出版社 : 筑摩書房
『ショウコの微笑』『わたしに無害なひと』などで人気を博し、数々の賞を受賞してきた実力派作家の最新短編集! 手をのばし、すれ違う、 二人に差しこむひとすじの光。 人間関係の感情の機微を卓抜した力で描くチェ・ウニョン。 〈書くこと〉を使命とする強い意志。問い直される女性への差別。 【収録作】 大学で研究者を目指す私と女性講師を描く、表題作/基地村での女性殺害問題と校内誌編集部を描く、「役割」/雇用形態の異なる二人の車中での会話を描いた、「一年」/DV問題を扱った、「返信」/「夫と妻と子ども」という「一般家族」を超えた繋がりを描く、「種まき」「伯母さんへ」「消える、消えない」 2018年から2023年までに書かれた中短編全7編。 === 「欠乏感を抱きしめ、それを必要以上に憎んだり、哀れんだりすることもなく、ただ一日一日を生きていく。悲しければ悲しいのだと、腹が立てば腹が立っているのだと、愛していれば愛しているのだと気づき、自分を見守り続ける。私は今、そういう作業をしているところなのだと思う。 小説を書いていて失われた記憶がよみがえるとき、私よりも深い場所にいる自分が伝えようとしている言葉に耳を澄ます。」 (「作家の言葉」より) === 「著者の作品に登場する主人公はほとんどが女性で、ストーリーもフェミニズムの観点から描かれたものが多い。(中略)前半は憧れる側と憧れられる側、後半の「種まき」「伯母さんへ」「消える、消えない」は面倒をみる側とみられる側に焦点を当てており、韓国語版の解説を書いた文芸評論家は、この三作を〈ケア三部作〉と称している。」 (「訳者あとがき」より) === 書店員、絶賛! 泣きそうだ、と思う瞬間がいくつかあった。 しかし、それは涙腺を緩ませはしなかった。 もっと心の奥底の震えが、そう錯覚させていた。 この震えの感覚を上手く言葉にできないことがもどかしい。 人と人の交流が、あるラインを超えたときに起こる摩擦が心に響いてくる。 チェ・ウニョンは、そのライン際にある渚を物語として形にしている。 ひいては返す波のように、捉えどころのなく動く他者との境界。 その一線に触れたときに起こる名もなき感情。 誰もが経験したことのあるそれを、誰もが読むだけで体験できる物語として、 仕上げること。素晴らしい作家の仕事だと思えた。 ───フタバ図書・萩原健太さん 私にとって本作は、 人の細やかな感情が幾重にも折り重なっている、 やわらなか光の結晶を集めたような短編集でした。 また、… ほんのかすかな光でも 役割 一年 返信 種まき 伯母さんへ 消える、消えない 作家の言葉 日本の読者の皆さんへ 訳者あとがき
第39回太宰治賞受賞『自分以外全員他人』、「本の雑誌年間ベストテン」第3位『孤独への道は愛で敷き詰められている』に続く<柳田譲>サーガ三作目! 報われぬ中年男性の魂の彷徨を描く 恋愛に絶望し、仕事にも倦み、家族はいよいよ疎ましく、ささやかなセルフケアも世間が容赦なく水を差してくるーー。すべての苦しみから逃れて「無」になることを求め赴いた怪しげな座禅道場で柳田譲が見たものは!? === 生きれば生きるほど、自分は人生に不向きであることを思い知った。人が当たり前にできることが、どうやら自分にはどうしてもできないらしい。四十を目前に控えた今、そのことにようやくはっきりと気付いた私は、これを機にいろいろなことを諦めることにした。やりがいのある仕事も、夢中になれる趣味も、誰かと一緒に生きることも。そうして小さな喜びで満足できるよう幸せのハードルを下げることでなんとか生きのびようとしていた。(本文より)
ファンサンボル青年文学賞受賞 『82年生まれ、キム・ジヨン』(日韓累計165万部突破)著者デビュー2作目 伝説の妖精に魂を奪われた少女の夢は、体操の選手になることだった。 思わずエールを送りたくなる、チョ・ナムジュの鮮烈な初期作品。 === コ・マニ一家の住む、ソウルの貧民街の一つであるS洞の再開発が始まる。今は一人でトッポッキとてんぷらを売っている父。近頃の最大の関心事は、再開発の流れに乗ってマンションに入居すること。そして二人の間の一人娘で未婚の36歳、コ・マニは10年間働いた職場をクビになったばかり。幼い頃、マニは、テレビでソウルオリンピックの体操選手の姿を見て魅了される。母は父の反対を押し切ってマニを体操部がある私立小学校に転校させる。しかし、幼い時から体操を続けてきた他の子どもたちとの実力の差を知って呆然とする。ある日、大きな事件を経験したマニは体操を諦める。そして現在のマニは…… === 「彼女はコマネチと言うの。ナディア・コマネチ。体操界における伝説の妖精よ」 院長先生が言った。コマネチに出会えたのは運命のように思えた。院長先生は私の運命論に油を注ぐような一言を付け加えた。 「マニが特別な子に思えたのは、初めて会った時からなの。コ・マ・ニという名前を聞いた時、コマネチを思い出したからよ」(70ページより) (……)十四歳のコマネチはモントリオールオリンピックのヒロインとなった。 院長先生からコマネチの話を聞きながら、私は体が熱くなるのを感じた。顔が火照り、頭がぼうっとし、口からも、目からも、煙が出そうだった。神の祟りにあったり、あるいは恋の病にかかったりしたら、きっとこんな感じになるだろう。私はその瞬間、大げさではなくて本当に、体操に魂を奪われてしまった。どういう精神状態で、家に帰れたのかも思い出せない。布団に入ってからもひたすらコマネチのことを考えていた。(71ページより) === これもまた、過ぎゆく 残酷な冬 私は新体操がしたいと言った 危うげながらも幸せな時間 高い所へのぼる人たち お尻に押した赤いスタンプ 暗号のようにぽつぽつと ネギを見てやさしく笑う人たち 月夜のステージ あとがき 著者からのメッセージ 訳者あとがき
ヤンソン研究の第一人者が 8年の歳月をかけて書き上げた 遺作にして、決定版評伝。 ムーミン谷はなぜ生まれたのか。いったいかれらは誰なのか。 その謎はトーヴェ・ヤンソンの生涯をたどると見えてくる。 === 「どこまでが事実で、どこからが虚構なのか。 これを問うてもあまり意味はない、と示唆していると考えることもできよう。創作は創作として評価すべきであって、モデル探しに意味があるとは思えないとも。だから、これまでわたしは、虚と実とを必要以上に同一視する読みを避けてきた。しかし、近年あらためてヤンソン作品を読みなおすうちに、作品のいたるところに、作者のアルター・エゴが見え隠れする気がしてきた。したがってヤンソンの生涯を語ることは、ひるがえって作品を語ることであり、逆もまた真であろう。と同時に、物語の内的ロジックを分析するさいに、作者の生とからめる解釈のさじ加減に細心の注意を払いたいと思う。虚と実の交わる境界領域にこそ、作者トーヴェ・ヤンソンのひととなりが現われでるかもしれない。 もとより、どんな作家でも大なり小なりそうなのだが、トーヴェ・ヤンソンという作家はとりわけ自己イメージの表象にこだわった創作者ではないのか。そして、それらは子ども時代の家族の表象、というより、きわめて明確な意図をもって再構築され、しかもいかにも無造作で自然な印象を与えるまでに入念に呈示された表象と切っても切り離せないと思う。 なんといっても、ヤンソンが生きた子ども時代の追想なくして、ムーミン谷やその住人たちに生命が吹きこまれることはなかった。よって、まずは虚構のムーミンの家族と実在するヤンソンの家族をかさねることから、 ヤンソンの生涯を語ってみたい。」 (「まえがきにかえて」より抜粋) ===
この小説は迷うための地図。一文ずつ小さく折り畳まれたそれをひらけば、言葉を読むんじゃなくて、言葉に読まれているよう。 ーー尾崎世界観(ミュージシャン・小説家) === 語りは未知なる情景を相手に伝えるためのものだが、一方で言葉はそれ自身次の言葉を求めて自在に繁茂していく。そのふたつが合わさったとき、小説は一文一文、一語一語、圧倒的な速度で跳躍しながら、読む者を〈現在〉の強度へと誘いつづける。 2019年『する、されるユートピア』で中原中也賞、2023年『この世の喜びよ』で芥川賞に輝く、詩人・作家が放つ、言葉を読む原初的な快楽に溢れる最新短編集! === 言葉が奔り、物語が跳ねる! 一文ごと一語ごとに世界が相貌を変えていくーーめくるめく体験に満ちた9つの小宇宙! 移動そのもの 花瓶 市場 本汚し皿割り 軽薄 老いる彼女は家で 人々の大いなる口 通い路 旅は育ての親
新宿区在住●20代●裏アカ男子♂の令和五年 形のない「私」を言葉で照らし出す著者の狂いのなさに、 読む者は狂い出しそうになるだろう。 事件は起こらない。しかしこの小説の誕生は事件だ。 ーー金原ひとみ === なにもかも守れていないから 私のところに来るんじゃないの。 「私」にはいくつか顔がある。マッチングアプリでノンケの男を釣って喰っては「たいちょー」として行為シーンを裏アカに上げ、平日昼間はSIer企業の院卒若手正社員「忠岡」として労働しながら、新宿区住まいの家賃のために「うたちょ」の姿で男の娘コンカフェのキャストとして立つ元“高専の姫”ポジションーーペルソナたちがハレーションする、どうしようもない人間のどうしようもない梅雨明けまでの一ヶ月。
「ほかならぬ人へ」「翼」「火口のふたり」--愛の本質を問い続ける名手が贈る、これが最新型、衝撃の物語(メッセージ) 09年『この胸に深々と突き刺さる矢を抜け』で山本周五郎賞、10年『ほかならぬ人へ』で直木賞を受賞し、 数々の話題作を放ってきた白石一文による書き下ろし長編小説! === 人口が爆発的に増え、「代替伴侶法」が施行された近未来。 伴侶を失い精神的に打撃を被った人間に対し、最大10年間という期限つきで、 かつての伴侶と同じ記憶や内面を持った「代替伴侶」が貸与されることとなった。 それは「あり得た夫婦のかたち」を提示すると同時に、愛の持つ本質的な痛みを炙り出すことともなったのだったーー。 「自分が十年後に死んでしまうことなんて、ゆとりを失うことに比べたら何でもなかった。僕にとって何より恐ろしいのは、ゆとりの死であり、そのあと二年間も彼女の存在しない世界で生きなくてはならないということだったんだ。」 === 不妊で悩んでいた隼人とゆとりの夫婦。ある日、ゆとりは隼人に別の男性との間で妊娠したことを告げ、隼人の元を去ってしまう。 失意の隼人は「代替伴侶」の貸与を人権救済委員会に申請し、それ以後隼人はゆとりの記憶を複写された「代替伴侶」と生活を共にする。 ところが、今度は隼人が「代替」のゆとりの許を去ることになる。すると「代替」のゆとりはなんと隼人の「代替伴侶」を申請し、それが委員会に認められてしまう。こうして元の夫婦二人の関係は破綻したが、代わりに「代替」同士が共に仲睦まじく暮らすという皮肉な状況が出来する。そもそも「代替」の二人には、自分たちが「代替」であるという自覚が持てないようにプログラミングされているのだ。 その様子を見ながら生身の隼人とゆとりは、あらためて自らの夫婦のかたちが当初から大きく変質してしまったことを思い知り衝撃を受ける。 「代替」の二人の関係は、あり得た未来の、もうひとつの自分たちの姿なのだ。 そして「代替伴侶」には、始動から10年という期限が設定されていた。まず「代替」のゆとりが死を迎えた瞬間に、生身の隼人はある決意をするーー。
アラフォーの柳田譲の前に現れた三人の女との出会いと別れ。愛を求め、また与えようとして却って孤独へと突き進んでしまう魂の悲哀を描く太宰治賞受賞後第一作!
日韓累計165万部突破の『82年生まれ、キム・ジヨン』著者、チョ・ナムジュが問いかける! 弱肉強食社会で人間らしさを失わずに生きるには? 資産価値にこだわる者の果てしない欲望と苦悩。 持たざる者の苦労と、未来への希望。 韓国中間層の現実をリアルに描いたハイパーリアリズム連作小説。 舞台はソウルにある架空の町〈ソヨン洞(ドン)〉。近年の不動産バブルやマンション購入、過剰な教育熱、所得格差といった社会問題が、住民の悲喜こもごもとともに描き出されるーー。 「私が伝えたかったのは、 個人ではどうすることもできない時代と社会の不幸を前に、 我々はどんな選択をできるのか、 どんな態度をとるべきかという悩み、 さらには人間らしさを失わずに生きる方法に対する問いかけでした」 (「日本の読者のみなさんへ」より抜粋) 春の日パパ(若葉メンバー) 警告マン シェリーのママ、ウンジュ ドキュメンタリー番組の監督、アン・ボミ 百雲(ペグン)学院連合会の会長、ギョンファ 教養あるソウル市民、ヒジン 不思議の国のエリー 作家の言葉 日本の読者の皆さんへ 訳者あとがき
芥川賞受賞後のLを襲う数々の災厄。ストーカー、女性差別、同性愛差別、外国人差別……あらゆる差別に抗する闘争と再生の書。渾身の千枚書き下ろし大長編! 本厄の年に芥川賞を受賞したLこと柳千慧(りゅうちさと)を襲う災厄の数々--ストーカー、女性差別、外国人差別、同性愛差別、トランス差別……あらゆる差別に抗して生き延びるために言葉を紡ぎ厄を祓う闘争と再生の書! 入魂の40万字書き下ろし大長編! そうですよね、文学で怒っていいんだ。文学シーンも社会。差別に抵抗し、みんなで仕事をするんだ。李さんが仕事をし続けてくれることは、すべてのマイノリティにとって希望になる! ーー山崎ナオコーラ(作家) 記録せよ。記録せよ。記録せよ。私たちの生を。私たちの死を。私たちを憎むものらの醜い姿を。そして、私たちが何者であるかを。 ーー高井ゆと里(哲学者) ーーーーー 何か方法はないだろうか、と下手くそ小説家たるLは苦慮する。「おおやけ」への回路を保ちつつ、「わたくし」の領域の事柄を書く方法が。実際、Lがここ一か月半の間に耐えてきた苦しみは、「おおやけ」による「わたくし」への加害の事実抜きには語れないものだ。純然たる「わたくし」の領域の、個人的な物語としては到底片づけられない。 ーーもしそんな語りを可能にするような言葉があれば、それは恐らく「おおやけ」と「わたくし」の間、「フィクション」と「ノンフィクション」の狭間にしか存在しないのではないか、とLは結論づけた。個人的な物語に回収されない、「フィクション」と「ノンフィクション」の狭間にある言葉ーー振り返ると、Lはずっとそれを模索してきた気がした。(本書より) ーーーーー
演劇で世界は変えられるか?未来は変えられるか?そもそも世界が演劇なのか?未来は夢なのか?そしてぼく/わたしは何者なのかー。『cocoon』『∧∧∧かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっとー』『BOAT』『equal』…「マームとジプシー」を率いる演劇界の若きトップランナーが自身の演劇論と半生を率直に、かつプレイフルに綴る未曾有の自伝的フィクション!!
2025年 本屋大賞ノミネート! 構想・執筆10年ーー 稀代のストーリーテラーが辿り着いた最高到達点=バレエ小説 「俺は世界を戦慄せしめているか?」 自らの名に無数の季節を抱く無二の舞踊家にして振付家の萬春(よろず・はる)。 少年は八歳でバレエに出会い、十五歳で海を渡った。 同時代に巡り合う、踊る者 作る者 見る者 奏でる者ーー それぞれの情熱がぶつかりあい、交錯する中で彼の肖像が浮かび上がっていく。 舞踊の「神」を追い求めた一人の天才をめぐる傑作長編小説。 史上初の直木賞&本屋大賞をW受賞した『蜜蜂と遠雷』や演劇主題の『チョコレートコスモス』など、 表現者を描いた作品で多くの読者の心を掴みつづける恩田陸の新たな代表作、誕生! ページをめくるとダンサーが踊りだす「パラパラ漫画」付き(電子版には収録なし)
戦前から続く老舗旅館・凧屋の名物は、様々な古書が揃った文庫=図書コレクション。若女将が書棚から選ぶ「あなたと同じにおい」の一冊が人生を動かすーー。 「眠れない夜に、読んでみてください」 しずかな波音、やさしい食事、ぬくもる温泉、そして何よりあなたのための一冊を。 海辺の老舗旅館を舞台に、川端康成などの文豪たちによる名作が人の縁を繋いでいくーー 司書や書店員からの絶大な支持を集める作家による、心の深い部分にまで届く連作短編集をお届けします。 ◆あらすじ 戦前から続く小さな旅館・凧屋の別名は文庫旅館。名物の図書スペース「海老澤文庫」には、今は名前しかわからないかつての常連・海老澤氏が寄贈した膨大な蔵書が揃い、若女将の丹家円(たんげ・まどか)があなた向けの一冊をそのなかからおすすめしてくれることもある。 お客様と同じにおいがする=宿泊者にいま必要な物語が不思議とわかる円だが、自分自身はその「利きすぎる」嗅覚ゆえに小説が全く読めないという。 夫や家庭に縛られてきた妻、同性の幼馴染に隠した想いを寄せる青年、妹の遺した子を育てる姉。訪れる人々の人生と文豪たちの作品が交錯し、道が開けていくその向こうで、海老澤文庫の、そして円自身にかかわる秘密も明かされていくーー。 ◆本編に出てくる文豪の名作 一冊目ーーー川端康成 『むすめごころ』 二冊目ーーー横光利一 『春は馬車に乗って』 三冊目ーーー志賀直哉 『小僧の神様』 四冊目ーーー芥川龍之介 『藪の中』 五冊目ーーー夏目漱石 『こころ』