1988年発売
久野冴子は仕事を持ち都会で生きるひとり暮しの若い女性。春夏秋冬の季節の移ろい、淡淡と過ぎていく日々のなかで、妻子ある男性やかつての同級生の男友達との秘やかな関係が、彼女の心に目に見えぬほどの影をおとす。大部分を水面下に隠して水に浮かぶ船の喫水のように、ひとりの女性の日常の喫水を描くことで、水面下にひそむ人間の意識や感情の大きな移ろいを細やかな筆で浮き彫りにする会心の長篇小説。
甲斐の若き猛虎・武田晴信(信玄)の運命は、隻眼の男・山本勘助を知行百貫で召し寄せた時から開かれていった-。諏訪頼重を討ち、宿願だった諏訪を押さえ、父信虎ですら果たし得なかった信濃経略への大きな一歩を踏みだした晴信。これはすべて、軍法にたけた城取りの名人・勘助の武略によるものだった。信濃の一角に武田領を作った晴信は勘助が描く「絵」によって、天下取りの目標を定めていく。「武田幕府を開く!」という野望を秘めた晴信と勘助の戦略をうたいあげる時代大長編。
子供たちは、美しい地球を求めて旅立った。海をさがしに行く少年。空をさがしに行く少女。河をさがしに行く少年…。そうだ、まだ僕たちは人間をあきらめてはいけなかった。この一冊、いま新しい「星の王子さま」。
ドブ掃除から映画館の席取りまで、なんでも引き受ける“なんでも屋大蔵”こと釘丸大蔵のもとに舞い込んで来る依頼の数々、浮気調査の報告書が盗まれた!猫が誘拐された!私は一体誰なんでしょう?…奇妙な依頼の背後に隠された意外な事件。飄々とした大蔵が、持ち前の行動力と鋭い勘、そして冴えた推理で次々と難問を解決する。ほんわかあたたかな連作ミステリー5編。
明治44年8月、巨大な円筒が東京湾に落下した。円筒から姿を現わした4台の怪異な機械。それはなんと、13年前にもロンドンを襲った火星人類の戦闘機械だった。高熱光線を発し、帝都を焼き払う戦闘機械。帝都危うし!この危機に決然と立上がる押川春浪、吉岡信敬らバンカラたちの集団・天狗倶楽部の面々。帝都の運命や如何に!明治末の東京を舞台に繰広げる書下ろしSF長編。
大手製薬会社で唯一の女性プロパーとして働くシーリアは、医者たちに新薬を紹介するこの仕事に情熱を注いでいた。利潤追求のみを目的とした新薬開発競争を目にし、男性社会が持つ様々な偏見や障害と闘ううちにも、彼女の健全な良心はしぼむことがなかった。アメリカの製薬業界で、鋭い直観力と強烈な野心を武器に成功していく1人の女性と、その周辺に展開される多彩な人間ドラマ。
社長となった盟友サムをはじめ、シーリアの確かな判断力に信頼を寄せる者の数も社内に増えてきた。社は、画期的なつわり防止薬モンテインに社運を賭けていた。処方薬販売部長としてその販売作戦の指揮をとることになったシーリアに、医師の夫は、妊婦への投薬に対する疑念を表わした。-企業における利潤追求と社会的使命の調和という、永遠のテーマを追求する、著者の会心作。
デビュー前、ミュージックキャンプで出逢った不思議な女性。年下の理想の先輩。ウィズ・ベイビーの幸福をみつけた学生時代の友だち。そして、遠い北の国で哀しく暮らす女-。著者中島ゆみきがめぐり逢った女たちの奏でる様々な人生のかたちを描く、「女歌」に続く書下ろし小説第2弾。
全身に煙草の火を押しつけられ、性器を切られた無惨な死体-警察はホモの猟奇殺人と考えていたが、死体の左手の小指が折れているのを見た私立探偵ジョン・カディは、戦友アルは拷問されて殺されたのだと確信した。ガディは友の仇を討つべく調査を始めた。アルの“敵”は何者なのか?彼がわざわざボストンまで来ていたのはなぜなのか?カディは手掛りを求め、アルの故郷ピッツバーグへ飛んだ。精力的に調査を続けるその行手にやがて差すベトナム戦争の影-カディは自らの過去をも振り返りながら、さらにペンタゴンまで探り始めた。だが、危険がすでに背後に忍び寄っていようとは、彼には知る由もなかった。やさしくもタフなボストンの探偵カディの、命をかけた復讐行を描く待望の第二弾。私立探偵小説大賞受賞。
2032年、金色の後光にも似た環状体で直径40マイルにもおよぶ謎の物体が、太陽系を通過していった。それから1年後、地球は“ハロー”と名づけられたその物体が残していった“シード”によっておおわれた。シードはあらゆる都市、町、村の中心に陣どり、強力なアルファ波を放って、人々を恍惚状態のうちに虜にしたのである。かくてシードは地球文明の幕をおろすことにみごとに成功した。人類に残された最後の希望は月の植民者たちームーンメンであった。トレントン博士にひきいられたかれらは、シードから地球をとりもどすべく、ケーキウォーク作戦を発動させたが…。
時は5世紀。ブリテンはキリスト教とドルイド教の二つの世界に分裂し始めていた。このままでは、蛮族の相次ぐ侵攻を食い止めることもかなわない。この窮状を切りぬけるにはまず、相異なる二つの宗教が共存できる統一されたブリテンを造り、指導する人物が必要だった。そこで聖なる島アヴァロンの女王と魔法使いマーリンは、ブリテンの運命を担うべき人物の両親として女王の妹とウーゼル王に白羽の矢を立てた。だが、女王の妹はすでに他の王と結婚していた…。妖姫モーゲンの視点からアーサー王伝説を語り直した超ベストセラー作品、遂に登場。
黒龍戦役もおわり、ようやく平和が訪れたかに見える中原。だが、その背後で暗躍するものの影は、今もそこかしこに蠢く。パロのクリスタル・パレスでは、少年王レムスとアルド・ナリスとの軋轢が緊張の度を増してゆき、またかつての陽気な傭兵イシュトヴァーンは、王たらんとする野望へと歩を進める。そして、ここユラニア領では、ケイロニアの軍籍をぬけた精鋭一万騎が、グインの指揮の下、向かうところ敵なしの進撃を続ける。そして遂にアルセイスを臨む丘に達したとき、思いがけぬユラニア進攻の目的がグインによって語られるのだった。
豪華客船ベオウルフ号に銀河赤道祭の狂熱が高まるなか、宙難審判庁理事官ザウバーは再びその男と出会う。彼の妻子を奪った謀略に関わる男、オージュール・バラジュデーラ。行政の暗黒面に身をおき、ひとり自らの戦いを戦う銀河連邦のGメン。オージュールが告げる、ザウバーの復讐に費やした空白の時を埋める事実とはー。漂白の宇宙都市を揺がす権力闘争と人狼事件。廃星デヴォンの調査隊を襲った災厄。十年前と変わらぬ少年の姿で、いまもオージュールによりそう青い髪の少年の謎。そしてすべてが整ったいま、始まりが待たれる最後の闘い…。
孤絶したデヴォン星で百年の孤独に耐えて生きた青い髪の少年のリュシアン。かたくなに心を閉ざし,オージュールの精神感応力も及ばぬ超能力を秘めた彼の傷ついた魂を癒やすのは、オージュールとデヴォン星の機械知性,美貌のテロリストの奇妙なチームだった。やがて開かれた少年の心には、七百年の時をへだて、美しき狂王に率いられた少年十字軍の血の祝祭劇があった。そしていま、天空の王に棒げる赤道祭にわく船内に、再び連邦の理念をかけた戦いが始まる。それは、オージュールの、人間的存在の意味をかけた自らの戦いにほかならなかった…。
1941年、ドイツ軍の猛攻に抗しきれず、連合軍はギリシアから撤退し、クレタ島へ渡った。だが、ドイツ軍の攻撃は執拗に続き、同島は戦乱の炎に包まれる。折りしも、中尉に昇進したキャメロンは、英国駆逐艦フォーフデール号に乗り、クレタ島へ向かっていた。やがて彼は、パルチザンの大物を島から救い出す任務を受ける。その男は、戦争の行方を左右する情報を持っているという。重大な使命を達成すべく、キャメロンは数名の部下を引き連れ、決死の覚悟で島へ潜入するが…。第二次大戦を舞台に、海の男の勇壮な戦いを描く好調シリーズ第2巻。
英国で最も重要な情報機関WOOC(P)。新たにその一員となったわたしは、失踪した化学者をジェイなる人物の手から取り戻す任務を与えられた。ジェイは一連の要人失踪事件を操る黒幕らしい。問題の化学者は、東側に拉致される途中、レバノン山中で奪回。だが依然として、ジェイと彼の組織の動向はつかめなかった。謎を追い、ロンドンの不気味な家、南太平洋の原爆実験島と動き回るわたしは、やがて自分が東側の二重スパイとして追われていることを知る!巨匠が斬新な文体と卓抜なストーリー展開で、スパイ小説の新世紀を拓いた鮮烈なデビュー作。