1988年10月発売
“余は偉大なる落伍者となって、歴史のなかによみがえる”雪の国・新潟の教室の机に彫って上京し、あえて、孤独な自己鍛練の世界に彷徨する、“精神の巨人”坂口安吾の繊細にして豪放、聖にして俗の、ダイナミックな自伝世界。
養父たちを焦土で奮われた苛烈な体験を忘れることなく、ニセの“安寧・平穏”をきびしく峻拒する野性の魂。名作『火垂るの墓』の原点を、さらに抉りかえす、持続する“挑戦の精神”。野坂昭如の文学を代表する“もう一つの”秀作。
10歳の沙江子を襲った性の暴力。性は愛しあうためにあるのなら、なぜそれが暴と共に襲いかかるのか。思春期を迎えても、彼女には愛と性の接点が見出せない。愛されたい、でも支配されたくない。“植物の性”を夢見る孤独な心は癒されるのか。すばる文学賞受賞の著者が描く、性と愛の世界。
ドイツを旅行する、片山刑事、妹の晴美、石津刑事と、お馴じみ三毛猫ホームズの一行。ある夜、古城ホテルに泊まったのだが、とんでもないことが次々と起こった。若い女性が乱暴されて、片山が犯人にされたり、子供が噴水で殺されかけたり…。やがて、一行の前に「幽霊クラブ」という正体不明のものがあらわれ、ついに殺人事件が発生!でも、そこは三毛猫ホームズたちのこと。絶妙のチームワーク(?)で果敢に謎に挑戦。ドイツより愛と恐怖をこめて、絶好調、人気シリーズを贈ります。
東大のみを目標にしていたごく普通の少年が、一通の手紙をきっかけにして、放送作家、作詞家と、サクセスの道を突き進んで行く。ニューヨークから秋元康が贈る、初の書下ろし自伝的小説。
敗戦直後の荒廃した世情のなかで、深い倦怠と疲労に自身の老いを自覚する信吾。老妻や息子夫婦と起居をともにしながら孤独を感じさせられる家庭にあって、外に女をもつ長男の嫁菊子に対する信吾の哀憐の情は、いつしかほのかな恋にも似た感情に変わってゆく。その微妙な心のひだをとらえた戦後川端文学の傑作。
平凡無垢な青年ハンス・カストルプははからずもスイス高原のサナトリウムで療養生活を送ることとなった。日常世界から隔離され病気と死が支配するこの「魔の山」で、カストルプはそれぞれの時代精神や思想を体現する数々の特異な人物に出会い、精神的成長を遂げてゆく。『ファウスト』と並んでドイツが世界に贈った人生の書。
理性を尊び自由と進歩を唱導するセテムブリーニ。テロと独裁によって神の国を実現させようとする非合理主義者ナフタ。2人に代表される思想の流れはカストルプの魂を奪おうと相争うが、ある日雪山で死に直面したカストルプは、生と死の対立を超えた愛とヒューマニズムの道を認識する。人間存在のあり方を追求した一大教養小説。
道ってやつは踏みはずすためにある。踏みはずしたところに、また道があるー川本高志、25歳。横浜の高級クラブ『オリエンタル』のボーイ。気位、男の誇りをバネに、自分しか歩みようのない道を身体ごとぶつけて切り拓いていく。アウトロウの原点を濃密な文体で描く迫真のクライム・ノベル。日本推理作家協会賞受賞作。