1989年4月1日発売
バラの匂いのするウチカワくんは、500kmも離れた町に転校していった。スズコはそれが哀しかった。彼女は大人たちが忘れかけたなにかを大切にする女のコ…バラモンは、そんなスズコが大好きだった。ある日、スズコの家の電話機が突然話しだした。「オイラの名はバラード。ヨロシク」それにつられるように、身のまわりのものたちがいっせいにしゃべりだした。なにかが起こり始めたのだ。
“新人類刑事”五月千春の友人、警視庁の中根刑事が、フラワーショップ店員の圭子と結婚。しかし、晴れがましい日というのに、中根ヘ顔はなぜかすぐれなかった。二人は当夜、ブルートレイン「出雲1号」でハネムーンに旅立ったが、翌朝、車中で、新婦が射殺体となって発見された。新郎の中根も失踪、五月はその謎を解くべく、錦由多加と出雲へ飛んだー。
近世ヨーロッパを恐怖のドン底に陥れたあの“吸血鬼”が現代に再び姿を現わした…しかもワタシラ日本の地に。セイシュンしている若者たちの前に、彼等は憂いを含んだ淋しく優しいしぐさで手招きをする。知らぬまに、ワタシラは彼等と日常なに気なくつきあっているのかもしれない。これを読むと何かが気になり眠れなくなる、作者新境地の傑作連作集。
遠州灘を見下ろす古い瀟洒な別荘。わけありの三人が偶然顔を合わせた。父が自殺、母は癌で死亡、十五歳で中絶手術した自殺願望の紗耶。養家の家族五人に睡眠薬を飲ませ、火をつけてきた加奈子。母の情人を殺害してきた星野。互いの傷をかばいあった三人は、二年後の同じ日に、同じ場所で再会することを約束する。…複雑にからみあった人間の感情をスリリングに描く、著者会心の書下し長篇小説。
航空ブームに日本中が沸き立つ昭和九年。“怪盗鳥人”南谷が2年ぶりに訪れた妻の部屋には男の死体と模型飛行機が転がっていた…。南谷から懇願され、彼の無実と妻の素行を調査開始した秘密探偵的矢健太郎は飛行機製作所の新発明に絡む連続殺人に巻き込まれていく。美貌の混血飛行家、パラシューター・ガール、学生鳥人など時代の先端をいく、空の夢に憑かれた人々の野望と挫折を描くネオサスペンス長編。
夜ごとあやしげな灯のともる街に群れる飾り窓の娼婦たち。放浪の果てにボン引きをはじめた「私」たちとのあいだに暖かな交流が芽ばえ、ふくらむ。国境をこえた性のかたち、こだわりのない愛の豊かさを描く傑作。他に「砂漠の舟」「72時間の母国」「落日」を収録。
アメリカ合衆国情報部Rセクションのエージェント、デヴェローは、同僚ヘイスティングスと接触するためイギリスへ飛んだ。しかし、そこに待っていたのは、ヘイステイングスの死であり、IRAとCIAの不可解な関係だった。調査をすすめるうちに、彼は、IRAがエリザベス二世の従弟スラウ卿の暗殺をもくろんでいることを突き止める。暗殺阻止に走るデヴェローの前に立ちはだかったのは、あろうことか、味方のはずのCIAだった。その目的は何か?ヨーロッパ経済の覇権をめぐって、米英がしのぎをけずる…。
スナックで働く修平はカフェ・バーで見かけた女に一目惚れして、食事も喉を通らない。古風な恋の病を退治すべく奮闘する二人の馴染み客を思わぬ結末が待ち受ける表題作ほか、いたずら電話をめぐって恋の駆け引きを楽しむ男女(「ロマン丸見え」)、愛人ができたので別居中の妻を訪ねて離婚届に捺印するよう説得を続ける男(「血」)、等々、一筋縄では行かない男と女を軽妙な筆致で描く8編。
半ば放心状態のまま街角で男を誘い、売春防止法違反に問われた大原カナ子は、弁護士・安部輝一の助力で刑の執行を猶予された。しかし輝一の調査で、彼女と同棲している邦男が婦人暴行未遂の疑いで造園会社を解雇されていたことがわかるー。社会の底辺で喘ぐ若い男女。二人の更生を願って事件に深入りする弁護士とその婚約者。二組の男女それぞれの揺れ動く愛の行方を描く長編小説。
「妾の子」と悔蔑した級友を狂ったように殴りつづけた小学校2年生の甫。それは週1回しか家にやって来ない父への無意識の抗議だったのか、それとも胸を病んで臥せっていることの多い母への苛立ちだったのか?複雑な生い立ち、父との軋轢、共産主義運動と挫折、不毛の恋愛、結核の療養ー西武セゾングループのリーダー堤清二が、戦争と混乱の時代を生きた青春を赤裸々に描く。
昭和の初めの東北、青森ー。呉服屋〈山勢〉の長女と三女は、ある重い運命を負って生まれついた。自らの身体を流れる血の宿命に脅えたか、心労の果てに新たな再生を求めたか、やがて、次女は津軽海峡に身を投げ、長男は家を出て姿を消した。そして長女もまた…。必死に生きようとして叶わず、滅んでいった著者自身の兄姉たちの足跡を鎮魂の思いでたどる長編小説。大仏次郎賞受賞作。
昭和64年、江戸の春。日本の起爆装置を仕込んだ水戸光圀の印篭が行方不明になってさあ大変!江戸城中枢水爆スーパーバイズ・システムのコンピュータとリンクするこの印篭には、日本中の城の水爆を起爆する力がある。銭形平次、伝七等の必死の捜索にもかかわらず、印篭の行方は杳として知れない。じゃじゃ馬娘美琴姫の活躍はいかに?第1回小説新潮新人賞に輝く表題作ほか3編。
ハリー・ラッドーアメリカ最大の勢力を誇る新興ホテル・チェーン、〈ベスト・レスト〉会長。サー・イアン・バックランドー世界最高の格式を誇りながら、時代の波に乗り遅れ赤字企業に転落した名門ホテル・チェーン〈バックランド・ハウス〉当主。権謀術数の限りをつくした乗っ取り工作の結末は?ホテルに賭けた男たちの死闘をスピーディなタッチで描く、著者異色の本格企業小説。
KGBの辣腕の暗殺者コズロフが、在日アメリカ大使館勤務のCIA部員に亡命を求めてきた。それは、コズロフ自身はアメリカへ、その妻イレーナは英国へ、という奇妙な申し出だった。英国情報部に復帰はしたものの辛気くさいデスクワークにうんざりしていたチャーリーは、さっそく東京へ飛び、アメリカとの共同作戦を開始したが…。日本を舞台に展開する虚々実々の亡命作戦。
フランスの地方都市の医師の家に生まれたイヴは、パリからやってきたミュージック・ホール一座の歌い手アランと恋に落ち、パリに出奔する。しかしアランは病に倒れ、イヴは生活の資を得るために自分も歌手になるが、天性の素質で一躍スターの座を射止める。やがてイヴの前に、戦地で彼女の歌を聴いて感動した外交官ポールが現れる。イヴはポールと結ばれ、2人の娘をもうけるが…。
姉のデルフィーヌは、優雅で繊細な娘だが、類いまれな美貌と妖しい魅力で、フランス映画界の売れっ子女優となる。一方、幼い頃から男まさりで活発な妹のフレディは、飛行機の操縦熱にとりつかれ、パイロットとして名を馳せるようになる。-1910年代から1950年代にかけてのフランスとアメリカを舞台に、母と2人の娘たちの波乱に満ちた生きかたを華麗に描くラブ・ロマンス。
凋落しつつある資産階級に生まれ、母の死後、モスクワの親戚宅に引き取られたユーリィ・ジバゴは医者を志していた。一方、ロシヤに帰化したフランス人の娘ラーラは母の愛人との泥沼の関係を断ち切り、新しい生活を築こうとしていた。やがて人人に第一次世界大戦とロシヤ革命の波が襲いかかるー。動乱の時代を背景に波瀾の運命が待ち受けるジバゴとラーラの青春を描く。
革命後の混乱を避け、ワルイキノへ逃れたジバゴ医師はラーラと宿命的な再会を果たす。身も心もラーラにのめり込んでいくジバゴだが、運命は二人を遠ざけていく。やがて全てに失望したジバゴはモスクワに隠棲し、〈ジバゴ詩編〉を残して狂気の内に死をを迎える。美しいラブ・ストーリーに様々なシンボルをちりばめ、普遍的な倫理と思想を織り込んだ20世紀最大の大河ロマン。