出版社 : 松籟社
クラリッセ・リスペクトル『星の時』の訳業で日本翻訳大賞を受賞した著者による、待望の小説集。 新潟・長岡での高校時代を、90年代の音楽と故郷の海の波音、そしてとある詩人の詩を響かせながら回想する表題作、00年代渋谷を舞台に、同じ時と場所をたしかに共有した人たちとの、過ぎさりし日々を描いた短編「永遠のあとに来る最初の一日」、日系ブラジル人ジュジュとの交歓のひとときを切りとった掌編「その夏のジュジュ」を収録。
観念と官能の織りなす愛の新世界ー ウルリッヒとアガーテは可能性の限界に向かう旅に出て、近親相姦でも〈遙かな愛〉でもない、〈肉体的であると同時に精神的な〉愛のユートピアを夢見る。 その傍らで演じられる市民的性愛の数々- ニンフォマニアの裁判官夫人と性科学の教えを実践する外務省高官夫人が、これまで見過ごされてきた〈笑える形而上学小説〉の側面を浮かび上がらせる。 20世紀ヨーロッパ文学を代表する大作が清新な新訳・抄訳で甦る。
インドシナ戦争の開戦後ほどなく、ベトミンによって殺害された作家カイ・フン。ベトナムの近代化に小さくない役割を担った彼の存在は、しかし、今日不当に黙殺されている。 植民地主義への抵抗の声を上げ、同時にその声が狭隘な民族主義に回収されるのを拒むーーそうした困難な道を歩んだ、ひとりの「消された」作家を蘇らせる試み。 序論にかえて ベトナムの植民地的近代を生きた作家カイ・フン 第一部 自力文団と文団を支えたカイ・フン 第一章 自力文団 第二章 「間(あいだ)」のひと、カイ・フン 第三章 カイ・フン文学に対する評価(一九三〇年代から二〇二〇年代) 第二部 カイ・フン後期作品を読む(1938-1946) 第四章 植民地主義/国民国家の幻想からの解脱──『ハィン』と『幼き日々』── 第五章 失われた「読み解き」の鍵──投獄経験から生まれた『清徳』── 第六章 全体主義への警告──日仏共同支配期の児童書『道士』を読む── 第七章 敵/味方の垣根を乗り越える(1)──植民者を描いた二作品── 第八章 敵/味方の垣根を乗り越える(2)──「内戦」を描いた「月光の下で」── 終 章 コロニアル状況におけるナショナルな苦悶 付録 付録1 ベトナムにおけるドストエフスキー受容 付録2 『清徳』梗概 付録3 『道士』梗概 付録4 「月光の下で」抄訳 付録5 年表 付録6 カイ・フン著作リスト 付録7 『ベトナム』『正義』に掲載されたカイ・フンの文学作品
ユーゴスラヴィアの作家ダニロ・キシュの代表作。 ボルヘスの『汚辱の世界史』への「対本」としてーーオマージュとして、かつアンチテーゼとしてーー構想された7つの連作短編集。 スターリン時代の粛清に取材しながら、全体主義社会での個人の苦闘を描く。 ボリス・ダヴィドヴィチのための墓 紫檀柄のナイフ 仔をむさぼり食らう雌豚 機械仕掛けのライオン めぐる魔術のカード ボリス・ダヴィドヴィチのための墓 犬と書物 A・A・ダルモラトフ小伝(一八九二ー一九六八) 訳者あとがき
20世紀後半のドイツ語圏文学を代表する作家ベルンハルト。その全作品を解く鍵と言われる自伝五部作が、本書『寒さ』によって日本語訳が出そろう。 肺病を疑われた若き主人公はグラーフェンホーフ結核療養所に収容される。死と絶望ばかりを目にしたそこでの日々を回想しながら、語り手は一つの探究を、自らの「原因」探究を進めるーー
感傷にも甘さにも寄りかからない凛とした物語世界。アルゼンチン辺境で布教の旅を続ける一人の牧師が、故障した車の修理のために、とある整備工場にたどりつく。牧師、彼が連れている娘、整備工の男、そして男とともに暮らす少年の4人は、車が直るまでの短い時間を、こうして偶然ともにすることになるがー。ささやかな出来事のつらなりを乾いた筆致で追いながら、それぞれが誰知らず抱え込んだ人生の痛みを静かな声で描き出す、注目作家セルバ・アルマダの世界的話題作。
ベルギーの幻想世界が生み出したタイムトラベルSF。 鉄鋼卸売業者ギュスターヴ・ディウジュは、20年ぶりに再会した旧友からひとりの英国人を紹介される。《過去に働きかけ、起こった事実を変える》研究にいそしむ彼ハーヴィーの手になる装置によって、ディウジュは100年以上前の過去をーーナポレオンが「勝利」したワーテルローの戦場を目撃するが…… 古典的幻想文学・SF論「妖精物語からSFへ」でロジェ・カイヨワが言及し、日本では名のみ知られていたタイムトラベルSFの名品、待望の邦訳なる。
「自分の人生を生きるのだ。自分が生きたいように、生きたいだけ、ずっと。」──重篤な病に憑りつかれ、生死の境をさまよう主人公。自身と、そして家族のもとに現れた「死」を前にして、彼は何を見出したのか。 ベルンハルト自伝五部作の第三作。
作家自身が見つめ、経験した、ナチスのチェコ侵略、「プラハの春」の挫折、そして「ビロード革命」。それら歴史の大きな出来事についての語りは、しかし奔放に、自在に逸脱し、メランコリーとグロテスクとユーモアがまじりあう中に、 シュールで鮮烈なイメージが立ち上がってくるーー 20世紀後半のチェコ文学を代表する作家、ボフミル・フラバルの傑作短編集。 魔笛 沈める寺院 公開自殺 幾つかのセンテンス 競馬の競走路での三本足の馬 グレイハウンド・ストーリー 「ホワイト・ホース」 十一月の嵐 人間の鎖 ぎりぎり
四十を過ぎて一念発起、ルーマニア語の世界に飛び込んだ著者。たちまちこの情感豊かな言語と、それが紡ぎだす詩や小説の虜になる。爾来四十数年、訳した作品は数知れず。ミルチャ・エリアーデの主要小説をはじめ、リビウ・レブリャーヌ、ミルチャ・カルタレスクからルーマニアの民話やバラード、SFにいたるまで、手がけた翻訳の解説・解題をまとめた本書は、ルーマニアの文学世界への格好の導きとなる。著者のルーマニア愛が溢れる一冊。 はじめに 松本からブカレストまで 第一部 ルーマニア文学雑考 近代ルーマニア文学史概観─『東欧の想像力』より ウルムズ、場違いのシュルレアリスト リビウ・レブリャーヌと『大地への祈り』 リビウ・レブリャーヌ『処刑の森』 知られざるホロコースト マリン・プレダ アデラ・ポペスク詩集『私たちの間に─時間』 パウル・ゴマ『ジュスタ』 ミルチャ・カルタレスク『ぼくらが女性を愛する理由』 ミルチャ・カルタレスク『ノスタルジア』 ブロンドの巻き毛─わがルーマニアSF事始め─ ギョルゲ・ササルマン『方形の円』 ルーマニア民話の世界 ルーマニアのバラード 【コラム】「名前の日」とお国ぶり/ルーマニア語の敬語 第二部 エリアーデに導かれて ルーマニア精神の星エリアーデ ミルチャ・エリアーデの幻想 ミルチャ・エリアーデの神秘文学の秘密─『19本の薔薇』の文学的遺言をめぐって 『令嬢クリスティナ』 ミルチャ・エリアーデと妖精たちの間 あるルーマニア人─ミルチャ・エリアーデのパリ時代 永遠への告白 『エリアーデ幻想小説全集』〈第一巻〉 解題 『エリアーデ幻想小説全集』〈第二巻〉 解題 『エリアーデ幻想小説全集』〈第三巻〉 解題 『迷宮の試煉』 【コラム】映画「コッポラの胡蝶の夢」 おわりに
チェコスロヴァキアの民主化運動を牽引し、のちに大統領に就任したヴァーツラフ・ハヴェル。しかし彼の本領は、「言葉の力」を駆使した戯曲の執筆にあった。 官僚組織に人工言語「プティデペ」が導入される顛末を描いた「通達」、ビール工場を舞台に上司が部下に奇妙な取引をもちかける「謁見」の二編を収め、「力なき者たちの力」を考究したこの特異な作家の、不条理かつユーモラスな作品世界へ誘う戯曲集。 通達 謁見
20世紀を代表する文学作品『ユリシーズ』。ジェイムズ・ジョイスがこの傑作を世に送り出してからちょうど百年目にあたる2022年、ジョイス研究の枠を越えて気鋭の論者が結集した。多様な視点から、『ユリシーズ』の「百年目にふさわしい読み」を提示する論考群。 前口上(下楠昌哉) 『ユリシーズ』梗概+『オデュッセイア』との対応表(宮原駿) 『ユリシーズ』主要登場人物一覧(宮原駿) ジェイムズ・ジョイス評伝(田村章) 1.横たわり尖がって『ユリシーズ』を読む 横たわる妻を想う──ジェイムズ・ジョイスと〈横臥〉の詩学(小島基洋) 眼を閉じるスティーヴン、横たわるベラックワ──「子宮」イメージの変容とアリストテレスの思考の継承(深谷公宣) 違法無鑑札放浪犬の咆哮──『ユリシーズ』における犬恐怖と狂犬病言説(南谷奉良) 「キュクロプス」挿話のインターポレーション再考(小野瀬宗一郎) ジェイムズ・ジョイス作品における排泄物──古典的スカトロジーから身体の思考へ(宮原駿) 2.『ユリシーズ』を開く──舞踏・演劇・映画・笑い ニンフの布──ニジンスキー『牧神の午後』と「キルケ」挿話の比較考察(桐山恵子) ハムレットを演じる若者たちのダブリン──「スキュレとカリュブディス」挿話におけるスティーヴンの即興演技(岩田美喜) 『ユリシーズ』とヴォルタ座の映画(須川いずみ) 『ユリシーズ』のユグノー表象に見る移民像と共同体(岩下いずみ) 『ボヴァリー夫人』のパロディとしての『ユリシーズ』──笑い・パロディ・輪廻転生(新名桂子) 3.『ユリシーズ』と日本 『ユリシーズ』和読の試み 『太陽を追いかけて』日出処へ──ブッダ・マリガンと京都の芸妓はん(伊東栄志郎) 海の記憶──山本太郎の『ユリシィズ』からジョイスの『ユリシーズ』へ(横内一雄) 4.さらに『ユリシーズ』を読む 恋歌に牙突き立てる吸血鬼──スティーヴンの四行詩とゲーリック・リヴァイヴァルへの抵抗(田多良俊樹) 『ユリシーズ』で再現される夜の街─夢幻劇として読まない「キルケ」挿話(小田井勝彦) 「エウマイオス」挿話をめぐる「ファクト」と「フィクション」(田村章) 限りなく極小の数を求めて──「イタケ」挿話における数字に関わる疑似崇高性について(下楠昌哉) デダラス夫人からモリーへ──スティーヴンの鎮魂(中尾真理) あとがき(須川いずみ)
単一政党体制下の1950年代ルーマニア。作家・批評家養成機関「文学学校」に入学した語り手「ぼく」は、ひとりの女子学生と出会う。「正義の女」=ジュスタとあだ名された彼女を待ち受ける苦難とはーールーマニアの反体制派の代表と目される作家パウル・ゴマが、学生時代を回想して綴る自伝的小説。
1991年、自国での生活に絶望したアルバニア人が多数、アドリア海を越えてイタリアへ渡った。「新天地」への船出ーしかし、出発を間近に控えた乗客の中に、自ら船を下りてしまったひとりの男がいた。彼が思い起こす、「敗残者」としての人生とは。無名の元数学教師ファトス・コンゴリを一躍、アルバニアの最重要作家の地位に押し上げたデビュー小説。
ノーベル賞作家(2018年)トカルチュクの名を一躍、国際的なものにした代表作。 ポーランドの架空の村「プラヴィエク」を舞台に、この国の経験した激動の二十世紀を神話的に描き出す。
今世紀に入ってから再発見され、世界のモダニズム地図を書き換える存在として近年注目を集める戦間期ポーランドの作家・詩人デボラ・フォーゲル。その短編集『アカシアは花咲く』と、イディッシュ語で発表された短編3作を併載。同時代の作家ブルーノ・シュルツによる書評も収めた。
旧ユーゴスラヴィアを代表する作家イヴォ・アンドリッチの作品集。 表題作「宰相の象の物語」は、権力者の横暴を耐え忍び、それに抵抗する民衆の姿を描いた中編。恐怖政治を布く強大な権力者が、ふとした気まぐれから一頭の仔象を飼いはじめる。街中を無邪気に暴れまわる象は、人々の憎悪を集めーー ほかに、アンドリッチが自らの「小祖国」ボスニアを舞台に紡いだ3作品、「シナンの僧院に死す」「絨毯」「アニカの時代」を収録。 宰相の象の物語 シナンの僧院に死す 絨毯 アニカの時代 解説 イヴォ・アンドリッチ─作家と作品─ (栗原成郎)
メキシコの作家フアン・ホセ・アレオラの作品集Confabularioの日本語訳。 「明晰な理性に統べられた、無限の想像力の自由」、ボルヘスは、フアン・ホセ・アレオラをこう評している。 寓話とも、罪のない小噺とも、皮肉みなぎる笑劇とも取れるその作品たちをどう読み、どう味わうかは、著者とあなた(読者)の「共謀」しだい。 代表作「転轍手」「驚異的なミリグラム」をはじめ、28の掌篇・短篇を収めた作品集。 記憶と忘却 共謀綺談 山々が出産しようとしている まことに汝らに告ぐ サイ トリクイグモ 転轍手 弟子 エバ 村の女 ロードスのシネシウス 反抗的な人間の独り言 驚異的なミリグラム ナボニドゥス 灯台 悼んで バルタザール・ジェラール(一五五五⊖一五八二) ベビー・H・P お知らせ 弾道学について 調教された女 パブロ 物々交換のたとえ話 悪魔との契約 改宗者 神の沈黙 地の糧 評判 物語歌謡 下手な修理をした靴職人への手紙