出版社 : 春陽堂書店
大江戸の盛り場、金竜山浅草寺ー俗に浅草の観音さまで親しまれる仲見世通りは仁王門近く、年のころは27か8のおっとりと育ちのよさそうな若侍に、お助け屋の粂三が声をかけた。もちろん、その懐中物をねらってのことだったがすっかり魂胆を見透かされて、子分になることになった。若侍は久世喬之介といい、ある事情により浪人していた。その久世喬之介は腰元風の美女に託された書状を目明かしの絵馬徳親分に届けるべく訪ねたが、絵馬徳は何者かの凶刃に倒されていた。そして、喬之介の前には恐るべき黒覆面の怪剣士が出現した。粂三ともども“お助け屋”稼業を始めた久世喬之介の行く手は…。-根岸藩をめぐる騒動に、颯爽たる十万石の“お助け屋”喬之介の破邪顕正の剣の舞。
激動の幕末、京の都を震憾させた“誠”の組織を、風雲児藤堂平助を中心に据えて描く。元治元年(1864)秋中旬、下谷御徒町にある伊勢津藩32万4千石は藤堂家の江戸家老立花監物の屋敷を、家紋の「蔦」の紋付きの黒羽2重を着た若待が訪ねてきた。若待は、その名を藤堂平助といい、藤堂和泉守高猷が、側妄綾瀬に産ませた子であった。新選組の猛者平助は、隊内では“ご落胤”の渾名で通っていた素姓の正しい待であった。近藤勇に従って東帰していた平助は、「文武館」道場主の伊東甲子太郎や、その門下で円明二刀流の達人服部武雄らと会うことができた。やがて新選組に加入してきた伊東一派は?-京の隊内では、副長山南敬助と土方歳三との対立が、ことごとに表面化していった。
シャムロ(タイ)国の灼熱の原野で、シャムロ兵とビルマ兵との壮絶な戦いがくりひろげられる中に、日本義勇隊員を率いた山田長政の姿があった。その隊員の中には、“へのへのもへじ”の刺青をしたへのへの茂平次と名のる快男児がいた。そしてまた、前髪の美貌の若者山柿甚吾もいた!茂平次は長政から、「甚吾は危険人物」との注意を与えられていた。-山田長政の活躍するシャムロ国から物語は始まる。戦国、海の男たちのロマン。
傷ついた美女知香を救い出したへのへの茂平次は、意識を失った彼女を懸命に看護しながら、六右衛門爺の黒瀬丸を待っていた。強敵山柿甚吾がそんな二人を秘かにねらっていた。恐るべき重四郎のふるう投石器に相対した茂平次は、負傷しながらも重四郎と組み打ちのままに、怒涛逆巻く海中へと転落していった。茂平次と知香の運命やいかに…。-海と戦国の男たちを描いて息もつかせぬおもしろさに満ちた一大伝奇扇代長編会心作。
時は激動の明治初年ー。文明開化の横浜で、奇々怪々な殺人事件が起こった。雨の夜の居留地に突如として発生したのは、オランダ人ポルター氏と清国人のアマの二人が射殺されるという外国人殺害事件だった。そして、ポルダー氏の懐から奪われた金時計をめぐって事件はつぎからつぎへ。ポルダー氏の金時計が秘める謎とは果たして何か。
宗教は札束なり、数百万の信徒、数千万の札束をめぐって教団同士の暴力団まがいの抗争が展開する。それに麻薬がからみ、本物の暴力団や似非右翼との癒着が生まれる。しかもその背後に、教団を最大の票田と頼む悪徳政治屋どもがひかえている。新興の教団が目をつけたのは、新たに日本の絶好の市場とねらい、進出をくわだてる台湾マフィアだ。-宗教という隠れミノをかぶって麻薬を持ち込む新興教団の正体を暴く竜崎精強軍団。
時の老中筆頭松平越中守定信は、世に賞罰に厳しい、“隠密老中”として名が高かった。従弟の又兵衛は故あって“田安”の名を変え、“岩佐”と名のって市井に住み、定信の密命を受けて働いていた。その岩佐又兵衛が乗り込んでゆく先は…。駿州田中、本多四万石の領地へ急ぐ岩佐又兵衛と女芸人お志奈・お梅・松江・お蘭・おちかたち美女一行、邪剣が又兵衛をねらっている。-本多藩の世継ぎを巡って錯綜する騒動に乗り込んだ岩佐又兵衛、正邪糾弾の活躍は。
秩父七ツ石山頂で、金穿師膳竜之助は、梓姫と名乗る首領に率いられる奇怪な一団と遭遇した。竜之助は老中水野越前守と目付鳥居耀蔵の密命を受け、幕府お直山の内情調査に従うお小人目付の一人であったが、叔父真鍋四郎右衛門こそ幕府を騒がす能面党の首領である、という意外な言葉を耀蔵から聞かされ、その能面党の探索を命じられた。長崎奉行所手付役人土方縫殿助と奸商大村屋十兵衛の罠に陥り、長崎屋甚兵衛は没落した。長崎屋の姉娘琴江は江戸へ出て、その名もお芳と変えた女掏摸になっていた。姉を尋ねて江戸へ向かう妹美保が、神奈川宿で般若の辰に襲われる危ういところを救ってくれた白羽二重に朱鞘の浪人こそ、“気まぐれ峻太郎”であった。-ご存じ、若殿峻太郎の活躍。
銀座の有名画廊『蒼林堂』社長宇津木義則から、妻知佳の素行調査の依頼が椿探偵事務所にあった。が、現在、所長の椿隆司は断酒道場に入っていて、アルバイトで留守を預かるのは小劇団『街頭劇場』の看板女優である姪の永瀬弥生と、これまた別の劇団で演出助手をしているという押しかけ助っ人自認の日高仁という若者の二人きりであった。さっそく二人ははりきって調査に乗り出したが、知佳は神奈川県下相模湖畔の雑木林の中から絞殺死体となって発見されたのだった。殺人事件となっては興信所の出る幕ではないが、事態はさらに意外な展開をみせて贋作事件へと…。-シアター女優が演出助手の演技指導で事件の謎を解く書下ろしソフト・ミステリー。
織田信長が天下を掌握した天正期、伊賀国の忍者の頭領として君臨していたのは藤林長門と百地丹波の2人であった。しかし、この長門と丹波が実は同一という秘密を探り出した人物があった。その男こそ出羽月山の修験者霧法師の倅、旅の忍者霧隠才蔵であった。その才蔵の背後に、百地忍党中で5本の指に数えられる手錬者、伊賀下忍石川文吾(後の五右衛門)の恐るべき殺刀が迫っていた。呼吸をのむ驚天動地の忍者合戦!そして、その隠し砦と、それを取り巻く迷路の秘密を才蔵に奪われた伊賀忍者の報復は、才蔵の新妻淡雪を奪い去ることであった。淡雪のうえに迫る怪しの忍法“夢殿しばり”、-猿飛佐助も登場。大坂城落城に至るまでくりひろげられる壮烈なる戦国忍法絵巻。
京の柳馬場の町医者猶崎将作宅を、ふいっと訪ねてきた風采のあやしげな若者があった。それは江戸での“黒船騒ぎ”を目撃して帰郷の途上にあった土佐の郷士坂本竜馬だった。この幕末の風雲児と、その妻となる将作の長女お竜との奇しき初対面のときであった。梅田雲浜を初めとする京の勤王家が一斉検挙され、将作とその仲間も囚われの身となり、しかも将作は遺体となっての帰宅だった。非運に陥った一家を支えてお竜は奉公に出た。そんなお竜に目をかける船宿『寺田屋』の女将お登勢との間に、いつしか竜馬をはさんでの女の葛藤が…。薩長を結んだ竜馬とお竜を媒酎したのは西郷隆盛だった。-“青春坂本竜馬”姉妹編。
すげえやつが帰ってきた。6年前に神奈川県警からパリの国際事機構に派遣され、そのままNY市警本部特別検察官に任命されていた伴大六警視が、日本に帰ってきたのだ。東京には警察庁の竜崎三四郎・壇竜四郎が、そして横浜には伴大六がにらみをきかすのだ。その伴大六が、帰国早々に県警本部の刑事部屋で外国人殺し屋集団に襲われた。何者?アメリカの大統領諮問委員会(PSB)のリタ・グレイからの通報によれば、その諸計画のことごとくをつぶされたマフィアの大ボスが、面子にかけて伴の生命をねらい、つぎつぎと屈強な殺し屋を日本に派遣しているというのだ。PSB日本支部も危うい緊急事態へ…。-熱血三四郎、快男児竜四郎、痛快大六の豪快極まる三者そろい踏みの快作戦だ。
出世を夢見て二本松城下から江戸入りした二人の若侍国枝喬太郎と高力信吾が、浅草奥山の見世物やれつけ小屋で、示源流動場主阿弥亀九郎、師範代進藤典膳らの一行に難くせをつけられた危ういところを、南蛮秘薬のねむり粉を撒いて助けてくれたのは、小唄師匠のお艶とその手先の仙太郎であった。日本橋の丸見屋伝兵衛から借りた二十両の返済を迫られ困っているお艶を救うべく、喬太郎は仙太郎とともに賭場に出かけたが博奕に負けてしまった。喬太郎はそこで浪人小山田陣十郎と出会った。徳川を倒す陰謀をめぐらす怪人物が乗っている回天丸に陣十郎に案内されていった喬太郎の運命は。一方、信吾は長屋でおきよと過ごしていたが、阿弥道場の面々に可憐なおきよを暴力をもって奪い去られていた。
故郷の土佐を出立して江戸は京橋桶町の北辰一刀流千葉貞吉道場へ入門した坂本竜馬は、いまだ19歳の夢多き青年であった。“魔羅”もでかけりゃ“夢魂”もでかい。野放図な竜馬のその人並みはずれた言動は、“ほら吹き竜馬”の異名のとおり、ことごとく道場仲間のど肝を抜く。だが、図らずも時代はこんな男の出現を必要としていた。相州捕賀の沖に異国の“黒船”がやって来たのだ!騒然たる風雲の中を、若き竜馬はゆくー。竜馬の青春を彩る女性は、千葉道場の美しい娘さな子、札差屋の女まさりお富士、そして郷里の幼なじみの妹の加尾、さらには新橋の美妓小蝶と多情多彩。-竜が天駆ける夢の中から生まれ出て、維新回天の原動力となる“天下の傑物”、でかい男の痛快青春物語。
ここはいずこの国であろうか、唐か天竺か。風吹き荒れる嵐の山頂に出現した白髪白髯の老仙人の手から、一振りの長剣が暗黒の空へと投げ上げられた。と、不思議なことに、その長剣は十振りの剣に分かれ、東西南北の各方面へと飛翔していったのであった。それぞれが持つ帯刀の中心に飛竜丸と銘の入った名刀の魔力に操られて運命の出会いを果たす戦国の若者たちー猿飛佐助・霧隠才蔵・由利鎌之助・穴山小助ら十人の武芸者たちがそろって信州上田城の知将真田幸村配下に集結してきた。これぞ魔剣飛竜丸の奇しき因縁によるものであった。-真田十勇士誕生を新解釈で描く会心作(「魔剣飛竜丸」)、黒田騒動を背景に、下級侍十郎太とその愛犬の運命は?(「いぬ侍」)他、全7編収録。
江戸の街は初午(陰暦2月の最初の午の日)でにぎわっていた。江戸市中には大小4、5千からの稲荷社があり、それが初午の日には朝からいっせいに笛太鼓ではやしたてるのだから、まるで雷鳴のとどろきの中にいるようなもので、そんな喧騒に圧倒されでもしているように街角に立っている若侍があった。まだ24、25歳で、無紋ながら黒羽二重の柔らかものを着た気品のある若侍で、名を春野草四郎といった。その春野草四郎、烏森稲荷で知り合ったよろずの茂七という町人とともに、殺人事件の渦中へとまき込まれることになった。事件の謎と、春野草四郎なる若侍の正体は…?-事件は上州館林6万石は秋元家の世継ぎをめぐる2派の暗闘に連っていた。
正徳(1711)のころー、江戸に“両国の三奇人”といわれる奇妙な男たちがいた。それは回向院前の魚屋太吉に薬研堀の聴雨堂なる老人、3人目の男が聴雨堂近くの裏店に“よろず指南所”の看板を下げる多賀甚三郎なる25、6歳の男で、この男なにか特異な感覚があるらしく、八丁堀が手を焼く難事件を快刀乱麻を断つごとく解決してしまう。聴雨堂平右衛門の娘お蝶が泉岳寺に参ったとき、内匠頭の墓所にぬかずく頭巾の武士は、大石内蔵助と名のった。そして、白黒だんだら染めの印羽織をまとった大高源五の死体が出現したが、それは何者かに殺された魚屋太吉であった。さらに矢頭右衛門七の死体が。-江戸の街にふたたび出没する赤穂浪士47士の謎に敢然と挑戦する多賀甚三郎。
大奥女中を絹夜具の上で姦している前髪立ての若衆…すさまじい筆勢で描かれた秘戯画を深川いろは橋のたもとで密かに売っていたやくざ男の後を追っていた岡っ引きの万蔵が、やくざ男と浪人の一団に無惨に殺害された現場に出現した白羽二重の孤影は破月樹太郎。徳川12代将軍家慶の愛妾お以登ノ方の養父押田伊勢守石翁の向島下屋敷を訪れたのは、心形刀流の使い手雑賀隼人であった。権力者石翁とその腹心雑賀がたくらむ陰謀とは?破月樹太郎と名乗った若侍こそ、北町奉行白木左京将監を父とする白木峻太郎であった。人呼んで“きまぐれ峻太郎”ともいわれる颯爽たる若殿が秘戯画にまつわる江戸の怪事件に挑戦!狩野派絵師と京風土佐派絵師との争いの行方は?-興趣満点の時代長編快作。