出版社 : 水声社
ディストピアに希望を探れ。文学という枠を越え出て、政治や社会のあり方、あるいは日常生活の襞にいたるまで、今やあらゆる領域へと越境し増殖を続ける『一九八四年』の世界。動物、ジェンダー、情動、“ポスト真実”やポピュリズムといった多様な観点からの精読や、受容史やアダプテーションなど関連作品の分析を通してこの文学的事件の真価を問う。今と未来を生き延びるための『一九八四年』読解。
第二次世界大戦勃発間近の一九三九年八月二日、ヴァルガスの独裁政権が支配し不穏な空気が漂うブラジルの奥地で、ルース・ベネディクトに師事していた若き人類学者は、二人のインディオとともにカロリーナへと戻っていくのだが…。なぜ彼は自ら死を選んだのか?現実とフィクションの裂け目から、ある人類学者の死の真相を「あなた」に突き付ける、現代ブラジルの傑作ミステリー!
「わたしは馬、わたしは牝馬なの」イギリスの大富豪の一族に生まれ、“深窓の令嬢”として育てられたレオノーラは、幼い頃から動物と会話し、精霊が見える不思議なヴィジョンの持ち主。彼女の運命は、シュルレアリストの画家マックス・エルンストとの出会いによってめくるめき冒険へと投げ出される…不世出の画家レオノーラ・キャリントン(1917-2011)の生涯を現実とフィクションのあいだに描きだした傑作長篇。二〇一一年に出版社セイス・バラルが主催する未発表の長編小説を対象とした文学賞、ビブリオテカ・ブレベ賞を受けた。
記憶と結びついたマドレーヌ菓子、芸術創造のごときブッフ・モード、舌平目の変身譚、アスパラガスの官能性…さまざまな材料を時をかけて風味豊かにまとめあげられた『失われた時を求めて』において、「文学」と「料理」はいかなる位置をとりうるのか?食をめぐる文化史を踏まえ、世紀末に溢れた美食言説に逆らす作家の小説美学が託されたテクストを味読していく、プルーストをめぐる美味しい文学論。
きわめてウリポ的な、樹形図文学。一つの樹木がその枝を伸ばすかのように、数々の枝に分かれた幼少期のエピソード群。物語・挿入・分岐と、ウリポメンバーならではの凝った構成からなる、「記憶の破壊」を試みた、規格外の自伝的フィクション。写真家だった妻の早逝の空虚を埋めるべく書かれた大作“ロンドンの大火”シリーズの一冊であり、著者の代表作!
祖国エルサルバドルへの圧倒的な罵詈雑言と呪詛ゆえに作者の亡命さえ招いた問題作『吐き気ーサンサルバドルのトーマス・ベルンハルト』に加え、ひとつの事件をめぐって無数の異説や幻覚をもてあそぶ虚無的な生を描き出す「フランシスコ・オルメド殺害をめぐる変奏」、歴史の淀みにはまり込んだ罪なき市民が暴力の渦に巻き込まれる「過ぎし嵐の苦痛ゆえに」計3篇の「暴力小説」を収めた、現代ラテンアメリカ文学の鬼才カステジャーノス・モヤの広大な物語世界を凝縮した作品集。
前途有望な兄ラシェルの突然の自殺に見舞われた弟のマルリクは、遺品として兄の日記を手渡される。日記をめくるごとに明らかになっていく兄の心境と自殺の動機、そしてナチスに加担した過去をもつ父親の存在…。人がもつ孤独の闇と、それでもなお人を信頼する希望の光を、シラー兄弟の日記を通して重層的に物語る傑作長編。
ニグロの老人が振るう杖の一振りにより、崩壊した館がたちまち元の姿へと戻り、亡くなったはずの館主の生涯をその死から誕生へと遡る傑作「種への旅」をはじめ、「夜の如くに」「聖ヤコブの道」を含む旧版に加え、時間の枠組みを大きく逸脱させるユーモアとアイロニーが散りばめられた「選ばれた人びと」「闇夜の祈祷」「逃亡者たち」「庇護権」の四編をあらたに加えた決定版カルペンティエール短編集。
登場人物全員狂人説!?主従一行のみならず、脇役にいたるまで漏れなく正気とも狂気とも定かでない登場人物たちの行動の分析、狂気の萌芽となる理想と現実の鋭い対立をはらんだセルバンテスの苦難の生涯の解説、さらには『贋作ドン・キホーテ』や様々な世界文学との比較を通じ、作品の内外にひしめく狂気を総覧する、狂的『ドン・キホーテ』体験への導きの書。
時は西暦26××年。ヨーロッパ最終戦争において圧倒的な勝利を収めたナチス・ドイツは“神聖ドイツ帝国”を樹立、同じく戦勝国である日本帝国と拮抗しながら世界の覇権を争い続けてきた。厳格な自民族男性中心主義を掲げ、ヒトラーを軍神として崇める国家宗教“ヒトラー教”の守護者たる“騎士”たちの統率のもと、建国以前の記録はことごとく破壊され、キリスト教徒は徹底的な迫害を被り、そして女性たちもまた、男児の出産を除くあらゆる価値を剥奪された家畜に等しい存在として、ゲットーでの隔離生活を強いられていた。そんな中、従属民族であるイギリス人の技術者アルフレッドは、一人の騎士から帝国開闢の真相を物語る禁断の書物を託されるのだった…。
少女に対する偏愛!強迫的なまでにサディスティックな性癖!!常軌を逸した過激で暴力的な描写によって、少女たちの監禁や虐待の場面をはじめ、露骨なまでに作家に取り憑いた妄想を描き出す。遺作となった“大人のためのファンタジー”。
思いがけず暗闇で目が光る能力を手にした語り手が、密かな愉しみに興じる表題作「案内係」をはじめ、「嘘泣き」することで驚異的な売上を叩き出す営業マンを描く「ワニ」、水を張った豪邸でひとり孤独に水と会話する夫人を幻想的な筆致で描く“忘れがたい短篇”(コルタサル)「水に沈む家」、シュペルヴィエルに絶賛された自伝的作品「クレメンテ・コリングのころ」など、ガルシア・マルケスはじめ“ブーム”の作家たちに多大な影響を与えたウルグアイの奇才による日本語版オリジナル傑作短篇集。
キリスト教の聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラを目指す「私」。たび重なる回り道と彷徨、そして思索の果てに彼は、スペインの歴史・風土・宗教・物語の坩堝、茫漠たる時空間の襞へと絡めとられていく…。現代オランダ文学の最高峰による、思索的/幻想的旅行記。
“このなすがままの態度に誘発された情熱の波が彼女を陶酔させた。”家庭を捨てた自責の念にかられるリリアン、その前に現れる生き生きとしたジューナ、そして破滅的なサビーナ、ヘレン。画家ジェイを間にお互いに響きあい、共感の愛を見つけ自己を探求していく女性たちー作家ニンが経験したモダニズムのパリを舞台に描く愛の遍歴。
総理官邸に大型トレーラーが突入、爆発した。残骸のコンテナから発見された男女12人の死体はすべて被曝していたー福島原発事故や共謀罪の制定を背景に、巨大利権に戦いを挑む男たちの運命を描く“原発サスペンス”!!
1977年のハバナ、獣医学雑誌の校正の仕事に身をやつしている物書きのイバンは、2頭のボルゾイ犬を連れて浜辺を散歩する不思議な男、“犬を愛した男”と出会う。犬の話題で親密になっていく2人だが、やがて男は彼のみぞ知る“トロツキー暗殺の真相”を打ち明けはじめる…世界革命を夢見るレフ・ダヴィドヴィチ(トロツキー)の亡命、暗殺者ジャック・モルナルに成り代わるスペイン人民戦線の闘士ラモン・メルカデール、そして舞台はメキシコへと至る。イデオロギーの欺瞞とユートピア革命が打ち砕かれる歴史=物語を力強い筆致で描く、現代キューバ文学の金字塔。