出版社 : 松籟社
祖父から孫へ、そしてその孫へと、語り継がれた一族の/家族の物語(ファミリー・ストーリー)。その「終わり」に立ちあったのは、幼いひとりの男の子だったーー 現代ハンガリー文学を牽引する作家ナーダシュ・ペーテルが、自らの出自であるユダヤというモチーフにとりくんだ中編小説。幼い子どもの視点からの、ウェルメイドとはとても言えないその語りは、共産主義体制下で物語を語りうるかという課題も想起させながら、記憶や伝説、そして物語を行きつ戻りつし、たゆたう。
20世紀以降の現代東欧文学の世界を一望できるガイドブック。 各国・地域別に、近現代文学の流れを文学史/概説パートによって概観するとともに、重要作家を個別に紹介します。 さらに、越境する東欧文学・東欧をルーツとする文学も紹介し、より広い視野で、東欧の文学を捉えていきます。
ポーランドにおけるナチス犯罪調査委員会に参加した著者が、その時の経験、および戦時下での自らの体験を踏まえて著した短編集。「縁取られた円形の肖像」をさす「メダリオン」という言葉を題に掲げ、第二次大戦中のポーランドにおける、平凡な市民たちの肖像をとらえる。ユダヤ系も含むポーランド市民たちの、ナチス・ドイツ占領下にくぐりぬけた経験をめぐる証言文学。「ホロコースト」という言語を絶する現実を前にして、それでも言葉で捉え、表現しようとした最初期の試みにして、最良の成果の一つ。 シュパンナー教授 底 墓場の女 線路脇で ドゥヴォイラ・ジェロナ 草地(ヴィザ) 人間は強い アウシュヴィッツの大人たちと子供たち 訳者解説
エミリ・ブロンテ『嵐が丘』が蔵する謎を手がかりに、この小説の核心に迫る。 『嵐が丘』の読者は数多の謎に遭遇する。謎を解くためにテクストから証拠を拾い上げてゆくと、また新たな謎が出現し、これまで見えなかった作品の一断面が、鮮やかに浮かび上がってくる…… 好評を博した旧版『「嵐が丘」の謎を解く』(創元社、2001)に3つの新章を加え、全面的に改稿した増補決定版。 第1章 序説ーー『嵐が丘』の謎はどこから生じてくるのかーー 第2章 「許されざる者」とは誰かーー『嵐が丘』の神学的解釈ーー 第3章 ヒースクリフは何者かーー「分身」のテーマの変容ーー 第4章 時間の秘密ーー年代記を解読するーー 第5章 空間に埋め込まれた秘密ーーイメジャリーを解読するーー 第6章 隠された会話ーーある劇的瞬間ーー 第7章 第二世代物語論(一)--鏡の世界ーー 第8章 第二世代物語論(二)--ファンタジーとしての『嵐が丘』-- 第9章 『嵐が丘』の起源ーー新・旧「伝説」をめぐってーー 第10章 『嵐が丘』のトポスーー「荒野」物語についての比較文学的考察ーー おわりにーー『嵐が丘』の謎の性質とはどのようなものかーー (付録)『嵐が丘』年代記とその推定方法
ルーマニア・ポストモダン文学の旗手カルタレスクが、数々の短篇・掌篇・断章で展開する〈女性〉賛歌。 黒い少女 Dへ、二十年後 イヤリング 親密感について ブラショフのナボコフ 落日 耳を伏せて 折り紙モンスター ぼくは何者? ペトルッツァ Jewish Princess トリーノの出会い 子供の脳髄で愛する アイリッシュ・クリーム 霊感の源 二種類の幸福 ザラザ わが青春の魅惑の書 偉大なるシンク教授 黄金爆弾 ぼくらが女性を愛する理由 終わりに
信仰の道を静かに歩む修道師のもとに届けられた、ある不可解な事件の報。それを契機に彼の世界は次第に、しかし決定的な変容を遂げる。冷酷で得体のしれない権力、謎と恐怖に翻弄されながら、修道師は孤独な闘いを続けるが…。
第二次大戦下、親元から疎開させられた6歳の男の子が、東欧の僻地をさまよう。ユダヤ人あるいはジプシーと見なされた少年が、その身で受け、またその目で見た、苛酷な暴力、非情な虐待、グロテスクな性的倒錯の数々……危うさに満ちた、ホロコースト小説。 旧邦題『異端の鳥』(角川書店)の新訳版。
狂った時代だったけれど、私たちにはジャズがあったーー 圧政下のチェコで歌いあげられた二つの伝説「エメケの伝説」「バスサクソフォン」は、ナチスもソ連も憎悪した音楽・ジャズにのせて、満ち満ちる閉塞感のなかで、生がはかなくもきらめく一瞬をとらえる。 ジャズに憑かれた作者の回顧エッセイ「レッド・ミュージック」併録。 レッド・ミュージック エメケの伝説 バスサクソフォン 訳者あとがき(石川達夫)
新しい未来へー。アイルランドで、医者の夫とひとり息子とともに10年以上、平穏な(と同時に刺激のない)家庭生活を送ってきたシーラ・レドン。南フランス旅行で魅力的なアメリカ人の青年トムと出会い恋に落ちたシーラは、彼の魅力に抗えず、家庭を捨てる決心をするが…。
シュティフター・コレクション第4巻は、シュティフターの作品世界を貫く主題「森」に着目し、生命の力がみなぎる森の姿と人々の暮らしとの関わりが描かれた作品、いわば「森の鼓動」が聞き取れる作品を集めた。森の中で「奇蹟」に遭遇する一人の男の心的過程を描いた表題作『書き込みのある樅の木』のほか、『高い森』、『最後の一ペニヒ』、『クリスマス』を収録。 高い森 書き込みのある樅の木 最後の一ペニヒ クリスマス 森の鼓動ーシュティフター・コレクション第4巻について(訳者解説)
ハンガリーを代表する現代作家エステルハージ・ペーテルによる、ハイブリッド小説。黒い森(シュヴァルツヴァルト)から黒海まで、中央ヨーロッパを貫く大河ドナウ川を「プロの旅人」が下っていく。行く先々から雇い主に送られる旅の報告書は、しかし、旅行報告の義務を軽やかに無視し、時空を超えて自在に飛躍。歴史、恋愛、中欧批判、レストラン案内、ドナウの源泉、小説の起源等々を奔放に語りつつ、カルヴィーノ『見えない都市』を臆面もなく借用するなど膨大な引用(その多くは出所不明)を織り込みながら、ドナウの流れとともに小説は進んでいく……
19世紀オーストリアの作家・シュティフターが描く悲恋の物語。 「森ゆく人」と呼ばれる老人ゲオルク、ボヘミアの静かな森をさまよい続ける彼には、取り返しのつかない過ちを犯した過去があった。それは、あまりにも純粋な、あまりにもかたくなな心が生み出した悲劇……しかしその悲しみに打ちひしがれた男の心を、ボヘミアの静かな森はやさしく慰めてくれるのだった。 森ゆく人 わたしの生命ー自伝的断片ー 訳者覚書
20世紀チェコを代表する作家ボフミル・フラバルの代表的作品。 ナチズムとスターリニズムの両方を経験し、過酷な生を生きざるをえないチェコ庶民。その一人、故紙処理係のハニチャは、毎日運びこまれてくる故紙を潰しながら、時折見つかる美しい本を救い出し、そこに書かれた美しい文章を読むことを生きがいとしていたが……カフカ的不条理に満ちた日々を送りながらも、その生活の中に一瞬の奇跡を見出そうとする主人公の姿を、メランコリックに、かつ滑稽に描き出す、フラバルの傑作。
20世紀前半ドイツの作家、ハインリヒ・マンの代表的長篇小説。「汚物〈ウンラート〉教授」のあだ名で呼ばれる初老の教師ラート。ある日、生徒を追って夜の町に出た彼は、大衆酒場の若き歌姫と出会う。彼女と付き合ううち、教壇の権威としての立場を忘れた彼は、堕落の一途をたどりながら、破滅的な愛を彼女一人に注ぐようになっていく……。マレーネ・ディートリヒ主演映画「嘆きの天使」原作。
比類ない自然描写の美しさで知られる19世紀オーストリアの作家シュティフター、その代表的短篇集『石さまざま』全訳版(上下2巻)をここに。上巻では、作家自身の芸術的信仰告白ともいうべき「序文」、幼いころの鉱石蒐集の想い出が反映している「はじめに」、ボヘミアの森の風物を背景に、故郷での想い出を紡いだ「花崗岩」、不毛の地に暮らす貧しい司祭の、隠れた美しさを描く「石灰石」、姦通とそれへの呪詛という人間のまがまがしい情念に巻きこまれた子どもが、愛ある女性によって救われる「電気石」を収録。
京都の町を走る京阪電車の扉が静かに閉まる。無人の駅にひとり降りたつ美しい若者ー彼こそ、かの光源氏の孫君。何かが彼にささやいている、彼の求めるものが、何世紀もの長きにわたって探し求めてきた「隠された庭園」が、この地にある、と。しかしーハンガリーの想像力が“日本”と出会うとき。
昭和40年代、高度成長期日本。3種の神器と謳われた欲望の象徴・自動車をめぐって、各メーカーは熾烈な争いを繰り広げる。ライバル会社を欺き、出し抜き、機密を盗み出す“産業スパイ”の世界をあますところなく活写、1962年に発表されるや一躍ベストセラーとなり、「企業小説」という新ジャンルを開拓した傑作。同年、田宮二郎主演で映画化されている。
愛する者の“死”をめぐる喪の記憶。「バテスからの帰還」をはじめ「子供」、「罪なき女」、「コーベス」など、後期短篇小説のコレクション。ハインリヒ・マン短篇集全3巻、完結。