた。道三河岸銭瓶橋の風呂屋に現れた坊主頭の豪傑は、ひょっと斎利太と名乗る前田慶次郎であった。豪傑連がまき起こす波瀾に満ちた物語。
豪傑坊主前田慶次郎は捕えられる前に、鳶沢甚内が悪い奴とは知らず、向坂陣太郎と奈美の二人を預けてしまった。その時、慶次郎は二枚の絵図面を陣太郎に持たせてやった。牡丹屋敷のお姫さま、勝気な由香里は相変わらず、父の仇として家康の首を狙っていた。天正十八年十一月中旬、江戸入り以来、家康が待ちに待っていた鷹狩りが催されることとなり、家康の警備陣はさらにいっそう厳しいものになった。この間隙をぬって宿所の寺院へ忍び込んだのは、由香里と車善七郎に向坂陣太郎であった。台所から突然発火した大騒ぎにも、家康お気に入りのお槍奉行大久保彦左衛門と金鍔組が活躍して大事には至らなかった。由香里姫の打倒家康の悲願の行く末は…。長編傑作。